「ちょっと待ってて」
「え……うん」
間の抜けた顔の彼、夏油傑を放置しておく。
まず確認として空いているはずの胸に手を当てる。
穴なんて無いし、普通に心臓も動いている。
私はあの時死んだはずだ。
それは言いきれる。
私自身、反転術式が使えなかったから穴を塞げなかったんだ。
次に夏油の顔を見る。
イケメンな事は放っておいて、服装がおかしい。
どう見ても呪術高専の時の格好だし、顔に陰りという物がほとんど無い。
それに気が動転していて忘れていたけど、今のこの状況には見覚えがある。
そう……私が身の回りで呪霊を狩っているのがバレて夏油からスカウトを受けた日。
でもありえない、だってもう何年も過去の出来事だから。
「えーっと……日向さん?そう警戒しなくても僕は敵じゃ無いよ?」
無駄に爽やかスマイルを撒き散らすイケメン。
控えめに言ってやめてほしい。
まださっきの顔を鮮明に覚えているんだよ。
あの、苦しそうで優しい顔を。
ポロポロと涙が落ちる。
一度出てしまうと止めるのは非常に難しくて……止まらない。
「えっ、え?」
「あ、その、ごめんなさい。なんか最近涙もろくて」
「そ、そうなのかい?それは困ったな……」
私も困っている。
それもこれも全部お前のせいだぞう、夏油。
なんて悪態をついていると、夏油が私の頭に手を乗せた。
「良い子だから、泣き止んではくれないかな?」
子供か、私は。
でも不思議な物で意外に涙が引っ込んでいく。
「……コクリ」
よし、何か思考がクリアになってきた。
もし今のこの状況が幻や走馬灯でないなら、一つだけ思い当たる節がある。
私の術式による逆行現象の可能性が高い。
死の間際で呪力が一点集中していたし、何かしらの現象は起こっていたはずだ。
私の術式は……
「ちょっとちょっと、また物思いに耽る気かい?」
「あっ、ごめん……」
やれやれといった顔で彼は私の手を握る。
大きいけど、繊細そうな手だ。
「説明したい事もあるし、一旦僕に付き合ってくれるかな?」
要するに拉致ですねはい。
とはいえ、高専に連れていかれるだけだから大丈夫だろう。
「分かりました」
「じゃあ、行こうか」
何これカップルかよ。
でも夏油中身がなぁ……
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ところ変わって呪術高専応接室。
おっきいソファに座る私と夏油、そして反対側には夜蛾さんがいた。
いつ見てもイカツイなこの人。
「もう既に呪霊を?」
「はい……何か弱そうだったので」
「どうやって倒したんだ?」
「えっと……ひゅーとやってひょい?って感じです」
分かんない?センス無ぇ〜
呪霊の存在や呪術師の存在などの説明を一通り受けて、お茶をすする。
普通に知っていたので退屈すぎてあくびをすごい噛み殺していた。
呪霊を倒していた件については、過去の記憶を辿って精一杯言い訳をした。
私の周りには3級とか4級の雑魚呪霊しかいなかったみたいだから何とかなったけど、何考えてんだこの野郎みたいなお叱りを受けてしまう。
解せぬ……。
「で、君の術式は分かるかな?」
「術式?」
普通に知っているけどとぼけておかないと呪詛師として疑われそうだ…-
「術式とは平たく言えば呪術師が持ってる固有の能力みたいな物だ。私のは呪霊操術と言って、呪霊を使役する事ができる」
そう言って夏油は、カラスの様な呪霊を呼び出して肩に乗せる。
見た目も手触りも普通にカラスなのでちょっと可愛い。
「なるほど。一応その術式?を使えなくはないけど、でも名前は分からないんだ。何か素早くなるみたいな感じ?」
「うーん……なに、ここでちょっと使って見せてくれればこっちで調べられるさ」
「分かりました」
「君のカラスっぽいの借りるよ」
素早くなるだけだなら普通に呪力を使っても似た様な事はできる。
ただ、私の術式はそれだけじゃない。
そう私の術式は──加速という概念だ。
私だけの体にのみ作用し、自身の体感による時間を早めたり物理的に倍速になったりする事もできる。
速度を倍速ぐらいで設定して夏油のカラス呪霊を掴む。
至近距離と呪力的にはノーモーションだった事もあって彼が反応しきる前にカラス呪霊をこの手に収められた。
「凄いな、反応できなかった」
メリットとデメリットはちゃんとある。
自身の身体の中で術式が発動しているみたいなので発動中は呪力が殆ど漏れない。
つまり大抵の呪術師の呪力探知には引っかからないということだ。
もちろん、この状態でも呪力を纏う事はできる。
ちなみにデメリットは維持する時の呪力消費量が結構高い、意識と肉体で術式の別対象になるから重ね掛けしないと効果を発揮しないとか色々あったりする。
「見た所、加速……といったところか。また詳しく調べておくよ」
そう言って夏油は部屋から出て行ってしまった。
え、この空気キツいんだけど。
勘弁してよーー!!
次も見てください