「ここでの任務は、夜に忍び込んで入った生徒2名の保護だ。3日前、学校から送ったメッセージを最後に消息が不明らしい」
「あれじゃね?よくある逃避行ってやつ」
「中学生は逃避行なんてしないよ、悟」
3つある3階建ての校舎を一つずつ見て回ろうという事になり、私達は1つ目の校舎の1階廊下を歩いている。
廊下の電気はついていたのでそんなに怖い事はないけど、真っ暗な教室を見ていると低級の呪霊もどきみたいなのが何匹か蠢いている。
「なーんか妙に雑魚どもがうろちょろしてるな」
五条もそれに気づいているみたいでかけていたサングラスをしまう。
私もいつでも術式が発動できるようにはしてある。
「これくらいなら大丈夫だろう。念の為君は僕らのそばから離れないでね」
「分かった」
「お姫様じゃあるまいし自分の身は自分で守れるでしょ」
「そういう問題じゃ無い。彼女はあくまで見学だからね」
「へーへー」
30分も経たないうちに次の校舎へと移り見回っていく。
ところでこの任務って何級ぐらいの任務なんだろう。
非術師を巻き込むくらいだから2級からだとは思うけど。
特級……なんて事はないよね?
「ここも異常なしか」
2つ目の校舎も回り終わった。
相変わらず低級の呪霊がうろちょろしていたぐらいだったけど、何なんだろうこの違和感。
「次で見つかってくれよな〜。家帰って寝たいんだよ」
「まぁまぁ、次で見つかるさ」
五条がぶーぶー言いながら歩くのを宥める夏油。
かくいう私もそろそろ帰りたくなってきたのはいうまでもない。
「あれ……何もいない?」
3階の廊下に着いたけど、何もいない。
文字通り何もいない。
1つ目と2つ目の校舎にいた低級の呪霊もだ。
間違いなく何かある。
「何か感じるな……あの部屋からか?」
夏油が指差したのは3階奥の音楽教室。
「あぁ、なんかヤバそうな気配だ」
「日向さん、何か知っているかい?」
「えっ」
いきなり話を振ってくる夏油。
君らにとっては私は今年の卒業生だと思うけど、こちとら何年も記憶を遡らないといけないんだぞ。
なんだったっけ……なんだったっけ……生徒、2人、音楽室…………
思い出した!
「確か夜の学校で恋人が一緒に決められた音階でピアノを弾くとその2人の未来が分かるとか噂が流行っていた気が……」
「降霊術の類か。大方、儀式の最中に呪霊につけ込まれたんだろう」
降霊術、コックリさんのような特定の儀式を経て霊的存在を呼び出して自分達を占ってもらうという物。
私も一度やろうとしたけど、ガチのコックリさんに絡まれかけたから以降その手の物には触れないようにしている。
「日向さん、私の後ろから離れないように」
「はい」
「しっつれいしまーす」
五条が何気ない感じで扉を開ける。
至って普通の音楽教室……というわけにはいかないようで部屋が異常に広く、中心にはピアノと髪が異様に長い女教師みたいな呪霊がいた。
《さいしよ、から弾きなさ、い》
どうやら私達じゃない誰かに向かって言っているようだ。
呪霊の言葉の先には男子生徒と女子生徒が2人目にクマを浮かばせてピアノを弾いていた。
「助け……て」
彼らは弾いているというより、無理矢理弾かされているからもはや何を弾いているのかすら分からない。
「そこのお嬢さん、その2人を解放してやってはくれないか?」
夏油が声をかけると、奴はピタッと動きを止めた。
瞬間、髪が逆立って襲ってくる。
それを呪力を纏った拳で受け流す夏油。
「振られてやんの」
「ま、期待はしていなかったけどね」
「特級か?」
「いや、特級よりの一級程度だろう」
一級呪霊を程度なんて言わないでほしい。
死ぬ前の私の等級より高いんだけど。
いやまぁあくまで数字だけ見ればであって祓えない事もないけども!
「一応聞いとくけど、アレいる?」
「あぁ、限定的だが生得結界も使えるようだしね。悟はあの2人を」
「りょーかい!術式順転、蒼っ!」
五条が蒼で、生徒2人をこちら側に引っ張ってくる。
ピアノから離れた事で儀式が強制終了したのか、2人は気絶してその場に倒れ込んだ。
「傑、あとよろしく〜」
「あぁ準備は出来ている」
生徒の安全を確保した事を確認した夏油は呪霊に向けて走り出す。
《キィィィィ!》
呪霊は部屋の中にあるピアノやスタンド等の道具を呪力で操って夏油に投げる。
「量なら、こっちも負けないよ」
余裕の表情で鳥型の呪霊をたくさん出して攻撃を防ぐ。
呪霊の視界を遮った夏油は物凄い速さで駆けて呪霊の後ろに回り込み隙をついた。
「さ、授業は終わりだよ」
懐に入った夏油は物凄い勢いで呪霊を殴る。
久しぶりに見たけど、戦い方が脳筋なんだよね……
しばらく眺めていると、呪霊がその場で崩れ落ちた。
夏油は呪霊に手のひらを向けると、呪霊が形を変え球体になって夏油の手のひらに収まる。
それを夏油は丸呑みした。
そんな事をして大丈夫なのだろうかと初めて見た時は思ったけど、彼の術式は食べるというより取り込むに近いらしいので問題ないとか。
今でもよくわからない。
もっと良い方法があるんじゃないだろうか?
「はい、これでおしまい。帰ろうか」
夏油はトライアングルで遊んでいる五条に声をかける。
表情は変わらず、汗のひとつも流れていない。
だけど、私にはわかる。
だって本人に聞いたから。
『呪霊はさ、吐瀉物を処理した雑巾みたいな味がするんだよ。だけど私は気にしない、それを耐える為の大義を見つけられたからね』
高専時代、呪詛師になった夏油が私を訪ねて時の言葉。
今まで普通に取り込んでいたから、何も気づかなかった。
「じゃ、俺はこの2人を補助監督に渡してくるわ」
生徒2人を担いで、五条は窓から飛び出てどこかに行ってしまう。
後に残された私達も校門の前まで出る。
「これが呪術師の仕事だけど……どうだった?」
命を賭けて弱者を救う。
そんな顔で夏油は私に微笑んだ。
弱者生存、あの時もそんな事言ってたっけ。
私は弱いから、全てを守ったり救ったりなんて到底無理だ。
でも……私の友達は絶対救ってみせる。
私の守るべき優先順位はもう決めてあるんだから。
「理想だね」
「え?」
夏油が聞き返してきたけど、素知らぬ顔で微笑む。
「何でもない、凄いと思うよ呪術師は」
その笑顔に騙されたのかそれとも疑っていないのか、夏油は喜んで手を差し伸べてくる。
「それは良かった。これから一緒に頑張ろう」
「うん、よろしく」
握った彼の手は、とても温かった。
この後、夏油と五条は内緒で主人公ちゃんを連れたので死ぬほど怒られましたさ