「今日は転校生を紹介する」
夜蛾さんに言われて、教室の扉を開ける。
息を飲みながらも教壇に立って黒板に名前を書く。
「日向 燈です。よろしくお願いします」
パチパチと3人から拍手される。
広い教室に5人だけだから、2回目でも緊張するなぁ……
「どうよ、紅一点じゃなくなった気分は」
「別にいいんじゃない?むさくるしかったし」
「これはまた、手厳しいね」
3人がキャイキャイはしゃいでるのを温かい目で見る。
あぁ、懐かしいな。
「3人とも仲良くするように。日向、席に座れ」
「はい」
空いている席に座る。
隣は硝子だ、まだ面識がないから挨拶だけでもしておこう。
「初めまして、これからよろしくね。えっと……」
「家入硝子。ま、よろしくね」
ニカッと微笑んでくれた硝子。
昔も未来も、かっこいいが滲み出ているのは反則なんじゃないだろうか。
「それでは、授業を始めるぞ」
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放課後、私はぐってりとしていた。
原因はもちろん授業だ。
「日向って頭悪すぎじゃない?www」
「こらこら、そんな事を言ったら可哀想だよ。まさか小テストで0点を叩き出すとは思わなかったけど」
ケラケラと2人が笑っている。
今の私は、普通の科目の知識がかなり抜けている状態だ。
一応高専に入る前に勉強はしていたつもりだったけど、もっと本格的に復習をしないといけない。
術式使えば一晩で何とかなる……かな?
「おーいクズども〜、寄ってたかって女の子をいじめるんじゃないよ」
硝子が私の頭を撫でてくる。
やばい、かっこいい、なんか手が柔らかくて良い。
「ま、まぁ大丈夫だよ。帰ったら本気で復習するから……」
「そう?私が教えようか?」
「いや、大丈夫。ありがとう」
「やーいやーい、守られてやんのー」
五条のガキみたいな煽りに凄いイラッとしたから、私は満面の笑みで怒気を込めた。
「そんなことよりさ、訓練場いかない?」
この2人をしばかないと気が済まないんだよ。
それに今の私はどこまで出来るのか知りたい。
「良いけどー、やる気?無理だと思うよwww」
「悟……もう少しオブラートに包む事を覚えたらどうだ?」
「無理無理ー、だって俺達最強な訳だし?」
よっっっし、必ずしばく。
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夜蛾さんにお願いしたら、私の実力を見たいと言うこともあって快く訓練場を開けてくれた。
中がバスケットコート並みの広さの空間で私と夏油が向かい合わせに立っている。
この空間内では、中から外へ流れ弾や攻撃が出ないように設定されているらしい。
結界って便利だよね。
「急所なし、武器なし、大怪我を負わさない事。いいな?」
観客ゾーンから夜蛾さんが話す。
最初から五条と戦うのは可哀想という事で夏油と戦う事になった。
正直、まだ自分の今の状態が分かっていないから凄くありがたい。
「はい」
「分かってるさ」
余裕満々の表情な夏油……に見えるが多分ブラフだ。
彼には一度術式を見せている。
あの時は不意をついたから何も反応もさせなかったけど、今回はある程度警戒はしているだろう。
「先手は譲ってあげるよ。レディファーストだ」
爽やかな笑顔で構える夏油。
完全に出方を伺ってカウンターを仕掛けてくるつもりだ。
「じゃ、お言葉に甘えるね」
深呼吸をして呪力を体に流していく。
溢れる呪力がどんどん体の中に沈んでいき、見えなくなった所で軽くステップを踏む。
光陰呪法──三速
心の中で呟いた瞬間、何か言いようのない違和感を感じた。
「っ!」
猛スピードで夏油に近づく……が、何かが違う気がする。
なんと言うか、いつもより速いような……
いや、速すぎるわこれ
そう思ったのは壁が目の前にあった時だった。
時すでに遅し。
「べっ……」
「……???」
壁に大激突した私を不思議そうに見る夏油。
外野で大笑いしてる五条は後で必ずしばく。
「いてて……」
「大丈夫かい?」
駆け寄って来た夏油に手を差し伸ばされる。
恥ずかしいったらありゃしない……
「うん……ちょっと加減間違えたっぽい」
「やれやれ、先が思いやられるよ」
「ごめんごめん、次はちゃんとするからさ。仕切り直そっか」
お互いに再び元の位置に戻る。
もう一度呪力を練ると、さっきよりも強い違和感が感じ取れた。
「んん?」
「どうかしたのかい?」
「ちょっと待ってて!」
「はいはい、気の済むまでどうぞ」
夏油は妙に紳士的な所があるから助かる。
五条なら待たない、むしろ嬉々として攻撃してくるから……
目を瞑り、違和感の正体を探る。
呪力を練って、巡らす。
すると、体の中に呪力の流れが2つ出来ていた。
なんだこれ、気持ち悪いな。
同じ方向を巡っている呪力。
どうやら出力が狂ったのはこのせいのようだ。
術式に入れる呪力の速度と量が倍になっているから加減が効かなかったんだろう。
でも、前に夏油の呪霊を掠め取った時は暴走しなかったんだけどな。
呪力をちゃんと練ったから暴走した……とか?
なら呪力を巡らせる量を半分にして……
よし、大丈夫そうだ。
「お待たせ、じゃあ行くよ」
「待ちくたびれたよ……早く終わらせよう」
術式を発動して夏油に近づく。
今度はちゃんと発動してくれたみたいで夏油の目の前に来れた。
「悪いけど目が慣れたんでね!」
突き出した掌底に合わせるように夏油が呪霊を間に挟む。
意外と柔らかい。
そういう呪霊なのかな?
「隙あり」
「ないよ」
呪霊を盾にした死角から半身を出して手刀を振り下ろしてくる。
それを加速させた体で弾き飛ばして後ろに下がる。
「へぇ……今ので終わらせるつもりだったんだけど」
「残念ね、そう甘くはないの」
余裕ぶってみたものの、やっぱり直線的な攻撃じゃ難しいか。
一見、脳も術式の対象に見えるけど私が加速できるのは肉体か脳のどちらかだけ。
術式というモーターに線を引ける呪力の道が肉体か脳かのどっちかになってしまう。
だから術式の仕様上、体が加速できても意識が付いていけないからどうしても複雑な動きがしづらい。
……あれ?今呪力の流れが2つあるよね。
「今度はこっちから行くよ」
夏油が攻撃を仕掛けて来そうなので脳に術式を回して思考速度を上げる。
周りがスローモーションになったおかげで考える時間ができた。
よし、まずは確認。
今は呪力の流れは……2つあるね。
勢いの調節はできたから、もしかして流せる方向とか変えられたりできないかな。
試しに反対方向に流そうと意識すると、ゆっくりと流れが反転していく。
うおぉ……き、気持ち悪い
なんかこう得体の知れない感覚が体の中を這いずり回っている感覚がする。
うん今は無し、また後で考えよう。
次は呪力の流れを脳に流れるものと体を流れる物に分ける。
理論的にはこれが出来れば脳と体、両方に術式をかけられるはず。
今脳に流している呪力の流れを一つ心臓の方に動かしてみる。
2つの流れが違う動きをしていて気持ち悪いが、まだ耐えられる範囲だ。
そうして2つの流れが別々になった時、感じた。
いける。
「マジか」
依然、夏油の動きはスローに見える。
その上で普通に動けたのだ。
問題がないか、飛んだり跳ねたりラジオ体操してみる。
よし、特に異常はないね。
前の時には出来なかった、術式の同時発動が可能になった。
これなら……負ける気がしない。
「おーーーーーあーーーーーそーーーー」
夏油が何か言いたげだけど、ゆっくりすぎて聞き取れないから無視してジグザグに動いて近づく。
急に複雑になった動きに、夏油もギョッとした感じで守りの体勢に入ろうとするが遅すぎる。
「とりゃとりゃとりゃー」
夏油の両脇腹をひたすらにツンツンしてやった。
これは煽られた恨みと殺された恨みだー!なんて謎テンションで黙々とツンツンすること200回。
良い加減飽きたから最後にデコピンして振り返る。
「術式解除」
必要は無いけどかっこよく指を鳴らして術式を解いてみた。
スローな世界が元に戻っていく。
「ぶっ……!」
夏油はいきなり両脇腹に執拗なまでのツンツンをくらってその場に倒れて悶絶する。
「あースッキリした。夜蛾さ──じゃなかった先生〜終わりましたよ」
夜蛾センに向けて手を大きく振ると結界が解除された。
「なーにやられちゃってんのさ。だっせ〜w」
五条が早々に悶絶している夏油に近づいて煽り散らかす。
可哀想な夏油……だけど助けはしてあげない。
「次は君の番だよ五条君」
「ははっ、ウケる事言うなよ〜!ただ早くなるだけなら僕にも出来るってのw」
ただ早くなるだけ、それは確かな事だ。
高速移動なら五条もできるし、そもそも五条には無下限バリアとか言うチートがある。
確かに勝てないかもしれない……
でも今なら何かやれる気がする。
この予感が消えない内に、試してみたい。
「どうかな?私今すっごい調子良いんだ」
「そりゃあ楽しみだ。もし負けたら何でもしてやるよ」
「いいね、面白そう」
言質取ったからね〜、そう硝子が言いながら夏油を引きずって結界の外に出ていく。
目の前にはまだ最強になる前の五条。
凄い余裕そうな顔して笑っている。
ぜっっったいにしばく。
結界が再び張られる。
「それでは……始め!」
今、
※燈ちゃんは死んでから色々魔改造されてます。