ARMORED CORE FIRES OF TEYVAT 作:G14
欲しかったなあ……
初投稿です……
高原を彼の愛機が進む。
『よくよく見て見れば周囲の植物もルビコンでは見たことが無い物ばかり……それに、同胞が居ない事なんてすぐに解る筈の事……どうやらリリースの影響で少し意識が朦朧としていたようです』
果たして彼女の意識に朦朧とするという機能があるのだろうか、彼は不思議に思いつつもエアを気遣う。
脳内で会話しているというのに溜息が出来る彼女の事だ。生物では無いのに意識が朦朧とすることくらいあるだろう。そう彼は自分を納得させる。
『それはそうとして、こうなってしまった以上は生存するために手を尽くしましょうレイヴン。幸いにもここは人類が生身でも活動可能な環境です。食料は……まぁ、強化人間の貴方ならよほどのモノを食べない限り死ぬことは無いでしょう』
改造人間と言うと、栄養剤を点滴で摂取してそれを食事と言っているイメージなどがあるかもしれないが、彼は普通の人間と同じように食事が可能だ。物資の枯渇が常である戦場でそういった専用の栄養剤が手に入る可能性は少ないのだから、通常の食事の方がそう言った物よりも合理的かつ確実だろう。
と言うワケで、彼も通常の人間と同じように食事を摂ることが可能なのだ。まぁ、味は感じなかったりするのだが。
『とは言いましたが、ACに怯えているのか動物の姿も見えませんし……植物も草木が大半で、可食部のありそうなモノは見当たりませんね……』
毒さえなければどんなに不味くとも食べられる彼だが、流石に栄養にすらならないものを食べようとは思わない。まぁ、エアが食べろと言えば渋々ながら食べるかもしれないが……
『レイヴン……私の事をなんだと思ってるんですか?』
彼女はそんな事を言うCパルス変異波形ではないので、やはり彼が栄養にすらならないものを食べることは無いだろう。
となれば、食料を入手するためにはかなりの長距離移動が必要になるだろう。動物の方はともかく、植物の方は気候や高度の関係で生育環境として不適切なために生えていない可能性があるからだ。
高度も気候も、長距離移動しなければ露骨な変化は起こらない。実が生る植物を探すのならやはり長距離移動だ。
幸いにもACに乗っている彼等にとっては長距離移動は苦でも何でもない。ブースターを起動して移動すれば1時間で30kmは移動できるだろう。アサルトブーストも併用すれば60㎞だって行ける。
『……たまには、こうして戦闘をしない時間も良いものですね』
アイビスの火の残痕を色濃く残した黒い空であったルビコン3とは違って、ここの空は恒星が青い背景の中で燦々と輝いていて美しい。そんな綺麗な空を眺めながら、エアは彼にそんな事を言う。
そして、嬉しそうな彼女の声に彼も同意の意を示す。
彼の愛機がブースターを吹かせながら地面を滑るようにして進む。重厚な装甲を持つために相応の重量がある彼の愛機は、当然ACの中では動きの遅い方だがそれでも十分に速い。
その上ルビコンよりも軽い重力のこの場所なのだから移動速度はさらに速い。もし彼の愛機が軽量機であればその速度はかなりのモノになったであろう。
そんなこんなでかなりの速度で1時間ほど移動した頃、ちょっとした丘を彼の愛機が飛び越えた。そのタイミングでカメラが泉を捉え――その瞬間接続が切断された。
即座にブースターを切り、両手を操縦桿から離しペダルから足を退ける。入力がニュートラルになった彼の愛機は自動的に直立状態へ姿勢を調整し、綺麗な姿勢で着地する。
一体何が起こったと困惑する彼に、申し訳なさそうにといった具合でエアが言う。
『すいませんレイヴン。カメラの接続を切らせて貰いました……その、すいませんマイクとスピーカー――それと操縦権も一部貸して貰います』
あっという間に彼の愛機は彼の制御下から離れてしまった。今の彼に出来る事と言えばジェネレーターの甘美な調べを聞いてどうしたってエアがこんなことをしたのかと考えるくらいだ。
さて、彼から見えない機体の外。先程カメラに捉えられた泉では1人の女性が水浴びしていた。その恰好は全身タイツに胸の部分に布があるといった……まぁ、破廉恥な見た目だ。
こんなのを彼に見せるのは
マイクとスピーカーの権限を奪ったのは――
『すいません、驚かせてしまいましたね』
こうして現地人の女性とコミュニケーションをとるためだ。
さて、今しがた現れた遺跡重機よりも巨大な鉄の巨人を警戒していた現地人の女性は、その鉄の巨人が言葉を発したことに少々驚く……ことも無く、平然と返事をした。
「大丈夫だ、我はそこまで驚いていない」
『なら良かったです』
まさか言葉が通じるとは……とエアが驚きつつ、2人の交信は続く。
『私達は……旅、そう旅をしているのです。ただ、少しアクシデントが起こってしまいまして、迷ってしまったのです。すいませんが、ここがどこか教えて貰えませんでしょうか?』
「ここは璃月だ」
リーユエ……該当する単語は、私の記憶と
そう考えた彼女は、本格的に私達別世界に来てしまったのかもしれないと思い始める。
『なるほど、ありがとうございます。それともう一つ、近くに大きな町はありませんか?』
「璃月港ならこの方向にある」
『重ね重ねありがとうございます。それでは』
エアが制御を奪ったままの彼のホワイトライムが、全身のブースターを起動して泉から走り去る。それを見送りながら現地人の女性――申鶴は、このことを自分の師匠に報告すべきだろうなと考えた。
さて、泉から2㎞程離れた頃、ようやく映像と音声と操縦権を返してもらえた何も知らない彼。当然、彼はエアにどうしてこんなことをしたのかと問う。
『それは……そ、そんな事よりも! 町を見つけましたよレイヴン! 行ってみましょう!』
明らかに話を逸らす彼女に、本当に何があったのかがすごく気になる彼。感情が情人に比べて希薄と言われている彼であるが、好奇心が無いわけではない。
だが、女性がこんな感じの時にそれを追求するとマズいことになると彼は知っていた。具体的にはどこかグッタリとした様子のラスティが個人的な通信で愚痴って来た時に言っていた。
故に、彼は黙って彼女の言う方向に愛機を向かわせるのだ。賢い猟犬は見える地雷は踏まないものだ。
『レイヴン……?』
ただ、こういう時に限って脳内を読んでくるのはズルくはないか? そう彼は考えながら、彼女に謝罪の意を示した。