ARMORED CORE FIRES OF TEYVAT 作:G14
武器を持っていない時のヤツはアガってやがる。
俺達じゃァ勝てねえ。
――SGの機体残骸から回収したデータ
『レイヴン、美味しいですか?』
相も変わらず脳内で響くエアの声。今しがた咀嚼している料理が美味しいのかという問いに対して彼は解らないと答える。
食事をする機能こそ彼には残っているが、無駄に味を感じる機能は残っていない。ただまぁ、彼の視界に移る料理の成分と、目の前の男の顔を見るに不味くは無いのだろうと彼は付け加える。
『そうですか……いつか、味も感じられるようになると良いですね』
そうだねと彼は答える。もっとも、この世界で再手術なんて夢のまた夢なのだろうが。
しばらく無言で2人の男は食事を続ける。傷だらけの顔を覗かせる華奢な男と、体格に恵まれた長身の男が囲む卓からは不思議な威圧感が発せられている。
「食事もひと段落したところだ、茶でも飲みながらお前の話を聞かせて欲しい」
無言の食事が一旦の終わりを見せたところで、店員に茶を運んでくるように頼んだ男が話を聞かせてくれと彼に言う。それを承諾した彼は、話題を選びつつも彼の第二の故郷とも言える惑星ルビコン3の事を男に聞かせる。
かつての大災害で焼けた場所。その中を生き残った土着の民達の組織と、大災害の原因である物質を求めた膨大な力を持つ2つの組織。そして、その3者を相手に優勢
そして、その狭間で生きた自分達独立傭兵。
話すことに慣れてはいないながらも、確かにその渦中の中心であり続けた彼。そんな彼から聞かされる話は、数多の講談を聴き耳の肥えている男ですらも少々身を乗り出してしまうほどの圧があった。
やがて、彼の話は自らが調教師と慕った男の死をもって締めくくられる。彼の話に、いつの間にやら男以外も聴き入っていた……それは勿論、彼の脳内と直接つながっているエアもそうだ。
『どういうことですか、レイヴン……ウォルターとカーラは、オールマインドの手で……それに
「なるほど、お前も苦労してきたのだな」
彼には確かに存在して、しかし彼女には存在しない記憶。それに対して困惑するエアの言葉を遮るようにして男が彼を称賛する。男の称賛に合わせて、周囲で聴いていた人々も手を叩き称賛する。
「それにしても興味深い話だった。何もかもが未知の話というのは新鮮でな……だが一つ疑問が生じた。世界が焼けるほどの大災害、そのようなものは魔神戦争中の伝説ですら出てこない。その話が本当だとして……お前はどこから来たんだ?」
男の少し厳しい目線を受けながらも、彼は至って平然とした様子で冷めた茶を飲んでから男の問いに答える。
”そんな事よりも、これだけの食事を払えるだけの金はあるのか”と。
「ああ、それくらいのモラは……ふむ、モラが無い」
『……は?』
彼の口から発せられた存在し亡き阿国困惑していたエアが、男の口から飛び出たトンデモ発言に反応する。
モラとはこの世界の通貨である。それくらいは彼女も彼も知っている。
そして目の前の男はその通貨が無いと言ったのだ。つまり金も無いのに食事を奢ると男は言ったことになる。これはあまりにも悪質な詐欺だと言えよう。
「おかしいな、堂主に言われて出る前に確認したのだが……」
少し焦りのようなものが見て取れる男を見ながら、彼はやはりなといった具合で頷く。そして、席を立ち男に”ここでの支払いはそちらが持つ
そして、強化された身体能力を存分に使って店から離れようとしたところで――
「はぁ、
「まったく~鍾離さんったらカップルに迷惑かけるんじゃありません!」
どこからか長い髪を巨大なツインテールで纏めてその上から帽子を着けた少女と、全身が胡散臭い男が現れた。
即座に彼の視界に胡散臭い男の声紋が表示され、過去に殺したAC乗りの男の声紋との照合が開始される。ほんの数秒の検証の後に、彼の視界に胡散臭い男と過去に殺した男の声紋が99%以上一致したと表示された。
「それにしても、鍾離殿は運が良いのか悪いのか。それとも解っていて近付いたのか……どれにしたって、モラが無いと言うのに食事に誘うのはどうかと思いますよ、私は」
『何故、G3五花海がこの場所に?』
やれやれと言った具合で見た目と違う真っ当な事を言う胡散臭い男は、彼の方に向き直って目を細める。それに対してエアは大いに警戒する。
「……独立傭兵レイヴン。お久しぶり、ですね?」
確かに、技研都市で彼が
警戒しながらも、彼はそれに対して久しぶりだと返す。
「ふむ、気に入らない喋り方だ……まぁ、良いでしょう。今回は迷惑をかけたのはこちらのようですし、何も言うことはありません」
チラリと少女から説教を受けている男――鍾離と呼ばれていた――を一瞥した五花海は溜息を吐いて彼に背を向ける。
「行きなさい、そういう
言われるまでも無いと、彼は走ってその場から離れる。
そして鍾離の言っていた店へと向かい、無事に食料を購入して。適当な宿を取って就寝する直前に事は起こる。
『レイヴン、昼の件については明日にしても良いので、今日はもう睡眠をとって休むことを提案――依頼です、レイヴン』
彼の視界に新着メッセージが届いたことを知らせるアイコンが現れ、点滅する。この世界において誰がメッセージを送って来るのか……昼間に出会った五花海を思い出しながら、彼はメッセージを開く。
ウイルスのチェック等が手早く行われ、メッセージ内に梱包されていた音声ファイルが再生される。
《……独立傭兵レイヴン。これは、私個人からの私的な依頼です》
どうやら、彼はこの世界でも独立傭兵としての仕事を続けることが出来るようだと、呆れた溜息を吐きながらそう確信した。
「そういえば胡桃殿、彼を見た時にカップルと言って居ましたが……」
「え? どう見ても仲睦まじいカップルでしょ、あの人達って」
「……鍾離殿は彼以外に見えましたか?」
「いや、俺は凡人だからな、そのような者は全く見えなかったな」
「…………まぁ、気にしないでおきましょう」
「ナニナニ? そんな風に聞かれると気になるじゃーん!」
「気にしないで良いですよ、胡桃殿」