近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
目覚めたらのじゃロリ狐っ娘だったのじゃ
妾は目が覚めると、神社の境内らしき場所に寝転がっていることに気づいた。
空を見るとお天道様が真上にあったので、多分だが時刻は昼近くだろう。
「ふあぁ、ここは何処じゃ? 妾は確か──」
まだぼんやりしているが、いつも通りベッドで寝たはずだ。
しかし詳しく思い出そうとしても記憶が朧気で、どうにもはっきりしない。
「むう、妙じゃのう」
周囲の様子を窺う限り、ベッドではなく硬い地面である。
まさか酒に酔って神社の境内に迷い込んだのか、それとも誰かに拉致されたのかと不安になるが、少しでも前向きに考えるべきだ。
今この状況で混乱や発狂するのは良くないし、状況の把握に何一つ役に立たない。
なので何とか呼吸を落ち着かせて、冷静に思考しようと努める。
「むむむ! まさかこれは! いわゆる転生ではあるまいな!」
何故その結論に至ったのかと言うと、他のことは朧気なのにサブカル知識は凄く残っていたからだ。
全く意味がわからないが、使えるものは何でも使わないと状況を乗り切れない。
取りあえず無理やり冗談を口にして気を落ち着かせつつ、深呼吸をしようと薄い胸に手をおいて、大きく息を吸い込んだ。
「しかし妾は、こんなに胸が薄かったかのう?」
自分は若くはあったが、それなりに育っていたはずだ。
なのでマジマジと観察すると、明らかに体が透けている。
下に目を向ければ何故か着ている紅白巫女服だけでなく、手足まで半透明でそのまま地面が見えた。
「何じゃこりゃあああっ!!!」
思わず大声を出してしまった。
ここが何処で今がいつかもわからないだけでなく、まさか幽霊になっているとは思わなかったのだ。
絶叫するのも無理もない話であった。
だが、オロオロしていても状況は好転しない。
妾は自分の体を、緊張しながら確認していく。
「どうやら己の体には、普通に触れるようじゃ」
何故か語尾にのじゃがつくが、幽霊に転生することと比べれば些細なことだ。
そう思っておかないと、マジで状況確認が先に進みそうにない。
ついでに宙に浮いているようで、空も飛べて障害物も通過できる。
とても便利ではあるが、しめ縄が巻かれている岩から十メートル以上は離れられない。
長さを測れる物を持っていないけれど、多分そのぐらいはありそうだ。
あとは何でこんな物が置かれているのかと疑問に思い、周囲を見渡す。
最初に気づいたが少し離れた場所に小さなお社が建っているので、恐らくは神聖な物なのだと思われる。
しかし参拝客は長らく訪れていないようで、何処もかしこも荒れ放題だ。
お社も古くて倒壊しかけてるし、境内も草茫々でろくに手入れもされていない。
おまけに人の気配も全くせずに、何処かの森か山中にいるようだ。
「ううむ、困ったのう」
ひょっとしたら自分は一生、人と関わることなく孤独に過ごすのかも知れない。
幽霊に寿命があるのかは知らないが、野生動物だけが友達なのはちょっと嫌だ。
やっぱりこんな状態でも自分は人間だし、せめてもっとこう普通の生活を送りたい。
「妾は幽霊じゃし岩から離れられんし、どうしたものやらじゃのう」
何だか悲しくなって、ショボーンと項垂れてしまう。
「おまけに何じゃこれは? 狐の耳と尻尾じゃと?」
艷やかな金色の毛並みが素晴らしくて見惚れるほどだが、自分は人間だったはずだ。
まさか本当に転生したとでも言うのかと、大いに頭を抱えてしまう。
そして耳と尻尾も妾の感情を表現しているのか、くてーっとしている。
「いや、マジでどうすれば良いのじゃ」
何となくショボーンと地面に座り込んで、のの字を書き始める。
どうやら物に触れたいと強く意識すれば、実体化して物理的な干渉が可能になるようだ。
「部位のみは無理そうじゃな」
スイッチのオンオフのように、実体化と幽体化は体全体で行われるようだ。
しかし、しめ縄が巻かれた岩には触れずに弾かれてしまう。
「小石ぐらいなら容易く握り潰せるし、岩を背負って移動できれば良かったのじゃが」
見た目の割に超パワーを持っているので、岩ぐらい片手で担げるのに触れられない。
これではこの場所から離れることができず、誰かが来るのを待つぐらいしかできそうになかった。
しかも来たら来たで、幽霊だと怖がって逃げていく可能性もある。
もしくはお坊さんや神主さんを呼ばれ、除霊されるかも知れない。
妾にとっては人に会いたいような会いたくないような、複雑な心境なのであった。
妾が何故かのじゃロリ狐っ娘に転生してから、数日が過ぎた。
やることがなくて暇だったので、能力の使い方を色々と試す日々が続く。
ちなみに寝る必要がないので朝も夜も関係ないが、月が綺麗な夜に誰かが神社の石段を登ってきた。
幽霊だろうと、狐耳は遠くの音もよく聞こえるらしい。
気配的に子供だと見当がつくが、妾はどうしたものかと思案する。
いよいよ第一村人との接触ではあるが、山の上の寂れた神社では外界のことは良くわからない。
ついでに十中八九で私有地なため、勝手に壊したらあとで何か言われるかわからず、あまり派手なことはできずに大人しくしていた。
「耳を澄ませば自動車や電車の音や、空にも飛行機も飛んでおったし妾が知っておる世界じゃろう」
空に飛び上がって山の下を眺めてみると都会であることがわかるが、山の上の寂れた神社には全く人が来る気配がない。
「まあ何にせよ、重要なイベントには違いないのう」
妾もボケーっとしていたわけではなく、能力を色々調べながら脱出計画を考えていたのだ。
今こそ、それを実行に移すのである。
そのためにも、まずは参拝客に見つからないように岩の後ろに身を隠す。
「ふむ、やはり子供じゃったか」
聴覚だけで人間か否かを判別したのは、今回が初めてだ。
足音の軽さで小柄だと見当をつけて、あとは殆ど直感だが当たっていたことに安心して、岩の後ろでホッと息を吐く。
それはともかく、緑色でちぢれ毛の少年は、おっかなびっくりで懐中電灯を持って足元を照らして、石段を一歩ずつ慎重に登ってきている。
やがて頂上に到着し、今度は朽ちかけた小さなお社に近づいていく。
何が目的なのかはわからないが、この機会を逃すわけにはいかない。
妾は姿を隠したまま、軽く何度か息を吐いて調子を整える。
そして、震えながら歩いている少年に声をかける。
「これこれ、そこの少年よ」
「ひいいっ!?」
緑髪の少年は、突然聞こえた声に驚いて思いっきり飛び上がる。
続いて慌てた様子で、懐中電灯で周囲を照らすが何も見つからない。
「少しお主と、話がしたくてのう」
声は聞こえているはずだ。
しかし少年の顔色がどんどん悪くなっていき、手足の震えも激しくなる一方だ。
何かもう既にファーストコンタクトで失敗した感が出ている。
だが妾が諦めたら、全てが終わってしまう。
なので非常に不本意ではあるが、彼を安心させるために嘘をつくことにした。
「妾はこの神社の神じゃ」
「かっ、神様!?」
「うむ、そうじゃ」
実際には神でも何でもない元人間の転生者だ。
しかし、悪霊でも危害を加えるでもないという理由付けとしては、神を名乗るのは便利である。
だがまあ、それをすんなり信じる方もどうかと思うが、子供は純粋である。
何も知らない人を騙すのは心苦しいけれど、今さら引き下がれないので気を取り直して続きを話していく。
「実は寂れた神社に参拝に来たお主に、加護を授けようと思うてのう」
「ぼっ、僕に御加護を授けてくれるんですか!?」
「その通りじゃ」
実際に最近は誰も参拝に来た様子がなかったことから、偶然訪れた子供に感心するのもわからなくはない。
ただし自分は神様ではないので騙しているけど、今は気にせずに話を続ける。
「お社の近くに、しめ縄が巻かれた岩があるじゃろう?」
驚きながらも少年は懐中電灯で周りを照らすと、すぐにしめ縄が巻かれた岩を見つける。
そして無造作に近づいてきてくれた。
妾は見つからないよう角度に気をつけながら、落ち着いて声をかける。
「古いしめ縄が、ちぎれかけておるじゃろう?」
「はい、かなり老朽化してますね」
この計画を実行するためには、彼を騙す必要がある。
だがもし妾の読み通りなら、上手くいくはず、……いや、上手くいけば良いなと思っていた。
「そこで少年よ。しめ縄を掴んで、力いっぱい引っ張るのじゃ」
「えっ、でも、そんなことしたら!」
「いいからやるのじゃ! 神がやれと言っておるのじゃぞ!」
勢い任せのゴリ押しであるが、少年は純粋らしい。
かなり迷ったようだが神様が言うならと、切れかけている部位をギュッと握る。
そしてえいやっと引っ張ると、あまり力を入れなくても完全に二つにちぎれて地面に落ちた。
「おおっ! 良くやったぞ! 少年よ!」
やったぜと飛び上がった妾は、満面の笑みで少年の前に姿を見せる。
そして実体化して、戸惑う彼の手を握ってお礼を言った。
「今は持ち合わせがないが、近いうちに必ず礼をしよう!」
本当は彼に色々聞いたりお礼をしないとだが、あいにく妾にはお詫びの品が何も用意できない。
それに見た感じは前世と同じ世界だし、幽霊の自分が一緒では多大な迷惑をかけてしまうだろう。
なので名残惜しいがこの場は背を向けて、月に照らされている夜空に飛び立つ。
「では、しばしの別れじゃ! ……にょわああっ!?」
妾は勢い良く飛翔しようとしたが、途中から全く前に進まなくなった。
まるで岩の周りから離れられないように、何故か少年の周囲を同じ距離しか、首輪で繋がれているかのように離れられない。
「はわわっ! こっこんなはずでは!」
当初の計画では、しめ縄が切られれば自由になれるはずだった。
しかし現実は岩ではなく、少年に取り憑いただけだ。
何でこうなるのだと、妾は月に向かって絶叫するのだった。