近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
高校受験を考える時期なのじゃ
歯の刃を伸ばすヴィランは、ムーンフィッシュと言うらしい。
しかしマスキュラーと同じように、妾は全く興味はないので右から左に聞き流していた。
警察やヒーローに色々言われはしたけれど、イズクが対応してくれたので、毎度のことながらとても助かっている。
なのでもし弟子がピンチになったら引子さんにも言われているし、何があっても絶対に守り抜いてやるつもりだ。
だがまあそれはそれとして、イズクのスマホに渡我被身子とラブラバの連絡先が登録されている。
しかし別に、モテ期到来ではない。
彼女たちが用があるのは妾らしく、何かあるたびに電話してくるのだ。
家事手伝いや弟子の修行以外は基本的に日向ぼっこしているので、暇といえば暇だし知り合いの相談に乗るのは苦ではない。
ジェネレーションギャップに驚かされることが多々あっても、ガールズトークには違いないのだ。
それにラブラバはジェントル一筋なので除外するとしても、イズクと渡我少女が恋人関係になる可能性もなくはない。
なお、今日も向こうから電話をかけてきた。
彼女の弟子への好感度は高いので、多分だが互いに自覚はしていないが芽はあると思っている。
「……というわけで今は、病院の輸血パックをチューチューして、個性の訓練中です」
妾はイズクの部屋の天井付近にフヨフヨと浮遊し、弟子から受け取ったスマホを狐耳に当てて、嬉しそうに報告する渡我少女の声に耳を傾けていた。
「順調に成果が出ておるようで、何よりじゃな」
彼女は何故か、のじゃロリ狐っ娘と話したがる。
同性のほうが気楽で、異性には少々抵抗があるのかも知れない。
ちなみに妾はスマホが上手く扱えないので、毎回イズクに取り次いでもらう必要がある。
しかし自分は霊体で壁をすり抜けることが良くあるし、その場合は現世の物を持って移動すると、引っかかってしまう。
なので余計な物は持たないほうが良いし、妾は緑谷家に居候している立場だ。
あまり家計に負担をかけたくなかった。
そんな考えはともかく、イズクは強くて優しくて優良物件的なことを渡我少女に伝えたりするが、現時点では進展はないようだ。
そもそも家が離れていて会う機会はあまりなく、せいぜい長期休みに爆豪家だけでなく渡我家からも遊びに来るぐらいだろう。
今年もよろしく的な定例通りのやり取りだが、幸いなことに仲は悪くはない。
爆豪少年も口は悪いが、イズクと渡我少女と一緒に初詣に行ってくれるしで、根っこは善人ではあるのだろう。
妾がそんなことを考えていると、電話の向こうから可愛らしい声が聞こえてくる。
「それでお狐様は、次はいつ頃こっちに来るんですか?」
「イズクがそろそろテスト期間じゃしな。しばらく筋トレはお休みじゃ」
イズクは中学生で、近々期末テストがある。
良い成績を取らなければ進学もおぼつかなくなるし、雄英高校を目指しているので、何としても上位に入りたいところだ。
妾はと言うと、個性扱いだし基本的に衣食住は不要なので気楽である。
しかし、彼はそうも言ってられない。
今話しているのもイズクの自室で、弟子は学習机に向かって一生懸命勉強していた。
「出久君は、雄英志望でしたか?」
「うむ、雄英を目標にしておるらしいぞ」
いつの間にか緑谷ではなく、出久と呼んでいる。
距離の詰め方がとんでもなく早い。
そこそこの付き合いになるのに、渡我少女と話すときに相変わらず緊張気味の弟子とは大違いだ。
「私も狙ってみようかな」
「雄英高校か?」
渡我少女はイズクよりも一歳年上で受験生らしいが、志望校は地元で済ませるつもりだった。
なのに、何とも急な変更である。
「うん、私もお狐様のような格好良いヒーローになりたいです」
「そうは言うが、妾はヒーローではないぞ」
イズクの守護霊をヒーロー扱いとは、これ如何にである。
妾がはてと首を傾げていると、渡我少女が少しだけ嬉しそうに返事をする。
「私を助けてくれたお狐様は、立派なヒーローです」
「まあ、そういう考え方もあるか」
テレビの向こうの英雄が助けられなかったり、手からこぼれ落ちてしまった人は、世界中に星の数ほどいる。
なので渡我少女に手を差し伸べて救ったのは、結果的には妾だった。
ゆえに彼女にとっての妾は、唯一無二のヒーローと言っても過言ではない。
「お狐様が雄英高校に行くなら、私も受けます」
「渡我少女の人生じゃし、それで納得しておるなら好きにすると良い」
将来の進路希望は渡我少女の自由だし、妾には止める気も理由もないので好きにすればいい。
「頑張ります」
「うむ、応援しておるぞ」
取りあえず数少ない妾の友人だし、にっこりと微笑みながら電話の向こうの渡我少女を応援した。
ついでに自分なりに冗談も口にする。
「イズクの成績では少し厳しいが、渡我少女なら大丈夫じゃろう」
「師匠! 今テスト勉強中ですし!
あんまりプレッシャーをかけないでくれませんかねぇ!」
同じ部屋なので会話は丸聞こえであり、イズクが若干涙目で勉強を中断して、こっちに顔を向けた。
妾はすまんすまんと謝罪しておく。
「じゃあ、先に行って待ってますね」
「うむ、イズクもすぐに追いつくからのう」
そう言って、渡我少女との通話を切った。
しかしいつの間にかイズクから、完全に師匠扱いされるようになって、お狐様とは呼ばれなくなった。
そして弟子は熱心に勉強しているが、妾は受験しないので気楽なものだ。
しかし雄英高校は狭き門と聞くし、もし入試に不合格になれば当然自分も一緒に落ちることになる。
(イズクはオールマイトに憧れておるし、やはり雄英合格は必須じゃろうな)
雄英高校は全国最難関と呼ばれて、とんでもない倍率である。
イズクと渡我少女以外にも、爆豪少年も狙っているため、この世界ではヒーローは憧れの花形職業なのだと再確認するのだった。
その後は特に大事件が起きることなく時が流れ、渡我少女が雄英高校に合格して、イズクも中学三年生に進学となった。
今朝は途中でヴィランとヒーローたちが戦っていたが、いつものように正義は勝つで締めくくられる。
被害もそこまで大きくはなかったので、自分が出るまでもなかった。
行動派オタクのイズクが熱心にメモを取っていたことから、間近でヒーローたちの活躍が見られて大満足だったようだ。
それは置いておいて、教室に入ったあとは、妾は他の生徒の邪魔にならないように窓の外に出る。
今日は天気が良いので絶好の日向ぼっこ日和で、狐らしく体を丸くして大きくアクビをした。
その間に教室に担任の先生が入ってきて、本日の授業が始まる。
「えー、お前らも三年ということで、本格的に将来を考えていく時期だ。
今から進路希望のプリントを配るが──」
妾はウトウトしていても、完全に眠ってはいないし睡眠の必要もない。
教師の話もちゃんと聞こえている。けどまあ殆ど右から左へ聞き流しているので、ちっとも頭には入ってこない。
「皆、大体ヒーロー科志望だよねー!」
「「「はーい!!!」」」
プリントを投げながら良い笑顔で言い切ったが、それだけこの世界ではヒーローに憧れる若者が多いのだろう。
教室の生徒たちもノリノリで返事をしている。
前世の価値観を持っている妾には、この独特のノリに付いて行くのはしんどそうだ。
「皆いい個性だ! でも校内で個性発動は、原則禁止な!」
取りあえず妾は我関せずとばかりで、空に浮かびながらのんびり日向ぼっこをする。
進路希望はイズクのことであり、相談を受けない限りは特に干渉したりはしない。
「先生! 皆とか一緒くたにすんなよ! 俺はこんな没個性たちと仲良く、底辺なんて行かねえよ!」
爆豪少年が机の上に足を乗せたまま、偉そうにふんぞり返っている。
良く内申点が落ちないなと疑問に思うが、担任からして色々アレだし、そういうこともあるのだろう。
「あー、確か爆豪は、雄英高だったなー」
他の生徒のブーイングも軽く受け流しつつ、爆豪少年は得意気な表情を崩さない。
口の悪さに目を瞑れば、頭も良いし成績優秀で実は優しい一面もある。
将来的には、高額納税者ランキングに名を刻むのも夢ではないだろう。
「そういやぁ、緑谷も雄英志望だったな」
イズクは以前から雄英高校を目標にして、必死に頑張ってきた。
わざわざ担任が口にしなくても、クラスの皆が知っている情報である。
「緑谷はな。うん、……まあ」
「緑谷の個性は、ちょっとな」
「それに筋肉が、何というか」
それぞれ色んな発言をしているが、イズクは爆豪少年のように勝ち誇ったりはしない。
クラス内の生徒たちからは、大体生暖かい目を向けられている。
そうなった理由は色々あるが、まずは下手に肩を持って中学のボス的な存在である爆豪少年に、目をつけられたくない。
次に地元の小中学校はほぼ地続きで、今まで無個性だからと酷い扱いをしてきた生徒が大勢いた。
それに妾が取り憑いてからメキメキ頭角を現してきたイズクは、現在は身長195センチで体重が82キロのマッチョマンである。
良い人には違いないけど、ちょっと近寄り難いのだ。
他にも理由があるかもだが、とにかくイズクは友人関係にはあまり恵まれていない。
このままだと中学三年間を孤独に過ごすことになるかもだが、代わりに少数精鋭というか妾と渡我少女、それにジェントルとラブラバとも仲が良い。
ついでに爆豪少年の態度も昔よりは軟化していて、毎日のように修行に付き合っている。
あとはイズクが内弁慶で弱腰なのは今も変わらない。
しかし海岸線のゴミ山は一年かからず片付け終わったし、流石の妾でもちょっとビビった。
おかげでかなり鍛えられて、今も受験勉強と並行して筋トレ継続中である。
色んな意味で過酷すぎる波紋法の修行も続けているし、とんでもない精神力や根性を見せていた。
お前は何処の主人公だと、心の底からツッコミを入れたくなるぐらいだ。
だがまあとにかく、着実に成果は出している。
出会ったばかりの頃と比べれば、桁違いに成長しているのだった。