近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊   作:名無しの狐信者

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弟子の成長が止まらぬのじゃ

 進路希望の紙を受け取ったイズクだが一人で決めるわけにはいかず、家族と相談する必要がある。

 前々から雄英高校希望と伝えてあるので揉めることはないだろうが、それでも戦闘訓練はお休みにして早めの帰宅である。

 

 なのでイズクは特に心配することはなく、本日のトレーニングメニューをブツブツ呟きながら、通学路を歩いていく。

 

「雄英高校の入試まで、あと十ヶ月。

 実技試験に何を求められるのかは不明だけど、今後は何に重点を置いて鍛えるべきだろうか」

 

 トレーニングのガチ具合に、お前は何処のスポーツ選手だと言いたくなる。

 だがイズクは行動派オタクなので、スケジュール管理は得意だ。

 

 妾があれこれ指示しなくて良いので、楽でいい。

 中学一年に上がったばかりの頃の出会が、三年になって良くもまあここまで急成長したものだ。

 

 身長は195センチで体重が82キロもあるため、今まで物凄く抑圧されていた反動で一気に成長したのか、それとも波紋によって生命力が活性化したのかはわからない。

 

 個人的には、何処の空条承太郎だよとツッコミたくなった。

 

 

 

 それはそれとして、妾はいちいち歩くのが面倒なので普段は霊体化して空中を漂っている。

 半径十メートルからは出られないので、動かなくても勝手にイズクに引っ張られるのだ。

 こういうときには楽でいいと思いながら、大きくアクビをする。

 

「師匠はどう思います?」

「ん? ああ、そうじゃな」

 

 話半分に聞いていたが、狐っ娘は勘が鋭いのでこういうときに便利だ。

 

「今のイズクは技巧派に寄りすぎておる。

 もっと筋肉をつけたほうが良いじゃろうな」

 

 割と適当に発言しても、ズバリ正解を当てることが良くある。

 そもそもハズレは自分から望まない限りは、引いたことがない。

 

 現にイズクは、なるほどと嬉しそうに頷いている。

 すぐさまノートにメモを取りながら、また歩き始めた。

 

「僕は今の身長が195センチで、体重が82キロだ。

 急成長し過ぎて、筋肉が追いついてないのかも」

 

 弟子の中ではそういうことになったようで、これからさらにムキムキマッチョマンに成長するために、日々の食事やトレーニングを一から見直すようだ。

 

 

 

 それは良いのだが、道路下のトンネルに差しかかったときに、妾の狐耳が反応する。

 何者かが、こちらに近づいてくる音を聞き取ったのだ。

 

「イズク、何か来るぞ。注意せよ」

「えっ!? あっ、少し待ってください!」

 

 そう言ってイズクは急いでノートを鞄にしまい、念のために長めのマフラーを取り出して首に巻く。

 

 そして体から力を抜いて心を落ち着かせる。

 姿勢を正して、コオオッと背後に効果音が見えるような独特の呼吸の整え方をした。

 

 普段からそれをしているのだが、やはり集中すると効果が高まるようだ。

 

 

 

 ちなみにイズクの様子を見て妾は少しだけ過去を振り返るが、弟子は妾の適当な教えを真に受けたり、動きを真似したりが良くある。

 そして常識的に考えてあり得ない技を、何故か修得するのだ。

 

 今も波紋の呼吸で意識を集中させて感覚を研ぎ澄ましているし、マジでどういうことなのである。

 

(普通に考えて、息を十分間吸い続けて十分間吐き続けるのは、ほぼ不可能なのじゃ)

 

 あの爆豪少年も、過酷すぎて断念した。

 しかしイズクは自分の体がぶっ壊れるような修行に、嬉々として打ち込んでいて、やってのけてしまったのだ。

 

 けれど、ここは吸血鬼もいないしジョジョの世界でもない。

 残念ながら無意味だと、滝登りを達成して嬉し涙を流す前は内心でそう思っていた。

 

(どうすれば師匠のようになれるのかと聞かれたから、波紋の修行を教えたのは不味かったかのう)

 

 妾は近距離パワー型のスタンドとして、個性届けを出している。

 なので前段階の波紋法の修行方法を教えたのだが、何故か結果的にイズクは波紋を修得してしまった。

 

 本当に色んな意味で規格外すぎる。

 喜ぶべきことなのだが、まるで漫画の主人公のようだと、もう笑うしかなかった。

 

(妾との繋がりが修得の条件じゃったのか? しかし、まさかあの過酷な修行を乗り越えるとは)

 

 十分間の呼吸の繰り返しだけでなく、一秒間に十回の呼吸。

 さらに地獄昇柱(ヘルクライムピラー)は無理なので、山奥の滝登りで妥協した。

 

 最初は途中で無理だと諦めて、有耶無耶になって普通の筋トレに戻るのを期待していた。

 しかしこれも最高のヒーローへと至るためだと覚悟を決めているのか、決して折れることなく全部最後までやりきったのだ。

 

 そして気づけばいつの間にか、イズクは波紋法を修得していた。

 

 数え切れないほど失敗したが、それでも諦めずにようやく滝を登りきって喜んでいるイズクが、体から生命エネルギーを放出しながら、『師匠! これは一体!』などと聞いてきたときは、本当に驚いて冷や汗をかいた。

 

 内心では妾はそんなの知らんしと正直に答えたかったが、何とか抑え込む。

 

 弟子の期待や信頼は裏切れないのだ。

 なので後方腕組み師匠として、波紋のことを本格的に教え始める。

 

 

 

 ちなみに波紋の技を一つ一つ修得するたびに、イズクはとても喜んでいた。

 妾が偶然取り憑いたように、偶然や運によって手に入れたものではない。

 

 様々な障害を努力や根性で乗り越えて、己自身の力で修得に至ったのだ。

 

 まさに、自分だけの個性と言っても過言ではない。

 イズクはようやくそれを見つけられて、嬉し泣きするほど大喜びしていた。

 なので妾も横槍を入れることなく、素直に祝福の言葉をかけるのだった。

 

 

 

 そんな青春の一ページとしては少々泥臭いが、妾は後方腕組み師匠ポジとして、弟子に色々とアドバイスをした。

 

 具体的にはリサリサ先生のような装備が、現代には合っていて無難だなどだ。

 

 クラッカーヴォレイやシャボンランチャーは普段から持ち歩いたり、いつでも使えるように準備しておくのはなかなか難しいからである。

 

 しかしイズクにとっては、イレイザーヘッドのほうが馴染み深く、例に出されたプロヒーローはいつも首にマフラーを巻いている。

 それを自在に動かして、ヴィランを捕縛するらしい。

 

 その話を聞いた妾は、実はこの世界では波紋は珍しくないかも知れないと、認識を改めかけた。

 しかしその割には、他の使い手には会ったことがない。

 

 たまにしか見ないテレビやネットにも出てこないため、はてと首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 まあそれはそれとして過去から現代に戻るが、狐っ娘の超感覚には及ばないが、イズクも人間にしてはかなり優れた聴覚を持っている。

 

 波紋で肉体を活性化させて底上げし、常人以上の感覚を得ているので本当に大したものだ。

 

「僕にも聞こえました! むっ、これはっ!?」

 

 イズクからは、師匠のおかげですと、毎日凄く感謝されている。

 しかし、こっちは適当に指導しているだけだ。

 

 マジでどういうことなの状態が続いているが、やはり弟子の期待や信頼は裏切れない。

 他に良い指導者が見つかるまでは、たとえハリボテだろうとそれらしく振る舞うことにする。

 

「ほう、イズクも気づいたか。どうやら、また腕を上げたようじゃな」

「そっ、そんな! 師匠に比べたら、僕なんてまだまだです!」

 

 そんな師匠と弟子のやり取りはともかく、何者かが下水を通って高速で近づいている。

 二人揃って、すぐ近くにあるマンホールの蓋に視線を向けた。

 

「師匠!」

「うむ、奴はここに来るつもりのようじゃ」

 

 正体不明の存在が、下水を使って逃げているのだ。

 表通りを使わない時点で、十中八九でヴィランだろう。

 他にもやむを得ない事情で仕方なくという場合もあるが、姿を確認するまでわからない。

 

 やがてマンホールの隙間からヘドロのような何かが、上に向かって染み出してきた。

 それはゆっくり集まって形を変えて、流体で掴みどころのない人とはかけ離れた異形となる。

 

 目と口はあるのでギリギリ人間と言えなくもないが、そんな謎の存在は妾たちに気づいたようだ。

 

「Lサイズの隠れ蓑!」

 

 問答無用で飛びかかってきたので、話し合いはできそうにない。

 どうやら狙いはイズクらしく、彼は少し緊張しながらも一歩前に出る。

 

「師匠! 僕にやらせてください!」

「良いじゃろう。やってみるが良い」

 

 危なくなったら助ければ良い。

 ヴィランとの戦いを経験する機会は滅多にないし、あのぐらいなら簡単に負けはしないと判断した。

 

 それに悠長に相談している時間もない。

 即断してイズクに任せることにして、一応実体化して腕組みをして後方に下がる。

 

 すぐにイズクはヘドロの怪物と接触したので、冷静に飛んでくる無数の触手を避けて、素早く本体に近づいていく。

 

 そのまま、ここぞという絶好の機会に呼吸を整える。

 続けて、渾身の右ストレートを叩き込んだ。

 

山吹き色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!」

「ぐわあああっ!!!」

 

 ヴィランは吸血鬼ではないので、波紋を流しても体が崩壊したりはしない。

 しかし奴は流体で、波紋は生命エネルギーで電気に似た性質があって水は良く通る。

 

 おかげで一時的だが敵の体が麻痺して、上手く動かなくなった。

 

「馬鹿な! 個性がっ! 使えんだとぉっ!?」

「やったっ!」

 

 さらに波紋には別の効果がある。むしろこっちが本命と言えた。

 

 具体的には極めて短時間だが、流し込んだ部位の個性を乱すのだ。

 

 何故そんな現象が起きるのかは良くわからない。

 しかし弟子が推測するには、個性はある特殊な波長を常に発していて、太陽に近い波長で妨害しているようだ。

 

 ただし消去ではなく、多少乱すだけである。

 

 それでもイズクは初めてヴィランと戦い、波紋が効果があると証明されたことで凄く喜んでいた。

 

 しかし戦況をのんびり眺めていた妾は、これは不味いと判断してすかさず警告を発する。

 

「イズク! 油断するでない!」

「えっ!? しっ、しまっ!? うわあああっ!!!」

 

 それは、ほんの少しの気の緩みだった。

 拳を当てた部位が一時的麻痺しても、ヘドロヴィランの表面積はかなり大きい。

 

 波紋が届かない部位も多く、敵も未知の攻撃に驚いて悲鳴をあげただけだ。

 ダメージは殆ど受けていない。

 

 何度も叩き込めば倒すこともできるだろうが、一発だけでは効果は薄い。

 

 今の波紋から遠い位置にあった触手が一斉に動き出す。

 懐に入り込み過ぎて回避が困難なイズクに、襲いかかった。

 

 弟子は慌てて触手を避けながら、無理そうなものは拳や蹴りを当てた瞬間に波紋を流す。

 

 とにかく回避に専念しつつ、少しずつ麻痺の範囲を増やしていく。

 

「イズク、代わるか?」

「まっ、まだっ! やれますっ!」

 

 回避も防御も難しい場合はマフラーを操り、盾のように硬化させて受け止め、さらに触手を麻痺させて反撃にも転している。

 

 昆虫サティポロジア・ビートルの腸ではないが、直接店舗に出向いてこっそり波紋を流して確認し、比較的通しやすいものを選んだつもりだ。

 

 そしてイズクは、なかなか器用に立ち回っている。

 

 一見すると互角の戦いに見えるが、呼吸が乱れると波紋の出力が低下していく。

 長期戦になるほど不利だ。

 

 それでも弟子は、まだ戦意を失っていない。

 実力の近い者同士の試合は、得るものも多いと聞く。

 ここは気が済むまでやらせてみるか考えて、しばらく様子を見る。

 

「イズク、時間切れじゃ」

 

 だがどうやら時間になったようで、妾は弟子に声をかける。

 

「えっ!? いやっ、でも! まだ負けて──」

「そうではない。ヒーローが来たのじゃ」

 

 ヴィランと同じルートを、とんでもない速さで近づいてくる。

 きっとヘドロの怪物を追ってきたのだろう。

 

 なのでヒーローだと当たりをつけて、殆ど直感だがこの推測は正しいと判断し、堂々と発言する。

 

「もう大丈夫だ! 少年!」

 

 そして私が口を開いてすぐに、マンホールの蓋が吹き飛んだ。

 そこから筋骨隆々の大男が姿を見せる。

 

「私が! 来た!」

「ちいっ!」

 

 堂々と宣言して不敵に笑う金髪ヒーローを、ヘドロヴィランは脅威だと感じたようだ。

 イズクへの攻撃を中断して、巨大な触手を彼に向けてなぎ払おうとする。

 

 当然のように完全に読み切って避けた。

 一気に距離を詰めて、右腕を大きく振りかぶっる。

 

「テキサスーッ! スマーッシュッ!」

 

 やはりナンバーワンヒーローは伊達ではない。

 風圧だけでヘドロヴィランが肉体を保てずに、バラバラになる。

 ついでにイズクも飛ばされそうになるが、咄嗟に波紋で地面に吸着して耐えるのだった。

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