近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
オールマイトと別れたあとは、いつもの通学路を歩いて帰宅する。
だが途中で大きな爆発音が聞こえ、野次馬根性で自然と足がそちらに向き、周りの人たちと同じ流れに乗る。
やがて妾たちが商店街の入口に到着すると、人混みの向こうは火の海になっていた。
おまけにヘドロヴィランに誰かが捕まっていて、ヒーローたちは残念ながら相性の良い者がいないようだ。
逃さないように周囲を取り囲みつつ、被害を抑えつつ救援を待っている。
妾は宙に浮いてじっと見つめると、人質が誰なのかはすぐにわかった。
「あれは爆豪少年じゃな」
「かっちゃん!?」
イズクの身長195センチは伊達ではない。
人混みの後ろの方からでも、前まで良く見える。
そして状況判断が完了したあとの行動は早かった。
イズクはやる気満々のようで、妾が尋ねるよりも早く駆け出していた。
「やれるのか?」
「はい! 師匠! 任せてください!」
本来なら妾は、こういう揉め事には関わる気はない。
民間人がヒーローの真似事をするのは法律的にあまりよろしくなく、あとで文句か説教をされるのは目に見えているからだ。
しかし今は弟子の友人がヴィランに捕まっていて、かなりヤバい状況だ。
死にはしなくても、助けに入らなければ後遺症が残る可能性がある。
もしここで助けないを選ぶと、イズクは一生引きずってトラウマになる可能性があった。
ならばあとのお説教や家族への迷惑を嫌々だが飲み込んで、全力で友人を助けに行くに限る。
「馬鹿野郎! 止まれっ! 止まれええっ!」
他のヒーローが制止を呼びかける。
しかしイズクは止まることなく走り続けるが、このまま何もしないと後方から妨害を受ける可能性があった。
それは正直面倒なので、プロヒーローは手出し無用だと理解してもらわないといけない。
相変わらず行き当たりばったりだが、ふと思いついた台詞を大声で叫ぶ。
「覚悟とは、犠牲の心ではないのじゃっ!」
今の言葉を訳すと、妾たちが咄嗟に飛び込んだのは、ヴィランにやられるためではない。
「覚悟とはっ! 暗闇の荒野にっ!
進むべき道を切り開くことなのじゃっ!」
続いて有言実行で文句を言わせまいと、妾は実体化して地面に両足をつける。
そのまま跳躍して空中で体を超高速で回転させることで、全方位に突風を巻き起こした。
「
原作ではツェペリさんの技だが、妾が使うとこうなる。
ちなみに波紋疾走とか言っているけど、守護霊なので波紋は一切流れていない。
とにかく回転を停止して華麗に着地したあと、改めて周囲を確認する。
どうやら外壁部分で燃え盛っていた火の殆どは、吹き消されたらしい。
しかし、建物の内部までは消火には至らない。
「お狐様の覚悟! 確かに伝わったぜ!」
「こっちは私たちに任せてちょうだい!」
それでも増援が駆けつけるまでの時間稼ぎには、十分だったようだ。
プロヒーローは妾たちに任せてくれるようで、止める動きはない。
ちなみにあまりやり過ぎると、大勢の野次馬やヴィランと人質まで吹き飛ばしてしまうので、尻尾で叩いたり扇ぐのと同じで加減が本当に難しい。
とにかく邪魔が入らないことを確認した妾は一息つき、続いてイズクに声をかける。
「爆豪少年を救出したあとは、ヴィランの相手は任せるぞ」
「はい、任せてください!」
イズクは元気良く返事をしたので、やる気十分だ。
妾との戦闘訓練で強化された爆豪少年が、あの程度のヴィランに遅れを取るとは思えない。
なので仲間を庇ったり不意を打たれるなどで、攻撃する前に拘束されてしまったのだろう。
とにかく弟子は走りながら、鞄から水の入ったペットボトルを急いで取り出す。
そのままキャップを緩めて素早く口に含み、歯の隙間から勢い良く吹き出した。
「波紋カッターッ!」
今回はヴィランと戦う心構えと猶予があったので、イズクの先制攻撃が見事に決まる。
何となく弟子がパウパウパウと言っているようが気がしたが、気のせいだろう。
フヒィーンと飛んでいく波紋カッターを警戒したヴィランは、巨大な触手で防ぐか叩き落とそうとするが、それは失敗である。
「何いいいいっ! 俺の腕がああっ!?」
波紋カッターは触手を少しだけ切り裂いて止まったので、ヘドロヴィランはほぼノーダメージだが、その部位が一時的に麻痺して動かなくなる。
そして生まれた隙にイズクが波紋の呼吸を整えて、残りの触手攻撃を的確に避け、一直線に距離を詰めていく。
やがてヴィランが十メートル以内に入った。
宣言通りに妾は爆豪少年を救出するために、一撃を叩き込む。
「受けるがいい!
今度は狐火の青い炎を収束し、剣の形に変える。
そしてヘドロヴィランを目にも留まらぬ速度で切り刻んだ。
ただし爆豪少年だけは器用に避けたし、温度はちょっと熱いぐらいだ。
おかげで彼は五体満足で拘束から脱出できた。
ヴィランは流体ゆえに拳では効果が薄いと考え、斬撃に切り替えたのだ。
のじゃのじゃラッシュでもやれないことはないが、その場合は衝撃の振動が捕まっている人質に伝わる。
死にはしなくても十中八九で酷いことになるので、止めたほうが賢明だろう。
とにかく息も絶え絶えの爆豪少年の回収に成功した妾は、狐火を消して後方に下がる。
呼吸を整えて構えを取り、弟子のイズクと選手交代だ。
「よく頑張ったのう。爆豪少年。偉いぞ」
「へっ、こっこのぐらい! 大したことねえよ!」
細切れにした流体が地面にバラバラと転がりつつある中で、弟子に視線を向けてはっきり声をかけた。
「イズク! やれるな!」
「はい! 師匠!」
最近のイズクは師匠に全幅の信頼を置いている。
それだけ妾が尊敬されているのだろうが、自分はのんびり適当に過ごしているだけだ。
弟子に敬われる理由など、とんと思い浮かばないが、彼には違うようだ。
(後方腕組み師匠ポジは楽で良いが、イズクは少々盲信しておるのう)
個人的には程々で良いのだが、イズクは完全にイエスマンになっている。
妾が命じれば、何でも言うことを聞いてしまいそうだ。
元々人が良いのもあるだろうが、そのうち狐っ娘の化けの皮が剥がれるだろうし、勝手に修正されるかと前向きに考える。
とにかくあちこち焼け焦げた体を急ぎ繋ぎ合わせたヴィランに、イズクは果敢に攻撃を仕掛ける。
結合が甘かったのか拳や蹴りで波紋を流し込み、麻痺した部位が地面に落ちた。
少しずつ動かせる流体が減っていく。
前と違って相手が本調子でなく動きが鈍いのもある。
そしてイズクは分析能力を活かしてヴィランの攻撃を読んでおり、さらに守るものがあるほうが強くなるようだ。
切れが良い動きで敵を圧倒し、地道ではあるが殆ど一方的な展開である。
妾と言えば爆豪少年を安全な場所で休ませつつ、後方腕組み師匠っぽくしている以外は特に何もしていない。
弟子がやると言ったので、危なくなるまで任せるつもりだ。
しかし決着がつくよりも早くに、突然の乱入者が現れた。
「プロはいつだって! 命がけええええっ!!!」
ナンバーワンヒーローのオールマイトが参戦してきた。
妾たちのことを見て、何か思うところがあったのかも知れない。
「デトロイトーッ! スマーッシュッ!」
風圧でヘドロヴィランを吹き飛ばすだけでなく、上昇気流を発生させて雨を降らせる。
とんでもないことだがナンバーワンヒーローだし、やってやれないことではないのだろう。
取りあえず至近距離にいたら巻き添えで吹き飛ばされそうなので、イズクと爆豪少年を速やかに回収して跳躍し、ビルの上に避難する。
妾は0.1秒でもあれば致命的な隙を突くことができるので、この程度の芸当は造作もないのだった。
本来ならば個性の使用は原則として禁止だが、今回は非常事態だ。
なので褒められることはあっても、叱られることはなかったのは幸いだった。
イズクも爆豪少年も、ヒーローたちから将来はうちの事務所にと熱心に誘いを受ける。
しかし、残念ながら二人の進路はもう決まっていた。
「お誘いはありがたいですが!
僕は師匠のような、最高のヒーローになるのが夢なんです!
なので、まずは雄英高校を目指します!
その後のことは、まだ考えていません!」
インタビューを受けるのが面倒なので、妾は十メートルほど上空で体を丸めてくつろいでいた。
しかし今、弟子が何か変な発言をしたような気がする。
フヨフヨと降下して真偽を確かめるため、率直に尋ねた。
「イズクよ。お主の目標は確か、オールマイトではなかったか?」
「オールマイトも憧れてるよ? でも、一番は師匠だから!」
「さっ、さようか」
オールマイトは雲の上の存在だし、憧れはあっても永遠に届かないかも知れない。
ならば別にプロヒーローではないが、無駄に実力はある妾で妥協するのも悪い判断ではないかも知れない。
「俺も今は、狐女を越えることしか考えてねえ」
「爆豪少年もか。
妾はヒーローではないのじゃがのう」
オールマイト<越えられない壁<のじゃロリ狐っ娘。
そんな酷い図式を見た気がした。
しかし本当に自分はヒーローではない。
立場的にはイズクの守護霊で居候である。
本当にどうしてこうなったと頭を抱えながらも、少しでも前向きに考える。
(雄英高校に入学すれば、他のヒーロー候補生とも接する機会が増える。
プロとも関わることが多くなるし、尊敬できる先輩が見つかるじゃろう)
地元からは滅多に出ないので、どうしても視野が狭くなりがちだ。
プロヒーローと関わることは滅多にない。
なので誰も彼もがオールマイト一色だし、身近な高い壁になっているのじゃロリ狐っ娘をライバル視するのも、まあわからなくはなかった。
しかし雄英高校に進学すれば、人間関係が大きく変化する。
プロの世界に片足を突っ込むことになるし、己が井の中の蛙だというのも明確になるだろう。
妾のようなハリボテの狐っ娘ではなく、本当に尊敬できる新しい師匠が見つかるはずだ。
いつまでも場当たり的で、適当な指導をするのは申し訳ない。
自分は後方腕組みしているだけで何もする気はないが、やっぱりイズクはちゃんとした先生に指導してもらいたいと思ったのだった。