近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊   作:名無しの狐信者

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オールマイトの秘密なのじゃ

 マスコミのインタビューや、警察やプロヒーローからの注意からようやく解放された。

 

 妾たちは爆豪少年にまた明日学校でと別れ、イズクと二人で夕焼け空の下をのんびり歩く。

 

 しかし今日は、本当に色んなことがあった。

 アクビをしながらぼんやり振り返っていると、住宅街の曲がり角からオールマイトが飛び出してくる。

 

「私が来たー!」

「わあっ! オールマイト!?

 何でここに! さっきまで、取材陣に囲まれてっ!?」

 

 妾は向こうに誰かが居ることに気づいていた。

 しかしイズクは感覚を研ぎ澄ませていないし、完全に不意を突かれて驚いていた。

 

「はっはっはっ! 抜けるぐらいわけないさ!

 何故なら! 私は! オールマイ──」

 

 ビシッと決めようとしたけれど、その瞬間に活動限界が来たのか変身が解け、盛大に吐血してしまう。

 イズクは予想外の出来事で、大声で悲鳴をあげそうになった。

 

 なので妾は素早く実体化して彼の口を押さえ、静かにするようにと伝える。

 

 戸惑いながらもコクコクと頷いて、理解してくれたことを確認する。

 続けて、すっかり痩せてしまったオールマイトに顔を向けた。

 

「ここでは目立つし、話があるなら家で聞くが、それで良いか?」

「気を使わせてしまって、すまないね」

 

 今回は運良く誰にも見つからなかったが、重要な話は住宅街でするようなものではない。

 

「気にせんで良い。

 お主は平和の象徴ゆえ、正体がバレたら一大事じゃからな」

 

 こんな場所では、何処で誰が見たり聞いたりしているのかわからない。

 彼の本名は八木俊典と言うらしいが、取りあえず痩せ細ったナンバーワンヒーローを連れて、イズクの家に向かうのだった。

 

 

 

 引子さんは出かけているようなので、彼のことを説明しなくて済むので好都合だと思いつつ、妾は冷蔵庫から麦茶を取り出す。

 

 イズクには、居間の机の上にコップを並べてもらう。

 それに順番に注いでいるうちに、オールマイトの話は始まった。

 

 五年前の事件で重症を負い、ヒーロー活動には限界時間があることを伝えられる。

 しかしそれは本題ではなく、これからが重要な話らしい。

 

「少年。キミがいなければ、キミの身の上を聞いていなければ。

 口先だけの偽筋になるところだった。……ありがとう」

 

 そう言えば妾が、イズクを無個性だとバラしてしまったことを思い出す。

 身の上とは、そういうことだろう。

 

 あの場では黙っていてくれる約束だったが、妾はそれ程重大な話があるのだと割り切る。

 

 弟子は何を言っているのか良くわからなくても、憧れの人と話しているので、とにかく興奮気味に頷いている。

 

「あの場の誰でもない。小心者で無個性のキミだったからこそ、私は動かされた」

「えっ!? オールマイト! ぼっ、僕は、無個性じゃ!」

 

 とにかく彼に深々と頭を下げると、弟子は責めることもなくあるがままを受け入れて、少し困った顔をしていた。

 

「すまぬ。イズク、妾がうっかり話してしもうた」

 

 市役所に個性届けを出しているが、実際にはイズクは無個性だ。

 波紋法は知らないけれど、それでもアレは個性とかそういうモノではないだろう。

 

「憧れのオールマイトに知ってもらえて、少し気が楽になりました。師匠も気にしませんので、僕は全然平気です」

「少年。やはりキミは優しいな」

「すまぬのう。感謝する」

 

 妾とオールマイトは優し気な顔でイズクを見て、話を再開した。

 

「トップヒーローは学生時から逸話を残している。

 彼らの多くが話をこう結ぶ。

 考えるより先に、体が動いていたと」

 

 確かにイズクは妾に何の相談もなく、爆豪少年を助けるために飛び出した。

 作戦会議は走りながら行ったし、これまでの付き合いから弟子がそういう性格なのは良くわかっている。

 

「キミも、そうだったんだろう?」

 

 イズクはいつの間にか目に涙をためていた。

 そして、オールマイトの今の発言で決壊する。

 

 ただし大泣きするほどではなく、それでも凄く嬉しかったようだ。

 

「キミは、ヒーローになれる」

 

 色々思うところもあったのか、イズクはしばらく泣き続けた。

 後方腕組師匠ポジの妾は、特にやることもない。

 

 二人の話を、少し離れた場所で黙って聞いていることぐらいだ。

 

「キミなら私の力、受け継ぐに値する」

「「えっ?」」

 

 何を言ってるんだこの人と、妾はイズクと同じように間の抜けた声を出してしまう。

 

「ちっ、力を、受け継ぐ?」

「はーっはっはっ! なんて顔をしてるんだ! 提案だよ!

 本番はここからさ!」

 

 イズクの涙は止まったが、困惑の表情を浮かべている。

 そしてオールマイトは少し嬉しそうに見えた。

 

「いいかい少年! 私の力を! キミが受け取ってみないかという話さ!」

 

 言い切ったあとに吐血したので、妾はさり気なくティッシュ箱を持ってきて、そっと机に置いた。

 

「私の力の話だ。少年」

 

 妾に礼を言ってティッシュで口元の血を拭き取る。

 そしてオールマイトは説明を続けるのだった。

 

 

 

 何度か麦茶を注ぎ直したところで、ようやく長い話は終わった。

 ワンフォーオールを受け取るかどうか、イズクに決断を迫ることになる。

 

 彼の性格なら、即答でお願いしますと口にするはずだ。

 しかし、何故か困った顔で妾に尋ねてきた。

 

「師匠は、どう思います?」

「イズクが受け取りたければ、構わぬぞ」

 

 すると彼は真剣な表情で妾を見つめて、はっきりと口を開く。

 

「オールマイトは僕を信じて、重大な秘密を打ち明けてくれました。

 正直に言うと、今の僕に新しい力は不要だと思います。

 でも、彼の想いを無下にすることはできません」

 

 イズクの答えを聞いて、妾は弟子が根っからのヒーローだと思った。

 目の前で困っている人の頼みを、断ることができないのだ。

 

 まあ別に自分はイズクがどのような選択をしても、それを支持するつもりなので良いのだが、その前に言っておくことがある。

 

「ワンフォーオールを継承するのは構わん。

 だがまずは、引子を説得せよ」

「母さんを? 何故でしょうか?」

 

 イズクの人生や家族関係に自分からあれこれ口出しする気はないが、今回ばかりは見逃せないので、はっきり答えていく。

 

「秘密というのは、遅かれ早かれバレるものじゃ。

 たとえ守り通せたとしても、そのせいでイズクが危険な目に遭ったり怪我をしたら、引子が心配するからのう」

 

 全部とは言わないが、ある程度は事情を知っておくべきだ。

 もし親に知らないところで、子供が危険なことに首を突っ込んでいるとバレたらどうなることやらだ。

 

 ストレスで心を病んだり胃に穴が空くのは確実であり、それは重大な使命を背負ったイズクと、託したオールマイトに責任がある。

 なので最低限の情報共有はしておくべきで、せめて心構えのようなものをさせてあげて欲しい。

 

 引子さんはイズクの母親で、子供を心配するのは当たり前のことなのだ。

 

「歴代継承者が、どのような末路を辿ってきたかは知らぬし、興味もない。

 じゃが平和を守るため、本人にその気はなくても家族や友人に一言も告げぬのは、あまり褒められたことではないのう」

 

 オールマイトのおかげで、日本の犯罪率が大きく低下しているのが事実だ。

 しかし、親しい者に心配をかけるのは駄目だろう。

 

 秘密を知れば悪人に狙われる原因になりうるなら、別に全てを明かさなくて良い。

 しかし、最低限のことは話しておくべきだと思った。

 

「イズクがワンフォーオールを継承し、ナンバーワンヒーローを目指すのならば、引子の笑顔も守ってやれ。

 そして、家族や友人を決して泣かせるでないぞ」

「はいっ! 師匠!」

 

 前世のサブカルでは重大な秘密を家族や友人に告げないことで、悲劇的な展開や結末に至るのが多すぎる。

 現実もそうなるとは言えないが、最低限の配慮はしておくべきだろう。

 

(爆豪少年に打ち明けるかどうかは、イズク次第じゃな)

 

 爆豪少年は友人ではあるが、そんなに頻繁に交流があるわけではない。

 せいぜい修行仲間ぐらいであり、家族と比べれば優先度は下がる。

 

 そして妾とイズクのやり取りを見ているオールマイトは、何か思うところがあるようだ。

 沈痛な表情を浮かべていたが、自分は別にナンバーワンヒーローの悲しき過去など興味はない。

 

「ところで師匠。オールマイトの傷は、波紋で治療できるでしょうか?」

 

 想像するだけで面倒そうなことに、触れるつもりはない。

 なので気にせず、弟子の質問に答えていく。

 

「試してみないと何とも言えぬな」

 

 治癒系の個性は希少で重宝されるため、波紋のことはできる限り秘密にしていた。

 せいぜいイズクの怪我の治りが早くなる程度で、実験はしていない。

 

「確かに波紋は複雑骨折や、壊死した細胞を治療できる。

 しかし、完全に失われた内臓の再生は難しいじゃろう」

 

 オールマイトは緊張しているのか、真面目な顔で話を聞いている。

 だが心なしか、肩を落としているように見えた。

 

「じゃが、波紋は生命エネルギーを他者に分け与えることもできる」

 

 禁断の奥義でジョナサンの命を救ったり、死の間際に仲間に託したりもしている。

 力加減にはかなり気を使うが、やってやれないことはないだろう。

 

「調整に時間はかかるし、医療機関の協力が必要になるじゃろう。

 それでも根気強く治療すれば、呼吸器官は元通りになるかも知れぬな」

「それは本当かい!」

 

 ナンバーワンヒーローが、驚いた表情で妾を見てくる。

 なので、少し考えながら続きを話していく。

 

「妾もイズクもオールマイトほどの重症者を治療するのは、初めてじゃからな。

 確約はできんが、今よりはマシになるじゃろう」

 

 だがイズクはワンフォーオールを継承するつもりだ。

 治療と修行と並行して行う、弟子の生命エネルギーは有限である。

 両方同時進行は、なかなかキツイものがあった。

 

「師匠は波紋は使えないんですよね」

「妾は幽波紋じゃからのう。

 生命エネルギーの塊ではあるが、肉体がなければ波紋は起こせん」

 

 イズクは妾が守護霊になる前は、波紋使いだったと想像しているようだ。

 実際には違うのだが、訂正すると師匠の威厳がブレイクするので黙っておく。

 

 そしてもし治療が可能だとすれば、ワンフォーオールのことも含めて弟子は世界中から注目されるだろう。

 

 なのでこの情報は、秘匿するに越したことはない。

 もしバレたら、何だかとても面倒になりそうだ。

 

 この世界の医療レベルは大雑把にしか知らないが、場合によっては波紋を使って胃を一から再生することも可能かも知れない。

 

 ただし確定でない情報を伝え、期待だけさせてやっぱり無理でしたとガッカリさせるのは本意ではない。

 その辺りはオールマイトのかかりつけ医と、要相談になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 しばらくすると引子が帰宅したので、八木俊典を含めた家族会議が行われる。

 

 途中で涙ながらの本音暴露大会が始まった。

 しかし最後は鶴の一声ならぬ、狐の一声が決め手になる。

 妾が見守っていてくれるならと、引子さんも渋々納得して許可を出す。

 

 何故ここまで、のじゃロリ狐っ娘が信頼されているのかさっぱりわからない。

 

 それはともかく個性の継承などのヤバい箇所は、万が一漏れても悪人に目をつけられないように、所々ぼかして伝えている。

 

 けれど心構えにはなるし、それに対して引子さんは納得はできなくても理解はしてくれたようだ。

 

 ただオールマイトの命に代えても守るという土下座宣言より、妾からのイズクをいつも見守っておるという適当な言葉のほうが、圧倒的に信頼度が高いらしい。

 どうしてこうなっているのかはやはりわからず、何とも腑に落ちない。

 

 しかし全てが丸く収まるなら、それに越したことはない。

 あれこれ考えて思い悩むのは面倒だ。

 

 ゆえに取りあえずは、何だか知らんがとにかく良しとしておくのだった。

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