近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊   作:名無しの狐信者

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実技試験なのじゃ

 間一髪で試験会場に駆け込んだ妾とイズクは、指定の席についてプレゼントマイクの説明を聞く。

 弟子は憧れのプロヒーローに会えて嬉しそうだが、隣の爆豪少年は全く動じておらず冷静なものだ。

 

 それはともかく、実技は十分間の模擬市街地演習らしい。

 ロボットを多く倒した分だけ点数がたくさん入るという、単純明快なルールだった。

 

 何ともわかりやすく良いことだが、その中の一体が0点のお邪魔ロボがいる。

 もし出会ったら、戦わずに逃げることを勧められた。

 

「ついでにそこのちぢれ毛のキミ!」

 

 途中でメガネをかけた委員長っぽい男子生徒が立ち上がり、イズクをビシッと指名して声をかけてきた。

 

「先程からボソボソと! 気が散る!

 キミの守護霊に恥をかかせる気かね!」

 

 何故そこで妾が出てくるのかと、天井近くで丸くなっていたのに目が覚める。

 アクビをして顔をあげ、委員長っぽい受験生に視線を向けた。

 

「お狐様のご活躍は、常々拝見させていただいております!」

「おっ、おう、それはどうもなのじゃ」

 

 ビシッと姿勢を整えて、礼節をもって接してくれる。

 多分良い人なのだろうが、妾はちんぷんかんぷんだ。

 

 こういう時は弟子に聞くに限ると、少しだけ高度を下げて小声で率直に尋ねる。

 

「イズク、どういうことじゃ?」

「師匠は殆どテレビやネットは見ないから、知らないでしょうけど。

 実は御狐様は凄く有名で、全国ニュースに何度も出てるんですよ」

 

 最新機器の扱いは苦手だし、テレビやネットも画面に映っていれば何となく見るぐらいだ。

 だがそれよりも日向ぼっこのほうが好きなため、大抵ウトウトしていて殆ど右から左なので、ちゃんと視聴できているかは微妙である。

 

「知らんかった。妾。そんなの知らんかった」

 

 内心の驚きを誤魔化すために、何処かのネタっぽい発言をしたが本当にびっくりだ。

 妾が表立って動くのは止むに止まれぬ事情がある場合に限り、ヴィランと戦ったことも、両手の指の数よりも少ない。

 

 注目を浴びて写真で撮られているので、一応気づいている。

 しかしどうせ、のじゃロリ狐っ娘の守護霊が珍しいからだ。

 いちいち気にしても仕方ないと、好きにすれば良いと放置していた。

 

「最近で言えば、青の戦車(ブルーチャリオッツ)が不味かったのかのう?」

「一瞬でヴィランを細切れにして、人質を無傷で救出したんです。

 プロヒーローでも、やれる人は極めて少ないですからね」

 

 世界は広いので、妾以上に上手にやれるプロヒーローもいるだろう。

 それでも容易くやってのける者は、かなり少ない。

 

 そこにのじゃロリ狐っ娘の守護霊という付加価値がつけば、全国ニュースに登場してもおかしくはなかった。

 

 注目度が高いのも納得で、多分だがヴィラン退治の他にも、イズクと爆豪少年に稽古をつけたり、渡我少女を助けたこともバレている。

 

「ジェントルやラブラバも、今の自分があるのは師匠のおかげだと、たまにヒーローインタビューを受けるときに言ってますし」

「……おおう」

 

 何だか妙に小っ恥ずかしくなってきて、思わず両手で顔を覆ってしまう。

 

 だが今は他にやることがあると思い直し、深呼吸をして心を落ち着かせたあとに、仕切り直しということでわざとらしく咳払いをする。

 

「そこの少年。迷惑をかけて悪かったのう。

 静かにするから、許しておくれ」

「こちらこそ、差し出がましいことを申しました!」

「よいよい。悪いのは弟子の教育が行き届かぬ、師匠じゃからな」

 

 そう言って妾は、イズクに次は気をつけるように伝える。

 とにかくこれで用が済んだので、再び天井近くまでふわりと上昇して丸くなった。

 

 いくら注目されていても、やっぱり自分は深く考えずにのんびり気楽に昼寝してるのが、性に合っている。

 

 ヒーロー活動は弟子に任せて、後方腕組み師匠ポジとして静かに見守るのが理想なので、そうなるようにイズクには頑張って欲しいのだった。

 

 

 

 

 

 

 模擬市街地演習場には、バスに乗って向かう。

 すると何やら巨大な壁で囲まれていて、いかにもという雰囲気だ。

 

 演習場Bに到着してバスを降りたが、イズクの巨体が緊張して震えているのは、いつ見てもギャップが凄い。

 まあそこが弟子らしいのだが、こんな状態で入試は大丈夫かなと少しだけ不安になる。

 

 そして試験前に転ぶ寸前で助けてくれた良い人を見つけた。

 イズクがお礼を言おうとギクシャクしながら歩き出すが、途中でメガネの受験生に肩を掴まれて止められてしまう。

 

「あの女子は、精神統一を図っているんじゃないか?

 キミは何だ? 妨害目的で受験しているのか?」

「うわああっ! いやあっ、そっそんなことはあ!」

 

 知らない人から至近距離で話しかけられて、凄くどもっている。

 ただでさえ入試で緊張してるし、大きく成長しても根っこは変わらないようだ。

 

 だがその間にも試験は進んでおり、突然何処からともなく大きな声が響いた。

 

「はい、スタート!

 どうしたー! 実戦にカウントなんてねえんだよ!

 走れ走れー! 賽は投げられてんぞー!」

 

 どうやら試験官から、スタートの合図が出たらしい。

 受験生が市街地演習所に一斉に駆け込んでいくのを見送りつつ、イズクは驚きで大きく出遅れていた。

 

「えええっ! 出遅れたああああっ!!!」

 

 しかしすぐに波紋の呼吸を整えて、ワンフォーオールから力を引き出す。

 

「コオオオッ! 波紋疾走(オーバードライブ)! 20パーセントォ!」

 

 波紋疾走(オーバードライブ)20パーセントを発動して、緑色の稲妻のオーラを纏ったイズクは、あっという間に前を走る人たちを追い抜いていく。

 

 なお技名は仮のままだが、イズクが言うには波紋疾走(オーバードライブ)のほうが師匠っぽいからが決め手となり、フルカウルはボツになった。

 ワンフォーオールを制御しているのは変わらないので別で良いのだが、個人的には何となくしっくり来ないなと思ったのだった。

 

 

 

 それはそれとして最初は最下位だったのに、高速で走るイズクは前方の受験生たちをゴボウ抜きし、一気に先頭に躍り出る。

 

「何ぃ!?」

「アイツ速えっ!?」

 

 妾はのんびりと頭上を漂いながら、高速で走っているイズクに声をかける。

 

「現状、常時発動できるのは20パーセントまでじゃ。

 それ以上出力をあげるなとは言わぬが、状況を良く見るのじゃぞ」

「わかりました! 師匠!」

 

 目の前に現れたロボを殴り倒したあとに跳躍し、素早くビルの壁面に波紋で吸着し、まるで忍者のように飛び移りながらイズクが返事をする。

 

 十ヶ月の修行により、瞬間的なら出力100パーセントを出せるようになった。

 けれど肉体に多大な負荷がかかることには違いなく、痛みは波紋で和らげるにしても相当キツイ。

 

「オールマイトも、いつも全力で戦っておるわけではない。

 焦らず落ち着いて、目の前の敵を確実に倒していくのじゃ」

「わかりました!」

 

 やがて建物の影から大勢のロボが現れたが、散らばっているので倒すのに時間がかかりそうだ。

 そこでイズクは、こんなこともあろうかと用意してきた水の入ったペットボトルを取り出す。

 

 蓋を開けて口に含むと、歯の隙間から高速で射出した。

 

「くらえ! 波紋カッターッ!」

 

 何となくパウパウという効果音が見えるような気がした。

 しかし、多分気のせいだろう。

 

 とにかく波紋カッターは寸分違わずロボの頭部に命中する。

 一刀両断して全ての敵を一瞬で機能停止させたので、ワンフォーオールの効果も加算され、波紋カッターの威力が桁違いに上がっているのがわかった。

 

 しかしここでイズクは一度地面に着地して、足を止めて大きく息を吐く。

 

「はぁっはぁっ! やっぱり波紋疾走(オーバードライブ)20パーセントでも、常時発動は疲れる!」

 

 いくら波紋の呼吸で治癒や生命力が底上げされているとはいえ、ワンフォーオールで肉体に負荷がかかるのだ。

 常時発動が可能な20パーセントでも、激しく動きっぱなしは流石に疲れる。

 

「ならば出力を下げるか、必要な部位のみにせよ」

 

 20パーセント以下でも敵を倒せるなら、出力を下げてもいい。

 あとは走る時には足、殴る時には腕のみを強化すれば負担も減り、体力の消耗も抑えられるだろう。

 

(ワンフォーオールを受け継いだ今、呼吸法を維持する必要はないのじゃが。

 出力調整は波紋ありきじゃし、自然治癒力も高められるからのう)

 

 イズクにとっての波紋疾走(オーバードライブ)は、自動車のオートマチック運転のようなものだ。

 ワンフォーオールの力を自在に引き出すことができるが、呼吸が乱れると出力が低下する欠点がある。

 

 一応はマニュアルでも操作できなくはないけれど、テンポが悪くなるし細かな調整は不向きという弱点があった。

 

 

 

 なので現時点では波紋疾走(オーバードライブ)を前提にして、戦略を組み立てていくのが無難だろう。

 

 あとはイズクが実戦の中で成長し、試行錯誤していくしかなかった。

 

(しかし、出力調整が明らかに上手くなっておる。

 こんな短時間で仕上げてくるとは、何処の主人公じゃ)

 

 試験開始からまだあまり時間は経っていないのに、とんでもない成長速度だ。

 爆豪少年も大概だが、イズクも合わせて色んな意味で頭がおかしい。

 

 妾が転生チートで規格外の能力を得られてなければ、後方腕組み師匠ポジを蹴落とされ、無駄に可愛いだけが取り柄ののじゃロリ狐っ娘になっていた。

 

 幸い今のところはそんな気配はなくイズクからは尊敬されているが、それもいつまで保つやらだ。

 ただの居候や家事手伝いに降格処分される日は、いつか必ず来るだろう。

 

 

 

 そんなことを考えていると、少し離れたビルの背部から何かの駆動音が聞こえてきた。

 

「むっ? イズクよ。何か来るぞ?」

「えっ!?」

 

 予想はつくが、きっとあれはお邪魔ロボだ。

 イズクも気を引き締めて感覚を研ぎ澄ますために、波紋の呼吸法を整える。

 コオオオと効果音っぽい何かを出しながら耳を澄ませた。

 

「近いですね。師匠。どうしましょうか?」

「得点にはならぬが、倒すぞ」

「何故ですか?」

 

 尋ねられたので、妾はイズクに堂々と主張する。

 

「本来ヒーローというのは、慈善活動じゃ。

 巨大ロボットが街で暴れたら、危険じゃろう?」

「そっそうか! この試験の本当の目的は! わかりました! 師匠!」

 

 うむと頷いたが、何をわかったのかは妾にはさっぱりだ。

 なのでここは、取りあえずわかったフリをして先に進めておいた。

 

 とにかくお邪魔ロボを倒す方針に変更はない。

 イズクは波紋疾走(オーバードライブ)20パーセントを維持して、ビルからビルに飛び移って移動を開始する。

 

 するとちょうどカモフラージュの外壁が崩れて、巨大ロボットが妾たちの目の前に姿を現した。

 

 イズクは訓練通りに、右腕だけにワンフォーオールを集中させる。

 

「右腕だけを、波紋疾走(オーバードライブ)100パーセントに!」

 

 こうすれば肉体への負荷を軽減でき、波紋による治癒も腕だけで済む。

 瞬時に切り替えられるように訓練はしてきたが、実戦で使うのは今回が初めてである。

 

「震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート!

 おおおおおっ! 刻むぞ血液のビート!」

 

 ちなみにこれは、妾がうっかり漏らした台詞をイズクが真似ただけだ。

 全く意味のない言語の羅列であるが、弟子はとても気に入っている。

 

山吹き色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!」

 

 巨大ロボットの顔面だと思われる箇所を殴りつけると、意味があるようで多分ない波紋が伝わった。

 大きく陥没して小爆発が起きて、後方にゆっくり倒れていく。

 

 ただの全力パンチなのだが、イズクが言うには大声で叫んだほうがパワーが増すらしい。

 

「危ないのう! 隠者の青(ハーミットブルー)!」

 

 妾は狐火を収束させて炎の茨を形成すると、素早く伸ばして破壊された巨大ロボットに巻きつけて、空中で拘束した。

 見た目は熱そうだが実際には常温で、生命エネルギーの塊である。

 

「イズク、倒したロボットの足元に人が居たらどうするのじゃ」

 

 炎の茨はハガネよりも強く、絹糸よりもしなやかで、その気になればキングコングも運べるほど頑丈だ。

 けどまあこの世界に怪獣はいないだろうし、実際にそれ目的で使うことはないだろう。

 

「うわああっ!? すっ、すみません! 師匠!

 つっ、次は気をつけます!」

「うむ、そうすると良い」

 

 巨大ロボットが出現してすぐ倒したので、周りの受験生はこれから逃げようとしているところだった。

 拘束したおかげで転倒による被害は出ずに済んだが、ずっとこのままも問題である。

 

 取りあえず人が居ない場所を探し、見つけたのでポイッと放り投げた。

 重量級なのもあり、地面が大きく揺れて盛大に砂埃が舞う。

 

「あの、師匠。このあとは──」

 

 試験終了まで一分を切ってるし、相当派手に暴れたし合格ラインは越えたはずだ。

 

「妾が助言せずとも、合格できよう。

 あとは自分で考えるのじゃ」

「はっ、はい! わかりました!」

 

 もしこれで不合格なら、イズクの他も全員が落ちることになる。

 

 それだけ他者との間に、圧倒的な差がついている。

 なのであとは妾が何もしなくても、問題はないのだった。

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