近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊   作:名無しの狐信者

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登校初日なのじゃ

 雄英高校の入学試験が終わった。

 妾はいつも通りにのんびりしているが、イズクは死んだ魚のような目をしている。

 

 筆記のほうが自己採点でギリギリ合格ラインを越えていたけど、実技の方が自信がないようだ。

 あれだけ派手に暴れておいて不安がっているので、自己評価が低いイズクらしいと思った。

 

 しかしこれに関しては妾がいくら励ましても、結果が出るまでは気落ちしっぱなしだろう。

 

 なので息子の不安が伝染した引子さんには、イズクが落ちるようなら今年の受験生は全員不合格だと、堂々と断言しておく。

 ついでに絶対に大丈夫と薄い胸を張っておいたので、母親のほうはこれで元気になってくれた。

 

 だがイズクはたとえ万が一だとしても、雄英高校に落ちたらどうしようと漠然とした不安が消えてくれない。

 

 それは通知が行われる日になるにつれて、段々と高まっていく。

 妾としても陰鬱な空気が気になり昼寝も満足にできず、発表当日は特に酷くなったため、いい加減に我慢の限界になってある行動に出る。

 

 今日はずっと自室でソワソワしているイズクに、妾はベッドの上に実体化して正座しながら、はっきりと告げる。

 

「イズク、横になれ」

「えっ? あのっ、師匠? 急にどうしたんですか?」

「いいから、ベッドの上で横になるのじゃ」

 

 妾が自室のベッドの上に横になるように伝える。

 するとイズクは疑問に思いながらも、指示通りに仰向けに寝転がった。

 

「よっこらしょ……っと」

「しっ、師匠!?」

 

 妾は位置を調整してイズクの頭を太股に乗せて、枕を提供する。

 ちゃんと狐火と同じ要領で、人肌程度に温度調節や弾力は調整していた。

 

「膝枕というやつじゃ。

 不安を抱えていたり泣き止まぬ子供は、こうすれば落ち着くのじゃ」

 

 妾がまだ人間だった頃に、母にしてもらった気がする。

 その時は凄く気持ちが落ち着いたし、イズクもそうであって欲しい。

 

「嫌なら止めるが、どうじゃ?」

「……師匠、いっ嫌じゃ、……ないです」

 

 どうやら問題はないようで、妾は静かに頷く。

 

「そうか。では、イズクの不安が消えるまで、しばらく休むが良い」

 

 正座を長時間続けて足が痺れるような、生半可な肉体ではない。

 何なら、このまま寝てしまっても良いぐらいだ。

 

 と言うかようやく陰鬱な空気が消えて、いつもの日常が戻ってきたので、少々気が緩んできた。

 

「あの、師匠。眠いんですか?」

「ああ、実はかなり眠い。……と言うわけで、すまんが妾は寝る」

 

 ようやくウトウトできるので、この機会を逃すのは勿体ない。

 

「えっ? ちょっ!? 師匠!? この状態で!?」

 

 何故か顔を赤らめているイズクが慌てているようだが、妾はもう心地良いまどろみに身を任せていた。

 

 守護霊に睡眠は必要はない。

 その気になれば二十四時間どころかずっと起きていられるが、それとこれとは別だ。

 妾は純粋に、日向ぼっこでウトウトするのが好きである。

 

 なので、せっかく気持ち良く寝られるチャンスを逃す気はない。

 弟子のイズクよりも先に、夢の世界に旅立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 起きたら布団がかけられて、弟子のベッドで横になっていた。

 膝枕が消えたら困るだろうと実体を保った状態で眠ったが、そのイズクは室内にはいないらしい。

 

 これをかけてくれたのは彼だろうし、あとでお礼を言っておこうと思いつつ霊体化して壁をすり抜ける。

 半径10メートルしか離れられないので、家の何処に居るかはすぐにわかった。

 

 居間にお邪魔させてもらうと、引子さんと合格の喜びを分かち合っていた。

 なので良くわからないが、取りあえず妾も混ぜてもらう。

 バンザイバンザイと嬉しがり、場の雰囲気に乗っておくことにする。

 

 なおスマートフォンで、渡我少女に合格したと報告しておいた。

 彼女も親しい後輩が入学してくるため、喜んでいるのは伝わっている。

 

 しかしイズクが合格したとなると、連絡はなくても爆豪少年も受かってるだろう。

 

 何だかんだで弟子と同じで、他の生徒よりも明らかに抜きん出ているのだった。

 

 

 

 

 

 

 やがて時は流れて四月になり、雄英高校の登校初日になった。

 遅刻しないように早めに家を出て電車を乗り、駅で降りたあとは少し歩いて正門を抜け、校内に入ったら1年A組の教室を探す。

 

 それをするのはイズクで妾は基本的に、宙を浮かんで寝ているだけである。

 

 大きな扉の前で怖気づいてしまった弟子に、勇気を出すようにと声をかけることもない。

 ヒーローを目指すなら、このぐらい自分で乗り越えて欲しいものだと内心で溜息を吐く。

 

 とにかく中に入ると、メガネの委員長っぽい人と爆豪少年が言い争っていた。

 初日からこれで、上手くやっていけるか不安になる。

 弟子の気持ちもわかるかもと、方針を180度変えた。

 

 

 

 すると、やがて先に来ていた皆が妾たちに気づいて視線が集まる。

 飯田少年がこちらに近づいてきたので、慌てて挨拶をするために口を開く。

 

「僕、緑谷! よろしく! 飯田君!」

「妾はイズクの守護霊じゃ。お狐様と呼ぶが良いぞ」

 

 前世の名前は覚えてないし、市役所の個性届けにもそう記載してある。

 今からでも変更はできるが、広く知られているのでそのままで良い。

 

 すると飯田少年が悔しそうに拳を握り、妾たちに声をかけてくる。

 

「二人共、あの実技試験の構造に気づいていたのか」

「「えっ?」」

「俺は気づけなかった! キミたちを見誤っていたよ!

 悔しいが! キミたちのほうが上手だったようだ!」

 

 何が何だかわからないことを言われて、少しだけ戸惑った。

 だが冷静に考えてみると、レスキューポイントのことを言っているのだと合点がいった。

 

 イズクも気づいたようで、妾のほうに顔を向けて誇らしげに声をかける。

 

「僕も途中までは、気づかなかったよ。

 でも師匠が、本来ヒーローとは奉仕活動だってヒントをくれたんだ。

 おかげで、実技試験の真の目的に気づけてね」

 

 そう言えばそんなこともあったなーと振り返る。

 すると、またもや妾に注目が集まっている。

 

 勢い任せで発言するのはいつものことだし、そこに深い意味などありはしない。

 小っ恥ずかしくなるから止めて欲しいけど。そんな気配はなかった。

 

 なので取りあえず、いつものように丸くなって日向ぼっこをしようと思ったが、その前にふと気になった一人の生徒をチラリと伺う。

 

(あの青山優雅という少年、体と個性が合っておらぬな)

 

 目を凝らすと一年A組で彼だけは、本体とは別の個性因子が宿っているように見える。

 

(妾の感知能力は知られたくないが、放置も不味かろう)

 

 もしも妾の予想通りなら、敵はかなり狡猾だ。

 蜥蜴の尻尾切りのように躊躇なく捨てることもあり得るため、誰かに伝えるにしても相当警戒しないといけない。

 

 しかしこれだけは言っておきたかったので、妾は青山少年の前までフヨフヨと飛んでいき、おもむろに声をかける。

 

「青山少年よ」

「何か用かな?」

 

 妾に唐突に話しかけられて少し驚いていたが、青山少年は普通に応じる。

 

「親や知り合いに何を言われようと、青山少年の人生はお主だけのモノじゃ」

「……えっ?」

 

 何を言われているのかわからないようで戸惑っているが、妾は構わずに言葉を続ける。

 

「そして、これは青山少年に言っておるわけではないんじゃがのう」

 

 大きく息を吸って真面目な表情になり、青山少年を見つめながら大きな声を出す。

 

「吐き気をもよおす邪悪とはッ!何も知らぬ無知なる者を利用する事じゃ!

 自分の利益だけのために利用する事じゃ!」

 

 妾は彼に個性を授けたであろう存在に文句を言う。

 周囲が困惑しているが、構うことはない。

 

「何も知らない子供を! 自分の都合で使い捨ての駒にする者を!

 自分だけの都合でッ! 妾は決して許さぬ!」

 

 そこまで大きな声で喋ったあとに、妾はいつもの優し気な表情に戻って静かに息を吐いた。

 

「青山少年。

 妾が助けるのは、助けて欲しいと声に出した者だけじゃ。

 そのことを、よく覚えておくと良い」

 

 一年A組の視線が妾に集中しているが、注目されるのは慣れているので気にせずに外に出て、日向ぼっこに戻った。

 

 そのついでにイズクに念話で、帰りに根津校長に会うようにと伝えておく。

 

 敵を騙すにはなんちゃらというやつで、秘密を知る者は少ないほうが良い。

 そもそもまだ青山少年がAFOの送り込んだ駒とは限らないし、もし違っていたら恥ずかしい。

 

 なのであえて名台詞を引用して、事情を知らない人にはわからないように曖昧な表現にしたのである。

 

 しかしもし青山少年が親や知り合いやAFOに唆されて、悪事に加担している場合、当たり前だが罪を犯して欲しくはない。

 ゆえに何かあったら相談に乗る程度の逃げ道は、残しておくのだった。

 

 

 

 なお、先の名台詞の引用は完全に妾への強烈なブーメランでもある。

 言い切ったあとに思い出して、羞恥のあまり赤面しそうになった。

 

 イズクを騙して守護霊の座を手に入れ、未だに全てを打ち明けずに利用し続けているのだ。

 

 これはもう一生かけて後方腕組み師匠ポジとして、上手いこと信頼を得ていかないと、失望や見限り待ったなしなのは確定的に明らかである。

 

 そう考えると胃がないはずなのに気のせいか痛くなるので、イズクが天寿を全うするまでは陰ながら見守り、せめてトントンぐらいに持っていきたい。

 何となくやりきった感を出して終わり良ければ全て良しで、ゴリ押しで乗り切るしかないと、そんなことを考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後は入学試験で出会った良い人、麗日少女と再会した。

 次に担任の先生である相澤消太の指示により、ジャージを着用してグラウンドに集合とのことだ。

 

 全ての席が埋まったのに渡我少女とは出会わなかったことから、二年のヒーロー科は教室が離れているらしい。

 集中して匂いを嗅ぐと、確かに敷地内に居ることは確認できる。

 

 だがまあ、これから会って話す機会もたくさんあるだろう。

 相変わらずイズク経由でお話しているので、今は気にせず運動場に移動するのだった。

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