近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
挨拶代わりの邪王炎殺青龍波で噴水近くのヴィランの殆どを無力化した妾は、イズクと共に地面に着地して辺りを見回す。
かなり手加減したので一人も殺してはいないが、熱風や衝撃波により少なくないダメージを受けているようだ。
「イズク! 倒れている者も、いつ起き上がってくるかわからん!
油断するでないぞ!」
「はいっ! 師匠! 行きます!」
イズクが手が回らない半径10メートル以内のヴィランを、片っ端から殴りつけては意識を刈り取っていく。
怪我や痛みで動けないだけでは起き上がってくるが、気絶してしまえばしばらく起き上がってこない。
プロヒーローの増援が到着するまで保たせれば良いので、楽な仕事である。
「チートが!」
妾もイズクの成長速度にはチートかと思う。
手をたくさんつけているヴィランが愚痴るのも、納得できたのでこっそり頷いておく。
「ちげえよ! お前だ! 狐!」
「はははっ、面白い冗談を言うのう!」
確かに妾は、並のヒーローやヴィランと比べれば強い。
しかし今は最低出力の一尾であり、この状態でチートだったら完全解放は一体どうなってしまうやらだ。
だがまあ基本的に、その場のノリで喋るのが妾である。
特に気にすることなくヴィラン退治をしていると、みるみる敵戦力が減っていく。
その様子を見て、向こうの幹部がこのままでは不味いと判断したらしい。
黒霧が動き、妾の足元に穴がぽっかりと開いた。
「むっ!」
「師匠!?」
「心配無用じゃ!」
黒霧が何をしようしているのかは不明だ。
しかし、わざわざそれに乗ってやる気はない。
妾は右手を大きく振り上げて、相手が反応して防御できないように、超高速で地面に叩き込んだ。
「のじゃあっ!」
地面が大きく陥没して、凄まじい突風が吹き荒れる。
足元に広がっていた黒霧を維持するのが困難になり、一時的に制御不能に陥った。
妾はその隙に浮遊して上空に逃れて、あっさり脱出する。
ちなみに、もしゲートを閉じての切断を狙っていたのなら、内に秘められた生命エネルギーの桁が違うため、途中で止まって動かなくなる。
何にせよ無駄な攻撃だと、足元に出来上がったクレーターを見ながらそう思った。
しかしヴィランに何かさせれば、その分だけ被害が広がる。
まあ妾のほうが色々壊している気がするが、手早く無力化するのに越したことはない。
コラテラルダメージと割り切っておく。
だが今度は妾が着地して一息つき、イズクの安否を気にして注意がそれた瞬間を狙われたようだ。
「むうっ!?」
手をたくさんつけたヴィランが突っ込んできた。
咄嗟に反撃することはできるが、死角からの攻撃だ。
既にかなり近寄られているので、無理に姿勢を変えてぶん殴ると手加減が難しい。
ならばここは一度受け止めて、余裕を持って反撃しようとした。
「黒霧の攻撃を避けたってことは、実体化してれば効くんだろ?」
だが向こうには、勝算があったようだ。
手つきのヴィランの五指が妾の左肘に触れると、その部位がみるみる崩壊していく。
「しもうた! 妾としたことが!」
「師匠おおおーっ!!!」
肉体は仮初めのものだが、先に服が崩れて表皮の下の筋肉が見え始めた。
このままでは不味いと思ったときに、唐突に崩壊が止まる。
妾はその隙を逃さずに、不安定な姿勢だが膝蹴りを放つ。
奴の腹に叩き込んで、勢い良く吹き飛ばした。
「すまん! 遅くなった!」
「いや! 助力に感謝じゃ!」
「ちっ! 格好良いな! イレイザーヘッド!」
後方支援役のイレイザーヘッドが途中で立ち塞がる敵を倒して、駆けつけてくれたようだ。
おかげで、手つきのヴィランの個性は無効化された。
妾の左肘は、表面が少し崩壊しただけで事なきを得る。
蹴り飛ばされたヴィランは、浅かったのか地面を何度か転がった。
そして多少痛がってはいるが、平然と起き上がってくる。
「師匠! 肘が!」
弟子が大いに取り乱しているが、妾は左肘に形を保てなくなって霧散した霊力を再び集める。
すると先程崩壊した部位が、まるで時間が高速で巻き戻るように瞬時に修復された。
「妾の肘がどうかしたのか?」
もちろん皮だけでなく巫女服も破損もなく、新品同様だ。
「あっ、いえ、何でもありません! 流石は師匠ですね!」
「いや、崩壊の個性には驚かされたぞ。
じゃが、この程度なら問題はない」
妾は不敵な笑みを浮かべて、手つきのヴィランを真っ直ぐ見つめる。
「崩壊するよりも早く、修復すれば無傷で済むのじゃ!」
「なるほど! 完璧で合理的な作戦だなーーーっ!
お狐様以外は、不可能だという点に目をつぶればなぁ~!」
イズクは慣れているが、妾の非常識さを初めて目にしたイレイザーヘッドは一時的に仗助化した。
ついでに手つきのヴィランが混乱のあまり、さっきから理解不能以外の言葉を発していない。
そんな混沌とした状況はさておき、妾は実体化しているが生身の肉体ではない。
膨大な生命エネルギーによって、のじゃロリ狐っ娘を形成しているのだ。
もし寺生まれのTさんの『波ーっ!』を受けたら、完全に浄化されて元には戻れないだろう。
しかし目の前のヴィランに崩壊させられたところで、意識を集中すれば瞬時に復活できる。
つまり、何の問題もないのだ。
だが、手つきの青年は何とか冷静さを取り戻して、まだ諦める気はないようだ。
興奮気味に妾を見つめてくるので、ちょっとだけ引いた。
「周りを安心させるために、わざと強がってるのか? いや! そうに違いない!」
そう思わないと、理不尽すぎてやってられないようだ。
自らの判断を力強く肯定したあとに、大きな声を出す。
「格好良いなぁ! 格好良いなぁ! 狐ぇ!」
「いや、別に強がってはおらんのじゃが」
彼は妾が無理して明るく振る舞っていると、勘違いしているようだ。
確かにこんな個性を持った存在は、世界広しと言えども自分ぐらいだろう。
崩壊も相当レアだけど、信じられないのも無理はない。
「……ところでヒーロー! 本命は俺じゃない!」
どうやら会話に気を取られている間に、脳みそ丸見えの大男が背後に回り込んでいたらしい。
そいつは巨大な手で妾の頭を鷲掴みにして、勢い良く地面に叩きつけた。
「教えてやるよ。狐。そいつが対平和の象徴。怪人脳無だ」
衝撃で小さなクレーターができたので、相当な威力だとわかる。
「ほう、わざわざ教えてくれるとは親切じゃのう」
「……は?」
妾は小さなクレーターに顔が少し埋まったが、ノーダメージで平然と返事をした。
それを見た手つきのヴィランは唖然とした表情を浮かべ、間の抜けた呟きを漏らしてしまう。
だがまあ、そんなことは知ったこっちゃない。
妾はよっこらしょと顔をあげて、片手で大男の腕を握る。
万力のように少しずつ圧力を強めながら、そのままゆっくりと身を起こしていく。
「脳無が、どのような個性を持っておるかは知らぬ。
しかし妾の動きを封じられぬようでは、大したことはなさそうじゃな」
すぐにミシミシやバキバキという、R18的なグロい音が周囲に響く。
やがて脳無の腕が完全にへし折れ、力が入らなくなったようだ。
曲がってはいけない方向に垂れ下がり、ブラブラと揺れている。
もはや妾の頭を掴むこともできなくなった。
「おいおいおいっ! おかしいだろ! 対平和の象徴だぞ!
オールマイトにも勝てるはずなのに! 何でこんな狐に!」
妾は取りあえず腕が折れた脳無をむんずと掴むと、遠くにポイッと投げ捨てる。
続いて、手つきの少年ヴィランにはっきり告げた。
「脳無は倒れた。降参するなら今のうちじゃぞ」
恐らく今投げ捨てた脳無が、ヴィランの最高戦力だろう。
ならば勝敗は既に決したと言っても過言ではなく、妾は今すぐ降参するようにと告げる。
「誰が諦めて降参するか! やれっ! 脳無!」
しかし、手つきのヴィランはまだやる気のようだ。
遠くに捨てられた脳無を呼び戻すと、何故か奴の腕の骨折が完治していた。
再び妾に攻撃を仕掛けてきたが、イズクの身長よりもでかいしタフだ。
高速で突進してくるだけでも相当な脅威であり、オールマイトと戦えるというのは嘘ではなさそうである。
「師匠!?」
「どうやら超回復の個性持ちのようじゃな!
イズクは下がっておれ! 妾が相手をする!」
引子さんからも、イズクを守って欲しいとお願いされている。
それに弟子は、質はともかく数だけは多いヴィランと連戦したのだ。
弟子はかなり疲れていた。
波紋は呼吸が乱れると、十全に力を発揮できない。
この機会に、少しでも体を休めたほうが良いだろう。
脳無も何だかんだ言いつつ、対平和の象徴なだけはある。
ワンフォーオール100パーセントと互角に打ち合える怪人なので、ワンミスで大怪我をする可能性もあった。
やはり相手をさせて経験を得るのは時期尚早だと思いながら、妾は脳無の突進を真正面から受け止めた。
しかし衝撃を殺しきれず、両足が地面をガリガリと削って後退させられる。
だが、やがて足が止まり、妾は脳無の両手を掴んだまま大きな声を出す。
「良いぞ! 乗ってやろう! 力比べじゃ!」
妾は不敵に笑って一歩前進すると、脳無がズリズリと地面に擦れて一歩後退した。
「師匠! 頑張ってください!」
「脳無! 何をやってる! さっさとそいつを殺せ!」
手つきのヴィランが脳無を叱責するが、状況に変化はない。
何となく相撲の、のこったのこったという声が聞こえる気がしたが、別にそんなことはなかった。
やがては敵の後ろが壁に突き当たったので、妾は容赦なくめり込ませていく。
耐えきれなくなってガラガラと崩れたので、手を離してイズクの元に戻る。
「決まり手は押し出しで、妾の一勝じゃな」
「やっぱり師匠は凄いです!」
イズクが目を輝かせながら妾を見ている。
さすおにと同じようなノリで気軽に褒めるが、あまりにも回数が多いので、いつの間にか聞き流せるようになった。
とにかく逆に一敗した脳無の主は、不機嫌そうに吐き捨てる。
「確かに力では敵わないな!
だったらお前に、脳無の本当の恐ろしさを見せてやるよ!」
すると瓦礫に埋もれていた脳無が起き上がる。
そして再び妾に向かって、殴りかかってきた。
「ほう、今度はラッシュの速さ比べか!」
ならば受けて立とうと、挨拶代わりの一発を奴の腹に叩き込んだ。
しかし、妙な手応えを感じて疑問に思う。
だが今は、そんなことを考えている場合ではなかった。
「のじゃのじゃのじゃのじゃぁ!」
「ぐおおおあああっ!!!」
双方が凄まじいラッシュ繰り出して数十秒が経った。
互いに攻撃を止めて、自然と距離を取る。
妾は静かに頷き、続いて違和感の正体を口に出す。
「なるほど、もう一つの個性はショック吸収か」
衝撃を無効か吸収するかで迷ったが、殴ったときにほんの少し皮膚に沈むような奇妙な感覚があった。
なので攻撃を弾いて止めるのではなく、攻撃そのものを絡め取るのだと判断する。
だが実際ところは吸収もハズレの可能性はあるが、基本はその場のノリで喋っているだけだし、ぶっちゃけどちらでも良かった。
何しろ妾がこれからやることは、脳無がどんな個性だろうと何も変わらないからだ。
「妾のラッシュが、まるで効いておらぬわ」
「はははっ! 見たか! これが対平和の象徴! 脳無だ!」
手つきのヴィランは勝ちだと思っているようだが、妾もノーダメージだし実質引き分けだろう。
だがとても嬉しそうに笑っているし、可哀想だし水を差すのは止めておく。
「脳無は何発殴っても、決して倒れない! 最高のサンドバッグなんだよ!」
確かに打撃特化の強敵で、オールマイトやイズクは苦戦は免れないだろう。
(波紋で個性を阻害すれば勝てるが、危ういことには違いあるまい)
弟子は妾のように頑丈ではない。
それに脳無も決して弱くはないので、まだまだ安全に倒せるとは言い難い。
「超回復とショック吸収の二段構えとは、いやはや参ったのう」
「しっ、師匠!?」
イズクが心配そうな顔をして、こっちを見ている。
しかし狐火は普通に通るし、全く勝てないわけではない。
ただ打撃で倒すのに、少しだけ面倒だなと思っただけだ。
「ならば、手加減は無用か」
「……は?」
手つきのヴィランが驚きの表情で固まる。
「一体いつから、妾が本気で戦っておると錯覚していた?」
「なん…だと…!?」
普段は最低出力の一尾で、さらに手加減していたのだ。
先程はそれでも手つきのヴィランが、チートだクソゲーだと喚き散らしていた。
これでもし完全開放の九尾モードになったら、憤死してしまうのではないかと不安になる。
それはともかく、久しぶりに一尾で本気を出せるのだ。
まさに彼が言った通りで、最高のサンドバッグをありがとうと感謝しつつ、軽く腕を回してみる。
「脳無よ。妾が本気を出すのじゃ。頼むから、簡単に倒れてくれるなよ」
そう言ったあとに、妾は目にも留まらぬ速さで脳無との距離を詰める。
近接パワー型の拳を超高速で繰り出した。
「のじゃのじゃのじゃのじゃ!!!」
まるでマシンガンのように、脳無の全身を殴打する。
ショック吸収の許容量をあっさり越えて、全身の骨という骨が砕けて筋肉が裂けていく。
たったの五発で吸収力を越えるとは、最高のサンドバッグが聞いて呆れる。
さらに数発殴ると、今度は超回復も間に合わなくなった。
あっという間にボロ雑巾へと変わっていく。
これが一尾の本気モードであるが、このままだとあっという間に超回復の個性も許容量を越えてしまう。
脳無をミンチよりひでぇやにしてしまうため、すぐに手加減モードに切り替えた。
(もう勝負はついておるが、スッキリはせんのう)
別にノルマを達成する必要はないが、周囲に少しだけ注意を払う。
すると救助訓練で使う予定があったのか、少し離れた場所に燃えるゴミは月水金と書かれたゴミ収集車が停まっていた。
(うむ、ノルマ達成じゃな!)
そう思って喜んでいると、とうとうショック吸収だけでなく超回復まで許容限界を越えてしまった。
先程から傷が全く癒えなくなり、四肢は辛うじて繋がっているが、ちぎれかけでミンチになるのも時間の問題だ。
これ以上痛めつけたら、本当に死にかねない。
急いで最後の一発を叩き込んで、ヴィランを吹き飛ばす。
「のじゃあっ!!!」
いつも通りに、ヴィランをゴミ収集車にボッシュートした。
「チートが!」
手つきのヴィランに、本日何度目かのチート認定された。
しかし久しぶりに本気を出せたし、偶然とはいえノルマ達成できた。
おかげで元日の朝に、新品のパンツに履き替えたぐらい気分は晴れやかだ。
取りあえずは、スッキリしたのでヨシとしておくのだった。