近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
後処理は雄英高校の教師たちに任せて、妾とイズクは記者会見にお呼ばれすることになった。
弟子は未成年で生徒でも、お狐様は一応プロヒーローで当事者である。
できれば出たくなかったのだが、座っているだけで良いと言われて、仕方ないと諦めた。
妾はどうせウトウトしてるし、まともに答える気はない。
それにイズクはガチガチに緊張して、まともに喋れないだろう。
集まった記者も、そんな二人にわざわざ名指しで質問をしたりはしないはずだ。
ヴィラン襲撃事件なら、雄英高校の教師陣が答えてくれる。
他にも有名なプロヒーローがズラリ勢ぞろいだ。
しかし何故かそこで、妾に指名する記者が現れる。
聞かれた以上は仕方なく、渋々ではあるが答えることになった。
なお、深く考えずに行き当たりばったりで喋っている。
その場のノリで何を言ったかは良く覚えていないが、終わった後に不味い発言だったということが判明する。
しかしヴィランを逃したことは話してない。ギリギリセーフだろう。
それに、言ってしまったのは仕方ない。
今後も妾を記者会見に出すなら、そのことを念頭に置いてもらい、この場は解散して帰宅する流れになったのだった。
だが簡単には帰れず、最後の一仕事を頼まれた。
そのあとすぐに、会議室に移動させられる。
脳無と黒霧に何が見えたのかを、根掘り葉掘り聞かれたのだ。
その際に外部に漏れないように、絶対的に信頼できる人だけを呼び集めていた。
その件は妾もあまり詳しいことはわからないし、個性の魂的な存在を一つの体に複数体感じただけだ。
手っ取り早く説明するために、紙と鉛筆を貸してもらう。
そして肖像画のように記憶が鮮明なうちに、彼らの顔を素早く描きあげていく。
なお、シャープペンシルでないのは、のじゃロリ狐っ娘になってから鉛筆のほうがしっくり来て使いやすいからだ。深い意味はない。
そしてスタープラチナもハエの絵が凄い上手かった。
妾の精密度もAと記載しており、看板に偽りなしである。
あの時はぼんやりとしか見えていなかったのに、立体的で今にも動き出しそうな人物画が何枚もできあがっていく。
教師たちや警察の人たちはとても感心していた。
しかし何人も描くために、凄まじい速度で手を動かして鉛筆を消費していく。
いつの間にか鉛筆を削ったり、新しいのと交換をする人が隣に立つようになる。
そして取りあえずは時間はかかったが、何とか全員分を描ききって一息つく。
相澤先生とプレゼントマイクが、一枚の紙を持って驚きで固まっていた。
「この絵について聞きたいんだが」
イレイザーヘッドが真面目な顔で聞いていたが、これで妾の仕事は終わりのはずだ。
いい加減に家に帰りたいので、ここは弟子を言い訳に使わせてもらう。
「妾はともかく、イズクはまだ学生じゃぞ。
今日は色々あって疲れておるゆえ、早く家に帰らせてやるべきじゃろうが」
これには雄英高校の教師だけでなく、警察も苦笑いだ。
気持ちは痛いほどわかるが、重要参考人に事情を聞くのが仕事だと割り切っているらしい。
重ね重ね謝罪しつつ、結局帰してはくれないようだ。
妾は諦めて、さっさと用件を済ませることにして、椅子に深くもたれる。
「人物の名前はわかるか?」
「わからぬ。妾は見たままを描き写しただけじゃ」
個性因子には魂的な存在が宿っているので、目を凝らせば良くわかる。
だが大抵は当人と重なっているため、わざわざ見ようとも思わない。
しかし黒霧は混ざっていたので、興味が湧いて深く探ってみたのだ。
「この男の意識や記憶は、戻せるのか?」
相澤先生にさらに質問されて、少し考える。
「黒霧は、複数の魂が混じり合っておった。
妾が無理やり目覚めさせられんこともないが、拒絶反応で何が起きるかわからんぞ」
ワンフォーオールのように向こうから接触してくれば、比較的楽に支配下に置ける。
しかし黒霧にそれをやるとなると、何重にも鍵がついた歪な扉を蹴破り、暴力に訴えて言うことを聞かせるような強引な干渉になる。
黒霧に何らかの影響が出るのは間違いない。
十中八九でろくなことにならず、何処かの竜騎士のように俺は正気に戻ったなどと、おかしなことになるに決まっている。
なので強硬策は取らないほうが無難だと伝えたところで、妾は少しだけ考えて直感で口を開く。
「もっとも穏便に済むのは、この男の魂を強く揺さぶることじゃ」
後先考えずに手っ取り早く済ませるなら強引に干渉すればいいが、妾としてプランBのほうをオススメしたい。
「自力でオールフォーワンの呪縛を打ち破れば、此奴の人格が表に出てくるかも知れぬな」
一番肉体に負担が少ないのが、自力で何とかすることだ。
霊体で相手の個性に直接触れて、強引に干渉するのは避けるに越したことはない。
「それも蜘蛛の糸のように、か細い希望ではあるがな」
本当に僅かな可能性があるだけで、実現は困難極まりない。
しかしわざわざ聞いてきたということは、彼らはやる気なのだろう。
「じゃが、諦める気はないのじゃろう?」
「当然だ。絶対に助けてやる」
「ひゃっはー! やってやるぜー!」
二人のプロヒーローと同じように、警察も正義感は人一倍強い。
少なくともこの場に集っている者たちは、信用できてやる気に満ち溢れている者ばかりだ。
途端に会議室は一気に賑やかになる。
熱量が半端ではなくなり、弟子のイズクも何故か発破がかかっている。
『頑張りましょうね。師匠』と良い笑顔で言ってくるので、そういうのに全く興味がない妾は『おっ、おう』と返事をする。
なお、内心では早く家に帰ってのんびりゴロゴロしたい。
心底そう思っていたのだった。
どうやら、二度あることは三度あるらしい。
雄英高校の正門の前で、青山少年が待っていた。
彼は目に涙を浮かべた悲壮な顔で、妾に助けて欲しいと懇願してくる。
「あっ、青山君!? たっ、助けてって、一体!?」
弟子は意味がわからないのか困惑しているが、妾は真面目な表情を浮かべてイズクに声をかける。
「イズクよ。根津校長に連絡を頼む」
「えっ、はっ、はい!」
慌ててスマートフォンを取り出して、登校初日に何故か登録された連絡先に電話をかける。
繋いだあとは妾が代わり、青山少年のことを簡単に説明した。
現時点で彼が本当に改心したのかは不確定で、AFOに妾たちを探るように命令された可能性もある。
だが直感に従えば本当に助けを求めているようだし、もし依然として内通者を続けるようなら、根津校長が上手いこと利用するだろう。
あの人は凄く頭いいらしいしと思いながら、妾たちは青山少年を連れて校内に戻る。
その後、彼を連れて雄英高校の校長室に向かうと、オールマイトを含めた信用できる教師たちが揃っていた。
もはや隠し通せないのでイズクも青山少年と一緒に椅子に座らせて、どうやって助けるのかや今後の処遇について話し合う。
「無個性を虐げる社会の歪みのせいで、青山少年はAFOの駒にされたのじゃ。
人の善意を利用する奴に屈するなど、真っ平ごめんじゃ」
妾は自分で相談に乗るや助けると言った手前、青山少年を全面的に救う方針を取らなければいけない。
イズクのクラスメイトが死んで良いとは思っていないので当然なのだが、現状では良い解決策は思い浮かばなかった。
「しかし、彼の両親はAFOの支配を受けている。
裏切りがバレたら、真っ先に殺される可能性が高い」
昔よりも肉付きが良くなったトゥルーフォームのオールマイトが、辛そうな顔で大きく息を吐いた。
「今の僕たちでは、彼らを守りきるのは難しいさ」
「そうじゃな。せめてAFOの所在がわかれば良かったのじゃが」
青山少年はたまに向こうから連絡が来て、こっちから接触はできないらしい。
所在がわからなければ、開けろデトロイト市警だと扉を蹴破って侵入し、ボコボコにすることもできないのだ。
すぐに一件落着とはいかずに、長期戦を余儀なくされる状況はあまり好ましいとは言えない。
「……取りあえずじゃ」
妾は実体化してイズクにどうしても必要だと説得し、何故か持っていた狐っ娘のキーホルダーを譲ってもらう。
それを狐火で包み込むと、やがて炎は跡形もなく消え去った。
「お守りじゃ。今後は肌見放さず持ち歩くことじゃ。
青山少年に危機が迫れば、妾とイズクが駆けつけるゆえな」
これは探知機兼お守りのようなもので、青山少年がキーホルダーを持ち歩いていれば、妾にもぼんやりとだが情景が伝わる。
それにAFOの悪意からも守れるように、細工がしてあった。
他にも、チャドの霊圧が消えたのを感知するように、もし壊されたらすぐにわかる。
「絶対に安全とは言えぬが、気休めにはなるじゃろう」
ただしAFOにバレたら即破壊されるだろうから、くれぐれも気をつけるようにと青山少年に伝えておく。
「あっ、ありがとう! ……ございます!」
「気にせずとも良い。こんなことしかできず、逆に申し訳ないぐらいじゃ」
そう言って妾は、他にも二つのキーホルダーに細工をして机の上に置いた。
それについても、簡単に説明していく。
「こちらも青山少年に渡した物と同じお守りじゃ。
両親に渡してやると良い」
青山少年が驚いているが、これはあくまで一時凌ぎだ。
ずっと守れるわけではないし、お守りもやがては時間経過で消えてしまう。
何より一度は悪意を防げても、二度目は流石に妨害に気づいて破壊しに来る。
結局はAFOにバレたら終わりというわけで、その前に妾か他のプロヒーローが駆けつけて、彼らを守れるかが勝負となる。
「やはりAFOを倒さねば、焼け石に水じゃのう」
妾は腕を組んでどうしたものかと考えていると、根津校長が真面目な顔で青山少年に声をかける。
「そう、これはAFOを倒さなければ解決しない問題なのさ。
本当に申し訳ないけど、僕たちには今は助けられないのさ」
無慈悲ではあるが、根津校長の言っていることは正しい。
何しろAFOは遠隔操作が可能で、キラークイーンの爆破スイッチをいつでも押せるようなものだ。
狐火は普段はキーホルダーに潜み、気付かれないよう身を潜めている。
外からの干渉を感知すると障壁を展開するので、そう簡単にバレはしないだろう。
しかしもし大勢の手下を青山少年や両親にけしかけられたら、それだけではどうにもできない。
結局奴を倒さないと、何も解決はしない。
そして根津校長は、深々と頭を下げる。
「だからキミには、二重スパイをして欲しいのさ」
「えっ! そっ、そんなことを言われても!」
「でも、現状では、これが一番ベストなのさ。
AFOを騙せている間は、少なくともキミと家族には危険はないのさ」
そもそも向こうもわかっていて泳がせている場合もあるが、それでも青山少年と家族が無事なら妾たちの目的は達成できる。
裏の読み合いは得意ではないけど、依然と変わらずに従ったフリをするのは、彼らの命を守る意味もある。
「生徒にこんなことを頼むのは、はっきり言って最低で校長失格さ。
でもAFOを倒さないと、社会システムが崩壊しかねないのさ」
その後、青山少年は迷いはしたが、結局首を縦に振った。
そして信用できるプロヒーローたちで、青山家を密かに監視や護衛をさせる方針になったが、妾はそこで注意喚起する。
AFOが支配しているのは、ヴィランだけではない。
ヒーローや一般の市民さえもが、己の駒なのだ。
何処に奴の目や耳があるかわからないため、そのことを念頭に置いて慎重に行動するようにと、重ね重ね忠告する。
「それと青山少年、狐火や妾たちと接触したことは、家族や知り合いには絶対に言うでないぞ」
「えっ? でっ、でも──」
せめて家族ぐらいは命の危機がなくなるかも知れないと伝えて、安心させてあげたいのだろう。
優しい子であるが、妾は心を鬼にして真面目な顔で伝える。
「青山少年の両親は、一度はAFOに魂を売ったのじゃ。
呪いや恐怖は心身を深く蝕み、それに縛られておる限り、奴の手駒からは抜け出せん」
青山少年も含めて両親もAFOを直接会ったのだろうし、今は命を狙われていてその影に怯えている。
なので気休め程度では安心できず、あまり考えたくはないが脅されて妾たちを裏切る可能性があった。
「よって今しばらくは、誰にも悟らせずに普段通りに過ごすのじゃ。
学生は学生らしく裏社会とは関わらずに、真面目に高校生活を過ごせということじゃな」
妾は青山少年を安心させるために、にっこりと微笑みかける。
「あとは両親に怪しまれぬ目的もあるが、夜道は危険じゃからな。
今日は雄英高校の教師に、家まで送ってもらうといい。
では青山少年、明日また学校でのう」
いい加減に妾も家に帰ってのんびりしたかったので、今回の作戦会議は切りも良いので解散になったのだった。
家に帰れたのは、夜遅くになってからだった。
青山少年だけでなく妾たちも車で送ってもらったが、事前に連絡をしていても引子さんに凄く心配される。
しかし妾はただいまの挨拶のあとに、『AFOには逃げられたけど、次に現れたらボコボコにしてやんよ!』的な冗談を口にすると、少しは元気が出たらしい。
イズクは精神的に疲れてはいるが無傷で、ヴィラン襲撃事件に遭っても、雄英高校には目立った被害は出ていない。
せいぜい妾が邪王炎殺青龍波で、ドームの天井をぶち抜いたぐらいだ。
そんなことを考えたおかげで、まだ超巨大なハリボテの龍がとぐろを巻いていることを思い出した。
アレは時間が経てば、存在を維持できなくなり勝手に消える。
見た目がど派手なだけで、実害はないのだ。
しかも空中に留まって何もせず、中身がスカスカなせいで燃費はかなり良い。
あまり霊力は込めなかったが、放っておけば一ヶ月はそのままだろう。
取りあえず寝る直前に思い出せたので、妾は新しい観光名所として登録される前に、意識的に操作してUSJの上空に留まっていた青龍を綺麗さっぱり消しておくのだった。
次の日もいつも通り、雄英高校に登校する。
昨日は殆どウトウトしていたとはいえ、全国ニュースで出たのだ。
周囲の視線が色々アレではあるけれど、相変わらずマイペースで日向ぼっこを行う。
イズクはアタフタしていたが、それでも何とか電車に乗って学校に到着して教室に入る。
昨日は記者会見があるのでと、先に別れたクラスメイトたちが心配そうに寄ってきた。
パッと見た感じは青山少年も普通そうで、狐っ娘のキーホルダーを肌身離さず持っていてくれているようだ。
それに妾たちに打ち明けたことで気が楽になったのか、物腰がほんの少しだけ柔らかい気がする。
そして遠方の狐火を感知すると、ちゃんと彼の両親を保護していることが何となくわかった。
「デク君大丈夫!」
「麗日さん! うんっ! 僕は大丈夫だよ!
師匠が守ってくれたんだ!」
そして妾も薄い胸をえっへんと張るが、一尾のフルパワーを出したのは初めてだ。
「あの程度のヴィラン、妾の敵ではないのじゃ」
さらにフリーザ様的に言えば、妾はあと八回変身を残している。
この意味がわかるな状態であり、一尾で何ともならなければ新しく尻尾を生やすだけだ。
なので取りあえずはヨシとして、他の皆に怪我はないから大丈夫だと安心させ、指定の席につく。
「しっかし、どのチャンネルも結構でかく扱ってたよな!」
「びっくりしたぜ!」
「無理ないよ。プロヒーローを輩出する、ヒーロー科が襲われたんだから」
クラスメイトの話に耳を傾けつつ、確かに全国一のヒーロー名門校がヴィランの襲撃を受けたのだ。
話題性は抜群だろう。
「あの場にお狐様がいなかったら、どうなってたか」
「やめろよ! 瀬呂! 考えただけでもちびっちまうだろ!」
妾のことを話題にしているが、イズクも凄い活躍してたはずだ。
仕事は移動手段と雑魚処理ではあるけれど、それでも頑張っていたことには違いない。
「うるせえぞ! 少しは声を落とせや!」
爆豪少年が少しキツイが注意をしつつ、その横で他の生徒が昨日のことを口にする。
「けど、流石はお狐様だよな!
あのクソ強いヴィランを、撃退したんだから!」
「驚愕に値する強さだ!」
確かに脳無は強敵ではあった。
しかし今にして思えば、本気を出さなくても三百発ぐらいラッシュを叩き込めば、ショック吸収をぶち抜いて再起不能にできた。
しかし、もう終わったことなのでどうでも良い。
今日も良い天気なので、日向ぼっこ日和である。
「イズクよ。妾は少し陽の光を浴びてくる」
「はい、師匠」
ちょうど行き違いのように、相澤先生が教室に入ってきた。
その時には、妾の頭の中はのんびり惰眠を貪ることでいっぱいだ。
なので雄英体育祭のことは話半分にしか聞いておらず、自宅に帰って引子さんが帰ってくるまで家事手伝いを行いながら、イズクの話を聞いてようやく認知したのだった。