近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
市役所で個性届けを出して、妾は久しぶりに屋根のある家で過ごせて大変満足だ。
今は家事が一通り終わったので、ソファーに座ってテレビを見てこの世界の情報収集をしていた。
そんな妾に、イズクが目を輝かせて一枚のノートを渡してくる。
取りあえず反射的に受け取り、何気なく目を通していく。
「お狐様の能力を、僕なりに分析してみたんだ!
これからヒーローを目指すんだから、その辺りは明確にしておきたくて!」
「おっ、おう、そうか」
言っていることはわかるが、まだ知り合って間もない。
それなのに、ノート一冊分にまとめるほどやる気になっているのだ。
とんでもない行動力だと思うが、つい溜息を吐いてしまう。
(今日はのんびりくつろぐつもりだったんじゃがのう)
しかし、妾を信じてくれているイズクの期待を裏切りたくもない。
なので若干面倒そうな顔をしつつ、ヒーロー分析ノートに目を通していく。
(良く分析しておるし、妾よりも詳しいのではないか?)
ノートの隅々まで書き込まれた妾の情報は、自分がこれから試してみようとしていることも含まれている。
さらにはイズクと繋がったことで、新しい可能性まで考察されていた。
「どっ、どうかな!」
「良くまとめられておる。分析も正しいと思うぞ」
「そっ、そうなんだ! 良かった!」
本当に嬉しそうに笑うが、どうしてそこまで喜べるのだろうと妾は首を傾げる。
だがまあ、悲しんだり辛そうにしているよりは良い。
何より俯くのではなく顔をあげて、将来に向けて頑張るのは良いことだ。
「じゃあ、早速能力を試したいんだけど!」
しかしあまりにも行動力がありすぎるため、妾の本日の予定が大幅に狂うのはあまりよろしくない。
自分は基本的にマイペースでのんびり屋だし、イズクの手助けをしてもヒーローの看板を背負うつもりはなかった。
かと言って彼のモチベーションを下げるのも駄目ということで、少しだけ考えて口を開く。
「待つのじゃ。イズクよ」
さっきまでは肯定していたが、妾が今度は出鼻を挫く。
イズクは少し戸惑いながらも、素直に聞く姿勢になってくれたのでホッと息を吐いた。
「妾の能力を試す前に聞くが、イズクは体力に自信はあるのか?」
「えっ!? いっ、いや……僕は、そっちはあまり」
やはり見た目通り、もやしっ子のようだ。
オールマイトに憧れているようなので鍛えてはいるが、それでもせいぜい同年代の平均か、良くて少し上程度だろう。
ちなみに妾の容姿は幼女だが、転生チートなのか何故か超パワーが出せる。
だがまあとにかく、ヒーローを目指すなら体は鍛えておくべきだ。
そのことをはっきりと口に出して、イズクに伝えていく。
「ならばまずは、イズクの筋トレから始めるべきじゃ。
妾がいくら強かろうと、本体がやられては意味はないからのう」
「うぐっ! そっ、それは確かに!」
ついでにヒーロー免許を持っていない人が、個性を使用するのは禁止だ。
運転免許証のように、私有地で人に迷惑をかけなければその限りではないが、イズクが現状自由に使えるのはマンションの部屋だけである。
それも周囲を壊さないように気を使うため、あまり派手なことはできない。
(まあそれでも、平気で破る者も多いじゃろうがのう)
とにかく妾は個性の訓練を一生懸命やる気はなく、のんびりペースで十分だと思っていた。
「何事も一朝一夕にはいかぬが、まずは基礎から地道に積み上げていくのじゃ」
「確かにそうかも! 僕が筋トレしている間に、お狐様もこっそり個性の訓練ができるし!」
「……えっ? 妾もやるのか?」
イズクはキョトンとした顔で妾を見ている。
本当はのんびりくつろぎたかったのだが、できる限りサポートすると言ってしまった。
それに居候として今後世話になるので、最低限の仕事はしないと不味いだろう。
結果、渋々ではあるが、妾が折れることになる。
「仕方あるまい。妾はイズクの守護霊じゃからな。訓練に付き合おう」
「ありがとう! お狐様!」
そもそも彼が居ないと、妾は何処にもいけなかったのだ。
余程間違った決断なら止めるが、そうでなければ協力しても良いだろう。
何より妾は転生してから日が浅い。
この機会に自分に何ができるかを明確にするのは、悪いことではないのだった。
ヒーローとは、基本的には人助けである。
イズクがスマートフォンでランニングコースを作成している間、気になった妾がふと覗き見ると、海岸線に大量のゴミが不法投棄されているのを見つけた。
そこで良いことを思いついた妾は壁を抜けて、引子さんに相談しに行く。
しばらく話して無事に許可をもらったのでイズクの下に戻り、真剣に計画を練っている少年の肩を叩く。
そして妾は訓練メニューを提案し、イズクは疑問に思いつつも海浜公園に向かったのだった。
「海浜公園に何の用があるの?」
「実はイズクの筋トレに、ちょうど良いと思ってのう」
イズクは海岸線のゴミ山の前まで歩いて近づき、そこで足を止める。
妾は少し離れて実体化して、不敵に笑った。
そして冷蔵庫に背伸びをし、軽く手を乗せる。
「ニュースで見たが、最近のヒーローは派手さばかり追い求めておる。
じゃが、本来ヒーローというのは奉仕活動じゃ」
ヒーローがヴィランと戦っているニュースのほうが、見栄えがして人気が出て視聴率も稼げる。
だが基本的には人助けであり、彼らはアイドルや芸能人ではないのだ。
妾は説明を続けながら、大型冷蔵庫を力を込めて押し潰していく。
ただし上から下へなので、浮遊で体を固定しないとこっちが浮いてしまう。
「地味だ何だと言われても、そこはブレてはいかんのじゃ」
やがて、妾の重圧に耐えきれなくなったようだ。
大型冷蔵庫はブレス機に押し潰されたように、ぺちゃんこになった。
「この区画一帯の水辺線を蘇らせる。
それがイズクのヒーローへの、第一歩じゃ」
妾は顔をあげて、イズクを真っ直ぐに見つめる。
彼は若干冷や汗をかき、辺りのゴミ山に視線を向けた。
「第……一歩。これを……掃除? 全部!?」
とても驚いているが、別に一日で全部片付けろと言っているわけではない。
妾も焦って進めるつもりはなく、数年かけてのんびりやっていくつもりだ。
それでもイズクは、大きく成長できるはずだ。
しかしやる前から、腰が引けていた。
ゆえに妾は、少しだけ発破をかけることにした。
「イズクは、オールマイトに憧れておったな?」
「うん、僕もいつかはオールマイトのような、最高のヒーローになるんだ!」
妾はそうかそうかと何度か頷き、次ににっこりと微笑みながら続きを話す。
「ならばイズクが憧れるオールマイトは、海岸線のゴミ山を片づけられぬと思うか?」
「そっ、それはっ!」
妾はオールマイトに興味はない。
今朝のニュースで見た程度の情報だが、筋骨隆々の立ち姿からパワー系のヒーローなのは予想ができる。
本気を出せばゴミ山も軽々と移動させて、片付けもかなり早く終わるだろう。
「イズクには無理でも、オールマイトなら苦もなくやり遂げるじゃろうな」
これではオールマイトに追いつくのにどれだけかかるやらと、わざとらしく溜息を吐いた。
「ううっ! わかった! 僕、やるよ!」
「うむ、それでこそヒーローを志す者じゃ。立派じゃぞ」
奉仕活動をしつつ体が鍛えられるのだ。一石二鳥というところだろう。
それにしてもオールマイトの名前を出したら、思ったよりも簡単に釣れてしまった。
(しかし、平和の象徴か。……危ういのう)
ニュースではオールマイトは存在しているだけで、ヴィラン犯罪が低下する平和の象徴になっているようだ。
そしてイズクのように憧れる子供や、ファンが多いのは良い。
しかし、もし引退したら反動が一気に来てしまう。
負の感情や衝動を無理やり押さえ込んだ分だけ、抑圧から解放されたあとは治安が一気に乱れそうだ。
ナンバーワンヒーローも人間で、終わりを迎える時は必ず来る。
(引退したあとも、平和が保たれれば良いが)
引き継ぎがスムーズにいくか、備えをしておけば大丈夫だが、まあ妾が気にすることではないだろう。
今はヒーローを目指すイズクの筋トレに協力しつつ、自分の能力を明らかにしていくことが重要だ。
あれこれ考えて、思い悩むのは性に合わない。
取りあえず今が良ければそれでよしであり、平和でのんびり暮らせればそれ以上は望まなかった。
なので、明日も平穏でありますようにと、晴れ渡る青空を眺めながら大きくぐいーっと伸びをするのだった。