近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
騎馬戦の作戦会議が終わり、いよいよ競技が始まる。
審判が開始を宣言すると、各選手が一斉に動き始めた。
「イズクよ。好きに動くといい。
妾はそれに合わせよう」
「はい、師匠!」
事前に打ち合わせは済ませているが、全てが予定通りに行くとは限らない。
なので基本は高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するのだ。
ぶっちゃけ行き当たりばったりではあるが、妾は基本そんな感じである。
それでも大まかな方針は決めているだけ、マシだろう。
「狐女ぁ! 一千万を寄越せやぁ!」
「かっちゃん!?」
「欲しければ! 力づくで奪うのじゃな!」
爆豪少年が地面に足をつかなければセーフ理論で、騎馬から離れて空中を高速移動してきた。
もちろんイズクも妾も動きを追えているので、冷静に対処する。
ちなみに妾は基本的に静観し、弟子が危うい時しか動かない。
そうでなければ競技が成り立たないため、現状では逃げの一手であった。
「こらっ! 待ちやがれっ!」
「待てと言われて、待つわけがあるまい!」
「ごめん! かっちゃん! 勝負はまた今度!」
今は全ての騎馬が、妾のハチマキを狙って動いている。
たとえ返り討ちにできるとしても、この場に留まるのは得策ではない。
だが、そう上手くはいかないようだ。
「これはっ!? 地面が沈む!?」
地面が柔らかくなって沈んでいるのは、どうやらB組の個性のようだ。
なので妾は浮遊を使い、イズクを引き上げて脱出しようと提案する。
「イズク! 手を貸すか!」
「大丈夫です! 問題ありません! ……コオオオオ!」
どうやら妾が手助けする必要はないらしく、弟子は意識を集中して波紋の呼吸を整える。
背景に効果音が表示されている気がしないでもない。
それはそれとしてイズクの沈んでいた両足が、今度は反発するように沼地から浮き上がっていく。
「何いいいっ!? 沼の上を! 走っているうううっ!!!」
さらに先程まで沈んでいたのに、表面を華麗に走り出した。
硬い地面と比べるとスピードは落ちるが、おかげで危なげなく脱出する。
「ちいっ! デクの波紋か!」
波紋を詳しくは知らないB組の生徒や、周囲の人々が驚いている。
しかし爆豪少年とは長い付き合いなので、騎馬に戻った彼は冷静に分析していた。
何にせよ沼地はまだ消えておらず、多くの騎馬が迂回しなければならなくなる。
接近可能なルートも限られるし、その間に妾たちは競技場内を敵の少ない場所を中心に、ひたすら逃げ回り続けた。
だがいくらイズクが凄くても、余裕というわけではない。
競技開始から執拗に狙われていて、全く気が休まらないのだ。
「二位狙いで妥協すれば良いのに! ヒーローとは向上心の塊か!」
妾が呆れたように愚痴をこぼすと、背負っているイズクが逃げながら返事をする。
「師匠がそうさせたんですよ!」
「何じゃと!?」
飯田少年チームの執拗な追跡を、
イズクは若干息を切らしているが、それでも律儀に説明をしてくれた。
「はぁ、はぁっ! 戦闘訓練で雄英高校の全生徒に、発破をかけたでしょう!」
「妾は、当たり前のことをしただけじゃ!」
戦闘訓練をするのは、ヒーローなら当たり前だ。
他の生徒も成り行きで世話を焼いただけだし、深い意味などない勢い任せの行動である。
そんなことを考えていると、今度は後ろに張り付いている飯田少年が呼びかけてきた。
「お狐様は! 俺たちの憧れのヒーローなんです!
だからこそ、追いつきたいんだ! キミもそうなんだろう! 緑谷君!」
「その通りだよ! 飯田君!
僕もお狐様の! 師匠の隣に立ちたい!」
何やらイズクと飯田少年の間に、熱い友情を感じる。
なお挟まれているのじゃロリ狐っ娘は、納得がいかずに微妙な顔になってしまう。
後方腕組み師匠ポジは、気楽ではある。
しかし、どうやら無自覚に弟子を増やしてしまったようだ。
(いや、妾は認知する気はないし、正確には弟子ではなくファンじゃな)
多分だが平和の象徴であるオールマイトに、子供が憧れるようなものだろう。
そんな良くわからない感情を大多数から向けられていることに気づき、別にそういうのは求めてないんだけどなーと、内心で溜息を吐いてしまう。
だが今は競技中だし、悠長に考えている暇はない。
妾は前方の進路を塞ぐ氷の壁に、収束した狐火をぶつけて破壊する。
続いてイズクが熱で溶けてぽっかり空いた大穴の、壁面に触れないように気をつけて跳躍して通り抜けた。
「……むっ!?」
「えっ!? まさか! 隠れて──」
障子少年のチームとばったり遭遇した。
そう思ったのだが感覚を研ぎ澄ますと、さらに二人隠れていることに気づく。
「けろっ! いただくわよ! お狐様ちゃん!」
「おいらだって!」
相変わらず、様なのかちゃんなのか良くわからない。
だが、どうやら壁を抜けて来ることを予想して待ち構えていたようだ。
蛙吹少女の舌が高速で伸びてきて、おまけに粘着性のあるボールが次々と投げつけられる。
イズクは地面に着地したばかりで急には動けず、回避不可能だ。
しかし妾には関係ないので、相手の攻撃を良く見て手を伸ばす。
「……よっと」
「けろっ!?」
妾はハチマキめがけて伸ばされた舌を、むんずと掴んだ。
不意打ちを避けるのはイズクには無理でも、妾には十分に可能である。
しかし攻撃は基本的に禁止なので、受け止めたあとはすぐに離してあげた。
「今の不意打ちは、悪くはなかったぞ」
さらに次々と飛んでくる吸着性のあるボールを、狐火で一掃する。
地上に落ちても効果は継続するので、一つ残らず綺麗に焼き払った。
「他の騎馬じゃったら、ハチマキを取られておったじゃろうな」
「ざっ、残念だわ!」
「ううっ、もうちょっとだったのに!」
はっはっはと笑いながら、その場から急速に離脱していく。
何しろ後ろからは相変わらず飯田チームが追いかけてくるので、ぼさっとしている時間はない。
それに妥協して二位狙いの生徒が、一人もいないのも困ったことだ。
どうやら一位以外は、全く眼中にないようである。
ゆえにイズクは
さらに全員に狙われているので、心身共にかなり疲れてきている。
しかしもう後半戦で残り時間はあと僅かだし、最後まで逃げ切りたいものだ
「飯田少年は最後まで走りきれそうじゃな。
じゃが、こっちは不味いのう」
もちろん飯田少年にも、限界はある。
だがスピードに関しては他の追随を許さないし、ワンフォーオールも強力ではあった。
しかしイズクはまだ、完全には制御できていない。
万能ゆえに特化型よりも体力の消費が激しいのも、競技で不利に働いていた。
それでも騎馬戦が終わるまで残り一分を切り、いよいよ余裕がなくなってくる。
「はぁ! ……はぁ!」
出力が下がって飯田少年や爆豪少年の騎馬に追いつかれそうになったりと、かなりヒヤヒヤする。
常闇少年のダークシャドウが死角から奪いに来たりと、後続のチームがハチマキを奪おうと次々と接近してくる。
先程から明らかに弟子の動きが鈍ってきたので、もうこれ以上は保ちそうにない。
「イズク! 良いな!」
「くっ! これ以上は無理か! ……お願いします!」
「うむ、任された!」
弟子の許可が出たので、妾は存分に力を振るう。
危険になるまで手出し無用だったが、今がその時だ。
「よもや妾に手を出させるとはのう! 見事と言っておこう!
イズクもよう頑張った! 偉いぞ!」
はっはっはっと豪快に笑い、妾は狐火を右手に灯して口元まで運んだ。
そして優しく息を吹きかけると、青い無数の火の粉がタンポポの綿毛のように広がっていく。
それは競技場のあちこちに舞い落ちて、突然激しく燃え始めた。
「一体っ! 何がっ!?」
「なっ!? 炎が燃え広がって!?」
すぐに競技場内全てが青い炎に包まれて、視界が完全に塞がれた。
「もっ燃えちまうっ!?」
「うわああっ、こんなのありかよ!?」
「案ずるな! ただの幻じゃ!」
競技場内はパニックになり、切島少年と上鳴少年の悲鳴が聞こえたので、妾は攻撃ではないことを大声で伝えておく。
その間にイズクは
「くっ! 何も見えねえ! どうすれば!」
「チッ! こいつか!」
「ちょっ!? いきなり何するんだ!」
八百万少女が冷や汗をかき、上に乗っている轟少年が近くの騎馬のハチマキを奪った。
「残念。ハズレじゃのう」
すぐ近くの相手も、ぼんやりとしか見えなくなったのだ。
今まで一つの目標を追っていた仲間たちが疑心暗鬼に陥り、互いのハチマキを奪い合う事態となる。
残り時間が尽きるまで、逃げさせてもらいたいところだ。
しかしここで爆豪少年が何かに気づき、爆破の個性を発動しつつ大声で叫ぶ。
「落ち着け! 吹き飛ばせば、どうってことねえ!」
「そっ、そうかっ!」
「手段はどうあれ、火を消せばっ!」
火の幻は簡単に消すことができる。爆豪少年の言うことは正しい。
その気になれば永遠に燃え続ける炎にもできるが、ただでさえ子供の競技に親が出場しているようなものなのだ。
頑張れば乗り越えられるレベルに手加減したほうが、皆の見せ場を作る的な意味でも役に立つだろう。
実際に各々が個性を使って、今できる最善を尽くして消火活動をしている。
その様子を見た妾は、子供の成長を見守る親のように満足そうに頷いた。
「皆凄いのう。中でも爆豪少年は、なかなか機転が利くわい」
「うん、かっちゃんは凄いヒーローになるよ! 僕も負けてられない!」
爆豪少年は数年も妾と戦闘訓練をしている。
格上と戦い続けていたからか、機転を利かせてすぐに幻影の弱点を見抜いた。
しかしそれでも、当初の目的は達成されたので良しだ。
幻が消え去り姿を現した妾は、堂々と告げる。
「じゃが、残念じゃったのう! ……時間切れじゃ!」
「なっ!?」
「どういう……まさか!」
「しまった! 制限時間が! もうっ!」
最後に妾は、自分から残り全ての幻影を消した。
競技場内の全選手の視線が一斉にこちらに向けられたが、そこでプレゼントマイクの声が無慈悲に響き渡る。
「タイムアーップ!」
かくして騎馬戦は、妾とイズクの逃げ切り勝利となる。
このまま最終種目に出場することになったのだった。