近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
大食堂で昼食を済ませて、いよいよ午後の最終種目が発表される。
だがその前に体育祭として全員参加のレクリエーション種目が用意され、何故か妾もチアリーダーとして参加することになった。
正直わけがわからないし、峰田少年と上鳴少年に十中八九で騙されている。
しかし八百万少女がせっかく創造してくれたんだし、無駄にするのも勿体ない。
そういうわけで何処に需要があるかは不明だが、久しぶりに紅白巫女服ではなくチアリーダーの衣装を着用し、取りあえず形だけでも皆をせっせと応援するのだった。
やがて案の定、騙されていたレクリエーションが終わる。
鉄拳制裁を終えてから、総勢十六名からなる一対一のトーナメント戦が始まった。
今回も妾は見ているだけなので、特にすることはない。
イズクも師匠に頼るのではなく、己の力で勝ち進みたいので異論はなかった。後方腕組みしているだけなのは楽でいい。
なおトーナメント戦は毎年恒例らしく、雄英体育祭でもっとも人気がある競技らしい。
それだけスカウトの目にも留まりやすいし、皆も気合が入る。
妾は相変わらず日向ぼっこでウトウトしていたが、イズクの番が来たら軽く伸びをして起きる。
一回戦で、心操人使少年と戦うらしい。
勝っても負けても貴重な経験なので、将来のための糧になる。
当然一位を狙っているが、今回は正々堂々の試合形式だ。
いくらイズクが危なくなっても、手を貸すつもりはない。
セメントス先生が舞台を作り、いよいよ第一試合が始まろうとしていた。
イズクは気持ちを落ち着かせるために廊下で波紋の呼吸を整えていると、後ろからオールマイトが歩いてくる。
「へいっ! 緑谷少年! ワンフォーオールを掴んできたな!」
「オールマイト? いえ、まだ不安です。
騎馬戦では僕だけでは勝てずに、師匠を頼ってしまいました」
どうやらイズクは、師匠に守られる弟子の立場を脱却したいようだ。
ちなみにオールマイトはトゥルーフォームだが、かなり肉づきが良くなってきている。
コスチュームを着用すれば、ナンバーワンヒーローに似た別人と言われるレベルだ。
かつてのガリガリな状態と比べると、かなり回復してきていた。
「そこはコナクソ頑張るぞでいいんだよ! ナンセンスプリンスめ!」
そう言ってイズクを元気づけるために、オールマイトは弟子を軽く叩いた。
「キミの目指すヒーロー像は、そんな儚げ顔か?」
すると弟子は、我関せずとばかりに眠そうにアクビをしている妾をじっと見つめた。
次にオールマイトに視線を戻して、続きを黙って聞く。
「いいかい? 怖いとき、不安なときこそ、笑っちまって望むんだ。
ここまで来たんだ。虚勢でもいい。胸は張っとけ!」
ウトウトしてるので殆ど右から左だが、いいこと言うなーと思いながら丸くなる。
「私が見込んだってこと、忘れるな!」
イズクは元気が出たのか、真面目な表情に変わって静かに頷く。
そして今度は妾の顔をチラチラ見てくるので、何か言って欲しいのだろう。
だが特に思い浮かばないため、適当なネタ台詞を引用させてもらう。
「イズクよ! もっとも難しい事は自分を乗り越える事じゃ!
相手を打ち負かすのではなく、己を乗り越えてみせよ!」
「ありがとうございます! 師匠!」
その場のノリで発言しただけなのだが、イズクは凄く嬉しそうに返事をしてくれた。
相変わらず弟子の師匠への信頼度とか思い込みが激しすぎると感じつつ、何だか恥ずかしいやら申し訳ないやら居た堪れなくなる。
しかしいよいよトーナメントの第一試合が始まるので、これ以上の妾の出番はないのだった。
少し話はそれるが、対戦相手である心操少年の個性は既に知っている。
イズクも当然対策しており、一言も喋らないように気をつけていた。
彼の言葉に返事をすると洗脳されるが、まともに戦えば弟子にも負けることはない。
しかし発動条件が緩い強個性なのには違いなく、油断は禁物である。
そして妾としては、彼が何で普通科にいるのかがわからない。
きっと実技試験がロボだったせいだが、ぶっちゃけ洗脳という言葉の響きがヴィランっぽい以外の欠点はなく、普通科ではなくヒーロー科に入れるべき優秀な人材だ。
戦闘訓練で何度か相見えたことで実力は把握できたので、妾が先生たちに直談判して彼をヒーロー科に編入させるようにと頼んでおいた。
とにかくそういうわけで、雄英体育祭の結果がどうなろうと、心操少年がヒーロー科に繰り上げになるのはほぼ確定だろう。
彼から妾に感謝を伝えられたが、当たり前のことをしただけでなので気にしないで良いと返事をしておいた。
だが編入が決まっても雄英体育祭で一位を目指すのは変わらず、トーナメント戦でも降参する気はないようだ。
妾は一切手を貸すつもりはないため、弟子の純粋な実力が問われることになるのだった。
現実に戻って、互いに舞台に上がる。
大勢の観客が固唾を呑んで見守る中で、所定の位置について向かい合う。
そして試合の開始を告げられる前に、心操人使が心底申し訳なさそうな顔を妾に向けて、一言謝罪をした。
はてと首を傾げていると、すぐに真面目な表情に変わってイズクを真っ直ぐに見つめて大声を出す。
「お狐様のファッション! 笑っちまうぜ! 緑谷!」
いきなり何を言い出すのかと困惑するが、妾はこれは心操少年が個性を使うために挑発しているのだと気づく。
イズクも彼が、何を狙っているのかは知っている。
発動条件を満たさないためには、返事をせずに黙っているしかない。
「二、三十年前の古臭い萌えキャラなんじゃぁないのぉ?
可愛いと思ってるのかよぉ!」
試合が始まるまで、手を出すことはできない。
ひたすら沈黙して耐える。
心操少年をぶん殴るか場外に押し出せばイズクの勝ちだ。
弟子もそのぐらいはわかっているが、妾が馬鹿にされたのが許せないらしい。
「……こう言われるとキレるんだよなぁ!」
口は開かないが青筋を立てている。
たったアレだけの暴言で、静かにブチキレていた。
「信じられない性格だが、師弟関係は嘘をつかない!
百パーセントの真実だ!」
心操少年の読みは正しく、イズクはまるで瞬間湯沸かし器のように沸騰して大声で叫ぶ。
「……今、何て言ったんだっ!!!」
試合はまだ始まってないので、殴りかかりはしない。
だが今にも襲いかかりそうな形相だ。
「もう一度言ってみてよ! 心操君!」
「……返事をしたな」
もはやイズクは完全にプッツンしていて、とても冷静ではいられない。
この時点で心操少年の個性、洗脳の発動条件を満たしてしまった。
しかし開始の合図を告げられる前に、解除される可能性もあると考えたのかも知れない。
作戦を盤石にするために、さらに弟子を煽り続ける。
「聞こえなかったのか? 緑谷の師匠はなぁ!
自分では可愛いと思ってるようだが、全然似合ってないぜ!
はっきり言って、……ダサい!」
そもそも妾のファッションはデフォルトで、転生したときからこの巫女服だ。
そんなの言われても知らんしで済んでしまうし、可愛さに拘るよりも日向ぼっこのほうが圧倒的に上である。
「師匠の狐耳と尻尾も! 小汚い野生動物なら、仲間と勘違いして寄ってくるかもなぁ!
緑谷! ひょっとしてだけどな!」
心操少年は口だけでなく表情まで陰湿な笑顔に変わり、イズクを挑発してくる。
そして弟子は、彼の作戦にまんまと乗せられて大声で返事をした。
「絶対に許さないぞ! 心操君!」
「第一試合、開始っ!」
そのタイミングで、試合が始まった。
しかしブチ切れて殴りかかろうとしていたイズクは洗脳にかかり、その場から一歩も動けない。
「……俺の勝ちだ」
心操少年が勝利を確信して、このままイズクが参ったと言うか場外まで歩かせれば勝負ありだ。
彼は物言わぬ人形になった弟子に、勝ち誇った笑みを浮かべて新たに命令しようとした。
しかしその時、不思議なことが起きた。
「ほげえっ!?」
イズクは指一本動かせないはずだ。
しかし何故か、心操少年が殴られた。
なお弟子は洗脳にかかってから一歩も動いていないし、完全に棒立ちである。
ならば顔面パンチを叩き込んだのは誰かと言うと、妾ではない。
いつの間に現れたのか、もう一人の筋骨隆々の大男であった。
これには解説の先生二人も、びっくりである。
「ありえねえ!? 二人目の
「緑谷はお狐様の弟子だ。そういうこともあるだろう」
解説役のプレゼントマイクの反応は正しく、試合を見ている人々の心の声を代弁している。
そして相澤先生は、妾と接する機会が多い。
理不尽には慣れてしまったようで、こういうこともあるよねと受け入れていた。
とにかくイズクの体から放出されている生命エネルギーから、
そんな弟子の体から分離した若かりし頃のオールマイトっぽい
しかもイズクはあろうことか洗脳を自力で解除して、今度は二人がかりで強烈なラッシュを繰り出した。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
ブチ切れているように見えても、手加減はしているようだ。
殺しはしないが心操少年を一方的にボコボコにしていき、審判的な立場にいるセメントス先生がこのままでは不味いと判断し、慌てて止めようとする。
「オラアッ!!!」
謎の
憂さ晴らしに、最後に重い一撃を叩き込んで心操少年を場外まで吹っ飛ばした。
ここに勝敗は決したのであった。
「なっ、何だ!? 一体!? 確かに、返事をさせて、洗脳にかかった、はずなのにぃ!」
心操少年は場外の地面に落下してうつ伏せになり、自身に何が起きたのか把握できていないようだ。
オールマイトの
「かっ、確実に洗脳したのに! なっ何故!?」
恐らくオールマイトの
ジョジョの原作では超能力を可視化した姿なので、こちらの世界では個性が一時的に形を持った可能性が高い。
そう妾が考えている間に、弟子は心操少年に向かって大声で叫ぶ。
「師匠を貶したら許さない! 何者だろうと、黙ってはいない!」
ゆっくりと彼の元に歩きながら、イズクは敗北の原因を説明していく。
「キミの敗因は、たった一つだよ。……心操君。
たった一つの、
どうやら今も、ガチギレしているようだ。
普段の冷静沈着で心優しいイズクとは思えない、妙な行動やポーズを取っている。
「キミは師匠を侮辱した!」
まだまだ殴り足りないという顔をしたまま、イズクは堂々と言いきった。
妾としては、なんでやねんとツッコみたい衝動に駆られる。
「すっ……すまなかった!
あっあれは確実に洗脳をかけるための、作戦だったんだ! 許してくれ!」
どうやら心操少年は、今の理由に納得したようだ。
心の底から申し訳ないような表情をしている。
妾はトーナメントには手を貸さない約束をしてる。
口出しすれば余計に混乱しそうなので自重しており、深刻なツッコミ不足であった。
「わかってたよ。心操君が師匠のことを、本気で侮辱するはずがないって」
「ああ、お狐様は俺も尊敬するプロヒーローだからな」
妾は何だか凄いことになっちゃったぞと思いながら、若干引き気味になりながら経過を見守る。
「だから、僕こそごめん。
いくら師匠が侮辱されたからって、ついカッとなって我を忘れてしまって」
良くわからないが、仲直りしたようだ。
妾としてはイイハナシダッタノカナーである。
そんな複雑な心境はともかく、イズクは場外に吹き飛んだ心操少年の元まで歩いて行き、優しく手を差し伸べる。
「心操君場外! 緑谷君! 二回戦進出!」
18禁ヒーローのミッドナイトが、堂々と宣言する。
そのあとにも心操少年は弟子だけでなく、妾に何度も謝罪してくれた。
取りあえず、予想外の事態は起きたがイズクの勝利で第一試合は終わったのだった。