近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊   作:名無しの狐信者

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最近の中学生は良くわからぬのじゃ

 休日が終わり、イズクは筋肉痛の体を引きずりながら中学校に登校した。

 

 妾の存在が余程珍しいのか、とにかく行く先々で注目を浴びる。

 けれど真面目に対応する気など毛頭なく、取りあえず空中をフヨフヨと漂って微笑みながら、軽く手を振っておいた。

 

 今も結構な数の男子生徒が、顔を赤らめている。

 しかし妾の見た目は、十歳の狐っ娘だ。

 

 可愛いのは認めるし、イズクも似たような年齢ではある。

 一目見てそれとは、何とも惚れっぽいものだと大きく息を吐く。

 

 今は実体化していないので、半透明な霊的な存在だ。

 話しかける勇気を持った人はいないので気楽で良く、そもそも訓練や家事手伝いをするとき以外は、いつもこの状態である。

 

 

 

 何はともあれ、イズクは教室に入って席についた。

 するとツンツン頭で目付きの悪いガキ大将的な男子生徒が、ズンズン歩いてこっちに近づいてくる。

 

「おい! コラっ! デク!」

「かっ、かっちゃん!?」

 

 どうやらかっちゃんという名前のようだ。

 数人の取り巻きと一緒に、イズクを取り囲んで威圧する。

 

「何勝手に個性に目覚めてやがる! デクは無個性のはずだろ!」

「えっ、ええとっ! これには色々事情があってっ!」

 

 相当お怒りのようで、両手に炎というか火花を出して脅している。

 イズクはビビってあたふたし、腰が引けていた。

 

「まあどんな個性だろうと、爆豪の爆破にゃ敵わないけどな!」

「そうそう! 緑谷がザコなのは変わらないっての!」

「これからも目立たずに、大人しくしてるのが賢い生き方だぜ!」

 

 イズクが取り巻きに馬鹿にされて、少しだけ溜飲が下がったようだ。

 かっちゃんと呼ばれた少年は、それ以上は何も言わずに鼻息荒く背を向けて去っていく。

 

 妾には人物関係が良くわからないので、フヨフヨと近づいて率直に尋ねてみる。

 

「イズク、今の生徒は誰じゃ?」

「彼は爆豪勝己君。

 僕の幼馴染で、かっちゃんって呼んでるんだけど」

 

 冷や汗をかきながら小声で教えてくれた。

 空中に浮遊しながらお気楽に聞いていたが、複雑な事情がありそうなのは何となく察する。

 

「地元の中学校でも一番強いって言われてる。

 僕もそう思うし、実際にかっちゃんは凄いよ」

「ふーむ、なるほどのう」

 

 わかったのは、イズクは中学一年で爆豪勝己も同じ教室にいる。

 そして彼には上級生も勝てないらしく、現時点で相当な強さということだ。

 だからなのか、少々天狗になっているように思えた。

 

「まあ、妾の敵ではないのう」

「ああん! 何か言ったか! そこの狐女っ!」

 

 耳が良いのか聞こえていたようで、爆豪少年はこっちは睨みつけてくる。

 

 妾は何処吹く風だが、イズクがガタガタ震えていた。

 これは流石に可哀想に思えて、深く考えずに行動に出る。

 

 実体化して爆豪少年の前まで移動し、右拳を彼の目前で寸止めしたのだ。

 

「なっ!?」

 

 手加減したので大した威力ではないが、教室に一陣の風が吹いた。

 彼の短髪もブワッとなびいたので、かなり驚いたに違いない。

 

「なっ、何しやがった!? 狐女!」

 

 爆豪少年が不敵な笑みを浮かべる妾に、冷や汗をかきながら質問してきた。

 

「別に何もしておらんよ。

 普通に近づいて、拳を寸止めしただけじゃ」

 

 超パワーは腕力だけではなく、スピードもだ。

 それに、石を砕いたのも全力ではない。

 

 その気になれば、さらに出力を引き上げることができる。

 だが必要がない限りはやらないし、近所迷惑になるうえ持て余すに決まっていた。

 

 なので普段はセーフモードの一尾状態で、解放するたびに尻尾が増えて最大九本になる。

 ちなみに体型は変わらないし、この状態でも思いっきり手加減しているので、全力を出す機会は多分ない。

 

 

 

 常人と比べれば明らかに過剰なパワーを有している狐っ娘は、何の訓練もしていない者に見切れる動きではない。

 ヴィランがどの程度の強さかは知らないが、常人ならば今のように手加減したワンパンで片付けてしまえる。

 

 

 

 爆豪少年は妾が不敵な笑みやマイペースを崩さないことで、今の発言が事実だと気づいたようだ。

 なおイズクは一尾が妾の完全形態だと思ってるが、わざわざ吹聴する必要もないので黙っている。

 

 それはそれとして、爆豪少年は悔しそうに唇を噛んでいた。

 

「妾の行動範囲は、イズクから半径十メートルじゃ。

 もし圏内にお前がおれば、一秒もかからず殴り倒すことができるぞ」

 

 そう言って妾は霊体化した。

 さらに周囲の人間には消えたと錯覚する速度で、イズクの下に戻る。

 

 再び宙を舞い、眠そうにアクビをした。

 

「そういうわけで、あまり妾の手を煩わすでないぞ。

 いちいち対応するのが、面倒じゃからのう」

 

 イズクのことをよろしくと、引子さんに頼まれている。

 なので一応は親が見ていないときの保護者代理であり、何かあったら妾が重い腰をあげなければいけない。

 

 けど、それは面倒なのでやりたくないし、できることならのんびり気楽に過ごしたいのだった。

 

 

 

 

 

 

 どうやら妾が爆豪少年にパンチを寸止めしたせいで、火に油を注いだようだ。

 あれ以降、ことあるごとに勝負を挑んでくるようになった。

 

 内申点に響かないように、正々堂々で潔い。

 だが勝負が始まれば、勝つためには手段を選ばない。

 しかしヒーローは警察官よりも死亡率が高い職業だし、生き延びるために色々やるのは正しいことだ。

 

 そんなことを考えながら、死角から突っ込んでくる爆豪少年の軸足を、しゃがんで軽く払い、こってんと横転させる。

 

「がはっ!? くっ、くそがぁっ!」

「足元がお留守じゃぞ」

 

 個性の使用は、原則として禁止されている。

 人目が多い学校でやり合うには、どうしてもそれなしの格闘での戦いになるのだ。

 

 妾も禁止カードに含まれてはいたが、素手なら問題はないらしい。

 個性にも異形系とか常時発動型とかあるし、自分もその範疇に含まれたのだろう。

 

 

 

 しかし爆豪少年は妾に完膚なきまでに敗北して、今のままでは絶対に勝てないと自覚してしまった。

 だが諦めることはなく、何が何でも超えてやると意気込むのは、何ともヒーローらしい。

 

 ちなみに何故か、イズクまで戦闘訓練をつけて欲しいと頼み込んできたのは、少しだけ驚いた。

 

「ここだっ!」

 

 立ち上がりつつある妾の背後から、今度はイズクが殴りかかってくる。

 

「不意打ちは良いが、遅いのう」

「わあっ!?」

 

 妾が尻尾を軽く振って突風を起こすと、イズクが吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がる。

 ちなみに運動場で白線で直径十メートルの丸を描き、そこから出てはいけないルールで戦っている。

 

 手加減したので場外ギリギリで踏み留まり、イズクは荒い呼吸を繰り返しながらヨロヨロと立ち上がった。

 

「ふむ、疲れておるようじゃし、今日は終わるか?」

 

 妾は居候の身なので、このあとは緑谷家に帰ってからの家事手伝いが控えている。

 引子さんからは別にやらなくて良いと言われているが、それでは自分の気が済まないのだ。

 

「もう少し! もう少しだけ、お願いします!」

「へっ! デクはバテてても、俺はまだまだ余裕だぜ!」

 

 二人共やる気十分だが、中学校の運動場もいつまでも借りているわけにはいかない。

 夕暮れも沈みかけているし、こっちをチラチラ見ている運動部も片付けに入っているのだ。

 

 流石に下校時間を過ぎても、居残りを続けるのは不味い。

 内申点に影響が出てしまうため、妾は例のことを二人に告げることにした。

 

「妾は疲労で動けなくなったあとに、家まで送り届けるのは嫌じゃからな」

 

 イズクはまだしも、爆豪少年の家族には妾の顔を覚えられている。

 彼の身の上話を聞かされるうえに、ついでに夕飯も食べていかないかと誘われるのだ。

 

 最近は息子が丸くなって良く家事を手伝ってくれるらしく、彼が変わったのは妾が関わっていると思われているらしい。

 

 全くそんな気はしないので、何でやねんとツッコミたい。

 

 けれど妾とは口が悪いが割と普通に話せても、イズクとは相変わらず仲が悪い。

 

 なので毎回申し訳なく思いながら断るのだが、相手の善意を無下にするのは大変心苦しくて、あまりやりたくないのだ。

 

 

 

 幸いなのは手加減しているので、二人共擦り傷や打撲程度で済んでいることだ。

 おかげで引子さんのほうは、運動部的なノリであらあらまあまあで済む。

 

 しかし爆豪母には、その面倒見の良さが高く評価された。

 『勝己に取り憑かない?』と熱心に誘われたときには、冗談だとしても思わず顔がひきつる。

 

 あとはやけにグイグイ来て、ことあるごとにのじゃロリ狐っ娘を愛でようとするため、ちょっとだけ苦手なのだ。

 

 妾は見た目は幼女でも、転生する前は多分そこそこの年齢だったはずだ。

 朧げなので確定ではないが、少なくとも『よーしよしよし!』される歳ではない。

 

 なので、あまり愛でられると小っ恥ずかしい。

 顔を真っ赤にして、勘弁してーと逃げたくなる。

 

 そんな内心の嫌々が伝わったかは定かではないが、流石に毎回幼女に抱えられて帰宅するのは、二人とも恥ずかしいようだ。

 

 今日の訓練はまだ余力があるうちに、早めに切り上げられたのだった。

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