近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
飯田少年の居た場所は、狭い路地裏だった。
相手は過去に多くのプロヒーローを殺してきた凶悪なヴィランだ。まだ学生の彼が勝てるはずもない。
もう一人のヒーローと共に、地面に倒れ伏していた。
妾が上空で青龍を消す直前、イズクは居ても立っても居られないのか一足先に飛び降りる。
そして十分に接近したとき、ヒーロー殺しステインがこちらに気づくが遅い。
「むっ!?」
イズクは途中からビルの壁面を蹴りながら高速で接近して、包帯を巻いたヴィランを殺さない程度に加減して殴りつける。
「
飯田少年は左腕を刺されかけてたので、本当に危機一髪だった。
敵を後退させ、ヒーロー着地で格好良く降り立ったイズクは、顔をあげて友人を安心させるためにぎこちない笑顔を浮かべる。
「助けに来たよ! 飯田君!」
殴って吹き飛ばしたヒーロー殺しだが、あの程度で再起不能にはなっていない。
倒れる前に踏み止まり、素早く体勢を立て直す。
その先の大通りには、何故か燃えるゴミは月・水・金と表記されたゴミ収集車が停まっていたが、残念ながらボッシュートするには威力が足りなかったようだ。
きっと途中で奇襲に気づいて、拳が当たる前に咄嗟に飛び退いたからだろう。
ダメージも軽いようで、油断なくこちらの様子を伺っている。
「緑谷君! 何故!」
「師匠が、この場所に導いてくれたんだ! 飯田君に渡した、お守りのおかげだよ!」
飯田少年の場所はわかっていたが、結界が壊れるまでは大丈夫だと思っていた。
しかし脳無を片付けている間に、案外早くに破壊されてしまう。
これは不味いと判断し、文字通り飛んできたのだ。
「動ける? 大通りに出よう! プロの応援が必要だ!」
こういうときにイズクは頼りになるし、自分の立場というのを良くわかっている。
職場体験中でヴィラン退治が目的とはいえ、学生の身なので戦闘行為はあまりよろしくない。
あとで説教や責任を取らされるか、わかったものではなかった。
なので、この場合は免許を持ったプロに任せるのが正解だ。
妾も非常時以外は面倒だし、あまり動きたくはない。
今現在、周辺都市のヒーローが大勢集まってきている。
ステインに逃げ場はなく、本職に手柄を譲ることに抵抗はなかった。
だが残念ながら、そう上手くはいかないようだ。
「体を! 動かせない! ……斬りつけられてから! 恐らく、奴の個性!」
「ワイドショーの解説者が推測してた通りだ! 斬るのが個性の発動条件ってことか!」
相手の動きを封じるとは、何とも厄介な個性だ。
妾には及ばないが、どんな相手でも不意打ちが成功すれば負ける可能性がある。
妾がそんなことを考えている間にも、二人の会話は進んでいく。
「緑谷君! 手を……出すな! 君は、関係ないだろ!」
「何、……言ってんだよ!」
本当にこの状況で何を言っているやらだ。
第三者的な視点で見守っている妾は、思わず呆れてしまった。
「仲間が助けに来た。良い台詞じゃないか。だが俺は、コイツを殺す義務がある。
ぶつかり合えば当然、弱いほうが淘汰されるわけだが。
……さあ、どうする?」
イズクはヴィランの本気の発言と視線を受けて、威圧されて冷や汗をかいている。
やはりまだ学生で、プロのヒーローではない。
この場を任せるには荷が重いと判断した妾は、弟子の代わりに前に出る。
「ふむ、真理じゃな。
ならば、妾が相手になろう」
不敵な笑みを浮かべて、ヒーロー殺しを真っ直ぐに見つめる。
彼は口を開かず、油断なく武器を構えた。
「イズクは斬るのが発動条件と言っておったが、妾を斬れると思うておるのか?」
ヒーロー殺しがいくら身体能力が高くても、妾はその遥か上をいく。
「その程度の武器では傷一つつかぬし、お主の動きなど止まって見えるわ」
それに彼は、異形系の個性ではない。
訓練や経験で底上げすればイズクや飯田少年にとっては強敵になるが、妾にとっては大した相手ではなかった。
取りあえずイズクには念話で指示を出して、さらに一歩踏み出す。
次に右手を中心に無数の狐火を出現させ、次々と凝固させてはヴィランに向けて高速で射出する。
「
「ちいっ!?」
一発でも当たれば、ヒーロー殺しは少なくないダメージを受ける。
そして避けるにしても隙ができるが、敵もさる者であった。
軌道を読んで全ての弾を弾く、もしくは躱してしまう。
「ふんっ、この程度か!」
見切れない攻撃ではないと判断したのか、今度は妾を挑発してくる。
しかし、これは最初から仕組んでいたことだ。
「甘いのう! 妾の
「何ィ!?」
何処の飛天御剣流だよとツッコミが入る者は、この場には居なかった。
ヒーロー殺しステインは素直に驚く。
そして射出した無数の狐火は、狙いが外れて明後日の方向に飛んでいっていない。
彼の周囲を囲むように動きを止めているのだ。
なおかつ今のステインは、攻撃を避けるために跳躍し、逃げ場のない空中にいた。
「くらえッ! ステインッ!
半径20メートル!
なお路地裏はそんなに広くないので、半径20メートルも間隔はない。
それに
ステインは迫りくる無数の宝石を慌てて回避しようと、武器を高速で振り回して弾き返す。
しかしそれができたのは、最初の数発までだ。
以降は立て続けに体に当たり、やがて痛みで気を失ってしまう。
全身からおびただしい血を吹き出し、白目をむいて地面に落下していく。
妾はそれを見て、右手をかざして大声で叫ぶ。
「
頭からコンクリートに激突したら、首の骨が折れて死んでしまう。
なので
イズクには怪我をしたヒーローと飯田少年を回収と、簡単な治療をしてもらう。
今のステインは
妾が駆けつけてから被害は出ていないので、結果を見ればまあ良い方ではなかろうかだ。
一息ついて倒れている飯田少年に顔を向け、先程の会話で少し気になったので尋ねてみる。
「飯田少年よ。お主は何になりたいのじゃ?
復讐者か、それともヒーローか。
今一度己を見つめ直し、良く考えることじゃな」
あとは飯田少年が乗り越えることで、妾にできるのはアドバイスぐらいだ。
彼は真剣に悩んでいて、イズクは心配そうに見つめて友人として話しかけている。
だがまあ取りあえず、ヒーロー殺しステインは完全に無力化したのだ。
これ以上この場に留まる理由もなく、怪我をした二人を連れて路地裏から表通りに出ていくのだった。