近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
ヒーロー殺しステインを捕縛したので、ミノムシ状態にして引きずって移動する。
しかし裏路地から出てすぐに、グラントリノがイズクを目がけて蹴りつけてきた。
取りあえず妾が前に立って片手で受け止め、軽く流して老人を地面に下ろす。
「よっ……と」
「んなっ!?」
まさかあっさり止められるとは思わなかったようだ。
驚いているグラントリノに、妾は丁寧に謝罪する。
「イズクを巻き込んだのは妾じゃ。
プロヒーローとして傷一つなく守り抜いたゆえ、弟子を責めるのは止めてくれぬか」
「まあ良くわからんが、無事なら良かったよ」
グラントリノは新幹線の座席に座っていろと言っていた。
勝手に離れたのがご立腹のようだが、結果的には怪我もなく無事だったのだ。
取りあえずは、終わりよければ全て良しと判断したらしい。
そして一件落着と安堵していると、遠くから大勢の足音が聞こえてくる。
「この辺りだ!」
どうやら、プロヒーローの増援が駆けつけたようだ。
「エンデヴァーさんから、応援要請を承ったんだが!」
「……子供!?」
「酷い怪我じゃないか! 今すぐ救急車を呼ぶか!」
最初はプロヒーローと飯田少年の姿に慌てた様子を見せて、次に気を失ってミノムシ状態になっているステインに気づく。
「おい、コイツ!」
「まさか! ヒーロー殺し!?」
「すぐ警察にも連絡だ!」
ヴィランは全身傷だらけなうえ、
慌てる必要はないのだが、こうしてはいられないと彼らは忙しく動き出すのだった。
ちなみに轟少年も弟子の連絡を受けて、遅ればせながら駆けつけてくれた。
今はイズクと飯田少年と、割りと真面目な話をしている。
そして妾は、我関せずと夜空の星々を眺めながら話半分に聞き流していた。
(しかし、いつまで拘束しておれば良いのじゃ?)
今は
それがもっとも安全であり、ヴィランが何もできないからだ。
だが、ずっとこのままなのは勘弁して欲しい。
能力を発動した状態では霊体化できないし、何より早いところ身軽になって気楽に眠りたかった。
しかし、万が一でも逃げられたらそれはそれで面倒だ。
(取りあえず、エンデヴァーが到着するまで待つか)
少なくともナンバーツーヒーローに管理を任せれば、あとは野となれ山となれだ。
そのあとに何が起きても妾は預かり知らぬし、後方腕組み師匠ポジとしては責任を全うしたといえる。
なので妾は、引き続き夜空を眺めてボケーっとしていた。
すると狐耳が妙な音を感知し、そちらに顔を向けて目を凝らす。
さらに感覚を研ぎ澄ませ、右は塞がっているので左手を向ける。
あらかじめ狙いを定めておき、狐火を集中させて大声で叫ぶ。
「
収束させた狐火が解放され、一直線に飛んでいく。
そして空を飛んでこちらに急接近しつつあった脳無が、ビルの影から現れた瞬間に直撃して黒焦げになる。
いわゆる、出待ちというやつであった。
なおジョジョの原作に出てくる
「雉も鳴かずば撃たれまいて」
妾は仕事が終わったので、意味があるようで全くない言葉を呟いて、焼け焦げて地面に落下していく脳無を眺める。
殆ど死にかけだが、無駄にしぶといヴィランにうんざりだ。
だが今の危機的状況を感じと取ったのか、ステインが何故か気絶から目覚める。
そして、突然叫び声をあげた。
「偽者が蔓延るこの社会も! いたずらに力を振りまく犯罪者も! 粛清対象だ!
全ては! 正しき社会のために!」
妾は何を言ってるんだコイツと、呆れた顔でヴィランを眺める。
そもそも彼は、ミノムシ状態から全く変わっていない。
たとえ隠し武器で逃げ出そうとしても、
しかし護送車に乗せられたら、こうやって喋る機会がなくなってしまう。
ならば今のうちに主張しておきたいと、そう考えているのかも知れない。
「偽者は! 正さねば! 誰かが! 血に染まらねば!
ヒーローを! 取り戻さねば! こい! 来てみろ! 偽者ども!」
そうは言っても無駄に大音量で誰彼構わずに威圧するので、少々鬱陶しい。
妾は少しイラッとして、この辺りで良いかなと、拘束を強めて口を封じにかかる。
「俺を殺していいのは! 本物のヒーロー! オールマイトだけ……むぐっ!?」
「それ以上喋るな。鬱陶しい」
ステインを口元もグルグル巻きにして地面に転がしたが、辛うじて呼吸ができる状態を維持している。
しかし周囲の人たちは、ヒーロー殺しの威圧感にすっかり飲まれてしまった。
エンデヴァーでさえも何もできずに突っ立っているが、そんなのは妾には関係ない。
床ペロしている彼の前に立ち、見下ろすように声をかける。
「何が本物のヒーローじゃ。
他人に勝手な理想を押しつけるだけでなく、断罪するなど」
たとえ正義のためだとしても、やってることはまるっきりヴィランである。
結果的に大勢のヒーローの命を奪って、社会を大いに混乱させた。
「理想を持つのは良いが、全てのヒーローにオールマイトと同じになれじゃと?」
確かにオールマイトのような人が増えれば、世界は平和になる。
だが妾は自己犠牲精神の塊にはなりたくないし、あれは彼だからできることだ。
「オールマイトが、何故平和の象徴と呼ばれておるかわかるか?
オールマイトだからよ!」
幸い何処の虎だよとツッコミを入れる人は、この場にはいなかった。
しかし妾がこの世界に転生して三年ほど経ったが、何とも歪な社会構造だ。
人々はオールマイトという偉大な英雄に心酔し、まるでヒーローショーを見物する子供のように、安全な観客席から好き勝手に騒ぎ立てたり野次を飛ばす。
それによって生じた結果や被害は、全てヒーローが責任を取らされるのだ。
ぶっちゃけ溜まったものではないし、妾がやりたがらない理由の一つになっている。
「大多数の人々が憧れる英雄は確かに素晴らしいが、もう少し現実を見たほうが良いぞ」
どうやら妾も相当ストレスが溜まっていたらしい。
目の前の彼は理解者ではないが、日頃の不満をぶつけるにはちょうど良い相手だ。
「まあ平和を成すにはヒーローは必要じゃし、救われたり安心する人々も大勢おるがのう」
オールマイトのおかげで犯罪率が下がっているし、彼は日々大勢の人々を救い続けている。
妾は全く真似したいとは思わないが、立派な心がけなのは間違いないだろう。
「じゃが、お主のように決して救われぬ者もおるのも、また事実」
妾はここで大きく息を吸って、ヒーロー殺しを真正面から睨みつけて続きを喋る。
「ゆえにヒーローとは、決して特別な存在ではない。
オールマイトは確かに偉大じゃが、彼も人間じゃからな」
ヒーローはイメージが大切なので犯罪報告が表に出てくることはない。
だが妾は、それはおかしいと思っている。
誰かが秘密裏に処理している可能性が高くても、興味はないしわざわざ関わりたくもない。
「……のう、ステインよ」
妾は少しだけかがんで、彼と目線を近くする。
いい加減に面倒になってきたので、強引にでも終わらせることに決めたのだ。
「妾はな、結果だけを求めてはおらぬ。
結果だけを求めていると、人は近道をしたがるものじゃ」
前世のサブカルチャーから適当な台詞を引っ張り出して、さも訳知り顔で語っていく。
「近道した時、目標を見失うかもしれぬ。
やる気も次第に失せていく。大切なのは目標に向かおうとする意志じゃと思っておる」
誰もが妾の言葉に耳を傾けて、一言も喋らずに聞き入っているようだ。
まさか漫画やアニメから引用したなんて言えないので、内心はともかく表面上は落ち着いて話していく。
「向かおうとする意志さえあれば、たとえ今回は結果が出せなかったとしても、いつかは目標を達成できるじゃろう?」
ステインは口を封じているので何も喋れないが、妾のことを真っ直ぐに見つめている。
何を言いたいのかは全くわからないけど、取りあえず落ち着いてくれたようだ。
「向かっておるわけじゃからな。……違うか?」
取りあえず言いたいこと言い終わったので、ゆっくりと立ち上がってステインに背を向ける。
「それにお主が心配せずとも、新たな英雄たちは着実に育っておる。
まあ誰がオールマイトの後を継ぐかは、妾は知らぬし興味もないがのう」
順当に考えればイズクだが、妾は別に誰が平和の象徴になっても構わない。
凶悪なヴィランが多いのは困るけれど、頼りになるヒーローは何人居ても困らないのだ。
それに最高のヒーローになりたいという弟子の夢は、師匠として応援はしている。
だがオールマイトの後継者だけが唯一の道ではないし、イズクの夢は妾のようになりたいなので、全世界に羽ばたくトップヒーローとは違うのかも知れない。
とにかく一息ついてイズクたちに視線を向けたあと、ステインと話すのも飽きてきたのでアクビが出てしまう。
いい加減に何処か静かな場所で眠りたいので、妾はヒーロー殺しをエンデヴァーにパスすることにした。
「エンデヴァー。あとは任せて良いか?」
「……は? あっ、ああ、わかった! あとは任せろ!」
どうやら妾の出番は終わりのようだ。
ただし新たに拘束するまでは、念のために
それにしても、長い一日だった。
そんなことを考えながら、妾はエンデヴァーたちが彼を縛りあげるのを注意深く観察するのであった。
イズクは怪我はしていないが、念のために病院で検査を受けることになる。
飯田少年のお見舞いもあるので個室に向かうと、警察署の署長がグラントリノに案内されて妾に会いに来た。
「君がヒーロー殺しを仕留めた。お狐様だね」
「うむ、成り行きじゃがな」
犬の顔をした署長に、妾ははっきりと告げる。
ちょうど轟少年も見舞いに訪れていたので、三人一緒だ。
ちなみに長々と説明されたが、ようはヒーロー殺しステインを捕まえたのは、全て妾の活躍にしたいらしい。
イズクはともかく、飯田少年と轟少年は不幸にも巻き込まれた被害者にするようだ。
個性を使った暴力行為を禁止することで、治安を保っているヒーロー社会だ。
非常時だから仕方ないと学生の勝手を認めてしまえば、前提条件が崩れて社会に混乱をもたらす可能性もある。
なので相変わらず自覚はないが、一応はプロヒーローである妾を功労者にしたほうが警察組織としては都合が良かった。
何より、夜空に輝く青龍に乗っての移動は、かなり目立つ。
証拠映像も多数撮られていたことから、もはや誤魔化しようがなかった。
まあ署長が言っていることは一から十まで全部事実だし、反対する理由も特にない。
雄英高校の三人も納得してくれたようだ。
話し合いもまとまり今回の事件は、妾が八面六臂の大活躍の末に解決したのだと、警察や公安を通じて大きく発表したのだった。