近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
I・アイランドなのじゃ
予想はしていたがヒーローと警察が緊急捜査にあたっても、死柄木弔は発見できなかった。
不幸中の幸いなのは、被害が出なかったことである。
それにイズクはまだ学生で、妾も熱心にヒーロー活動をする気はない。
ゆえにあとは本職に任せて、引子さんが待つ我が家に帰って平穏な日常に戻るのだった。
それはそれとして林間合宿の前に夏休みに入るわけだが、何故か妾とイズクはオールマイトと一緒に海外に行くことになる。
場所は一万人以上の科学者たちが住む学術人工移動都市。I・アイランドだ。
妾はのんびり日向ぼっこできれば良いので、これっぽっちも興味はない。
しかしイズクは違うようで、飛行機の窓から興味津々といった様子で遠くに見える島を眺めている。
やがてI・アイランドにもうすぐ到着するのだと、機内放送が流れた。
オールマイトは席から立ち上がって、波紋の呼吸を整える。
「さて、なかなかにしんどくなるな。
何せ向こうについたら私は──」
そう言って画風が異なるムキムキの巨体に変わるが、一応これでも昔と比べればマシなったほうだ。
「マッスルフォームで居続けないといけないからね!」」
ウトウトしていた妾は大きく伸びをして、オールマイトに告げる。
「いくら回復したとはいえ、あまり無理をするでないぞ」
「大丈夫さ! 言われた通り、波紋の呼吸を心がけているからね!
おかげで十年以上、若返った気分だよ!」
実際にリサリサ先生も若い姿を保っていた。
そういう効果があっても不思議ではないが、妾が忠告しているのはそれではない。もっと別のことだ。
「そうではない。お主の個性は昔とは違うのじゃ。
仮にワンフォーオールリペアと呼ぶが、継続時間には気をつけるのじゃぞ」
肉体の負担はないが、変身の継続時間は有限だ。
ワンフォーオールの残り火をリペアして、己の個性に変えてしまったのは驚いたが、それでも欠点はある。
「今のお主なら、変身を解除しても体が少ししぼむぐらいじゃ。
しかし、オールマイトはマッスルフォームで通っておるからのう」
「ううむ! これでも食事やトレーニングには気を使っているんだが!
まだまだ、全盛期には程遠いね!」
胃が完全に修復されたのは最近なので、体格は戻りきってはいない。
まあ別に妾は一から十まで面倒を見る気はないし、そこから先は適当に流しておく。
だがマッスルフォームをどうすれば長時間維持できるかと尋ねられたので、生命エネルギーを感知できる妾が付きっきりで指導した。
彼は天才だが感覚派なので説明を理解できないことが多々あり、イズクに翻訳を頼んだりと、かなり苦労したのだ。
おかげで激しい運動をしなければ、殆ど変身したままで過ごすことが可能になる。
ただしこの状態は見た目だけの偽筋で、パワーはトゥルーフォームと変わらない。
ちょっとマッチョな一般人ゆえ、ヒーローとしては戦力外だ。
「何かあればイズクを頼れ。お主の正体がバレては困るからのう」
するとオールマイトはおどけた様子で、笑いながら妾に尋ねてくる。
「お狐様は助けてくれないのかい?」
「面倒じゃ」
アイアイランドにもオールマイトにも興味はない。
イズクが行くから妾も付いてきただけで、それ以上の意味はなかった。
基本的に、のんびり日向ぼっこができれば良いのだ。
しかし自分の時間を邪魔されるのは我慢ならないし、睡眠を妨害されたくはない。
好き好んで人助けなど、したくはなかった。
「それにイズクはお主の弟子で、協力し合うのは当然であろうが」
「そっ、その通りだ! 悪いがもしものときは、よろしく頼むよ! 緑谷少年!」
「いっ、いえ! こちらこそ、よろしくお願いします! オールマイト!」
ワンフォーオールを継承した弟子のイズクだが、何だかオールマイトよりも妾のほうが師匠っぽいことをしている気がする。
だが彼は歴とした雄英高校の教師だ。
一応は免許も持っている先生なので、それはないかと思い直すのだった。
I・アイランドの空港の通路を歩いていると、I・エキスポのプレオープン中だと放送が流れた。
そのまま外に出ると、色んな意味で圧倒される。
普段は日向ぼっこ以外は興味のない妾も、おおーと感心した。
それ程までにここは、科学技術が進んだ人工島だ。
サブカルチャーの近未来SFのような世界が、そこにはあった。
さらに個性の使用が自由なので、それを使ったアトラクションが多いらしい。
しかし、まだイベントは始まっていないプレオープン中である。
なのに大勢の来場者が訪れていて、とても混雑していた。
妾とイズクが物珍しそうに周囲を見回し、オールマイトが知り合いと連絡を取ろうとしていると、案内係のお姉さんが新たな来場者として笑顔で声をかけてくる。
「I・エキスポにようこそ! ……って、オールマイト!?
それに、お狐様!?」
近くまで来てオールマイトだと気づいたらしく、ついでに妾を見て大いに驚く。
その声が大きかったので、周囲の人たちにも聞こえる。
「オールマイト!?」
「ナンバーワンヒーローの!?」
流石は日本を代表するトップヒーローのオールマイトだ。外国でも大人気である。
それは別に良いのだが、次の発言には耳を疑ってしまう。
「お狐様!?」
「次代の平和の象徴の!?」
「のじゃぁ!?」
条件反射で変な声が出てしまったが、そこからの行動は早かった。
妾はすぐに射程距離ギリギリまで浮遊して、次々と押し寄せてくるファンや取材陣から一目散に逃げる。
慣れているオールマイトはともかく、イズクに助けを求められたが、あいにくそんな余裕はない。
それにプロヒーローになれば、今回のようなことがないとは言い切れない。
何事も修行だという師匠の一声で、この場は甘んじて受け入れてもらうのだった。
オールマイトは古くからの親友に再会するために、I・アイランドにやって来た。
マイトおじさま呼びをするメリッサさんには驚いたが、説明を聞いてそういう関係ではないとわかり、ホッと安堵の息を吐く。
「はじめまして! 雄英高校一年! 緑谷出久と言います!」
「雄英高校? じゃあ、マイトおじさまの?」
自己紹介が始まったので、妾はアクビをしてから10メートルの上空からフヨフヨと降下してくる。
そしておもむろに実体化して、彼女の目の前にふわりと舞い降りた。
「妾はイズクの守護霊、お狐様じゃ」
「お狐様? もしかして、次代の平和の象徴の?」
妾はメリッサさんが差し出した手を握り返しながら、はてと首を傾げる。
「さっきも聞いたが、その呼称は何なのじゃ?」
テレビやニュースには、全く興味がない。
ヒーローも同じくで、情報化社会に取り残されることも多々ある。
だが自分は、のんびり日向ぼっこができればそれで良い。
しかし、たまに気になることが出てくるので、この機会に尋ねてみる。
「私もあんまり詳しくはないんだけど、マイトおじさまの戦闘スタイルに似てるでしょう?」
「まあ、妾は近距離パワー型じゃしな」
遠距離攻撃もできなくはないが、基本的には近距離パワー型である。
いちいち考えるのが面倒で、殴って倒したほうが手っ取り早く片付く。
そういう事情はともかく、世間一般の評価はオールマイトと似ているだ。
「それにプロヒーローでも捕まえられなかったヴィランを、無傷で倒してるじゃない。
だから実力的にも、次代の平和の象徴に相応しいってネットで評価されてるのよ」
メリッサさんが言うには、あくまでネットの一部で評価されているだけだ。
世間一般には、まだ次代の平和の象徴とは認識してないらしい。
なので今は知る人ぞ知る、未来のナンバーワンヒーローという位置づけである。
しかしこのまま活躍を続ければ、そう遠くないうちに誰もがそう呼ぶようになるとのことだ。
「活躍しとうないのう」
妾は大きく溜息を吐いて、メリッサさんにそのように返事をする。
「後ろ向きなんだね」
「有名人になれば、日向ぼっこの時間が減る。
対応も面倒じゃからのう」
彼女は困ったような表情を浮かべている。
しかし、妾は相変わらずのマイペースである。
「じゃが、降りかかる火の粉は払わねばならぬ。
世間の評価がどうじゃろうと、それだけは変わらぬよ」
ヒーロー免許が交付されても、妾のやることは変わらなかった。
引き続きイズクの後方腕組み師匠ポジで居続けられれば、それで良い。
失望されないために渋々活動することもあるかもだが、その時はその時だ。
色々と適当ではあるがあれこれ考えても気が重くなるだけなので、この場はさっさと流して日向ぼっこに戻るのだった。