近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
林間合宿なのじゃ
I・アイランドから日本に帰国した妾たちは、雄英高校に戻る。
具体的には林間合宿に行くのだが、一年生はクラスごとに分かれてバスに乗って出発した。
青山少年は二重スパイをしているのでヴィランの襲撃が予想されるが、信用できるプロヒーローも密かに潜ませており、万が一に備えている。
取りあえず妾はのんびり日向ぼっこしていたのだが、ウトウトしていたらいつの間にか合宿所に到着していた。
これはイズクがヒーローになるための訓練なので、後方腕組み師匠ポジの妾がすることは特になかった。
一週間ほどの長い休暇だと思って、気ままに過ごさせてもらう。
そう思ったのだが、先程から妙な視線を感じる。
顔をあげると大人のヒーローたちの影に隠れて、一人の少年がじっとこっちを見ていることに気づいた。
無視することもできたが、気になったので声をかける。
「妾に何か用か?」
何の気なしに子供に声をかけると、彼は驚いてびくりと身を震わせる。
「おっ、俺は! 出水洸汰!」
「そうか。妾はお狐様じゃ」
「しっ、知ってる! テレビで何度も見た!」
理由はわからないが、凄く緊張している。
もしかして妾が何かしたのかと思い始めたときに、プッシーキャッツのマンダレイから説明が入った。
「この子は出水洸汰。
私の従兄妹の子供なんだけど、夏休み中だから一時的に預かってるの」
なるほど、事情はわかった。
しかし、妾を前にガチガチに緊張している原因は不明である。
「洸汰はお狐様の大ファンでね。
直接会えたから、舞い上がっちゃって。……ごめんなさいね」
「それは別に構わぬが。大したことはしておらぬぞ?」
妾は成り行きでヴィランをボコボコにしてはいるが、ヒーロー活動を積極的にはしていない。
せいぜい自分の手の届く範囲しか守っていない。
「いやいや、それでも十分大したことだからね?
もうちょっとヒーローとしての自覚を持っても良くない?」
マンダレイが困った顔をして告げるが、妾はすぐに首を横に振る。
「嫌じゃ。ヒーローなど面倒なだけじゃ。妾はやりとうない」
日向ぼっこの時間が減る。
それに妾は別に食事も睡眠も必要はなく、労働をしてお金を手に入れなくても良い。
弟子の後方腕組み師匠ポジさえ維持できれば、それで良かった。
「ううん、噂では聞いてたけど、ここまでとはね」
マンダレイがまだ何か言っているが、妾には関係ない。
再び丸くなって霊体化し、大きくアクビをした後にもう一眠りさせてもらうのだった。
林間合宿は一週間ほどある。
イズクの指導に関しては相澤先生がやってくれるので、妾の出番は殆どない。
たまにアドバイスを求められたときに、直感で答えるぐらいだ。
あとは合宿所で、家事手伝いをするぐらいである。
何気に三年ほど兼業主婦っぽいことを続けてきたので、女子力は相当鍛えられていた。
今では毎日掃除洗濯買い物料理などをしないと、一日が終わった感じがしない程だ。
やはりヒーローや師匠よりも、主婦に専念したい。
そして空いた時間で居間でゴロ寝して煎餅を齧りながら、のんびりテレビを見るのも楽しそうだ。
それが嘘偽りのない、妾の本音なのであった。
しかし、世の中そうは甘くはない。
林間合宿はスパルタではあるが、特に問題なく進んでいく。
異常が起きたのは、三日目の夜のことだ。
クラス対抗で肝試しをすることになった。
補習組は先生たちが勉強を教えるため、合宿所に連れて行かれることになる。
それは別に良いし、自分には関係ない。
だが一通りの説明が終わり、A組とB組の脅かし役と探索組に別れる前に、森の奥の妙な気配を感じ取る。
妾は実体化して音もなく地面に降り立ち真面目な顔になると、イズクが驚いて声をかけてきた。
「師匠、どうかしたのですか?」
普段はのほほんとしているのに、今回は緊張しているのだ。
弟子は、ただごとではないと思ったのだろう。
そんな師匠は、この場の全員に聞こえるように大きな声で叫ぶ。
「悪いが全員! この場でしばし待て!」
注目が集まるが、気にはしない。
妾は感覚を研ぎ澄ませて狐耳を揺らし、周囲の様子を注意深く探る。
「森の奥に潜んでおるのう。数は一人……二人」
気のせいではないと確認できた。
妾は大きく息を吐き、うんざりした表情で口を開く。
「どうやら、招かれざる客が来たようじゃ」
「……ヴィランか!? 数は!」
「この場で確認できるのは森の奥の数人だけじゃ。
しかし、妾の感知範囲外に身を潜めておる可能性もある」
つまりはヴィランが居るのはわかっても、人数は不明ということだ。
森は遮蔽物だらけで多くの生き物がいるため、超感覚でも近くでないと精度が落ちる。
だが敵が来たことは伝えたので、相澤先生はすぐに次の行動に移る。
「わかった! 至急プロヒーローに応援要請を入れよう!」
「うむ、それが良かろう」
万が一の備えとして、事前に準備していた信頼できるプロヒーローたちに連絡を入れた。
ただし到着には早くて五分はかかるため、それまでは守りに徹しなければいけない。
そしてヒーロー免許を持っていない学生を戦わせるなど、あり得ない。
ゆえに増援が到着するまでは、この場で待機が妥当なのだ。
しかし、ここでイズクがあることに気づく。
「そっ、そうだ!? 洸汰君は!?」
そう言えばこの場に居るのは、プッシーキャッツのメンバーと教員二人。
あとは一年A組とB組の生徒全員だ。
出水洸汰少年は合宿所で留守番か、もしくは何処かに散歩に行っている可能性もある。
「とにかく安否確認じゃ! マンダレイ!」
「わっ、わかった! ……もうっ! お願いだから、出てよ! 洸汰!」
すぐにスマートフォンの番号を押して、出水洸汰に電話をかける。
しかし一向に繋がらずに、この場の皆にも不安が伝染し始めた。
(スマートフォンは肌見放さず持っておるじゃろうし、それに出ないということは)
最悪の可能性が脳裏をよぎる。
もしそうだった場合、交信の個性を使ったとしても意味はなさそうだ。
妾はやむを得ないと溜息を吐き、すぐに気持ちを切り替える。
「イレイザーヘッド! 妾たちは洸汰少年を救助するために、一旦この場を離れる!
不在の間、皆のことを頼む!」
もちろん彼だけではなく、他の先生やプロヒーローにも任せるつもりだ。
しかしもっとも身近な存在で、日頃からお世話になっているので気楽に頼める。
まあ相澤先生の胃が犠牲になるかもだが、妾もいつまでも留守にするつもりはない。
「任せておけ! だが、なるべく早く戻ってきてくれ!」
「善処はしよう! 何かあったら、イズクに連絡を入れよ!」
妾はそう言って青龍を呼び出して、イズクと共に飛び乗った。
何処に居るかは、大体の見当はついている。
もしそこでなかったら捜索範囲を広げなければいけないので、何分で戻るとは確約できない。
しかし、どうせ五分が経過すれば増援が到着するのだ。
この場の皆が一丸となって守りに徹すれば、襲ってくるヴィランを退けるぐらいはできるだろう。
「飛ばすぞ! 振り落とされるでないぞ!」
「はい! 師匠!」
イズクがしっかり掴まったのを確認して、妾は青龍を操作して急ぎ飛び立つのだった。