近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
いつの間にか後方腕組み師匠ポジに収まった妾は、弟子を応援しながら長距離マラソンを走らせていた。
そしてイズクは妾に少しでも近づきたいらしく、熱心にアドバイスを求めてきた。
個性届けは、近距離パワー型として提出している。
なのでスタンドの基礎ならこれだろうと、適当に助言した。
だがこの世界には、吸血鬼や柱の男は一切見かけない。まあ渡我少女はいたが、アレは個性によるものだ。
引かれ合う定めだとしても、他の幽波紋には全く出会っていない。
ついでに一般人には実現不可能な滅茶苦茶な修行法だし、そのうち諦めて一般的な筋トレメニューに戻るだろうから、別に教えても良いかと判断したのだ。
なのでイズクの気が済むならと、好きにやらせることにした。
呼吸法が大きく変わる以外は普段の筋トレと同じだし、別に問題はないだろうという適当な判断である。
とにかく今日もペースを維持して長距離を走ってもらい、途中でコンビニが見えてきた。
妾はいつもと違うのぼりが立っていることに気づき、何となく興味が湧いたので目を凝らして確認する。
「ほう、全国の和菓子フェアか」
この体になってからは、何故か洋菓子よりも和菓子に惹かれるようになった。
なので、たまに無性に食べたくなった時は、イズクに買ってもらっている。
引子さんにいつも家事手伝いや息子の面倒を見てくれてるからと、お駄賃をいただいていた。
何か買う時は、そこから差っ引いているのだ。
しかし妾は基本的にのんびり屋で、前世とは多分違うが趣味は日向ぼっこである。
お金を使うことはあまりなく、貯まる一方だった。
なので思い立ったが吉日で、こういう機会に少しずつでも使うように心がけている。
「イズクよ」
「何ですか! 師匠!」
波紋の呼吸法に近づけるように、気をつけて走っているイズクに声をかける。
彼は顔は前を向けて走行姿勢も乱れず、しっかりした返事が聞こえてきた。
「小休止じゃ。あのコンビニに立ち寄り、和菓子を買ってくるのじゃ」
「わかりました! いくつ買いましょうか!」
師匠ポジになって言葉遣いも丁寧語に戻ったが、イズクとの付き合いも長くなってきたので特に緊張はせずに、かなり緩い雰囲気だ。
「和菓子は一つで十分じゃ」
「師匠、そんなに少食だと大きくなれませんよ?」
そもそも妾は霊体だ。
空腹も感じないし食べなくても死なない。
実際に食事をするのはイズクだし、完全に趣味である。
「守護霊は物を食わぬであろうが。一つで十分じゃ」
「たくさん食べて喜ぶ師匠が見たいのに」
「はぁ、イズクは変わった趣味をしておるのう」
確かに甘味をたくさん食べれば喜ぶだろうが、居候の身なのでそこまで贅沢をするつもりはない。
お金を使うのもお小遣いの範疇で、和菓子一個で十分だ。
とにかく妾は不自然にならないように実体化して地に足をつけて、イズクの後ろを歩きながらコンビニの自動ドアを通り抜けるのだった。
山梨県に行かなくても信玄餅が買えるとは、良い時代になったものだ。
全国の和菓子フェア中で、期間限定で購入できる。
少しお高めだがたくさん食べるつもりもなく、一個あれば十分で何だか得をした気分になった。
そして不自然にならないように実体化しても、紅白巫女服を着用したのじゃロリ狐っ娘は珍しいようだ。
店内の客や店員の注目が集まる。
しかし霊体化も実体化も人目を引くのに違いなく、いつものことなので気にしないことにした。
やがて買う物が決まり、イズクのスマートフォンで会計を済ませる。
店員さんに、ありがとうございましたーと見送られて、自動ドアを抜けて外に出た。
現金での支払いをしないで済むとは、良い時代になったものだと思いながら、晴れ渡る青空を見上げて静かに息を吐く。
「師匠。ここでいただきますか?」
「妾としては、家に帰ってゆっくり味わいたいところじゃが」
コンビニに立ち寄って小休止はした。
しかし、イズクの筋トレはまだ終わっていない。
やはり途中で腹に物を入れるのではなく、長距離マラソンが済んでから食べるべきだろう。
だがせっかく購入したので、新鮮なうちに食べたい欲もある。
(ううむ、迷うのう)
妾は自動ドアから少し離れた位置で、しばらく迷っていた。
すると客にしては少々不自然な二人組が、カメラで自分たちを撮影しながらゆっくり近づいてきた。
(むむっ? あの二人組は?)
普段なら気にせずにスルーするところだ。
しかし妾は最近、スマートフォンの操作を覚えるために少し触ってみたことがある。
そのときの動画サイトの新着に、彼らが映っていて強く印象に残っていた。
なおそれはそれとして、結局スマホはイズクに頼めばいいやになる。
妾と機械は相性が悪いようで、どうにも上手に扱えないのだ。
だが今は関係なく、にこやかに微笑みながら声をかける。
「あー、少し良いかのう?」
彼らは疑問に思いつつも足を止めて、カメラをこちらに向けた。
しかし実体化はしているがのじゃロリ狐っ娘が視界に入ると、思いっきり驚いている。
だが紳士っぽく振る舞う成人男性が落ち着きを取り戻して、返事をする。
「うむ、少女よ。私たちに何用かな?」
どうやら話を聞いてくれるようなので、妾はイズクのほうをチラリと見る。
すると彼は、見知らぬ人を急に呼び止めたので戸惑っていた。
しかし妾の行き当たりばったりで、突飛な行動には慣れている。
止める気配はなく、好きにやらせてくれるようだ。
「ここでは何じゃし、場所を変えても良いかのう?
妾はお前たちが投稿した動画について、話があるのじゃ。
ジェントルクリミナル、そしてラブラバよ」
この発言を聞いて、二人は完全に硬直した。
カメラが妾に固定されたまま、動きが止まっている。
しかしいつまでもこのままでは困るし、コンビニの入り口近くでの立ち話は客の迷惑になってしまう。
「危害は加えぬし、通報もせぬよ。
ただ少しだけ、話がしたいだけじゃ」
そう言って妾はイズクが先程購入した荷物の中から、帰ったら飲む予定だったジュースを取り出す。
驚かせてしまったお詫びとして、目の前で困惑している二人に渡した。
「ここは人が多いからのう。静かな場所で話そうか」
妾はそう言って軽く地面を蹴り、十メートルほど跳躍して周囲をぐるっと見回す。
少し離れたところに小さな公園を見つけたので、音もなく着地したあとは、そこのベンチに座って落ち着いて話そうと提案するのだった。
少し時間が経って、妾たちは公園のベンチに腰かけていた。
途中の自販機で新しく購入したジュースを飲みながら、のんびりと世間話をする。
最初は、何故あのような軽犯罪を行い、世界への警鐘動画を投稿しているのかから始まった。
妾が聞き上手だったからか、やがてはジェントルがヒーローの落伍者となった経緯まで教えてもらう。
そして一通り聞き終えたあとに、大きく溜息を吐いて口を開く。
「勿体ないのう」
「勿体ない?」
ジェントルクリミナルの身の上話に対して、それが妾の率直な感想だ。
彼は良くわからなかったようで、詳しく伝えていく。
「それ程の個性を持ちながら、何故正しき道に使わぬのじゃ?
個性が泣いておるぞ」
何処かの仙人のようだが、別に間違ったことは言っていない。
しかしジェントルは悔しそうに唇を噛み、忌々しそうに口を開く。
「あっ、貴女に私の何がわかるのですか!
落伍者でもない、貴女が!」
そしてラブラバも同意を示すように、大きな声で反論してくる。
「そうよ! そうよ!
ジェントルのことは、私が一番良く知ってるんだから!」
確かに妾はジェントルクリミナルとは今日初めて会っただけで、スマホの動画の消し方がわからずに、流れで最後まで見ただけだ。
身の上話を聞いても、彼の全てを理解したわけではない。
しかし、それでもわかったことは確かにある。
妾はにっこりと微笑み、はっきりと伝えていく。
「ジェントルクリミナル、そしてラブラバよ。
お前たちはまだ、ヴィランに落ちてはおらぬ」
軽犯罪動画をアップロードしては、警鐘を鳴らし続けているのがその証拠だ。
本当にヴィランに落ちたのなら、私利私欲を満たすために手段を選ぶ必要はない。
彼らが本当のことは何を目指しているのかは妾にはわからないが、今もギリギリで踏み留まっているのは何となく理解できる。
「今からでもヒーローを目指せるのに、志半ばで諦めてしまうのは勿体ないじゃろう?」
ジェントルの個性はかなり強力で、ラブラバの方は知らないがサポートは優秀なのはわかる。
もし免許を取れば、良いヒーローになれると妾はそう思っている。
「妾はヒーローにはあまり詳しくない。
しかしジェントルクリミナルとラブラバが力を合わせれば、プロ免許取得は問題なかろう」
二人が協力してここまでやって来たので、相性が良いのは間違いない。
そして免許取得がどのぐらい難しいのかは妾は知らないが、たまにテレビやネットに登場したり、街で見かけるヒーローを見る限りは、彼らが心を入れ替えて切磋琢磨すれば問題はないだろう。
「二人がプロヒーローになれることは、この妾が保証しよう!
まあこんな狐っ娘に断言されても、気休めにもならんじゃろうがな!」
妾が薄い胸をポンと叩いて、はっはっはっと笑う。
それをジェントルとラブラバは、何とも言い辛い表情でこちらを見ていた。
しばらくそうしていると、やがて紳士のほうが真面目な顔で口を開く。
「狐の少女よ。貴女の名前を教えて欲しい」
「妾はお狐様じゃ」
しかし、これを名前というのは少し無理があった。
そう思い直して、同じくベンチに座っているイズクに顔を向ける。
「名前なら、弟子のほうを覚えておくといい。
こやつは雄英高校のヒーロー科を目指し、将来はオールマイトのようなトップヒーローになるのが夢じゃからのう」
今も目標を達成するために、毎日筋トレを頑張っている。
出会った頃と比べると、かなり体が鍛えられていた。
それでもオールマイトの超パワーに追いつけないが、着実に近づいてはいるので気長に頑張ればいいのだ。
「では妾たちは、これで失礼する」
「えっ!? 師匠! 行ってしまうんですか!」
イズクは軽犯罪とはいえ、常習犯を見逃すのに抵抗があるようだ。
しかし具体的な解決策が見つからないので、どうしたものかと迷っている。
それを妾は、穏やかな笑みを浮かべて弟子を諭す。
「あとは、この者たちの問題じゃ。
それに、もう犯罪は犯さぬよ。
次に会うのはイズクと同じ、プロヒーローとしてじゃろうな」
妾の発言を聞いてイズクを身を震わせて、拳を強く握りしめる。
そしてジェントルとラブラバも驚いた顔で、こっちを真っ直ぐに見つめてきた。
「ならば次は私たちのほうから、世話になったお礼にお土産を持って会いに行こう」
「おお、いつでも来るがいい」
何やら手を伸ばしてきたので、妾は別れる前に握手をする。
見た目は幼女だが、怪力なので力加減に気をつける。
そしてプロヒーローになってまた会おう的な別れの挨拶をし、ジェントルクリミナルたちに背を向けて、クールに去っていくのだった。
なお、その後のことだが彼の相棒が緑谷宅に凸してきた。
何でもスマートフォンの連絡先を、交換するのを忘れていたらしい。
とんでもない行動力と追跡能力で、電子戦の得意なストーカーみたいでちょっと怖い。
だがまあ取りあえず軽犯罪の常習犯として自首して、ジェントルの罪は軽くなったと報告されたし、これ以上は何もしないので良しとしておく。
ジェントルはしばらく刑務所で過ごすけど、その間はヒーロー免許取得のために勉学を頑張るようだ。
ラブラバも定期的に会いに行って、彼を支えるヒーローになるために頑張っているらしい。
まさに愛の力は偉大である。
もしかしたらイズクがプロヒーローになるよりも早く、彼らがお土産を持って挨拶に来るかも知れない。
それはそれとして、次からはアポ無しでの自宅凸は止め、せめて来る前に事前の連絡ぐらいは入れるようにと、しっかりお願いしておくのだった。