近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
仮免許取得試験が始まって早々、他校から集中攻撃を受けたが、何とか凌ぎきった。
だが本番はこれからで様子見が終わり、次は個性を使って攻めてくる。
イズクたちは仲間と連携して互いの弱点をカバーし合い、これも何とか防ぐ。
これなら大丈夫かなと思っていたら、揺らす個性の受験生が両手をついて大地震を起こされた。
凄まじい勢いで、地盤が粉々に破壊されて吹き飛ばされる。
雄英高校一年A組は分断されて、各個撃破の大ピンチに陥ってしまう。
「ヤバい! 最悪だ! 誰とも合流できずに! 大勢に狙われる!
さっき考えていた、最悪を実現してしまった!」
おまけに不幸とは続くもので、イズクは一人だけ別の場所に飛ばされたようだ。
周りに雄英高校の仲間は誰もいないどころか、他の大勢の受験者に囲まれている。
運も実力のうちというが、今回に限っては不運としか言いようがない。
四方八方からボールが次々と飛んでくる中で、ひたすら回避に専念する。
個性による攻撃も混ぜてくるため、気を抜く暇もない。
とにかく千差万別なため、予測不可能だ。
周囲の地面がアナボコだらけになるほどの威力だが、イズクは決して諦めずに躱し続ける。
「落ち着け! 師匠なら、こんなとき! どうする!」
イズクが攻撃を避けながらブツブツ呟いているが、これは彼の儀式のようなものだ。
後方腕組み師匠らしく振る舞ってはいるけど、中身は脳筋なのじゃロリ狐っ娘を想像して、強制的に気持ちを落ち着ける。
例えるならプッチ神父が素数を数えたり、ドイツ軍人は狼狽えないようなものだ。
何故かイズクは、この方法で冷静になるらしい。
妾としてはウッソだろお前と突っ込みたいけれど、事実なのでしょうがない。
やがてピコーンと閃いたようで、弟子は大きな声で叫ぶ。
「覚悟とは! 犠牲の心ではないッ!
覚悟とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開くことだッ!」
何故そこで、ジョジョの名言を選んだしと言いたい。
しかし今回は妾はノータッチなので、少なくとも試験中はお口チャックだ。
そして次にイズクは周囲を注意深く観察したあと、攻撃の合間にマフラーを伸ばす。
黒鞭はまだ実戦で使えるほどの練度ではないので、何年も修行してきた波紋のほうが扱いやすい。
とにかく素早く受験者を二人拘束した。
「しまった! 止めさせろ!」
「奴に! ボールを当てさせるなあーッ!」
周囲がイズクに攻撃を仕掛ける前に、拘束した受験者を勢い良く引き寄せた。
「いいや! 限界だッ! 当てるね!」
冷静さを通り越して、まるで妾が憑依したかのように、弟子は妙なテンションになっているようだ。
台詞までおかしいが、気力は漲っている。
コオオオオッという効果音は見えないのに、何となく見えそうなほど深く呼吸をする。
イズクはさらに波紋の力を高めて、マフラーを通じて受験者に流し込んだ。
「
伝導率の高いマフラーを通じて波紋が流されたことで、二人の受験者は一時的に磁石のような状態になる。
そのまま弟子の方に引っ張ると、山ボールのような軌道で無防備な姿勢を晒す。
「逆に考えるんだ! 当たっても良いさと考えるんだ!」
また妾のネタ台詞から引用してるよと思ったが、何も言わない。
とにかく行動を妨害するために無数のボールが飛んでくる中、イズクは恐れることなく突っ込んだ。
空中に投げ出された無防備な受験者に急接近した弟子は、すれ違いざまに波紋にボールを流し、立て続けに六発投げた。
「これが僕の! 覚悟の道だ!」
すると投げたボールの軌道が変化し、磁気を帯びたターゲットマーカーに吸い寄せられるように正確に命中する。
イズクはそれを確認したあと、拘束を解除してマフラーを回収した。
対象とすれ違って戦線を離脱するが、多人数から猛攻撃を受けたのだ。
流石に無傷とはいかず、イズクのターゲットマーカーも二つ点灯していた。
しかし、危険な賭けでもあのまま一対多数で戦い続けるよりも、チャンスを作って確実にポイントを手に入れたほうが、勝率は高くなる。
ただ万が一でもやられる可能性があるので、なるべくやりたくはない。
けれど、それでもイズクは、無事に第一試験を突破する。
終わりよければ全て良しと前向きに考えるのだった。
他の仲間よりも一足早く合格してしまったイズクは、クラスメイトのことを心配しながら、次の試験に備えるために待合室に向かう。
三箇所のターゲットマーカーは赤色に変わることはなくなったので、もう狙われたりはしない。
ただいつまでも付けている必要はなく、次の試験の前に取り外して試験官に返却しておく。
そして凄く広い待合室に入ると、先に合格していた夜嵐イナサ少年がイズクに気づいた。
笑顔で手を振りながら近づいてくる。
「合格おめでとうっす!」
「ええと、夜嵐君!? ……も、おめでとう!」
「はいっす! 自分か緑谷さんのワンツーだとは、思ってたんすけど!
今回は運が良かったみたいっす!」
何と言うか初めて会ったときも思ったが、凄く元気な少年だ。
元々陰キャだったイズクと違って、彼は根っからの陽キャのようでグイグイ距離を詰めてくる。
しかし弟子も、昔と比べたらコミュ力が鍛えられている。
一年A組の皆が相手でも、最初の頃はガチガチに緊張していたのを思い出す。
だが今日会ったばかりの超絶陽キャとは、そう簡単に普通に会話ができるはずもない。
向こうが話しかけたら一生懸命考えて返事をするのが精一杯だ。
口には出さないが、『早く誰か来てーっ!』と心の中で悲鳴を上げているのは明らかだった。
しかし弟子がヒーロー免許を取得して活躍しだしたら、遅かれ早かれインタビューも受けるので、これも修行だといつも通り対応は任せる。
妾は口には出さないが心の中でイズクを応援しつつ、のんびり日向ぼっこをするのだった。
幸いすぐに次の合格者が来てくれた。
しかしイズクと夜嵐少年に近づいて来なかったので、あまりの陽キャオーラに驚いて距離を取られようだ。
なかなか解放されず、割と長く二人の会話は続く。
それはそれとして、結果を見れば雄英生徒は全員合格する。
士傑も一名を除いて二次試験に進めたので、個人的には何だか知らんがとにかく良しだ。
その後、フィールドに仕掛けられていた全ての爆弾が起爆される。
どうやら被災現場で救助演習を行うのが、二次試験のようだ。
イズクたちが偶然現場に居合わせたことにして、逃げ遅れた人たちを助ける。
まだ取得していないが仮免許のヒーローだと仮定し、どれだけ適切な救助を行えるか試すようだ。
そして要救助者のプロという良くわからない職業の人たちが、被災現場でヒーローたちが助けに来るのを待つ。
彼らが採点するようだ。
なお、試験会場の被災現場は神野区に似ていた。
そのような事態を想定しているのかも知れない。
道理で難易度が高いわけだと納得する。
何しろヴィランの帝王は倒したが、同時にオールマイトが引退したのだ。
平和の象徴がなくなった今、これまで大人しくしていたヴィランがこれ幸いと暴れ出すかも知れない。
むしろ大人しくしているほうが不自然で、まだ動きがないのはタイミングを見計らっているか、嵐の前の静けさと言えた。
だがそれはそれとして、轟少年と夜嵐少年は並々ならぬ因縁があることがわかった。
詳しいことは言わなかったが、何となく恨まれていそうだ。
しかし仮免許試験に私怨を持ち込むのはよろしくないし、今はそんな暇はない。
すぐに試験が始まった。
道が塞がれて救助隊の到着が遅れているという設定で、現場のヒーローが指揮を取って、一人でも多くの命を救い出すのが目的のようだ。
なるべくチームで行動しようとするが、案の定単独で動く者も出てくる。
爆豪少年の協調性はあまり高くはないようで、自分が居ると周りの足を引っ張ると考えて抜けたのだろう。
前向きに解釈するとそうなるが、合っているかはわからない。
目まぐるしく状況が変化する中で都市部ゾーンに向かっていると、子供の泣き声が聞こえて足を止める。
全員で瓦礫を乗り越えて確認すると、小柄な要救助者が大声で泣き喚いていた。
「うえええんっ! 助けてえっ! おじいちゃんが! 瓦礫に潰されてえぇ!」
「大変だ!? どっち!」
イズクが慌てた様子で場所を尋ねた。
妾はこれアカンやつだと瞬時に理解して、指摘はしないが微妙な表情で大きく息を吐く。
「何だよそれ! 減点だー!
まずー! 私が歩行可能かどうか確認しろよー!
呼吸の数もおかしいだろー! 頭部の出血もかなりの量だぞー!
仮免持ちなら、被害者の状態を瞬時に判断して動くぞー!」
妾が思っていても言わないことを、ズバズバ言ってくれる。
プロの要救助者チームとは良く言ったものだ。
イズクたちはそれを聞いて怯んでいるが、全て正論なので真摯に受け止める。
「こればかりは訓練の数が物を言う! 視野を広く! 周りを見ろ!
アンタの師匠が、当たり前にやってることだぞ!」
そう言って少年に扮した要救助者は、妾をビシッと指さした。
しかし自分も別に考えて動いているわけではなく、行き当たりばったりだ。
神野区の悪夢の救助活動も成り行きで手を貸していただけだし、本当に正しいことをしていたかは自信はない。
だが刻一刻と変化する災害現場では悠長に考えている時間はなく、臨機応変な判断が求められることも多い。
結果的に行き当たりばったりばかりの妾でも皆の役に立てたようだし、彼は妾の行動は正しかったと肯定してくれた。
その後もイズクたちは、親切な彼から試験の流れと要救助者への接し方についての指導を受ける。
「何よりアンタ。私たちは怖くて痛くて不安で堪らないんだぜ?
かける第一声が、えっ大変だ? じゃあ、駄目だろ」
納得しかない説明は大変わかりやすくて、最初に会ったのがこの人で良かった。
どうやらイズクは調子を取り戻したようで、大丈夫と呼びかけながら少年を救護所まで運ぶ。
ただ弟子はその間、ひたすら大丈夫しか言わない。
持ち直したのは良いけど、台詞のボキャブラリーは少ないなと、内心でちょっとだけツッコミを入れるのだった。