近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
イズクは通形少年と組んでパトロール兼監視を行うことになったが、やってることは普通の巡回だ。
特に事件が起きるはずもなく、町は一見するとヴィラン犯罪も起きておらず平和なものである。
少なくとも途中まではそうだったのだが、路地裏から一人の幼女が慌てた様子を駆けてきた。
ちょうど出会い頭に、イズクにぶつかって倒れてしまう。
弟子は助け起こすために手を伸ばすと、彼女は何故か怯えて後ずさる。
そこに後から裏路地から出てきた、謎の人物から声がかかった。
「駄目じゃないか。ヒーローに迷惑かけちゃあ」
どういう理由か、監視対象の
表面上はにこやかな微笑みを浮かべているが、妾にはそれは彼の本心ではないと容易にできた。
「家の娘がすみませんね。遊び盛りで怪我が多いんですよ。困ったものです」
彼女は明らかに怯えた表情で、妾たちに助けを求めている。
しかし保護者である彼は監視対象であって、ヴィランではない。
証拠もないのに事態を荒立てるのは許されなかった。
サー・ナイトアイの指示にも逆らう行いもだ。
くれぐれも向こうに気取られないようにと、念押ししていたことを思い出す。
だが彼女はイズクにしがみついて震えていて、どう見てもただ事ではない。
そして通形少年は、
向こうは隠してはいるが、明らかにこちらを警戒していた。
とにかく、正体がバレるわけにはいかない。
イズクも渋々ではあるが、彼に倣ってパトロールの途中だからと、穏便にその場を去ろうとする。
「いっ、いかない──」
とてもか細い声で助けを求める少女に、イズクは困った顔をしながら何とか口を開く。
「あっ、あの、娘さん。怯えてますけど?」
「叱りつけたあとなので」
治崎の表情がやや固くなる。
まだ怪しまれるだけで、こちらの目的はバレてはいないようだ。
その後もイズクは会話を続けるが、少しずつ苛立ちや警戒の色が強くなってくる。
「この子に! 何してるんですか!」
イズクは彼女を助ける方向に、少しずつ天秤が傾きつつあるのがわかる。
そして治崎は、詮索を嫌がっているようだ。
しかし追求されないほうが不自然なので諦めたのか、人に聞かれたくない話だからと路地裏に誘う。
子育ては大変だと、当たり障りのない話を続けながら路地の奥に歩いていく。
やがて手袋を外そうとしたところで、何かに気づいた幼女がイズクから離れる。
治崎の方に駆け出した。
「何だ。もう駄々は済んだのか?」
「えっ? あっあの、エリ……ちゃん?」
治崎はにこやかな表情で、彼女と共にゆっくりと歩き出した。
イズクは慌てて後を追うとしたが、通形少年に止められる。
「いつもこうなんです。すみません。悩みまで聞いてもらっちゃって。
ご迷惑をおかけしました。では、お仕事頑張って」
どうやら殺意をチラつかせて、エリちゃんを引き寄せたようだ。
ここで追ったらますます捕え難くなるため、二人共サー・ナイトアイの指示を仰ぐと決めたが、今まで我関せずだった妾は納得できない。
「じゃが、断る!
妾は実体化して青白い
「きゃっ!?」
「何ッ!?」
そして自分の元に引き寄せたあと、傷つけないように地面に優しく置いた。
「どういうつもりですか?
ヒーローが人様の家庭の事情に口を出し!
あまつさえ可愛い娘を連れ去ろうなんて!」
これまで穏やかな表情を浮かべていた治崎だったが、今は怒りの顔で言葉を荒げている。
しかし怒りたいのはこっちのほうで、妾は真っ直ぐに彼を見つめて大声を出す。
「可愛い娘じゃと? 虐待で縛りつけておいて!
一方的に搾取する関係が、正しいはずがあるか!」
「なっ!? そんなことは!」
行き当たりばったりで考えなしで喋っているが、治崎の表情から図星であることを察した。
「ヒーローの真似事などしとうなかったが! 流石に見過ごせぬわ!」
「ならば、どうするつもりですか!」
治崎はまだ辛うじて仮面を被っているが、壊れる寸前だ。
妾と向かい合い、双方が威圧感を発して、いつ戦いになってもおかしくない。
「決まっておろう!
「馬鹿な! そのような暴挙が許されるはずがない!
これだからヒーローは嫌いなんだ! 自らの正義を体現するために、平気で他者を踏みにじる!
忌々しいこと、この上ない!」
どうやらヒーローに対して、思うところがあるようだ。
治崎は明らかに苛立っていた。
しかし、妾にはそんなことは関係ない。
あまりの急展開に、これまで蚊帳の外だったイズクと通形少年に声をかける。
「通形少年は急ぎ上司に連絡せよ!」
「えっ!? はっ、はい! でも、なんて連絡すれば!」
「今から
突入の理由など、あとで考えれば良い。
勢いでエリちゃんを取り戻したとはいえ、ぶっちゃけその後のことは完全にノープランだ。
なお妾は基本的に行き当たりばったりで動くので、いつものこととも言えた。
これで何も証拠が出ずにヴィランでも何でもなければ、妾のほうが犯罪者だ。
「治崎! お前からは、ゲロ以下の匂いがプンプンするのう!」
「それはこっちの台詞だ! 病に侵された英雄気取りが!」
相当な潔癖症だが、頭は切れるようだ。
妾が行動を起こすよりも先に、手袋を外した両手を地面につき、個性を発動させる。
「死ね!」
すると四方八方から岩の槍が生えてきて、妾たちを串刺しにしようとする。
「全員! 妾から離れるでないぞ!」
「うっ、うん!」
「はいっ!」
「わかった!」
地面に置いておくのは危険と判断し、エリちゃんを抱えて五感を研ぎ澄ます。
他の二人にも指示を出すと、緊急事態なのもあって素直に従ってくれた。
「のじゃあっ!」
妾は黙ってやられるつもりはない。
岩の槍が出てくる先から、手当たり次第にぶん殴って破壊していく。
場所が狭い路地裏なので逃げ場はなく、建物にもダメージが入る。
しかし怪我人が出ないだけマシだし、コラテラルダメージだと割り切って欲しいところだ。
しばらく続けていると周りが瓦礫だらけになり、やがて岩の槍の発生が止まった。
「……逃げられたか」
どうやら外で暴れると目立つし、増援を呼ばれて形勢が不利になると判断したようだ。
治崎は逃亡を選ぶ。
いつの間にか姿を眩ませていたので、妾は一先ず戦闘状態を解除して大きく息を吐く。
「どどどっ! どうするんですか! 師匠!」
「決まっておろう! エリちゃんは! 今! 泣いておるのじゃぞ!」
ロボットアニメの台詞だが、今のエリちゃんは別に泣いてない。
アレだけ怖がっていた治崎を相手に、妾は一歩も引かなかった。
それどころか彼は、慌てた様子で撤退したのだ。
彼女にとって恐怖の象徴だった男を追い返し、傷一つつけずに守りきった。
そんな妾を、キラキラした目で見つめている。
多分だが彼女にとって、絶望の底で泣いていた自分を助けてくれたヒーロー、という認識なのだろう。
ちなみに普段なら、弟子や周囲の者たちに任せて、妾は日向ぼっこしているところだ。
しかし諸事情があるとはいえ、あの場では誰も彼女を助けようとしなかった。
仕方なく重い腰を上げたが、サー・ナイトアイの命令に従わないどころか、ヒーローの真似事など面倒この上ない。
それでも困っている人を助けるのは当たり前だし、別に深い考えがあるわけではないしで、まあとにかく仕方なかったのだ。
「それとイズクよ。今の妾には、絶対に触れるでないぞ」
「何故でしょうか?」
成り行き上、妾はエリちゃんを抱えながら戦っていた。
そして今は何故か、薄っすら発光している。
「原因は不明じゃが、エリちゃんの個性が暴走しておるようじゃ」
「だっ、大丈夫なんですか!?」
「問題はないが、妾以外は危険じゃろうな」
個性の干渉ぐらい、気合を入れれば耐えられる。
肉体の再構築も可能だし、恐らく時間を巻き戻す能力だろうが、妾には何の問題もない。
「初めてじゃろうから、不安定なのは致し方ない。
ところで、体の調子はどうじゃ? 痛かったり苦しかったりは?」
「うっうん、別に痛いとか、苦しいとかは、ないみたい」
かなり不味い状況なのに、相変わらずのマイペースで会話を続けている。
すると連絡し終わった通形少年が、困った顔で声をかけてくる。
「あのー、連絡はしたけど、サー・ナイトアイが──」
「その先は言わんでもわかる」
妾は頭を抱えて大きく溜息を吐くが、この場に留まっていても状況は好転しない。
「イズク、ここから先は時間との戦いじゃ。
奴が行方をくらます前に乗り込んで証拠を押さえねば、妾たちの立場が危うくなる」
なお、証拠が本当にあるかはわからない。
いざとなったら虐待を受けていたエリちゃんに、証言台に立ってもらうことになりそうだ。
それでは証拠としては弱いかも知れないけど、取りあえずやむを得ず周りのビルを壊したり、
「証拠や違法薬物が処分される前に、
今回は妾が主導で行うが、尻拭いは任せるぞ!」
サー・ナイトアイは今頃きっと、キレ気味で頭を抱えている。
しかし一度走り出した列車は途中下車できないし、ゴールも見えない。
それでも先に進むしかなかった。
幸い虐待されていたエリちゃんを助けられたのだ。
たとえ彼女の救出が間違いだとしても、妾に後悔はないのだった。