近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
壁の中から殺気が漏れ出ているので、隠し扉でもあるのでは考えて力任せにぶん殴ると、予想通りだった。
頑丈な隔壁がひしゃげて、あっさり吹き飛んだ。
さらに潜んでいた三人のヤクザも巻き添えで、全身がズタボロになる。
白目を剥いたまま、地下に通じる階段を転げ落ちていく。
感覚を研ぎ澄ませれば、さらに奥に人の気配がする。
恐らく治崎は、地下通路から逃げるつもりなのだろう。
「後続とかなり離れてますけど、大丈夫でしょうか?」
「治崎を逃がすわけにはいかぬし、いちいち捕縛していては時間が足りぬ。
致し方あるまい」
妾はすれ違いざまに、片っ端から構成員をぶっ飛ばしては先に進んでいる。
かなり後続と離れていた。
もっと人数が居ればチームをいくつかに分けられるのだが、サー・ナイトアイ事務所と手が空いている警察隊だけでは、残念ながらそんな余裕はない。
それに、妾たちに付いてこられるヒーローは稀だ。とにかく今ある手札でやりくりするしかない。
「じゃが、追跡は容易じゃ。
他のヒーローや警察も、そのうち到着するじゃろう。
今は治崎に逃げられて、証拠を持ち去られるのが一番困る」
「そうですね! 必ず捕まえましょう!」
妾たちは階段を駆け下りながら会話をして、目的を再確認する。
やがて地下通路に出たが、少し進むと行き止まりになっていた。
しかし敵の妨害工作なのはわかっていたので、構わず突っ込んでいく。
「のじゃあっ!」
かなり厚い壁だったが、問題なく粉砕できた。
この程度では、足止めにもならない。
妾たちは速度を落とすことなく、周囲に瓦礫が散らばるのを無視して、ガンガン先に進む。
だがその途中で、地下通路が大きくウネリ始めた。誰かの個性なのは間違いない。
さらに、いきなり地面に大穴が開く。
妾たちは地下の大広間に落ちていくが、浮遊で戻ることはできる。
しかし、この先に殺気を感じたので、ここはあえて誘いに乗って、敵の数を減らすことにした。
背負っているエリに負担がいかないように、ゆっくりと着地する。
弟子は最近ますます逞しくなり、このぐらいチョロいものだ。
イズクもワンフォーオールの新しい個性の一つである浮遊を使い、バランスを崩さないように慎重に両足を地面につける。
だが地下の大部屋には、三人のヤクザが待ち構えていた。
「おいおいおいおい! 空から国家権力が落ちてきやがった!
不思議なこともあるもんだ!」
相手はやる気満々なようだ。
妾も大きく息を吐いて、軽くカラダをほぐす。
「協力してもいいぜ! 全員殺ってやるからよお!」
日本刀を持っている奴は、相当好戦的なようだ。
いきなり飛びかかってきたが、如何せん遅すぎる。
多分、イズクが戦っても余裕で殴り飛ばせるだろう。
ただし三人が協力したら手こずるかも知れないが、妾には関係ない。
「ノジャー!」
「「「アバーッ!!!」」」
目にも留まらぬ速度で敵三人にラッシュを叩き込み、あっという間にボロ雑巾にして意識を刈り取る。
流石に地下通路にゴミ収集車はないようなので吹き飛ばし、何故か部屋の隅に置かれていた大型サイズのゴミ箱に、頭から叩き込んでおいた。
「幹部も構成員も、妾にとっては大して変わらん。
どちらも手加減して戦っておるゆえな」
手加減を少しだけ緩めれば、彼らも他の構成員と同じ運命を辿る。
オールマイトやAFOと比べれば実力差は明白だし、今さらこの程度の相手に苦戦などするはずもなかった。
「流石です! 師匠!」
「おっお母さん! 凄い!」
「世辞は良い。先に進むぞ」
「本心なんだけど。……でも、わかりました! 行きましょう!」
慣れてはいても、正面から褒められると少し照れる。
後方腕組み師匠ポジとして、弟子に恥ずかしい姿を見せられないというか、個人的に妾が小っ恥ずかしいので見せたくない。
あとは母ではないが、今この状況で否定するとエリが傷つくのでスルーしておく。
とにかく目の前の障害は排除したので、再び地下通路を先に進み始めるのだった。
しばらくは地下通路に動きがなかったが、走っている途中に突然、横から巨大な手のようなモノが伸びてきた。
妾たちをぶん殴る、もしくは別の場所に連れ去るつもりのようだ。
避けたり迎撃は容易たが、今回もイズクと共に、あえて横穴に押し込まれることにした。
例によって例のごとく、穴の奥に何者かの気配を感じたからだ。
残しておくと後続に被害が出そうだし、見つけたらなるべく倒しておいたほうが良いだろう。
「師匠! ここは一体!?」
「さてな。お主らに聞けば答えてくれるか?」
周囲を見回して、状況を確認する。
暗闇の部屋を走ってくるヴィランを見据えて、呑気に尋ねた。
「俺は思うんだ! 喧嘩に銃や刃物は無粋だって! 持ってたら誰でも勝てる!
そういうのは喧嘩じゃない! その身に宿した力だけで殺し合うのがいいんだ!
お狐様ならわかってくれるよな!」
確かに妾は、近距離パワー型の守護霊だ。
しかし喧嘩の美学を説明されても、首を傾げるだけだ。
何より付き合うのは面倒そうだし、わざわざ理解する気にはなれない。
「わかりたくはないのう!」
妾はヴィランのラッシュを全て避けたうえで接近し、拳を繰り出す。
だが突然、半透明な壁が目の前に現れて弾かれてしまう。
「ちいっ! バリアか! 面倒な!」
そのまま力任せに打ち抜くことはできる。
しかし加減をミスって、ミンチより酷いことになったら大変だ。
なのでバリアの強度を慎重に見極めるために、妾は一旦距離を取る。
もう一人の男が両手で額を押さえながら、先程殴りかかってきた大男にゆっくりと歩み寄る。
「我々は矛と盾、対してあっちは矛と矛」
「おおっ! それなら喧嘩になるじゃねえか!」
何とも嬉しそうだ。彼は相当なバトルジャンキーだとわかる。
妾は呆れながらも決して油断せず、見様見真似で適当に構えを取った。
すると、再びバリアが展開される。
「我々に勝つつもりのようだ」
「おおっ! わかってくれたか! いいヒーローだな! お狐様!」
彼らは仲が良いのか悪いのかだ。
バリアなしで戦いたい大男と、治崎の命令に従うもう一人が、何やら言い争っている。
だがやがてどうあっても従うつもりがないことが発覚し、連携を取るのを諦めたようだ。
バリアを解除し、大男が一人で突っ込んできた。
そして妾と殴り合う。だが結局、バリアを展開して攻撃を防ごうとする。
「ノジャー!」
「「アバーッ!!」」
なおバリアの強度はわかったのであっさり破壊し、今度は二人まとめてラッシュを叩き込まれ、吹っ飛ばされて大型のゴミ箱に頭から突っ込んで再起不能だ。
連携は取れていたし、普通のヒーローは苦戦しただろう。
しかし鋼鉄並の強度のバリアも、妾なら障子紙を貫くぐらい容易く破れてしまう。
だがそれだけの力を込めて殴れば、バリアで守っていた人体がどうなるかは、想像に難しくない。
なので、手加減がとても難しかったのだ。
「結局、何がしたかったのじゃろうか?」
「さっ、さあ、僕には何とも!」
「わかんない!」
妾を倒そうと頑張っていたようだが、残念ながら二人まとめてやられてしまった。
連携攻撃は失敗したようだけど、敵の心配をしている余裕はない。
取りあえず障害は排除したので、治崎を追いかけるために再び走り出すのだった。
いつの間にか発光現象は静まり、エリの角も小さくなっていた。
しかし、だからと言ってこの状況で手放すわけにもいかず、検証は後回しで先を急ぐ。
だが、敵はとうとう形振り構わなくなったようだ。
地下通路がこれまでよりも遥かに大きくウネリ始め、壁や天井が迫ってくる。
間違いなく妾たちを押し潰す気だろうが、ピンチはチャンスだ。
「これ程までの強い干渉とは! 本体が近くにおる証拠じゃ!
イズク! 波紋じゃ!」
「はいっ! 師匠! コオオオオッ! 波紋!」
今のイズクなら両足からでも、波紋の力を伝達することができる。
念の為に両手で地面に触れて、広範囲に流す。
なお、波紋には一時的だが個性の発動を妨害する効果がある。
しかし、距離が遠いと効果が薄れるので、対象が至近距離に居ないと効かない。
そして今回はどうやら、妾の直感が当たったようだ。
地下通路の歪みが正され、少しずつ元に戻り始めた。
しかし、一部だけは未だに不安定なままだ。
妾は迷うことなく急接近し、拳を叩き込んで地下通路を破壊する。
「のじゃあっ!」
「ぐはああああっ!!!」
地下通路が、衝撃で大きく揺れた。
そして、今まで隠れて妨害していたヴィランが姿を現す。
彼は腹部に重たい一撃を受けたからか、あまりの激痛に白目を剥いて地面に落下していく。
しかし一回で済ませる気はなく、ちゃんとラッシュを叩き込んで全身複雑骨折で再起不能にしておいた。
「これで妨害はなくなったな!」
そう思って先に進もうとすると、今度は通路の奥から先程倒した大男のヴィランと、謎の覆面男が現れた。
「しっかし! どんなヒーローが来てるかと思ったら! この野郎!
ただの子供じゃねえか! ヤクザ舐めんな! この野郎!
やっちゃってくださいよ! 乱破の兄貴ー!」
それにしても良く喋る覆面だ。
そう思っていると先程の戦いと同じように、大男のヴィランが正面から殴りかかってくる。
なので余裕で避けたうえに、裏拳を一発叩き込んで吹き飛ばす。
「ヤクザ使えねえな!」
壁にめり込んだヴィランは形が崩れていき、やがて溶けて消えてしまった。
「妙じゃと思ったら、個性で作り出した分身か。
しかし、どうやらお主は本物のようじゃな」
「俺が本物だと! 偽者だよ! バーカ!」
良くわからないが、覆面男は口だけは達者なようだ。
とにかくコイツもヴィランだし、取りあえずぶっ飛ばそうとする。
「ちょっと待て! お前! 俺が本物だってわかるのか!?」
「そんなもの、見ればわかるじゃろうが」
「いやいや! 普通わかんねえよ! 俺自身のことすらわからねえ!」
言っていることが支離滅裂で理解できないが、凄く取り乱しているのはわかった。
そして妾は珍しく頭を働かせて、先程の分身のことを思い出す。
「まさかお主、己を見失っておるのか?」
「そうそう! そうなんだよ! いいや! 全然違うね!」
先程の分身体は、見た目だけなら本物と瓜二つで見分けがつかない。
妾のように生命力や個性を可視化することができなければ、騙されてもおかしくなかった。
ならば、例えば過去に大量の自分を作り出し、己が本物か偽者かわからなくなってしまったとしたら、どうだ。
いつ消えるかもわからない恐怖に怯えて暮らすなど、常人には耐えられない。
ちょっとした怪我や病気をしただけで、取り乱すことになるだろう。
それは確かに気が狂いそうだと思い至った妾は、彼に接近して拳を振り上げた。
「のじゃのじゃのじゃのじゃあっ!!!」
「ぶべええらああっ!!?」
問答無用でヴィランに怒涛のラッシュを叩き込む。
あっという間に全身場ボロ雑巾になって、勢い良く吹き飛んでいく。
やがて壁に叩きつけられて止まり、再起不能になった彼に語りかける。
「何があったかは知らんが、お主は本物じゃよ。
その証拠に重傷を負っても、泥になって消えぬじゃろう?」
先程の予想は、どうやら正しかったようだ。
激痛で苦しんでいるはずなのに、何処か嬉しそうだった。
「そっそうか! おっ、俺は、本物だ! ほっ本物! だったんだ!」
しかし、妾も想像で語っていて、全てを知っているわけではない。
ヴィランの悲しき過去に興味もない。
「今後は刑務所で反省し、心を入れ替えて真面目に働くのじゃな。
お主の個性なら働き口はすぐ見つかるし、何なら妾が紹介してやっても良いぞ」
彼はヴィランだし、妾の言葉が届くかどうかはわからない。
だが分身を作る個性は強力だから、欲しがる組織や企業は多いだろう。
良いように利用されるとも言うが、流石にそれは可哀想だ。
なのでもし出所して改心したら、知り合いの事務所を紹介するなど、少しだが面倒を見てあげようと思った。
しかしそれは今後のことで、今はいちいち構っていられるほど余裕はなかった。
取りあえず無力化に成功したので、感覚を研ぎ澄ます。
地下通路の先の気配は残り四人で、確実に近づいている。
治崎にあと少しで追いつけそうになったので、もう一踏ん張りだと心の中で気合を入れるのだった。