近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
発光現象が消えてからしばらく様子を見たが、暴走する気配はなく精神も安定している。
残りのヴィランもあと僅かで、挟み撃ちの心配はなさそうだ。
少しだけ足を止めて、エリをイズクに預けることにした。
彼女は名残惜しそうにしていたが、
勝てないわけではなく苦戦もしないだろうが、今まで以上に派手に動き回るので、背負っているエリの三半規管が心配だった。
しかし交換条件として、おんぶはまた今度と約束する。
母親に甘えたい年頃だから仕方ないとは言え、妾はやれやれと溜息を吐く。
とにかく手早くイズクにおんぶ紐を装着してもらい、その後はエリをしっかり固定する。
妾たちは治崎を追いかけるが、幸い感覚を研ぎ澄ませ、大体の位置と距離はわかっていた。
あと少しで追いつけそうだ。
しばらく走ると、やがて荷物を持って歩いている三人組に追いつく。
妾たちは警戒しながら足を止めた。
「エリを連れてきてくれたのか」
「そんなわけがなかろう!」
治崎は余裕の態度で話しかけてくる。
それは意識を彼に向けさせるためなのはわかっていた。
その証拠に、一人だけ天井に張りついて隠れ潜んでいる。
不意打ちを狙っていたヴィランに、跳躍して問答無用でぶん殴った。
「のじゃあっ!」
「ぶべらっ!?」
事前に四人の存在を確認しているので、隙を狙っているのはバレバレだ。
普通のヒーローは気づけないだろう。しかし治崎たちには残念だが、妾は普通ではない。
まずは一人を地面に叩き落とし、再起不能にする。
しかし、残った三人も黙って見ているはずもない。
全身黒ずくめのカラス男が、地面に降り立った妾に向けて、素早く発砲してきた。
「遅いわ!」
拳銃など、余裕で目で追えるし、わざわざ防ぐまでもない。
二発の銃弾を軽く体を捻って、最低限の動きで避ける。
「どういう個性だ!」
「こんな状況で、答えるわけがなかろう!」
「個性が効かないだと!?」
どうやら今の問いかけは、カラス男の個性だったようだ。
妾としては、何で急に質問してきたとしか感じなかった。
(妾の個性は、色んな意味でヤバいからのう)
余程のことがなければ、絶対に教えたくない。
そのおかげで精神防壁が出来ていたからか、わざわざ気合を入れるまでもなく、敵の個性を弾いた。
(それ以前に、目の前にいるのは敵なのじゃぞ? 馬鹿正直に教えるわけがなかろう)
結論から言えば、妾が教えたいと思っていない限りは、彼の質問には答えなかった。
しかし、矛先がイズクに向けられると不味い。
妾は続いて発射された銃弾を、前に出ながら避けつつ、一直線に距離を詰めていく。
そして今度も、力任せにぶん殴った。
「のじゃあっ!」
「うわらば!?」
吹き飛んだ男は、壁に叩きつけられてめり込み、再起不能になった。
これで残りは二人だ。
「……汚いな」
ぶん殴った際の返り血の一滴が、治崎の顔についた。
彼はそれを、面倒そうに拭い取る。
続いて治崎は、妾でもイズクでもなく、エリを真っ直ぐに見つめ、おもむろに口を開く。
「いつも言ってるだろう?
お前のワガママで、俺が手を汚さなきゃいけなくなる!
お前の行動一つ一つが、人を殺す! 呪われた存在なんだよ!」
彼女はその言葉を聞いて、恐怖に震える。
しかしイズクはエリを安心させるために手を握り、妾も視線を遮るように前に立つ。
「吐き気をもよおす邪悪とはッ!
何も知らぬ無知なる者を利用する事じゃ! 自分の利益だけのために利用する事だ!
父親が何も知らぬ娘を! お前だけの都合でッ! 許さぬッ! 」
ついうっかり、ジョジョの名言が出ても気づかないほど、妾はブチ切れていた。
だが、こちらが行動起こす前に、彼は個性を発動させる。
手袋を外して両手で地面に触れると、地下通路が一瞬で分解された。
そしてコンクリートの槍を生成して、四方八方から伸ばしてくる。
「師匠!?」
「心配はいらん! 妾に任せておけ!」
イズクは昔よりは強くなったが、エリを背負いながらでは十全に戦えない。
だが逆に妾は、特に制限はなかった。
味方に被害が出ない範囲で、思う存分力を振るうことができる。
両手を前に向けて意識を集中させ、大声で叫ぶ。
「
無数の狐火が出現し、次々と凝固させては高速で射出する。
その場から一歩も動かずに余裕綽々の態度で、治崎が作り出したコンクリートの槍を破壊していく。
後ろに目はないが、感覚を研ぎ澄ませば攻撃を見切るのは難しくはない。
やがて、治崎が生成した槍を一本残らず破壊し尽くした。
しかし、彼はまだ負けを認めていないようだ。
「外では人の目があったが、ここなら壊れても支障はない!
すぐに修復すれば蘇生できる! 原型を留めていなくても元通りに直せる!
その子は身を持って知っているはずだ!」
道理で、妾だけでなくイズクやエリも巻き込んで、全方位から攻撃してくるわけだ。
死なない限り治せるからと、再びコンクリートの槍で串刺しにしようとしてくる。
「外道が!」
妾は先程と同じように、
今度も一本残らず破壊した。
だが妾は、何度も繰り返す気はない。
次はこっちの番だと反撃に移ろうとするが、ふとあることに気づく。
(殺気! 一体何処から──)
目の前に居る彼らとは別の殺気を感知し、意識を集中させる。
すると先程、再起不能にしたヴィランが拳銃を構えて、エリに向けて発砲していた。
死角からなのでイズクは気づいておらず、今から念話で指示しても間に合いそうにない。
もし自分を標的にしていれば、もっと余裕を持って防御できた。
だが狙いはエリで、恐らく妾が強引に間に入って庇うことを予想しての行動だ。
「ちいっ!」
実際に無理な姿勢でエリの前に立ち、飛んできた銃弾をその身に受ける。
かなり接近していたのでギリギリだったが、何とか間に合った。
「師匠!?」
「大丈夫じゃ!」
「病人が! 個性なんてものが備わってるから、夢を見る!
自分が何者かになれると! 精神に疾患を抱えるんだ!」
妾は危な気なく大地に立ち、エリに安心させるように微笑む。
その間にも治崎は勝ち誇った顔で何やら喋っているが、右から左に聞き流す。
「笑えるなぁ! 救おうとしてきたその子の力で!
お前の培ってきた全てが今ぁ! 無に帰したぁ!」
治崎は笑いながら再び両手を地面につけて、コンクリートの槍を生成する。
一方で、妾は少しチクッとしたが、それだけだ。
銃弾は目で追える程遅かったし、ダメージを受けた箇所は毒が広がる前に霊体化して切り離し、再び一から再構成した。
それも念の為で、そもそも気合を入れれば状態異常も無効化できる。
つまり先程の攻撃は、何の意味もないのだ。
「言いたいことは! それだけかっ!」
「なんだとッ!?」
結果、今までと何も変わらない。
「ちいっ! 起きろクロノォ!」
だが、迎撃はしたが、今までと違うことが一つある。
それは治崎のすぐ近くで息を潜めて隙を伺っていたヴィランが、針のような髪の毛を伸ばして攻撃してきたことだ。
けれど遠距離からの銃弾と違い、そんな至近距離で気づかないはずがないし、何より人の動きなど目で追えるほど遅い。
妾は余裕を持って避けたあとに、通り過ぎた彼に向けて手をかざす。
「
攻撃は最大の防御と良く言われるが、避けられれば逆に隙を晒すことになる。
妾から放たれた高温の炎は、クロノと呼ばれた男にまともに直撃した。
彼は防御も回避もできずに、全身火だるまになる。
「ぐあああああっ!!!」
だが別に殺す気はないので、現実の火ほど熱くはない。
程々のところで狐火を消し去ったけれど、それでもヴィランは全身に火傷を負う。
倒れ伏したまま、指一本満足に動かせなくなる。
「残るはお前一人じゃ!」
「貴様ァ!」
怒りたいのはこっちだが、何故か治崎に逆ギレされる。
だが彼の気持ちもわからなくはない。
突然乗り込んできた狐っ娘に
しかし妾も治崎も、もはや矛を収める段階はとっくに過ぎている。
どちらかが倒れない限り、この戦いは終わらないだろう。
「こんな奴に! 俺の計画を台無しにされて堪るか!」
先程と同じようにコンクリートの槍を生成して全方位攻撃をすると思いきや、標的は妾ではなかった。
再起不能にした仲間のヴィランを、自分の元に弾き飛ばす。
そして空中で受け止めて、何と彼を分解して再構築し、一つの新しい個体に変化したのだ。
「潔く認めよう! お前は確かに、俺より強かった!
だがやはり! 全て無に帰した!」
そこに居たのは、もはや先程までの治崎ではない。
巨大な体躯と四つの腕、全身に走る黒い血管、人ではなく怪物に変貌していた。
「さあ! エリを返してもらおうか!」
彼は自分と仲間を破壊して、融合したのだ。
とんでもない芸当で、一歩間違えれば自我も残らないし、死んでもおかしくない。
だが治崎はやりきったし、きっと目的のためなら自分の命さえ投げ出すのも惜しくはないのだろう。
「最低の気分だが! さっきよりはいくらかマシだな!
潔癖の気があってな! 触られると、つい頭に血が登っちまう!
ここまでされたのは初めてだ!」
妾は別に触ってはいないが、コンクリートの槍を粉砕した時に瓦礫が周囲に飛び散っているし、人だけが対象ではないのだろう。
それ以前に、ブチ切れ要因には事欠かない。
狂人を理解したくはないが、気持ちはわかる。
「悲しい人生だったなぁ! 狐ェ!
俺に関わらなければ、ここで死ぬこともなかった!
関わらなければ、夢にかかったままでいられた!
そして、その結果が仲間を巻き込み! 全員死ぬだけなんてなあ!!!」
治崎は、先程よりも遥かに機敏な動きで突っ込んできた。
見た目は巨体だが、速度は落ちるどころか、逆に速くなっているようだ。
妾は取りあえず、周りに落ちているコンクリートの瓦礫を拾い、片っ端から投げつける。
「力と速さ! それだけだ!」
確かに近距離パワー型のスタンドは、その二つが目に見えて高い傾向がある。
妾はそれ以外にも色々できるが、結局は殴ったほうが早いになってしまう。
例えるならガンダムという高性能機体を操縦しながら、やってることは勢い任せの脳筋だ。
冒険王板のアムロとも言う。
だがまあそれはそれとして、治崎は融合状態になっても個性が扱えるようだ。
妾が放り投げたコンクリートの塊は、受け止めたあと粉々に分解された。
しかし、向こうから距離を詰めてきたので、明らかに慢心している。
「のじゃあっ!」
「ぐっ!?」
せっかくの機会なので、余裕を持って四本腕の攻撃を避けたあと、カウンターとして顔面に重い一撃を叩き込んた。
彼は勢い良く吹き飛んでいく。
並のヴィランなら意識を失ってもおかしくない攻撃だが、治崎は両手足で踏ん張って耐える。
それだけでなく損傷箇所を再構築し、ダメージをなかったことにした。
だが彼は初めて生身で妾の拳を受け、大いに動揺する。
「さっきまでとは比べ物にならないパワー!? 本気じゃなかったのか! コイツ!」
確かに先程までは遠距離攻撃でコンクリートの槍を破壊したり、取り巻きのヴィランをボコっていただけだ。
しかし敵がパワーアップしたなら、妾もその分だけ手加減を緩める。
まあ今も全然本気ではない最低出力の一尾だが、わざわざ治崎に伝える必要はなかった。
なので、彼が増長するのも無理はない。
だが絶対に勝てないと理解し、逃げられるよりはマシだ。
「諦めろ! 俺の言った通りになるだけだ! 全員……死ぬ!」
彼はこの状況でも、まだ自分の勝利を疑っていない。
先程まで個性を使って何者かになれると信じているのを哀れんでいたが、今は治崎のほうが振り回されていように思える。
そして彼はさらなる力を得るために、もう一人のヴィランも吸収して巨大化するが、妾がやることは変わらない。
「そんなことにはさせぬ!
たとえ! 未来が決まっていたとしてもじゃあっ!」
妾はお構いなしに、コンクリートの槍だけでなく新しく増えた六つの腕を躱す。
再び治崎に急接近して、真下に潜り込む。
続けて拳に狐火を纏って両足のバネを存分に使い、渾身のアッパーカットと肘打ち、さらに膝蹴りをほぼ同時に叩き込んだ。
「灼熱ッ! 昇龍拳ーッ!」
「がはあああぁっ!!?」
彼は、またもや吹き飛んだ。
しかも先程よりも遥かに上回るスピードで、今度は空中に投げ出された。
踏ん張る地面がなければ受け身も取れず、治崎と妾はそのまま分厚い天井を突き破る。
だが別に原作の格ゲーのように多段ヒットするわけでも、隠し武器としてボスも一撃で葬り去るわけでもない。
それでも、強烈な攻撃には違いなかった。
とにかく妾たちは、戦いのステージを地下通路ではなく地上に移したのだった。