近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
オセオン国に来たのじゃ
エンデヴァー事務所でインターンをしている最中、世界を揺るがす大事件が起きる。
規模が大きすぎてヤバいため、全ヒーローに緊急招集がかけられた。
妾たちは輸送機に乗り、オセオン国へと向かう。
「先日の、無差別テロの犯行声明を出したのは、ヒューマライズ」
移動中に、情報を共有するために画面に映像が流れる。
妾以外のヒーローたちは皆、真面目な顔つきで注視していた。
「人類救済を標榜する指導者。フレクト・ターンによって設立された思想団体である」
全身青肌でローブ姿の中年男性が映し出された。
確かに新興宗教の指導者という感じがする。
「テロに使用された装置は、個性因子誘発物質。
イディオトリガーを強化したものだと推測される。
以後この装置を、トリガーボムと呼称する」
個性因子誘発物質や装置は、今始めて聞いたので詳しいことはわからない。
しかし都市一つを壊滅させて、大勢の犠牲者を出したトンデモ兵器だ。
それが物凄くヤバい代物なのは知っている。
「我々、選抜ヒーローチームの任務は、世界25箇所にあるヒューマライズの施設を一斉捜索。
団員たちを拘束した後、一刻も早く保管されているトリガーボムを、確実に回収することである」
業界最大手であるエンデヴァー事務所のヒーローが、総出で乗り込む程だ。
この作戦は失敗が許されないのは明らかで、さらに世界中から大勢のヒーローが集結していた。
「施設では、団員の抵抗が予想される。
また、トリガーボムを使用する危険も高く、各国の警察への協力要請は自粛せざるを得ない。
火急かつ速やかに、この任務を実行して欲しい」
ようは全世界で同時に敵施設に乗り込んで、爆弾を爆発させる前に全てのトリガーボムを確保する作戦だ。
戦力的には問題はなく、普通に戦えば負けることはない。
だがいよいよとなれば自爆する危険があるので、油断はできない。
最後に、万が一の備えとして作戦司令部を護衛しているオールマイトに交代する。
「ヒーロー諸君、この作戦の成否は、君たちの双肩にかかっている!
テロの恐怖に怯える人々の笑顔を取り戻そう!」
かくして、ワールドミッションが始まった。
イズクも特注のヒーローコスチュームを身につけて、他の仲間と共に輸送機から飛び降りる。
妾たちは闇夜を落下していき、都市内のヒューマライズの施設を目指す。
敵に気づかれてはいけないので、目立つ青龍は呼び出せない。
ちなみにイズクたちのチームの任務だが、施設の制圧とフレクトの確保だ。
リーダーやトリガーボムの所在がわかっていないため、25箇所同時襲撃という無茶をやる必要がある。
けどまあ、難しく考えても仕方がない。
とにかくやるしかないので、あれこれ思い悩むのは後回しにして、まずは施設に突入して敵戦力の無力化を行う。
団員の殆どは無個性なので、ヒーローたちの敵ではない。
とにかく気絶か拘束し、奥へ奥へと進んでいく。
だがクレアさんの透視でトリガーボムを探すが、何処にも見当たらない。
さらに一番奥の部屋に押し入っても無人で、指導者どころか兵器も見つからなかった。
結局、世界中の25箇所全てが空振りに終わってしまう。
捕らえた団員たちを尋問しても保管場所を知らないどころか、存在すら知らない有り様だ。
先日のテロ事件はフレクト直属の者たちの犯行で、殆どの団員たちは無関係の可能性が高いことが判明する。
しかし空振りに終わったからとはいえ、諦めるわけにはいかない。
ヒーローチームは現地に留まり、引き続き捜索を続行する。
ヒューマライズの隠し施設とトリガーボムを見つけ出すために、奔走するのだった。
妾たちはオセオンでもっとも大きな都市を拠点に定め、食料の買い出し任務を行っていた。
現状は手がかりがほぼゼロなため、長期滞在になるのは想像に難しくない。
腰を据えて捜索を進めるしかないので、焦りは禁物だ。
轟少年とイズク、さらに爆豪少年が並んで話しながら歩く。
何処も人が多いし、やたらと注目される。
三人が大声で話しているのもあるけれど、守護霊が珍しいのだろう。
日本では全国ニュースで頻繁に流れるようになってから、ナンバーゼロのヒーローとしての珍しさで注目されるようになった。
オセオン国でも多少は知られているが、純粋に巫女服を着たのじゃロリ狐っ娘が珍しいようで、振り返って二度見や写真を撮られることも良くある。
半透明ではなく、完全に姿を消せたらどれだけ良かったかと、つい大きな溜息を吐いてしまう。
(いっそ日向ぼっこを諦めて、地面に潜ろうかのう)
妾がそんなことを考えていた、その時だ。
少し離れた場所にある店舗から、爆発音が聞こえてきた。
「ほっ、宝石強盗だ! 捕まえてくれー!」
イズクたちはまだ仮免許とはいえ、ヒーローだ。
たとえ他国でも放ってはおけず、宝石強盗を捕まえるために追跡を開始する。
だがヴィランは、躊躇なく個性を使う。
観光客や現地住民が多い場所で、次々と人が吹き飛ばされる。
「
「黒鞭!」
轟少年と爆豪少年には犯人の追跡を任せて、妾たちは民間人の救助を行う。
竜巻に飛ばされた人たちを、弟子と二人で茨や鞭を伸ばして落とさないように気をつけて確保する。
ちなみに茨のトゲは、ファッションのようなものだ。
出力を調整すれば触れても痛くないし、熱くもない。
一先ず救助を終えたので、轟少年のあとを追う。
だが犯人を捕まえても、アタッシュケースは持っていなかった。
途中で投げ捨てた可能性もあり、慌てて引き返す。
すると狭い路地の奥に、一人の少年が走り去っていくのが見えた。
当然後を追うが、路地から出た先は大通りで、人が大勢行き来している。
少年を見失うのは仕方ないが、妾からは逃げられない。
「イズク! あそこじゃ!」
「あんなところに!」
すぐに追跡を再開するが、相手はこの都市を知り尽くしているようだ。
彼しか知らない道なき道を行き、追いかけるイズクを煙に巻く。
さらに規模は小さいが被害を出すので、放置できずに強制的に足を止められる。
途中で交通事故が起きたようだが、そちらは轟少年に任せて、イズクは宝石泥棒を追う。
やがて少年が地下鉄で逃げようとしたので、弟子がダッシュで追いかけて強制的に乗り込み、確保したあと次の停車駅で詳しい話を聞く。
「何で追いかけてくんだよ!」
「どうして逃げたの?」
「仕事で急いでたんだよ!」
「何の仕事?」
「商談だよ。商談。こう見えても、やり手の営業マンなんだよ」
嘘っぽいが、まだヴィランと決まったわけではない。
彼が宝石の入ったアタッシュケースを手渡される瞬間を、目撃していないのが痛かった。
「仕事の邪魔、しないでくれる?」
「ケースの中身、見せてくれないかな!」
「いくらくれる? 見たいなら、金払うの当然だろ?」
確かに中身を見るためとはいえ、勝手に開けると犯罪だし、相手の同意が必要だ。
しかしヒーローなら、非常事態は大目に見てもらえる。
イズクはそのことを知っているので、大声をあげて少年に近づいていく。
「中身を確かめるだけだから!」
「アンタ、この国のヒーローじゃないんだろ?
他所の国で、勝手にヒーロー活動していいわけ?
権限もないのに、命令しないでくれるかな!」
ぐうの音も出ないほどの正論かは不明だが、確かにイズクはこの国ではとても弱い立場だ。
妾も免許は持っていても、それは日本のプロヒーローである。
オセオン国でも効力があるかは微妙だし、下手にやり過ぎて外交問題になったら不味い。
町中で能力を使うのを控えていたのは、それが理由だ。
「それとも、一方的に追いかけられて尋問されたって、警察に通報する?
しちゃおっかなー」
何も言い返せないイズクを見て、少年は気を良くしたようだ。
「わかってもらえて嬉しいよ」
彼は今度こそ背を向けて去っていく
「そんなにヒーロー活動したけりゃ、自分の国でやりゃいい。
そんじゃ」
「待って!」
「……まだ何か?」
少年の手を掴んだイズクは、決して離そうとはしない。
「ケースの中身を見るだけだから!」
「見たけりゃ金払えよ!」
「払うから見せて!」
「十万ユール!」
「高すぎる!」
そこから値段交渉の取っ組み合いになり、やがてアタッシュケースは二人の手からすっぽ抜けて地面に転がる。
衝撃を受けてロックが解除されたのか、中身が明らかになった。
しかし、予想と違って宝石ではない。
手帳や書類などが入っていたので二人共驚くが、妾はやっぱりなと大きく息を吐くだけだ。
「そんな気はしておったがのう」
「しっ、師匠! 気づいてたなら、教えてくださいよぉ!」
「確証はなかったからのう」
妾はアタッシュケースから聞こえてくる音から、宝石は入っていないと予想はしていた。
しかし、はてと首を傾げる。
「じゃが、おかしいのう?
途中までは確かに、宝石の音が聞こえておったのじゃが」
「途中って、何処から変わったんですか!」
「地下鉄に逃げ込む頃には、すり替わっておったような」
質問に答えたものの、イズクには心当たりはないようだ。
なので二人揃って、戸惑っている少年をじーっと見つめる。
「なっ何だよ! 俺は知らねえからな!」
その割には冷や汗をかいているし、両足もガクブルしている。
何か知っているのは明らかだ。
イズクも妾も、この国のヒーローではない。
無理に聞き出すことはできなかった。
だが、このまま見逃すこともできない。
慌てて逃げ出した少年を追い、地下鉄の階段を上って地上に出る。
しかしそこで何故か、パトカーがサイレンを鳴らしながら次々とやって来た。
そして妾たちを取り囲むように停車したうえ、オセオン国の特殊部隊まで動員されたようだ。
その場の全員が臨戦態勢で拳銃を突きつけ、大声を出す。
「両手をあげて! その場に伏せろォ!」
「ひいっ!? おっ、俺っ!?」
いきなりの急展開に驚き、少年は顔を青くして尻餅をつく。
イズクは、そんな彼を庇うように前に立つ。
「ちょっと待ってください! 彼は!」
「おっ俺は! 何も取ってねえから!」
だが少年が慌てて逃げ出したことで、事態はさらにややこしくなる。
「許可は出ている! 撃てーッ!」
「やれやれじゃな!
妾はイズクたちよりも前に出て右手をかざし、意識を集中させる。
すると雨あられのように飛んできている無数の銃弾が、こちらに近づくほど速度が落ちていき、やがてそれらは何もない空中で、完全に動きを停止した。
今の気分的には、マトリックスのネオだ。
(ぶっつけ本番じゃが、上手くいったようじゃな)
どうやったのかと言うと、別に時を止めたわけではない。
まあそもそも、たとえできたとしても、素早く動けば時間なんて停止しているも同然だし、わざわざやる必要はなかった。
話を戻すが先程は大気中に生命エネルギーを広げて、極めて弱いバリアを張ったのだ。
攻撃範囲があまりにも広く、また周囲には多くの建造物やまだ避難していない人たちも居たので、万が一でも狙いが逸れたり跳弾したら不味いと判断した。
おかげで低反発マットレスのような見えない壁ができて、それが無数の銃弾の勢いを完全に殺し、空中に留まることになる。
そのまましばらく、発射音が鳴り続けた。
しかし、やがて弾が尽きたようだ。
銃撃が止んだので右手を下ろすとバリアが消えて、一拍遅れて空中に留まっていた無数の弾丸が地面に落ち、バラバラと乾いた音が周囲に響き渡る。
「お前たちを、ここで全滅させるのは容易い。
じゃが、一応はヒーローじゃし見逃そう。
代わりに、妾たちの命を狙う理由を教えてもらおうか」
しかし、警官隊は答える気はないようだ。
冷や汗をかきながらも、無言で次弾を装填し始めた。
「……答える気はないか。
イズク、これ以上は時間の無駄じゃ。一先ず逃げるぞ」
「はっ、はい! 師匠!」
妾の意図を正確に理解したイズクは、少年を抱えて跳躍した。
とにかくこの場から一刻も早く離脱するのだ。
一体何が起きているのか、状況がまるでわからない。
しかし、彼らに聞いても答えてはくれなかった。
ならば無理やり口を割らせて外国で問題を起こすよりは、一先ず逃げたほうが良いだろう。
(アタッシュケースの中身も気になるしのう)
宝石を盗むのは大罪だが、犯人と思われる少年は確保している。
それに警察や特殊部隊を総動員して、問答無用で銃殺するのは明らかに異常だ。
何か裏があるとしか思えず、その原因は少年が持っているアタッシュケースの可能性が高かった。
(オセオン国の闇か。もっと別の何かかは知らぬがな)
そもそも自分は脳筋キャラであり、知略を巡らすタイプではない。
こういう難しいことを考えるのは弟子の役目で、できることならイズクに判断を任せたいが、師匠の信頼度が半端ではないのでそれも難しそうだ。
とにかく今は、落ち着いて状況を整理する時間が必要である。
妾は浮遊で空を飛び、イズクはスパイダ◯マンのように黒鞭を使って町中を高速移動する。
やがて大河にかかった橋の上を走る、列車の屋根に着地した。
ようやく一息つく。
「どうしていきなり発砲を!」
「しっ、死ぬかと! 思った!」
取りあえず、これでしばらく時間が稼げるはずだ。
だが遠距離から向けられる殺気に気づいた妾は、慌てて大声で呼びかける。
「二人共動くな! 妾が対処する!」
遠くから高速で飛んできた矢に、狐火を当てて一瞬で消し炭に変える。
「軌道が変化した? 遠隔自動操縦型か!」
別に
すぐに対処できるし、どれだけ誘導性能が高くても、向こうの狙いはわかっている。
「
妾は炎の剣を作り出し、別々の方向から追尾してきた二の矢、三の矢をバラバラに切り刻んで燃えカスにした。
しかしこれで一息つけるはずもなく、今度は三本同時に放ってくる。
「乗客乗員を巻き込むことも躊躇わぬか!
仕方ない! イズク! 場所を変えるぞ!」
「はいっ! 師匠!」
妾たちが無事でも、周囲はそうではない。
さらに、ここは日本ではなく他国だ。
やり過ぎると外交問題になるのは間違いなく、ぶっちゃけもう既に大問題になっていた。
しかしだからと言って、これ以上被害を拡大するわけにもいかない。
妾たちは列車から飛び降りて、大橋の下を通っている道路に移動する。
その途中で、予想通り追尾してきた三本の矢に、落ちながら手を向けた。
「
特大の炎を放ち、全部まとめて焼き尽くす。
しかし下の道路に場所を変えたものの、今度はパトカーが集団で追ってきた。
「いやはや、本当に一難去ってまた一難じゃな!」
「どうしますか! 師匠!」
「空を飛んで国外に逃げても良いが! 状況がまるでわからぬからのう!」
この先は口にしなくても伝わったようだ。
妾はイズクに目配せすると、弟子は真剣な表情でコクリと頷く。
そして少年を抱えたまま、橋の下を流れる大河に飛び込むのだった。