近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
大河を泳いで襲撃現場から急ぎ離れたあと、周囲に人が居ない場所に上陸する。
茂みに隠れて、手早く電話をかけた。
日本から来たヒーローである轟少年に簡単に状況を説明をすると、案の定何をやってるんだと呆れられる。
だが警察隊に囲まれて問答無用で発砲されて、さらにヴィランみたいな奴に命を狙われたのだ。
おまけに何故か、妾とイズクが民間人を十二人を殺害した大量殺人犯にされていた。
状況を理解しようとしたら、ますます混沌としてきて困惑が深まる。
しかし諦める気はなく、妾は弟子に頼み事をする。
「イズク。悪いがもう一件だけ、連絡して欲しいのじゃが」
スマートフォンを長く使っていると、GPSを追跡されて警察に見つかる可能性がある。
なので本当にあと一件だけだと伝えて、イズクに指定の電話番号にかけてもらう。
「もしもし? 妾じゃが」
「お狐様!? ちょっと貴女! 一体何をやったのよ!
オセオン国で指名手配されてるわよ!」
こちらから電話するのは珍しい。しかし、ラヴラバはいつも賑やかだ。
そして、今は詳しく説明している時間はないので、短く伝える。
「妾にもわからん。恐らく何か、重大な事件に巻き込まれているのじゃろうが」
「ふーん、重大な事件ね」
ラヴラバはジェントルと一緒に、日本でヒューマライズ絡みの極秘作戦に関わっている。
「そこでラヴラバに、事件について調べてもらいたいんじゃ」
「それって、私にクラッキングしろってこと?」
彼女は自称ハッキングのプロで、イズクの住所を突き止めて凸してきた実績がある。
そのぐらい、PCを使っての調べ物が得意である。
妾も彼女を高く評価し、今頼れるのはラヴラバだと考えて連絡を取ったのだ。
「警察に問答無用で殺されかけた以上、聞いても教えてはくれぬじゃろう。
ヒューマライズの調査も差し迫っておるし、多少強引な手を使っても致し方あるまいよ」
クラッキングは犯罪だが、正義のためなら許される風潮がある。
まあ実際にそうなるかはわからないし、正義は各々で違うので絶対ではない。
だが、世界が滅びては元も子もないし、今回だけは大目に見てもらいたい。
「お狐様が保証人になってくれるなら、良いわよ!」
「妾の保証など何の役にも、……まあ良かろう。
理由もわからず命を狙われておるし、正当防衛で押し通すか」
警察やヴィランに、理由もわからずに殺されるわけにはいかない。
妾も全力で抵抗をさせてもらうが、ラヴラバを巻き込んでしまうのは申し訳なく思う。
「巻き込んですまぬな」
「ううん! むしろ巻き込んでくれて嬉しいわ!
貴女は私たちのヒーローなのよ! 頼ってもらえて光栄じゃない!」
「さっ、さようか?」
「ええ! 朗報を期待しててね!」
そう言って、ラヴラバとの通話が終わった。
妾は大きく息を吐いて、スマートフォンをイズクに返却する。
取りあえず追われる身なったので、警察の追跡から逃れるべくバッテリーを抜いておく。
続いてその場から離れるべく、急ぎ動き出すのだった。
そのまましばらく歩いて、周囲に人の気配を感じられなくなったとき、少年が大声をあげる。
「どういうことなんだよ! アンタらが人殺しで! 俺がその共犯者!?
いつの間に仲間になったんだよ! 説明しろよ!」
少年がイズクに詰め寄った。
犯罪者のくせにやけに態度がデカいなと思いながらも、妾は呆れた顔をして間に入る。
「元はと言えば、お主が出所不明なアタッシュケースを持っておったのが、原因なのじゃぞ?
むしろ被害者は妾たちのほうじゃ」
「なっ! 何だよ! 俺のせいだってのかよ!」
彼は納得はしていないようで、ちょっとビビリながらも強気な態度を崩さない。
そしてイズクはまだ状況がわかっていないのか、少し困惑しながら尋ねてくる。
「どういうことですか?」
「命を狙われる原因に、心当たりが全くないのじゃ。
ならば妾たちではなく、持ち運んでおるアタッシュケースが原因と考えるのが、一番しっくり来るじゃろう」
地下鉄でアタッシュケースの中身をぶち撒けた時に、彼はとても動揺していた。
自分の手荷物を把握していないなどあり得ない。
それに最初は宝石を持ち歩いていたことから、今の中身も盗品である可能性が高かった。
他にも不審な点が多すぎるし、アタッシュケースの所持も含めて、彼が手がかりに一番近いのは間違いないだろう。
「イズクは人が良いから、此奴を信じておるようじゃがな」
そう言って、妾は大きく息を吐く。
続いて、挙動不審な少年をジト目で見つめる。
「妾が見たところ。ヴィランでなくても、小悪党じゃぞ。この男」
「ぎくうっ!?」
今も思いっきり動揺しているし、図星なのだろう。
妾はやれやれと首を振るが、イズクは本心では信じたいようだ。
しかし師匠の発言も否定したくないようで、心底困っている。
「イズクはそのままで良い。妾が警戒しておくゆえな」
「すみません。師匠」
人を信じるのは、イズクの良いところだ。
師匠としては、その人の良さを否定したくない。
なので、弟子はそのままでいてくれと軽く流す。
とにかく、ようやく安全な場所で時間が取れたのだ。
イズクは状況を整理するために、深く考える。
「警察は問答無用で発砲して、ヴィランまで襲ってきた。
それは、僕らの生死を問わないということ。
つまり、彼らの目的は僕らではなく──」
先程妾が口にした、アタッシュケースが狙われる理由を、さらに補強してくれた。
少年もようやく自覚したようで、急いで中身を確認する。
だが事件に関係のありそうな物は一つも出てこず、イズクも彼もガックリと項垂れてしまう。
「……師匠」
「まあ待て。中身を見られても怪しまれないように、何処かに隠しているやも知れぬ」
持ち運んでいるアタッシュケースが、輸送中に中身をチェックされる可能性もある。
その時に、こっそり持ち運んでいるモノがバレてしまったら大変だ。
なので抜き打ちの荷物検査でも怪しまれないために、何処かに隠しているかも知れない。
「なるほど、確かにそうですね!
僕たちがアタッシュケースを確認しても、不審には思わなかった!」
「でも、隠すって何処にだよ。荷物はコレで全部だろ?」
二人は頭を抱えている。
確かに荷物を全部調べても、不審な物は見つからなかった。
ならばと、妾はアタッシュケースを持ち上げる。
色んな角度から、注意深く調べ始めた。
「確かに荷物は全部調べたが、ケースはどうかのう? ……んっ?」
ケースの底の部品に、ほんの微かなズレが見つかる。
狐っ娘の五感ではなければ、気づかない程の違和感だ。
妾は壊さないように慎重に取り外していくと、妙なパズルが出てきた。
「何でしょうか?」
「パズルのように見えるな。
恐らく仕掛けを解かねば、中身を取り出せぬのじゃろう」
そして、残念ながら師匠は脳筋だ。
こういう繊細な仕掛けは苦手である。
あんまりガチャガチャやると壊してしまいそうだし、ええいこのボタンだで無理やり解錠した場合、中身にどんな影響が出るかわからない。
なので、ここは弟子に任せてしばらく様子を見る。
そんな時に、難しい顔で考え込んでいた少年が、ハッと気づいて声をかけてきた。
「ちょっと、貸してくれないか」
特に拒否する理由もないので、イズクは彼に渡すと、慣れた手つきで動かし始める。
「似たようなパズルを、ガキの頃にやったことがある」
そう言って彼は昔の記憶を思い出しながら、パズルをカチャカチャと動かす。
妾には何をしているのかさっぱりだが、イズクと比べてもかなりスムーズだ。
「よしっ!」
「……あっ!」
無事にパズルと解いて、中身が出てきた。
落っことす前に、イズクが手で受け止める。
見た感じは何かの電子部品だが、ちょっと良くわからない。
弟子も師匠が機械関係は苦手なのを知っているので、わざわざ聞いたりはしなかった。
「情報チップと、……コレは何だろう?」
情報チップの他には、長細くて薄いカードキーが出てきた。
しかし、実は全く違う物の可能性もあり、断言はできない。
「何処かで詳しく調べられれば良いのじゃが、今は指名手配犯じゃしのう」
妾の発言に、弟子は真面目な表情で考え込む。
「少なくとも、オセオン国では目立つことはできませんね」
「うむ、隣国では指名手配されてないと思いたいが」
弟子と少年は変装できるが、妾は巫女服から着替えても、のじゃロリ狐っ娘である。
ぶっちゃけとても目立つので、人が多い場所には近づかないほうが良いだろう。
霊体化で地面に潜って隠れても、他所の地下室をぶち抜いて、ひょっこりこんにちはする可能性もあった。
エンデヴァーや一年A組の皆と連絡が取れれば、情報を得られる。
現状ではそれも難しく、妾たちは目立つ行動をすれば彼らの立場も悪くなるだろう。
少し前なら知らぬ存ぜぬで押し通せても、指名手配はニュースで報道されて誰もが知っている。
つまり重要物品と思われるモノを調べるには、目立たないよう慎重に動くべきだ。
妾とイズクが今後について相談していると、少年が何かを思いついたのか大きな声を出す。
「待て待て待て! そうネガティブな方向に考えるなよー!
そうだ! ケースを燃やそう! そんで! 燃えちゃったーって言おう!」
「結果が変わってないよ!」
イズクはそれでは妾たちの身の安全は保証されないと、はっきりと少年に返答する。
「ならいっそ! 警察に言おうぜ!
ケースが欲しければ! 百万ユール持って来ーい! ってな!」
「それ! 本当の犯罪だよ! ヤケを起こしちゃ駄目だ!」
妾は二人のやり取りを見て溜息を吐くが、心身共に相当追い詰められているので無理もない。
「なあ、やっぱそいつを渡そうぜ! 命までは取られないって! 考えすぎだって!」
そこで弟子が反論しようとした。
けれど、このままだと堂々巡りなので妾が横から口を出す。
「問答無用で発砲し、さらには列車の乗客乗員、国民に犠牲が出ても、妾たちを殺そうとしたのじゃぞ?
そんな奴らが、命乞いを聞いてくれると思うておるのか?」
「うぐっ! なっならっ! どうすればいいんだよ!」
彼も本当はわかっている。
ケースを渡しても命が助かる保証はなく、その場で殺されてもおかしくない。
しかし、少しでも楽観的に考えないと、不安に心が押し潰される。
ヤケになるのも無理はなく、それを叱責する気はない。
だが、勝手な行動を許す気もないので、一先ずの解決策を提示する。
「妾たちは命を狙われておる。立場も弱いし、何も知らずに無闇に動くのは危険じゃ。
じゃから、今は逃げるのじゃ」
どんな事情があるにせよ、警察と戦うわけにはいかない。
妾たちはヒーローだし、そうでなくてもオセオン国と事を構えるわけにはいかなかった。
なので一先ずは状況がわかるまで逃げ続けて、このことを誰かに伝える。
現状でわかっているのは、追っているのはオセオン国警察だ。
つまり隣国のクレイドに逃げ込めば、少なくとも彼らは手出しができなくなる。
推測ではあるが、恐らく正しい。
そして情報チップやカードキーらしき物だが、指名手配されている国内で悠長に調べ物をしている余裕はない。
なので目立たず移動し、国境を抜けて隣国に向かう。
そこでラヴラバと連絡を取り、改めて詳しく調査することに決めたのだった。