近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
一時的にスマートフォンにバッテリーを取りつけて、メールで轟少年に連絡する。
隣国のクレイドに行くことを暗号で伝えたあと、三人乗りの青龍を召喚して乗り込む。
取りあえず、ジブリの猫バスをイメージした。
遠距離攻撃の時とは違って、見た目も可愛いタイプだ。
ただまあ、見た目に拘っても目撃されたら一発でバレる。
通報されたり画像をSNSにアップロードされるのは確実だし、可愛くても誰かに見せる気はなかった。
キャンピングカーサイズの青龍は、猫バスと違って足はいくつもないし、何より浮いている。
まずは感覚を研ぎ澄ませて、人の居ない道を進む。
青龍の内部は低反発で、長時間座っていてもお尻が痛くならない。
青一色でガラス窓がなく、夜になれば虫が寄ってくるのが難点だが、乗り心地は悪くないだろう。
途中にポツンとあった、ガソリンスタンドとショッピングセンターが一体になったお店で、必要な物資を購入する。
青龍に敷いたり被せたりする布や、食料品や衣服など色々だ。
ちなみに当然のように、ブレーキもアクセルもハンドルもない。
妾が運転手なのが固定なのはちょっと面倒だが、疲れ知らずなのはこういう時は便利だ。
なお少年は、ヒーローでもヴィランでもない一般人である。
なるべく負担をかけないように、青龍を低空飛行させていた。
自動車ぐらいの速度は出ているし、浮いているので川も悪路も関係なくズンズン進む。
人目を避けるために真っ直ぐ街道を進むのではなく、ちょくちょく横道に逸れて曲がりくねって移動する。
それでも数日もあれば、国境に到着するだろう。
一分もかからずに隣国に行く選択肢もあるが、どうせ疑いが晴れて帰っても仕事に追われる毎日だ。
今回は世界の危機なので妾も参加しないといけないし、それはちょっと面倒である。
トリガーボムは焦って見つかるような物でもなく、今は指名手配されているとはいえ、任務の間のちょっとした息抜きだと前向きに考え、あえてのんびり移動していた。
世界の車窓からという番組があるが、晴れの日はスポーツカーっぽい見た目で移動したりもできるし、これはこれで自由気ままな外国旅行のようで悪くない。
だがここまで緊張感のない指名手配犯や逃亡生活は、妾ぐらいだろう。
やがて日が暮れて夜になる。
妾は徹夜で運転しても平気だが、青龍はとても目立つ。
熱くなくても見た目が青く燃えているため、布を被せても夜の闇で薄っすら光が漏れてしまうので、移動するのは避けたほうが良いだろう。
夜の間は青龍にさらに落ち葉や藁を被せて隠して、何処か安全な場所で一泊することにしている。
ちょうど放棄された物置小屋を見つけたので、今回はそこを使わせてもらう。
取りあえず、寝ずの番をしているのも退屈だ。
体はともかく心を休めるために、目を閉じてよっこらしょと横になる。
しばらくしてイズクの寝息が聞こえてきたが、少年の方はまだ起きているようだ。
弟子が持っているアタッシュケースに手を伸ばして、こっそり盗み取ろうとしているのを目撃する。
妾は呆れたように声をかけた。
「まだ諦めておらんのか?」
「なっ!? だったら、何だって言うんだ!
俺は帰らなきゃならねえんだ! 弟と妹が待ってるんだ!
そのためにも! コイツが必要なんだよ!」
彼は驚いているが、イズクを起こさないように小声で喋っている。
家族のためという考えは、理解できなくはない。
だが納得はできないし、少年は口で何を言っても止まらないだろう。
(一度痛い目に遭うのも、致し方ないか)
妾は溜息を吐いて、はっきりと返事をする。
「ならば、好きにすると良い。妾は止めんよ」
「……へっ? 良いのか?」
「じゃが、どのような結果になっても、恨むでないぞ。
全てはお主の決断が、引き起こした事態なのじゃからな」
少年はこの先の未来を考えて、顔を青くする。
それでも、自分の判断は間違っていないと思ったようで、止める気はないようだ。
覆面をつけた鳥がピーチクパーチク騒いでいるけれど、妾は心配はいらぬと軽く頭を撫でて安心させる。
「では妾は、もう一眠りするかのう」
見られていては、少年もやり難いだろう。
妾はそっぽを向いて横になる。
「お前は何がやりたいんだよ」
「逃げ回るのも、飽きてきたしのう。
この辺りで相手の面を拝んで、釘を刺しておこうと思ったのじゃ」
何処の誰が妾たちを狙っているのか、現時点では不明だ。
襲撃してきたヴィランに、やられっぱなしというのも腹が立つ。
なので命を狙う敵を呼び寄せる結果になっても、少年に現実を思い知らせて、敵の顔を確認して追い払うのも一興だろう。
だからここはあえて放置し、好きにさせても良いかと考えた。
「俺が敵と取引したら、お前ら二人共! 殺されちまうかも知れないんだぞ!」
アタッシュケースを持ち出すのも、少年の中で良心の呵責があったようだ。
短い間でも行動を共にして、ユウジョウが芽生えたのだろう。
不器用ながら心配してくれたようなので、妾はよっこらしょと起き上がって彼と向かい合う。
そして、不敵な笑みを浮かべた。
「敵がAFO以上なら、ちと厄介じゃが、心配はいらぬよ」
「AFO?」
「知らぬなら別に良い。
とにかくお主は、自分の身を守ることを考えておくのじゃな」
AFOも、別に勝てなくはない。
相手をするのが、この上なく面倒なだけだ。
とにかく今は、少年のことが心配だ。
ゆえに妾は五感を研ぎ澄ませて周囲の様子を探りつつ、時が来たらイズクを起こすのだった。
少年が妾たちの元を離れて、少し時間が経った。
ヘリコプターのプロペラ音が近づいてきたので、イズクの肩に手を置いて、軽く揺らして起こす。
そして事情を簡単に説明すると、眠そうにしていた弟子の顔つきがガラッと変わる。
「どうして起こしてくれなかったんですかぁ!」
そうは言うが、こっちにも言い分がある。
「ああいうタイプは、口で言っても聞かんのじゃ。
一度痛い目に遭わんとな。……それより、急ぐぞ」
そして弟子も、今は話している場合ではないと気づく。
妾が念話で少年の現在位置を教えると、急いで目的地に向かって移動する。
広い場所に停まっているヘリは、ライトで周囲を明るく照らしていたので、すぐにわかった。
両腕を金棒に変える赤鬼の姿をしたヴィランが、少年に殴りかかろうとした。
ミンチになる寸前にイズクが駆けつけ、空から飛び蹴りを放つ。
「
出力も十分に高まっており、金棒で受け止めた赤鬼のヴィランを吹き飛ばした。
ヘリに激突して骨が折れて気を失ったのか、動かなくなる。
だが、ヴィランはもう一人居る。
中距離から弓矢で少年を狙撃してきたので、妾が強引に間に入る。
次に飛んできた矢を、二本の指で受け止める。
「
それだけではなく、そっくりそのままヴィランに投げ返した。
個性で加速して軌道も変化していたので、原作の北斗伝承者でも難しそうだ。
しかし、妾なら受け止めて返すのは容易い。
女性のヴィランは自分が射った矢が刺さった膝を押さえ、驚愕から苦痛の表情に変わる。
続いて妾は、遠隔操作で青龍を呼び寄せた。
イズクに少年とアタッシュケースを回収させ、さっさと乗り込む。
「これに懲りたら! 二度と妾たちの命を狙わぬことじゃ!」
別にこの場で再起不能にしても良いし、相手はヴィランだ。
だが、もし彼らがオセオン国の命令で動いている極秘のヒーローだった場合、立場的に悪人は妾たちになる。
アタッシュケースの情報チップやカードキーの鑑定ができなくても、十中八九で彼らが悪事を働いているのだとは思っているのだ。
けれど依然として状況は不明で、万が一の可能性が消せていない。
再起不能にするのは、止めたほうが良いだろう。
それでも程々に殴って、国に帰るんだな。お前にも家族がいるだろうや、膝に矢を受けてしまってなという感じで、追跡不可能にはした。
とにかく、怪我をしたくなければこれ以上追ってくるなと言い残す。
青龍を加速させると、悔しそうな顔をする彼らの姿が、みるみる遠ざかっていく。
その後は追ってくることもなく、やがて完全に見えなくなるのだった。
途中の洞窟で夜を明かし、お互いに身の上話をして、イズクと少年の仲が深まる。
妾は後方腕組み師匠ポジとして、口を挟まずに静かに見守っていた。
この時点でようやく、彼がロディという名前だとわかる。
そう言えば知らなかったと気づくが、不便はなかったので良しとしておく。
妾も自己紹介をしたが、特に語ることはない。
取りあえず、明日に備えてそろそろ休もうと話を切り上げるのだった。
青龍に乗って移動している間も、ロディの悲しい過去話は続く。
その割に全然落ち込んでおらず、明るく陽気に振る舞っているので逞しいことだ。
暗く沈んでいるよりは良いし、ずっと人目がない道を低空飛行している。
景色は最高だがちょっと退屈だったので、気が紛れてちょうど良い。
やがてクレイドの国境に辿り着いたが、検問所は厳重な警備体制だ。
指名手配されているし、簡単に通れる状況ではない。
そこで険しい崖を越えて、隣国に向かうことに決めた。
だが、そう上手くはいかないようだ。
遠くからヘリの音が聞こえてきて、妾は面倒そうな表情で溜息を吐く。
「見逃してやったというのに、懲りぬ奴らじゃのう。
ロディのほうが、まだ物分りが良いわ」
「なっ、何か複雑だな!」
例に出されたロディは、微妙な表情を浮かべる。
とにかく妾たちは、敵に見つかったらしい。
そして現在進行形で、命を狙われ続けている。
しかし最初の不意打ちは驚いたが、タネが割れてしまえばどうということもない。
妾は落ち着いて呼吸を整えて、迎え撃つ姿勢になる。
だがそこで、イズクが自信満々に声をかけてきた。
「師匠! 僕に任せてください!」
「構わんが、本当に大丈夫か?」
「はい! 師匠に比べれば未熟ですが!
それでも! 僕は師匠の弟子なんです!」
本当に大丈夫なのかなと少し心配だが、弟子がやれると言ったのだ。
後方腕組み師匠ポジとしては、信頼して任せるべきだろう。
もし無理そうなら手伝えば良いし、後ろに下がってイズクを見守る。
やがて距離が近づいて交戦状態に入り、ヘリに乗ったヴィランから次々と矢が放たれた。
イズクを落ち着いて呼吸を整えて、妾が少し前にやった見様見真似の構えを取る。
「コオオオオッ!
イズクは
先端を掴んでしまうとダメージを受けるし、力を入れすぎるとへし折れてしまう。
弱すぎると止められないしで、繊細な力加減が必要な高等技術だ。
それを一度見ただけで再現するとは、とんでもない弟子だと感心する。
「やっ、やった! できた!」
イズクも嬉しそうだが、放たれた矢は一本ではない。
それに正確に言えば、矢ではなくヴィランの個性だ。
受け止めても、ロックオンした対象を狙い続けるし、勢いが完全に止ることはない。
「くっ! 狙いが! 定まらない!」
妾が相手をした時は、中距離で敵が止まっていたのもある。
波紋を流せば一時的に麻痺させられるが、完全に止まるわけではない。
イズクは放った矢は、最初は狙い通りの場所に飛んでいった。
しかしすぐに制御を取り戻し、また戻ってきてしまう。
せめてヘリや岩に当たっていれば動きは止まるのだろうが、残念ながらそうはならなかった。
「普通の矢なら! 返せたのに!」
「どうする? イズク、諦めるか?」
「いえ! まだです! 少しずつですが! 精度が良くなって──」
矢の本数は増えてきているが、それでもイズクは落ち着いて受け止める。
最初は全く別方向に飛ばしていたけど、少しずつ飛行中のヘリに近づいていく。
あと少ししたら、当たるかも知れない。
しかし矢が増えすぎて、弟子の処理速度を越えないとも限らない。
妾はどちらが先かの戦いを、後方腕組み師匠ポジにしては呑気に眺める。
ロディはハラハラした表情で、友人の戦いを固唾を呑んで見守るのだった。