近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
妾がゴミ収集車にホールインワンしたヴィランは、マスキュラーだとあとになって判明する。
凶悪で前科がいくつもあると聞いたが、その辺りについては興味ないし対応はイズクにお任せだ。
ヒーローや警察から色々言われたけど、殆ど右から左であった。
帰宅したら引子さんがテレビ見てたよと言ってきて、妾を褒めちぎるものだから、急に小っ恥ずかしくなった。
壁をすり抜けてイズクの部屋に緊急避難で、当分出ていかないから夕食は勝手に食べて欲しいと伝える。
天井の辺りを漂いながらふて寝して、忘れることにした。
その後も、地域や学校で色々言われる。
表彰状も受け取って金一封も出たが、基本的に妾は我関せずだ。
イズクは毎度のようにガチガチに緊張しており、後方腕組み師匠以外はあまり積極的に話しかけたりはしない。
知り合いでもない他人が相手だと、対応もしどろもどろになることが結構ある。
なので周りが望むような情報は引き出せずに、やがて妾の噂は沈静化していく。
自然消滅してくれるなら何よりで、また元の日常に戻りつつあった。
そんなある日のことだ。
どうやら、二度あることは三度あるらしい。
もしくはスタンド使いは引かれ合うのほうかは不明だが、またもや凶悪そうなヴィランとエンカウントしてしまう。
日本は法治国家だ。そしてオールマイトは平和の象徴である。
他国よりも犯罪率は圧倒的に低いはずなのに、なんでこうもポンポン遭遇するのかであった。
ぶっちゃけて言えば、宝くじに当たるぐらいの確率を引いている。
アニメや漫画の主人公にありがちなクソエンカウント止めろと、声を大にして言いたいが、泣き言を言っても始まらない。
今は人が多い大通りをマラソン中で、霊体で宙を彷徨っている妾にイズクが声をかける。
「師匠!」
「いやイズクよ。ここはプロヒーローに任せるのじゃ」
妾は重い腰を上げたくないし、ヴィランを倒すのはヒーローの役目だ。
「周りにプロヒーローはいないようです!」
「……さようか」
いつもならヒーローとヴィランの戦いを、民衆は物見遊山で見物している。
しかし今日は誰もが悲鳴をあげて、一目散に逃げ出していた。
このままだと、人的被害が出るのは時間の問題だ。
と言うか既にかなりヤバい状態で、周囲の建造物やら何やらが結構酷い有様である。
歯を伸ばして刃に変える個性により、破壊されまくっていた。
「肉、見せて!」
おまけにどうやら、人肉がお気に入りのようだ。
逃げようとしているが腰が抜けて動けない通行人を狙い、勢い良く鋭い歯を伸ばす。
「ちいっ!」
妾は瞬時に実体化して狐火を収束し、高速で撃ち出した。
寸分違わずに、一般人を狙った刃に当たる。
ヴィランの攻撃は届くことなく、半ばからポッキリとへし折れて吹き飛び、地面に刺さった。
イズクから十メートル以上は離れられないため、狐火を使った遠距離攻撃や防御は当然修得済みだ。
そしてヴィランの邪魔をしたことで、ターゲットがこっちに移る。
「妾たちが時間を稼ぐ! 今のうちに逃げよ!」
「あっ、ありがとうございます!」
難を逃れた通行人がお礼を言って、何とか起き上がって走り出すのを見届ける。
そして妾は、情緒不安定なヴィランに向かい合う。
奴の近くにいた人は、殆ど逃げてしまっている。
今もっとも距離が近いのは、妾とイズクだ。
「イズクは下がっておれ。妾が対処する」
「まっ、守られてばかりで、すみません!」
確かにイズクは体を鍛えてはいるが、ヴィランと戦えるほど強くはない。
しかし妾は謝罪して欲しいとは、一言も思っていなかった。
「気にするでない。
イズクには、いつも世話になっておるしのう。
それに昔と比べれば、確実に強くなっておる」
戦闘以外の全てはイズク頼みだ。
逆に妾は、こういうときにしか役に立てない。
自分から危険に突っ込む気もないけど、引子さんとの約束もある。
弟子を守るのは決定事項なので、本当に気にすることはない。
「あとは念話で指示を出す。頼むぞ。イズクよ」
「わかりました! 師匠!」
そんなことを話していると、体を揺らしていたヴィランが行動を開始した。
「綺麗だ。綺麗な肉面。見たい。……見せてえ!」
またもや歯を刃に変えて伸ばしてきた。
しかし今度は一本ではなく、複数同時だ。
それらが一斉に、妾たちに向かってくる。
「のじゃのじゃのじゃのじゃぁ!!!」
妾は伸びてくる刃を片っ端からぶん殴り、情け容赦なくへし折っていく。
多分いけるかなと思ってやってみたら、思った以上にあっさり破壊できた。
(同じ歯でも、ミドラーのほうが硬いじゃろうな)
三部で水中で襲われた巨大なスタンドを思い出したが、目の前のヴィランよりも規模や能力が桁違いだし、何とかなるならわざわざ考えるまでもない。
妾は地面に飛び散った欠片を踏みつけながら、イズクに指示を出してゆっくりと距離を詰める。
近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘は、遠距離攻撃持ちのヴィランとの相性が悪い。
(狐火を飛ばしても良いが、避けるか防ぐかされる可能性もあるしのう)
ここは都市部の大通りで、周囲には多くの建造物が立ち並んでいる。
近くには妾とイズクとヴィランだけだが、もし外した場合は不味いことになるだろう。
それに民衆とは単純なもので、安全だとわかると遠くから様子を窺って、ちっとも避難しようとはしない。
警察やヒーローに通報しているのだろうが、妾にとっては守るべき対象が増えるので厄介極まりなかった。
だが一番の問題は、周りには壊したらクレームが入るような物ばかり置かれていることだ。
ヴィランの攻撃はとても鋭く、妾の拳以外は割りとスパスパ切断している。
ヒーローは守るべきものが多くて、大変とは聞いたことがあった。
確かにこうやって戦っていると、まさにその通りだと実感する。
(ヒーローなら賠償責任保険に入っておるじゃろうが、妾たちにはそんなものはないしのう)
義憤で勝手に単独行動した結果、周辺に多大な被害を出したら、あとで何を言われるかわからなかった。
攻撃が妾だけに集中している今は良いが、狙いがそれたら大惨事である。
とにかく今は派手に暴れて注意を引きつけ、ジリジリと距離を詰めて決定的な一撃を叩き込むのだ。
妾は少しずつ距離を詰めていき、あと少しでヴィランに辿り着くまで前進したが、そこでおかしなことが起きる。
「……なんじゃと!?」
妾のほうが圧倒的に速く動けるので、拳が空を切ることはない。
ただ攻撃される前に、ヴィランが歯の刃を地面に刺して伸ばした。
ぶん殴れない空中に体を固定したのを見て、予想外で驚いたのだ。
「此奴は馬鹿なのか?
いや、まあ情緒不安定なヴィランじゃし、そういうこともあるじゃろうが」
確かに普通のヒーローなら、攻撃が届かない空中に逃げるのは有効な戦術だ。
一応分類としては近距離パワー型だし、理には適っている。
しかし妾が殴れば、歯の刃など容易く粉砕できるのだ。
いくら咄嗟の判断とはいえ、それは愚策であった。
けれどわざわざ懇切丁寧に教えてやる理由もないし、ここは完膚なきまでに粉砕させてもらう。
イズクも勝利を確信したようで、まだ少し震えてはいるが勇気を出して叫んだ。
「裁くのはっ! 僕の
凶悪なヴィランを前にしても頑張る弟子に、後方腕組み師匠も誇らしくなる。
「のじゃのじゃのじゃのじゃぁ!!!」
難を逃れたヴィランが地の利を活かして攻撃を仕掛ける前に、妾が地面に刺さった歯を一本も残さずへし折っていく。
「やめやめえええてええっ!!」
当然のように支えを失った敵は、絶望の表情を浮かべる。
そして最後の一本を砕かれたとき、真っ逆さまに地面に落下してきた。
それを見逃すような妾ではない。
こっちは不敵な笑みを浮かべて待ち受け、殺さない程度に加減したラッシュを叩き込んだ。
「のじゃのじゃのじゃのじゃぁ!!!」
「やめぎえええびいいいっ!?」
言語化できないような悲鳴を出したヴィランは、全身複雑骨折は避けられない。
妾はまたもやゴミ収集車が停まっているのを見つけたので、最後の一撃で大きくぶっ飛ばして、ホールインワンしておく。
どうやらこの地域も、回収日は月水金のようだ。
「再起不能なのじゃ!」
何となくスッキリしたので、ビシッとポーズを決めて勝利である。
あとは面倒になる前にクールに去るだけだが、今頃になってヒーローや警察が次々と到着する。
さらに遠巻きに撮影していた野次馬や取材陣の数も、最初と比べてかなり増えていた。
これは簡単には包囲網から脱出できそうにない。
取りあえずいつもようにイズクに後処理を任せて、後方腕組み師匠は霊体化して空に逃げて、弟子の悲鳴を聞きながらも我関せずを貫くのだった。