近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊   作:名無しの狐信者

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揺れるヒーロー社会なのじゃ

 再生能力が限界を迎え、ボロ雑巾になった死柄木弔(しがらきとむら)をゴミ収集車に叩き込んだ。

 殺さないように力加減に苦労したので、肉体はともかく精神的に凄く疲れた。

 

 今まで軽乗用車をのんびり運転していたのに、いきなりスーパーカーに変わったように、馬力や速度がとんでもないことになったからだ。

 ついでに元の一尾に戻ると、DBの重力修行のように相応の負荷がかかる。

 二尾になっていたのは短時間とはいえ、さっきまでハキハキ動いていたのに急に鈍化しように感じるので、疲労はなくても精神的にちょっとしんどい。

 

 

 

 そんな妾の心境はともかく、戦いはヒーロー側の勝利に終わった。

 このままめでたしめでたしなら良かったが、そう単純な話ではなかったようだ。

 

 衛星回線を通じて、ある映像が全世界に拡散される。

 

 喋っているのは荼毘(だび)で、その正体はエンデヴァーの息子。轟燈矢(とどろきとうや)だった。

 彼は個性が暴走して亡くなったと聞いていたが、実は生きていたのだ。

 

 どうせAFOが誘拐して改造したと容易に想像がつくが、力に執着して家庭を崩壊させた、ナンバーワンヒーローの過去を暴露する。

 

 エンデヴァーが居なければ自分はヴィランになっていないとアピールし、ヒーローの信頼を揺るがせた。

 

 妾が知る限り、過去最高レベルの被害が出ている。

 それに近年はAFOやヴィラン連合が暴れて、治安も悪化していた。

 

 さらにヒーロー公安委員会の裏の仕事まで調べていたようで、まさに今の社会が崩壊しかねない、大スキャンダルを暴露されたのだ。

 

 もっと言えば、妾とイズクが違法薬物をトゥワイスに投与する場面も撮影されていたようで、妾はコイツはヤベえと冷や汗をかく。

 

 そして、弟子に大声で呼びかける。

 

「イズク、ラヴラバに電話じゃ!」

「わかりました! でも、師匠! 一体何を!」

「ヴィランにやられっぱなしで、いられるか!

 妾も炎上するじゃろうが、日本が駄目になるかならないかじゃ! やってみる価値はあるじゃろう!」

 

 今からやるのは、自分の身も危うくなる諸刃の剣だ。

 それでも異議ありをしないと気が済まないし、治安が悪化するのを黙って見ていることはできなかった。

 

(このままでは、日向ぼっこの時間が減ってしまうではないか!)

 

 人心が乱れればヴィランが活性化し、あちこちで暴動が起きる。

 ヒーローが大忙しになって、イズクは高校生活どころではなく、生徒も駆り出されるだろう。

 

 必然的に妾も仕事の手伝いをしないといけないので、自由時間が減ってしまう。

 

 

 

 あとは久しぶりに二尾になったことで、DBの超サイヤ人のように闘争本能が高ぶっているのかも知れない。

 とにかく目の前の脳無を片手間で地面のシミに変えながら、行き当たりばったりの策の準備を整えるのだった。

 

 

 

 ラヴラバは『面白そうだし、もちろんOKよ!』と、テンション高めに承諾してくれた。

 

 そして彼女はハッキングのプロなので、とても手際が良い。

 オールマイトも許可してくれたし、割と強引でも本部も文句は言わないようだ。

 

 弟子や周りのヒーローも、特に止めようとじゃしない。

 きっと何の手も打たなければ、最悪の事態になることがわかっているのだろう。

 

 だからと言って、私に良い考えがあると名案を思いつくわけでもないので、ここは妾に任せることにしたようだ。

 

 社会情勢が不安定になって暴動が起きるよりは、一個人が大炎上するほうがマシと割り切っているのもある。

 

 

 

 だが妾も『勝算はあるのか?』と聞かれれば、『思いつきを数字で語れるものかよッ!』としか返せない。

 

 マジで自分でも良くわからずに、駄目で元々でも取りあえずやってみるかの、完全に勢い任せの思いつきであった。

 

 

 

 とにかく辛うじて崩壊を免れた廃墟の部屋に、機材を設置する。

 そして妾は椅子に座り、弟子の合図を受けて、コホンと咳払いをしてから放送を開始した。

 

「妾はヒーローランキング零位、お狐様じゃ。

 実は急ぎ伝えたいことがあって、このような場を設けさせてもらった」

 

 ヴィランと同じ違法な手段を一部使用しているが、それでも許可は取っている。

 このままクラッキングされて映像を垂れ流しされるよりは、ラブラバに乗っ取ってもらったほうが、まだマシだったのだ。

 

 先程の映像に影響された輩が良からぬ考えを抱いて、治安が悪化する前に強引でも生放送に踏み切り、話を続けさせてもらう。

 

「最初に言っておくが、先程の映像は全てではないが、一部は事実じゃ」

 

 全てではないが事実も多いので、正直に告げる。

 この辺りはあとでヒーロー公安委員会やエンデヴァーが正式発表するだろうし、詳しくは説明しない。

 

「そして妾とイズクがヴィランに投与した薬品は確かに違法ではあるが、使用に対して事前に正式な許可は得ておる。

 ゆえに非常時にのみ許される超法規的措置というやつで、何も問題はない」

 

 つまりヴィランの早とちり、もしくは苦し紛れの言い訳だ。

 外から見ればヒーローが犯罪を犯すワンシーンだが、それは何も説明がなければそう見えなくもないけど、勘違いである。

 

「もっと言えば、彼を殺したわけではない。

 個性を抑制する効果があり、まだ試験段階なので法的には認められておらんだけじゃ。

 犯罪に使われぬとも限らぬし、希少で危険じゃからのう」

 

 実際に個性を増幅する薬物と同じように裏の市場に出回り、犯罪に使われていた。

 まだどのような副作用があるかわからないし、ヴィランに投与するにしても非常時以外は使用されることはないだろう。

 

 AFOや死柄木弔にも打ち込みたかったし、そのつもりではあった。

 ただ急だったので法整備が間に合っておらず、現在タルタロスに個性抑制薬を輸送中だ。

 数日中には届いて、投与される予定である。

 

 ただ死柄木弔のほうは、そうなる前に復活してしまったし、貴重品なので予備はない。

 残念ながら戦闘のゴタゴタで薬品が壊れてしまい、しばらくお預けである。

 

 

 

 それはそれとして、トゥワイスに投与した薬物について簡単に説明したあと、次は奴がもっとも潰したい男について語っていく。

 

 取りあえずコホンを咳払いをして、気持ちを切り替えて真面目な顔つきで話し始める。

 

「昔のエンデヴァーは、それはもうどうしようもない男でのう。

 妾が殴ってでも止めねば、今も強さに執着しておったやも知れぬ」

 

 しかし、そんな未来は訪れなかった。

 今のエンデヴァーは心を入れ替えて、己の過ちを正そうとしたり、不器用ながらも家族に向き合っている。

 

轟燈矢(とどろきとうや)の事件は、大変痛ましいものじゃ。

 過去は消せぬし、ヴィランになるのも納得の理由じゃな。

 ……まあ妾は、悲しき過去など微塵も興味はないが」

 

 言わなくて良いことまで、ついポロッと口に出してしまう。

 だから妾は、ヒーローに向いてないのだ。

 

 けど趣味でやってるから別に良い。

 うっかりやらかすのは、いつものことだ。

 

 あえて言えば、轟燈矢(とどろきとうや)は、何だか知らないけど大変だなーぐらいの共感を抱いていた。

 

 だが心に棚を作るというか、それはそれ、これはこれだ。

 妾の生活に影響を与える程ではないし、面倒そうだしわざわざ関わる気もなかった。

 

「じゃが所詮、過去の出来事よ。

 犯した罪は消えぬが、それは既に終わったことじゃ。

 被害者の苦痛は決して消えぬが、いつまでも囚われていても仕方あるまい」

 

 犯した罪はなかったことにはならない。

 妾にもそのぐらいわかっているが、エンデヴァーは他の有象無象とは違う。

 

「今のエンデヴァーは、己の過去と向き合い、犯した罪を償おうとしておる。

 取り零してしまった家族の絆を取り戻そうと、不器用でも必死に足掻いておる」

 

 妾が物理的に説教をして以降、エンデヴァーは反省した。

 色々と不器用な人なので、まだ真っ当な父親にはなれていない。

 

 それでも三歩進んで二歩下がっても、家族に歩み寄ろうとしている。

 彼なりに心を砕いて、必死に努力していた。

 

「ヒーローじゃろうと、道に迷ったり、力尽き倒れることはある」

 

 ヒーローとは、決して無敵の存在ではない。

 彼らは一般民衆にそうあれと願われて、正しくあろうと振る舞っている。

 

 だがヒーローもまた、人間なのだ。決して特別な存在ではない。

 

「ヒーローじゃから、正しいのではない。

 常に正しくあり続けようと努力するからこそ、多くの者たちからヒーローと呼ばれるのじゃ」

 

 そういう意味では、エンデヴァーはまさにヒーローだ。

 ナンバーワンの重圧や過去の過ちから目を背けて、逃げる道もあった。

 だがどれだけ辛くても、体を張って大勢の人々を助けている。

 

 トップヒーローの顔としては怖いし、あまり喋らないので、キャラクター的な人気はそんなにないが、それはそれだ。

 

「誰もがオールマイトのように強く。正しくはなれぬ」

 

 誰よりも輝いて見えるからこそ、他のヒーローにも彼と同じ役割を期待してしまう。

 

「じゃがオールマイトが引退しても、他のヒーローたちがおる」

 

 オールマイト全盛期と同じように、助けてもらって当然は、もう通じない。

 

「いい加減に舞台の役者を見るのではなく、同じ人間として彼らを支えぬか。

 超常黎明期に逆戻りしたくはなかろう」

 

 荼毘(だび)の放送で、ただでさえ不安定だった社会情勢がより一層悪化したのだ。

 これからは全国各地で暴動が起きたり、ヴィランの動きが活発になるだろう。

 

「エンデヴァーは民衆にとってのヒーローになれずとも、誰かのヒーローになることはできる。

 それは他の者も同じよ。

 たとえプロヒーロー免許を持っておらずとも、正義の心さえあればのう」

 

 自分は免許の所持で何かが変わったわけではないし、困っている人を助けるのは当たり前のことだ。

 趣味でヒーロー活動をしていても、やけに重い感情を向けられることは良くある。

 

 

 

 それに何処かの正義の味方も、『俺には夢がない。でもな、夢を守ることなら出来る』と言っていた。

 善の気持ちや行動を示せば、それはもう誰かにとってのヒーローなのだ。

 

 だがそうなると轟燈矢(とどろきとうや)は、『俺のことを好きにならない人間は邪魔なんだよ!』と言い出したり、『これも全てエンデヴァーって奴の仕業なんだ!』と人々を煽動する、ヤベえ奴になってしまう。

 

 まあ後半は原作では言ってない台詞だが、最終的には首が折れる音がして死んでしまうし、轟家との和解エンドでなく死亡で終わるのは、流石にちょっと後味が悪い。

 

 

 

 しかしまあ何と言うか、どう考えても妾の放送で火に油を注いでしまった。

 それでも、どうしても言っておきたかったのだ。

 

 妾はカメラに真剣な表情を向けて、大きな声で喋りかける。

 

「エンデヴァーに罪を問う前に、まずはお前の犯した罪を償わぬか。

 悲しき過去を言い訳にするでないわ」

 

 イズクにカメラの電源を切るように目配せしたあと、妾は大きく息を吐く。

 

 考えるのは苦手だし、完全に勢いに任せての発言だ。

 カンペも用意してなかったので、行き当たりばったりにも程がある。

 

「師匠! 感動しました!」

「そっ、そうか?

 妾はインタビューは苦手じゃし、勢い任せじゃ。

 終わったあとも、ようわからんかったのう」

 

 ぶっちゃけ自分は、生放送で何を喋ったのか覚えていない。

 思いついた先から、口に出していた。

 

 それに、現時点では吉と出るか凶とでるかも不明だ。

 妾だけでなく、エンデヴァーの立場が余計に悪くなるかも知れない。

 

(じゃが見切り発車とはいえ、やってしまったのじゃ。

 あとはもう、成るように成るしかあるまい)

 

 とにかく大勢に向けて話すのは緊張した。

 そもそも脳筋の自分が何を説教してるんだと、終わったあとに小っ恥ずかしくなる。

 

 何にせよ、インタビューなどもう二度とやる機会はないだろう。

 取りあえず両頬を軽く叩いて、無理やりでも気持ちを切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、ゴミ収集車に叩き込んだ死柄木弔(しがらきとむら)が、姿を眩ませた。

 

 どうやらいつの間にかAFOが意識を乗っ取っていたようで、気を失ったフリをして、逃げだす隙を伺っていたようだ。

 

 妾が荼毘(だび)の暴露放送に対抗するために、戦闘状態を解いたのが良くなかった。

 

 個性で電磁波を飛ばして、再び脳無に命令を出し。救出のために呼び寄せたのだ。

 彼らは死柄木を確保したあと、一斉に逃走を開始する。

 

 死柄木を逃がすためだけに、躊躇なく捨て駒として使い潰す。

 攻撃せずにひたすら防御に専念されて、距離を稼がれて最終的には見失ってしまった。

 

 妾がそれを知ったのは、放送を終えて一息ついたあとだ。

 

 また試合に勝って勝負に負けたような、微妙な結果になる。

 

 おまけに気配を隠すのが上手いのか、目覚めたばかりの邪気がダダ漏れとは違う。

 

 簡単には見つからずに、次に会った時こそAFOのクソ野郎をボコボコにして捕まえてやると、妾は心の中で決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 ヒーローvs超常解放戦線で、過去最大級の被害が出た。

 

 ギガントマキアは再起不能にしたが、麓の都市に到達してしまっている。

 死柄木弔(しがらきとむら)も個性を使い、病院とその周辺を塵に変えた。

 

 これだけの被害を出しては、神野区の悪夢の再来と呼ぶのに十分すぎる。

 

 ヒーローだけでなく各関係機関は、連日の救助活動に大忙しだ。

 妾とイズクも、人々を助けるために尽力する。

 

 

 

 ちなみに渡我少女も後方支援として参加していて、成り行きでホークスが運んできてトゥワイスの監視をすることになり、その時に色々と話す機会があった。

 自分も妾に出会ってなければヴィランになっていたかも知れないと、意外と共感することも多く、妙に馬が合う。

 

 最終的にはヒーローとヴィランの友人になったようで、今後は心を入れ替えて更生することを約束して、出所したら色々と口を出した妾が面倒を見ることになる。

 まあ二倍の個性が強すぎるので、いざという時の備えが恩義がある狐っ娘が適任なのはわかるので、もしもその時が来たらと致し方なしと渋々諦めた。

 

 

 

 

 

 

 だがヒーローと超常解放戦線の全面戦争が終結したと思いきや、日を開けずに凶悪なヴィランを収容しているタルタロスが襲撃される。

 

 そこは日本で一番セキュリティが厳重で、戦力が揃っていた。

 しかしハイエンドの脳無と死柄木弔(しがらきとむら)を止めることはできない。

 

 結果、内と外からの同時攻撃を受ける。

 AFOだけでなく、収容されていたヴィランも解放されてしまう。

 

 さらに日本全国の刑務所のうち七つが襲撃され、六つが破られて多くの受刑者が世に放たれる。

 

 不幸中の幸いなのは、超常解放戦線で捕えたヴィランを輸送する前だったことだ。

 

 

 

 なお狙いはAFO、または死柄木弔(しがらきとむら)の捜査の撹乱なのは明らかだった。

 

 実際に効果はあり、日本中の治安が急激に悪化していく。

 

 ヒーローや警察機関が頑張っているが、とても処理が追いつかない。

 

 特にエンデヴァーは世間の風当たりが強い。

 味方になってくれる人も居るが、それと同じぐらいヒーローを辞めろなどの声も大きく、今のところは賛否両論だ。

 

 

 

 今まで当たり前だと思っていた平和がそうではなく、ヒーロー社会と同じで脆く崩れやすいモノだと、初めて知ったのだろう。

 

 今日が平穏に過ぎたからとはいえ、明日もそうなる保証はない。

 

 それにエンデヴァーの過去が暴露され、超常解放戦線の全面戦争で大きな被害が出た。

 

 だからこそ皆が不安に思い、それを支えてきたヒーローの信頼が揺らいで風当たりが強くなる。

 

「これではAFOの思う壺じゃのう」

 

 先日の作戦で大怪我したエンデヴァーを見舞うために、妾とイズクは総合病院を訪れた。

 ここは日本で一番医療設備が整っていて、他にも多くのヒーローが治療を受けている。

 

 妾は病室の窓から、外の様子を伺う。

 そこでは大勢の人々が病院を取り囲み、プラカードを持って騒ぎ立てていた。

 そんな現実を見て顔をしかめ、大きな溜息を吐く。

 

「それで、どうするつもりじゃ? ナンバーワン」

 

 エンデヴァーは大怪我はしたが、幸い命に別状はない。

 意識もはっきりしてベッドに横になっていて、数日もすれば退院できるだろう。

 

 彼の家族も轟燈矢(とどろきとうや)以外、全員集まっていた。

 

「お主が妾を呼んだのじゃろうが。黙ったままでは話が進まぬぞ」

 

 イズクも妾も、何処も怪我をしていない。

 知り合いのヒーローをお見舞いする以外に、訪れる用件はなかった。

 

 他の人は大体見舞いが終わっているし、あとはエンデヴァーだけだ。

 

 無駄に広い病室には客も多く訪れるのか椅子には余裕があるようで、取りあえずイズクに座ってもらう。

 

 妾は実体化して呆れたような表情を浮かべて、黙して語らずベッドに横になっているエンデヴァーに近づいていくと、彼にしては珍しくか細い声が聞こえてくる。

 

「やはり俺は、ナンバーワンヒーローには相応しくないようだ」

「はぁ?」

 

 良く聞こえないというか、多分聞き間違えだと思って狐耳を近づける。

 

「俺よりお狐様のほうが、ナンバーワンに相応しいんじゃないか?」

「いやいや! 待て待てっ!」

 

 急に何を言い出すんだコイツはと、妾は慌てて止める。

 

 エンデヴァーはナンバーワンで、それゆえにわかりやすい非難の対象だ。

 いわばヒーロー対する不平不満は全部、ランキングトップの彼にぶつければ良いと、そんな安易な思考が世に蔓延っている。

 

 例えるなら、コイツは石を投げても良い奴だと認識されている。

 そんな人間は世界中を探しても居るはずがないのだが、悲しいかな、そうなってしまうのだ。

 

 しかしおかげでナンバーゼロの妾は、彼という防波堤に助けられている。

 だからこそ今、引退されると非常に困るのだ。

 

「確かに今のエンデヴァーは、重い責任を背負わされておる!

 しかし、それに耐えて信頼を回復してこそナンバーワンじゃ! 挫けてはいかんぞ!」

 

 足りない頭で一生懸命考えながら説明する。

 誹謗中傷は普通に犯罪だが、妾はこの世界の民度には期待していない。

 

 一人が石を投げたら、理由は不明でも周囲も次々と投げ始めるからだ。

 

 ただAFOが煽動しているのは確実で、やっぱりアイツは最悪だと改めてそう思った。

 

轟燈矢(とどろきとうや)は道を間違えたままなのじゃ!

 父親が見放して、良いわけがなかろう! 他に誰が、奴を救うのじゃ!

 余計なお世話はヒーローの本質なのじゃろう! エンデヴァーよ!」

 

 満身創痍だったが、荼毘(だび)も逃げ延びた。

 本当にヴィラン連合の面々は、無駄にしぶとくて嫌になる。

 

 だからこそ、なおさら今エンデヴァーに抜けられるのは困るのだ。妾の仕事が増えてしまう。

 

「ヒーローを引退するのは構わん!

 じゃがせめて! 息子と決着をつけてからにせよ!

 それに、お主だけで戦っておるわけではない! 家族もついておる!」

 

 病室に集まった轟家の皆も、真剣な顔で話を聞いている。

 今の妾の発言を、否定したりはしない。

 

 そしてエンデヴァーも、思うところがあったようだ。

 先程までは曇った表情で涙を流していたが、今は目に光が宿っていた。

 

「やはりお狐様に相談して正解だったようだ。おかげで心の曇りが晴れた。

 どうやら君は、俺のヒーローのようだ」

「さっさようか! 何だかわからぬが、引退せぬならそれで良い!」

 

 どうやら思い留まってくれるようで、妾はやれやれと息を吐く。

 そして気を取り直して、今後どうするかを考え始める。

 

「じゃが問題は、AFOと死柄木弔(しがらきとむら)が見つからぬことじゃ。

 逃げ隠れるのだけは、上手い奴らじゃからのう」

「……戦闘力も桁違いなのだがな」

 

 エンデヴァーがツッコミを入れる。

 しかし妾が思うに二人を同時に相手をしたり、たとえ両者が完全体になったとしても、三尾になる必要はなさそうだと思った。

 

 けれど二尾でも、加減に失敗したら人間はトマトのように潰れてしまう。

 そのため、あまり尻尾を増やしたくはない。

 

 一尾で対処できるなら、多少面倒でもセーフモードのままが良いと考えていた。

 

「とにかく情勢は不安定じゃし、焦って改善するものでもない。

 地道に治安を回復させつつ、調査も進めていくしかなかろう」

 

 何だか、どっちがナンバーワンかわからなくなってきた。

 面倒だから妾が主導する気はないが、成り行きで指揮を取っているような気がする。

 

 しかし、いやいやまさか、きっと気のせいだ。

 

「AFOのことじゃし、妾の個性を狙ってくるのは確定なんじゃがのう」

「そうなのか?」

「奴は個性を奪い、己の力にするからのう。

 今は傷ついた体を癒やしておるとはいえ、戦力は十分に揃っておる。

 妾を放っておくわけがないじゃろうし、煽動や嫌がらせをしておるじゃろうよ」

 

 脱獄した囚人やヴィランたちを使い、妾とイズクを襲撃してきそうだ。

 AFOなので、そのぐらいやってもおかしくない。むしろやらない理由がなかった。

 

 今は二人に増えたようなものだし、準備が出来たら本格的に打って出るのは想像に難しくない。

 

「引子には念の為に雄英高校に避難してもらったが、後手に回るのは困るのう」

「そうだな。何とかこちらから、打って出られれば良いのだが」

 

 せっかくの機会なので、エンデヴァーと今後の対策を話し合う。

 

 一先ずは失ったヒーローの信頼を取り戻しつつ、治安の悪化を食い止める。

 さらに気取られないように妾とイズクの周りに罠を張り、襲撃してきたヴィランを返り討ちにして情報を得る。

 

 そしてAFOや死柄木弔の捜索について、この場の面々と真面目に相談するのだった。

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