近距離パワー型のじゃロリ狐っ娘守護霊 作:名無しの狐信者
夜にはオールマイトやエンデヴァー事務所の人たちと合流し、用意してくれた宿泊先でゆっくり休み、一日の疲れを取る。
焦る気持ちはあっても、過重労働しても状況が劇的に改善するわけではない。
心身を酷使して効率が落ちるぐらいなら、しっかり休んで明日に備えたほうが良いだろう。
ヒーロー活動は体が資本なのだから、無理をすればAFOを倒す前に壊れてしまう。
流石の妾も、再起不能になった弟子をおんぶしながら、巨悪と殴り合うのは嫌である。
そういう理由で、最悪殴ってでも寝かしつけなければと思っているのだが、大人しく指示に従ってくれるので、そのような事態にはなっていない。
夜間警備は、エンデヴァーだけでなく、他のヒーロー事務所も総動員している。
増加するヴィラン犯罪に対処する仕組みを作り、効率を極力落とさないようにローテーションしていた。
日が出ているうちは大忙しだが、日本全国飛び回っても、そこまで大きな負担にはならない。
まあつまりこの程度、何とでもなるはずだ。ガンダムだとの気楽なノリでこなせる。
しかし最近は、働きすぎて日向ぼっこの時間が取れない。
微妙にストレスを感じている。
弟子は夜になったら、定期的に引子さんに連絡しているが、その間は師匠の妾は手持ち無沙汰になる。
なので事前に隣のカラオケルームを借りて、連邦に反省を促すダンスを踊りながら例の歌を熱唱していた。
なお、普段はカラオケなどやったりはしない。
だが最近は日向ぼっこをする時間がなく、思うようにストレス解消ができていない。
せっかくの機会なので、ホテルのカラオケルームを借りて発散させてもらうのだ。
そしてイズクと妾は、常にGPSで追跡されている。
安全のためだが、別に理由はどうでも良い。
つまり若い頃よりもヒーロー活動は減ったが、日本がヤバいので一時的に復帰して、全国を忙しく飛び回るオールマイトも乱入してきても、全くもって不自然ではないのだ。
「やあ! お狐様! 歌上手いね! 緑谷少年は隣の部屋かな?
あっ、これはお弁当ね! カツが入ってるから元気出るよ!
人数分あるから、あとで皆で食べよう! それとも何か注文しようか!」
彼も非常時なので雄英高校の教師を長期休みしており、最近は一緒にヴィラン退治をすることも多い。
別々に行動したほうが効率が良いので妾とイズクと同じで、全国各地を飛び回っている。
そして夜には合流して宿泊先で経過報告や相談をするので、今ではすっかり慣れたものだ。
しかし昔と違って、トゥルーフォームの状態でも筋肉がついてきた。
若い頃よりも痩せてはいるが、それでも一般人の認識としては常時ムキムキのオールマイトだ。
取りあえず彼は人数分のお弁当を机の上に置いて、椅子に座って選曲用の本を開く。
そしてちゃっかり自分が歌う曲を入力しながら、同時に飲み食いするためのメニューを流し見する。
そんな状況で、電話を終えたイズクが入室してきた。
「オールマイトも来ていたのですね」
「やあ! 緑谷少年! 先に始めさせてもらってるよ!」
妾が連邦に反省を促すダンスを踊り終わったので、オールマイトにマイクを渡す。
すると彼がリクエストした曲の前奏が流れ始め、意気揚々と前に出る。
妾がソファーによっこらしょと腰を下ろすと、弟子が隣りに座って選曲リストをめくり始めた。
そして偶然だが、報告がてら様子を見に来たエンデヴァー。
追加でホークスとベストジーニスト、おまけに他のプロヒーローたちも飛び入り参加し、大盛りあがりのカラオケ大会が始まる。
暗い時代ではあるが、何だかんだで妾たちは明るく楽しく過ごしていた。
どんなことでも、生きる希望を見つけられたのは良いことだ。
あとはAFOと死柄木を見つけて逮捕できれば、言うことはない。
カラオケで熱唱しつつ、適当に飲み食いしがら、軽いノリで状況報告も行っている。
相変わらず逃げ隠れるのが上手いようで、残念ながら本日も成果なしのようだ。
妾はやれやれと溜息が出てしまったが、それでも今を楽しむために選曲リストを渡してもらい、イズクの師匠とデュエットしたいという希望を叶えるために、割と真面目に曲を選ぶのだった。
その後も妾たちは、日本中のヴィランをボコボコにする。
疑わしい者を罰する者の間に入って止めたりと、大忙しの日々が続く。
最初はワンフォーオールとの対話で、超常黎明期に逆戻りしたようだと嘆かれた。
だが今はそんなことは言われず、かなりマシになっているらしい。
妾は、かつての日本がどうなっているのか知らない。
そもそも自分は別の世界から来たうえ、こっちの過去の歴史を知りたいとも思わなかった。そーなのかーと適当に流す。
ヴィランをボコって警察署に届けたイズクは、簡単な状況説明をしたあとはその場を立ち去り、ビルの屋上で一息つく。
オールマイトに連絡を取ろうと秘匿通信機器に手に持ったところ、何処からともなくヘンテコな弾丸が飛んできた。
「よいしょ……っと」
妾は条件反射でそれを掴み取る。
はてと首を傾げながら観察した。
「何じゃコレは?」
「弾丸に見えますね! でも、一体何処から!?」
少し焦るイズクと、相変わらずのんびりしている妾の対比が酷い。
だがこの程度のことで、今さら動揺したりはしない。
しかし弾丸にはスピーカー機能がついているようで、そこから女性の声が聞こえてくる。
「少年、お狐様。お前たちを連れて行く」
「喋ったああああああっ!!?」
「師匠の驚く所! そこですか!?」
「いや、まあ、そのな!」
オタク的な、その場のノリというやつだ。
ついでに妾も、別に本心で驚いているわけではない。
いつもの狐っ娘ジョークだ。
しかし弟子は相変わらず真面目な顔をしているので、何だか無性に恥ずかしくなる。
取りあえず、コホンと咳払いをした。
「誰から知らぬが、遠距離から狙撃しておるようじゃな。
この弾丸は、敵の位置を突き止める手がかりになるじゃろう」
過去に戦ったヴィランに、射出物の軌道を変える個性を持つ者がいた。
それ系の個性は慣れっこだが、また弾丸から女性の声が聞こえてくる。
「大人しく従えば、手足は残してやる」
一方で妾たちは敵を前にして堂々と作戦会議をするが、そのぐらいの余裕はある。
少しでも情報を伝えるためにも秘匿通信機器の電源は入れっぱなしだし、いつも通りの緩い会話である。
それでも、いつまでもじっとしてはいられらない。
イズクが弾丸が飛んできた方角に顔を向ける。
「動いたな」
その声が聞こえると同時に、また狙撃された。
なので妾も、高速で飛来した弾丸を再び受け止める。
さらに自由な手を向けて、大声で叫ぶ。
「
「なっ!?」
二尾で遥か遠くのヴィランを拘束してから、
数キロ離れた程度では、注視している妾からは逃れることはできない。
「逃さん! 妾の目には、はっきり見えておるぞ!
元公安直属ヒーロー! レディ・ナガン!」
茨を伸ばしながら、イズクと共にビルからビルに飛び移る。
敵との距離を、確実に詰めていく。
どうやら、AFOから空中を歩く個性を与えられたようだ。
空中を移動できるようで、必死に避けながらこちらを狙撃してくる。
その間にも青い茨が敵を追尾しているので、ビルとビルの間に張られた蜘蛛の巣のようになっていた。
少しずつ彼女の逃げ道がなくなっていくのを眺めて、妾はぼんやりと呟く。
「受け攻め、いくつか予想しておったが、そりゃ悪手じゃろ。レディ・ナガン」
妾がそう言った瞬間、幾重にも張り巡らせた
本物の炎ではなく幻だ。
しかし、ちょうど中央で回避に専念していたレディ・ナガンの視界は、完全に閉ざされた。
「しまった!?」
今さら失策に気づいても、もう遅い。
妾と戦おうとした時点で、レディ・ナガンの敗北は決まっていたのだ。
「詰んでいたのじゃよ。初めからのう」
ちなみに自分は、ハンター協会の会長でも、キメラアントの王でもない。
だがオタク的なその場のノリで、妾はつい台詞を口にしてしまうのだ。
とにかく動きが止まって自分の位置を見失ったレディ・ナガンを、追尾させていた
AFOに繋がるかも知れないヴィランを無傷で確保して、この戦いは決着となったのだった。
彼女の近くには、何故か両腕を失った
その辺りの事情には興味はないし、どうせ一緒に脱獄したのだろう。
なので、彼はスルーだ。
取りあえずミノムシのようにグルグル巻きのレディ・ナガンを地面に下ろし、彼女が口を開きかける。
だが妾は嫌な予感して彼女の頭に手を置き、生命エネルギーを強制的に流し込む。
「ぎゃああああーーーっ!!?」
レディ・ナガンから、女性がしてはいけない悲鳴が聞こえた。
イズクは大いに慌てる。
「しっ師匠! 一体何を!」
「ちいと少し静かにしておれ! 加減を誤ると、命に関わるからのう!」
「はっ、はい!」
弟子が黙ったので、しばらく生命エネルギーを注ぎ込み続けた。
やがて妾は注意深く彼女を視て、もう大丈夫だと判断して手を離す。
なおレディ・ナガンは、上からも下からも色んな液体が漏れ出てしまっている。
女性というか人間的な尊厳が酷いことになっているので、全然大丈夫ではなかった
取りあえず赤面して視線をそらしているイズクから、水が入ったペットボトルを提供してもらう。
蓋を捻って頭の上から水をかけ、簡単だが汚れを洗い流す。
「……はっ! こっ、ここは!? 私は何を!?」
「気づいたか」
「ひいいいいっ!?」
びしょ濡れのレディ・ナガンは、妾の姿を見て恐怖に体を震わせる。
だが相変わらずのミノムシ状態だし、どう足掻いても逃げられない。
「落ち着け。別に取って食ったりはせんわ。
むしろ妾は、命の恩人なのじゃぞ?」
「どっ、どういうこと!?」
物凄く警戒されているが、取りあえずどっこいしょと腰を下ろす。
ちょうどホークスとエンデヴァーも来たので、近くに
そして彼女も、逃げても無駄だと観念したようだ。
「AFOはお主に個性を与えたが、同時に爆弾も仕掛けておったのじゃ。
裏切りを感知したら、強制的に自爆するようにな」
彼女の個性の暴走を感じ取った妾は、咄嗟に生命エネルギーを注ぎ込んで制御を試みたのだ。
雷を受け止めて自分のモノとして扱えたので、やってできないことはない。
「嘘……とは言い切れないわね。むしろやらない理由がないわ」
「同意じゃな。AFOは性根が腐っておるからのう。人の嫌がることは、率先してやるわ」
ただ、やはり人間の肉体には負担が大きかったようだ。
レディ・ナガンは耐えきれずに悲鳴をあげて、気絶してしまう。
しかしそれでも、自爆して丸焦げになるよりはマシだ。
実際に尊厳は破壊されても、何とか耐えきった。
やはり、元公安直属ヒーローは格が違ったようだ。
「じゃがそのせいで、ちと予期せぬ不具合が起きてしもうたがのう」
「えっ!? 何! 何なのよっ!? 怖いんだけど!」
いつの間にかもう一人のヴィランを回収し、合流したエンデヴァーまで一緒になって驚いている。
そしてレディ・ナガンはと言えば、恐怖の表情で妾をじっと見つめていた。
「恐らく妾が注ぎ込んだ生命エネルギー……この場合は、個性じゃな。
それがお主の肉体に適応し、個性を上書きしてしもうたようじゃ」
彼女は妾をじっと見つめて、自分の体に起きた変化に驚いている。
実際には妾にもわからんだが、それを口に出すことはない。
後方腕組み師匠の信頼が崩れるようなことだけは、やらかすわけにはいかないのだ。
なので今わかっている範囲で、答えていく。
「まず、元々あった個性が一つに統合された。
これまでよりも、効率良く使えるようになっておるはずじゃ」
まだ納得はしていないようだ。
彼女はゆっくりと立ち上がって、その場で軽く足踏みをする。
「確かにアイツから譲渡されたエアウォークが、集中しなくても使えるようになってる」
ジョジョ的に言えば、ディオにジョースターの血を与えたようなものだ。
新しい個性が馴染む、馴染むぞで、今のレディ・ナガンは完全に自身のモノにしている。
「あとは、妾ほどではないが、身体能力も上がっておる。
ライフルの出力や硬質化など、変化を上げればキリがないわ」
妾の説明を聞いて、レディ・ナガンが明らかに引いていた。
イズクや他のプロヒーローも困惑している。
そして一番大きな変化について、彼女に伝える。
「あとはお主が何処に居ても、妾にわかるようになった」
「えっ!?」
例えるならディオとジョースター一族、ルークとダースベイダーのようなものだ。
どれだけ巧妙に逃げ隠れしても、ぼんやりとだが存在を感じ取ることができる。
「説明は長くなるので、この場ではせぬよ。
とにかく今後は何処へ隠れようと、妾からは決して逃げられんということじゃ」
新しい力を得たレディ・ナガンだが、妾の今言ったことは脅迫だ。
逃げても無駄なので観念するようにと言えば、もしかしたら協力してくれるかも知れない。
「もちろん妾も責任は取る。
ヴィランからヒーローに戻れるように協力はしよう。
レディ・ナガンに、その気があればじゃが」
情報を教えてくれれば、AFOのアジトを突き止めることも可能だ。
問題はレディ・ナガンが一緒に戦ってくれるかだが、もし断ったら刑務所に戻ってもらうしかないだろう。
流石に当人が乗り気ではないのに、命の危険がある戦いに参加させるのは可哀想だ。
妾は彼女の反応を伺うように、しばらく黙って待った。
「……わかった。私も戦うわ」
「良いのか?」
「ええ、貴女は他のプロヒーローや、公安とは違うようだし。
何より、命を助けてくれた恩があるもの」
彼女はそう言うが、妾にとっては別に珍しいことではない。
なので、微妙な顔をして返事を口にする。
「困っておる者がいたら、普通は助けるじゃろう?
ヒーローでなくても、人として当たり前のことじゃぞ?」
自分ならできたから、助けただけだ。
もしどうにもならなかったら、多分見捨てていた。
まあ、そのことを口にしたりはしないが、彼女は首を横に振る。
「それでも、あの時の私は、誰も助けてくれなかったわ。
まあ、助けを求められない、事情があったんだけど」
いわゆるレディ・ナガンに悲しき過去というやつだろう。
しかし妾は、そういうのに興味はない。向こうが話したければ話半分に聞くが、相槌を打つのせいぜいだ。
「けど、もし貴女があの時、私の前にいてくれたら──」
彼女は何やら思う所があるのか、妾の顔をじっと見てくる。
しかしそんなことを言われても困るので、大きく息を吐いてレディ・ナガンの発言を遮った。
「そう悲観することはあるまい。
お主はまだ、やり直せるのじゃからな」
「えっ? やり直せる? 私が?」
いい加減に話が長くなってきた。
妾は若干面倒になって、無理やりでも終わらせることにする。
「レディ・ナガン。お主はヴィランではなく、ヒーローじゃ」
彼女が過去に何をしたかは妾は知らないし、興味もない。
だが凶悪なヴィランには見えないし、生命力のオーラもそこらのプロヒーローと遜色ないぐらい、綺麗なものだ。
だからきっと大丈夫だと、話を続ける。
「たとえ道を間違え、誰も認めなくてもな。
それでもお主が正しくあり続ける限り、妾が味方になってやろう」
つまりAFOを捕まえるから、協力よろしくということだ。
自分も手伝うから、レディ・ナガンも協力してくれと遠回しに伝える。
そして妾は長話するのにも飽きたので、軽く伸びをした。
「それより早う。AFOの居場所を話すのじゃ。
悠長にしておると、逃げられてしまうぞ」
「そっ、そうね。確かにその通りだわ」
AFOは今頃、とっくに逃げ出したかも知れない。
だがそれでも貴重な手がかりには違いないし、証拠品も全て処分したとは限らなかった。
「でも本当に、私はまだヒーローなの?
そしてこれからも、ヒーローを続けて良いのかしら?」
「そのようなこと、許可などいらぬわ。当たり前じゃろうが」
「……当たり前ね。ええ、本来はそうよね」
ヒーローの資格が全くない妾が言っても何の保証にはならないが、レディ・ナガンは元プロヒーローで免許を持っていただろうし、もし紛失しても再発行してもらえば良い。
タルタロスに入っていたのは色々事情があったのだろうが、妾にとっては知ったこっちゃない。
「もしここで、お主がAFOの居場所を話せば、妾にとってのヒーローじゃ。
それで十分じゃろう」
「そうか。ヒーローになるのって、こんなに簡単なことだったんだ」
レディ・ナガンは良いことがあったのか、少しだけ嬉しそうだ。
しかしいい加減にAFOをぶん殴りたい妾は、はよはよバンバンと急かして、彼女から詳しい話を聞くのだった。