委員長はわたしの体操服を手に取った   作:赤砂の

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何かあれば続きます


委員長はわたしの体操服を手に取った

 清々しいまでに晴れ渡る青い空を窓越しに眺めながら、私は人の気配のない寂しい校舎内を俯きながら歩く。外からは部活に興じる生徒達の楽しそうな声が薄っすらと聞こえてくる。

 

(どうしてこうなっちゃったんだろうな)

 

 高校に入学したら友達を沢山作って、お弁当を一緒に食べたり、あんな風に楽しく部活をして、皆んなで下校をする。その時にはコンビニとかで買い食いしちゃったりとか、そんなことが出来るんだって思ってた。

 

 だが今の自分はどうなんだろうか。

 根暗なせいで友達は1人もいないし、お弁当は誰もいない屋上で食べてる。部活なんて見学すらも怖くて行けなかったし、もちろん一緒に下校できる様な人なんて存在しない。そんなわたしに話しかけてくれる心優しい人もクラスにはいるけれど、悲しいことにうまいこと話せない。

 

 やりたかったこと。憧れていたこと。そのどれもがわたしなんかには眩しくて、でも普通の人ならそんな理想の高校生活を当たり前の様に送っているんだろうなって。

 

 どこまでいっても陰気で、人と接することが怖くて、部屋の隅っこで縮こまってるわたしなんかではきっと普通にはなれないんだろう。

 

 はぁっとため息をつきながら眩しい窓から視線を外し、静寂に包まれる廊下に目を向ける。まだ見慣れない廊下だけれども、人気が少なくどこかどんよりとしている感じがして、何故か親近感が湧き上がってきた。

 

 明日には友達できてるかなぁ。

 多分出来てないんだろうなぁ。

 

 今日の体育の持久走で多分皆んなから軽蔑されただろうしなぁ。

 

 ……持久走?……体育?………………………………あっ

 

 下駄箱へと後数歩進めば着く辺りの所でとあることを思い出す。そういえば体操服を教室に置いていってしまっていたと。

 

 幸い教室も一階にあるし、そんなに遠くない。パパッと取りに行ってささっと帰ろう。なんて考えながら踵を返して自分の通う1年3組の教室へと歩を進め始める。

 

(あっ、教室鍵かかってたらどうしよう)

 

 万が一にでも鍵がかかっていたら職員室まで行かなければいけない。それだけはなんとしても阻止しなければ。

 

 1年3組の教室の手前まで着くと、教室の中から少しの物音がしていることに気づく。

 

(誰か残って勉強でもしてるのかな?うわぁだとしたら凄い気まずいなぁ。陰キャのわたしには少しキツイかも)

 

 わたしは息を潜めて教室のドアに身をかがめながらゆっくりと近づき、中の様子を伺う。いつも私に話しかけてくれる優しい人もとい、クラスの学級委員長さんであればなんとか教室の中に入れると思うので、出来れば中にいる人は委員長だったら凄い嬉しいんだけど……

 

 委員長であれと願いながらドアの小窓を覗く。

 

(えっ)

 

 驚きの声が喉から出かけるが、手で口を覆って出かけた言葉を閉じ込める。それほどまでに目に映った光景は自分にとってとても信じ難いものだった。

 

 教室の奥、つまりはロッカーと机の間に彼女はいる。

 委員長だ。

 その後ろ姿で察した。黒い髪の毛の三つ編みなんてあの人しかいない。これだけなら委員長が教室で何かしている程度なのだが、問題はその手に持っているモノ。

 体操服だ。

 誰のかは見えないが、間違い無く体操服を持っているというのはハッキリと分かる。こんな時間にこんなところで体操服を手に取るなんておかしい。

 

 わたしは気づかれないように音を立てず息を殺しながらゆっくりとドアを開いて中に入っていく。委員長の隣に落ちている見覚えしかない袋に目を見開いた。その袋はわたしが中学生の頃から使っている体操服袋だったからだ。

 そして委員長が手に持っていた体操服の位置を変えたことによって、胸元に記された名前がチラッと見える。

 

 『鷲峰』

 

 間違い無くわたしの名前だ。このクラスにわたし以外に鷲峰なんて苗字の人はいない筈だから、必然的にあの体操服はわたしのものということになる。一体委員長はわたしの体操服で何をしているのだろうか。

 

 まさか、匂いを嗅いでるとか?

 あの体操服は持久走の時に沢山汗が染み込んでしまっている。その時委員長も汗ダラダラなわたしの姿を見ていた筈だから、委員長が匂いフェチだったとしたらその可能性がある。

 

 いや、あの委員長が匂いフェチなのだろうか。わたしみたいな陰キャでコミュ障で明らかにクラスで浮いてる人間に優しくしてくれるあの委員長がだぞ。そんな人が無断で他人の体操服の匂いを嗅ぐか?あんな優しい人が……はっ!

 

 まさか、委員長はわたしのことが好きなのかもしれない。何でわたしなんかにというのは一旦置いておいて、兎にも角にもそう考えれば辻褄が合う。クラスで浮いてるわたしに優しく話しかけてくれるのは、ただ単純にわたしのことが好きだから。要するに好感度稼ぎってことだと思う。ギャルゲーとかのシステムもそんな感じだった筈だし。

 

 そしてたった今わたしの体操服の匂いを嗅いでいるのもわたしのことが好きだから!

 

 LGBTとかについては否定とかするつもりは一切無いが、人の体操服の匂いを嗅ぐのは良くないと思う。下心があったとはいえ、委員長はわたしに優しくしてくれた人。ここは気づいていない感じでそっと出ていこう。

 

 わたしはドアの方にさっきと同じ様に音を立てずに足を踏み出す。

 ……果たして本当にそれで良いのだろうか。

 

 ふと、そんな疑問が頭をよぎる。

 

 委員長はわたしと友達って訳じゃない。委員長からしたらわたしなんてその辺にいるモブと同義。だけどわたしからしてみれば寂しい高校生活に会話という彩りを与えてくれた人。言うなれば恩人だ。それに委員長のこの行動は、わたしへの好意からくるものだろうし。

 だから、他ならぬわたし自身が彼女の変態的な行動を何とかしなければいけないだろう。

 

 わたしはスマホを取り出して委員長の背中と、手に持っている体操服が映るように写真を撮った。

 

 カシャ

 

 素っ気のないシャッター音が2人の世界でこだました。

 

「あれ、鷲峰さん。こんな時間にどうしたの?」

 

 シャッター音に気づいた委員長は、必然的にわたしの存在にも気づき、振り向いた。

 

(待って、この人なんでこんなに冷静なの?自分が匂いを嗅いでた体操服の持ち主が後ろにいるのに)

 

「え、えっとあの、わ、忘れ物を……」

「その忘れ物ってこの体操服だよね。ごめんね、名前書いて無かったから中まで確認しちゃったよ」

 

 そう言ってはにかみながら笑う委員長。

 なるほど、偶然見つけましたよっていうスタンスか。しかもこの話のスピード、前もって用意してきた言い訳に違いない。

 これは一回罪を認めさせなければいけない。

 

「い、委員長って……わ、わたしのことが好きだったんですね」

「え、どういうこと?」

 

 わたしの核心をついた問いに、委員長は何も心当たりが無いという風にとぼける。

 

「し、しらばっくれても無駄ですよ。さ、さっき写真撮ったので。ほ、ほらこれです」

 

 わたしはさっき撮った写真が表示されたスマホを委員長に見せた。この証拠は流石に言い逃れできないだろう。

 

「あー、それで勘違いしちゃったのか。まぁこの写真だと確かにそう見えちゃうね」

「か、勘違いって……こ、こんな時間にここにいるのなんておかしくないですか?」

「私放課後に毎日忘れ物とかのチェックをするんだよね。で、今日は先生の頼まれごとをされてたから、それが終わってから教室に帰ってきて忘れ物のチェックをしてた感じね。これで分かってくれた?」

 

(なるほど、そういう言い訳か。確かに筋は通ってる。だけどわたしはそんな上っ面の言葉に言い包められたりしない!)

 

「で、でも…」

「でも?」

「い、委員長さんはわたしの胸いっつも見てたじゃないですか!」

 

 この高校に入学してから1ヶ月程が経ったが、委員長と会話するたびに毎回のように胸に視線を感じていた。今まではいつものアレだと思っていたので気にしないようにしていたのだが、この体操服の件で確信した。

 

『委員長はわたしのことが好きだから胸を見ていた』と。

 

「っ……」

 

 図星だったのか言葉を詰まらせる委員長。

 

「あ、安心してください。責めるつもりはないんです。それにこの写真も誰にも話すことも無いです。わ、わたしは委員長が今みたいなことをしてた時に、わたし以外の人にばれないかっていうところが心配なんです」

「その気持ちはとても嬉しいけど……そうじゃないの。私は……」

「か、隠さなくても大丈夫です。わ、わたし頑張りますから!!」

 

 あんなに優しい委員長を、犯罪者にさせちゃいけない。

 

 わたしは拳をグッと握って、覚悟を決めた。

 

 

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