委員長はわたしの体操服を手に取った   作:赤砂の

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とある日の委員長

「おはよう〜」

「委員長おはよっす」

「おはよう」

「おっは〜」

「おはようございます」

 

 私が通う私立朱華(しゅうか)女子高等学校の1年3組のドアを開き、既に登校しているクラスメイト達に挨拶をする。クラスメイト達は顔をこちらに向けて元気よく挨拶を返してくれた。

 

 ちなみに委員長とは私、深瀬舞衣(ふかせ まい)のことだ。クラス内の学級委員長では唯一の立候補ということで就任させてもらった。小学一年生から現在までの学生生活で、私が委員長じゃなかったことはただ一度としてない。さらに三つ編みかつ眼鏡でもあるので、委員長の中の委員長は誰?と聞かれれば私しかあげられないだろう。

 

 と、まぁそんなことはどうでもいい。

 

 下らない思考を脳内から放り捨て、通り道のクラスメイトに挨拶をしながら自分の席へと歩く。自分の席は窓から2列目の一番後ろなので、必然的に入ってきた入り口からかなり遠いのだ。沢山の人と挨拶できるので、ひどく気に入っている。

 

 席に到着した私は机の上にスクールバッグを置いて、隣で寝たふりをしている少女の耳元に声をかける。

 

「鷲峰さんおはよ」

 

 ロシア人と日本人のハーフらしい彼女は、銀髪にも見える綺麗なプラチナブランドの髪の毛と、美しい青い瞳、そして白磁のように白い肌、高校一年生にしては未発達な身長と、高校一年生にしては発達し過ぎている胸部装甲を持っている。

 

「ひゃっ、ひゃい。お、おはようございます委員長」

 

 鷲峰アリス。

 それがびくりと大きく体を震わせ、消え入るようなか細い声で挨拶を返してくれた可愛らしい少女の名前である。

 

 鷲峰さんは人とのコミュニケーションがあまり得意ではないらしく、教室では本を読んで話しかけないでの壁を貼ったり、寝たふりをしたりしているため友達もあまり出来ていないらしい。クラスの子達もかなり珍しめの見た目に話しかけることを戸惑っているのか、遠巻きに見てるみたいな感じだ。

 

 若干クラスで浮いてしまっている鷲峰さんに、隣の席ということもあり私も色々話しかけたりしているのだが、あまり心を開いてくれる様子は無い。

 

「昨日三枝(さえぐさ)先生が言ってたんだけど、今日の体育の持久走なんだって」

 

 三枝先生というのは生徒指導と体育の先生で、色んなことに厳しい人である。

 

「ちょ、長距離走……」

「鷲峰さんは長距離走得意?」

 

 鷲峰さんはぶんぶんぶんと勢い良く横に首を振る。それと同時にたわわに実った果実がぶんぶんぶんと揺れる。にしてもやっぱりおっぱいおっきいなぁ。私なんて無いも同然みたいな感じなのに。視線を落として自分の胸元を見てみる。うん、もう何も言うまい。

 

「め、めちゃくちゃ苦手です」

「そっか。じゃあ頑張らないとだね」

「あ、あ、あの、委員長さんはどうですか?」

「私もあんまりかな」

 

 

 

 

 

 

 雲一つない清々しい青空の下、たぷんたぷんと擬音を発しながら実りに実った巨峰が揺れる。

 本当にしんどいのだろう、鷲峰さんは肩で息をしながら走っている。鷲峰さんと一緒にスタートした子達は既にゴールしていて、後は鷲峰さんのゴールを待つだけ。

 

「大丈夫?」

「はぁはぁはぁ」

 

 ゴールラインを踏み越え、地面に倒れ込んだ鷲峰さんに自分の水筒を差し出しながら声をかける。

 

「ちょ、長距離走は最後にみんなに注目されるから苦手なんです」

「なるほど」

 

(確かにアレは色んな意味で見ちゃうよね)

 

 持つものは持つものなりの苦労があるのだと私は思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「それでは委員長挨拶お願い」

 

 様々な連絡事項を伝えられる帰りのホームルーム。その締めを任されるのは、勿論学級委員長である私だ。

 

「起立、気をつけ、さようなら」

『さようなら』

 

 帰りの短いホームルームが終わった。

 

「委員長バイバイ」

「はい、さようなら」

 

 周りの部活や帰宅する子達にされる挨拶を返していく。私はいつもみんなが帰った後に忘れ物のチェックをしているので、こうして挨拶を返すことが多くなる。

 

「鷲峰さんもまた明日」

 

 が、影を消して静かに私の後ろを通り過ぎようとする例外もいるので、そこは毎日注意している。

 

「……」

 

 鷲峰さんはその返事としてこくりと頷いて、早歩きで教室を出て行く。

 コミュニケーションが苦手とは言っても、こうして出来ない訳ではないから、鷲峰さんも沢山友達できると良いんだけどな。

 

「あっ、委員長今から時間ある?」

「ありますよ」

「実は美術準備室の片付けが全然できてなくて、もし良かったら一緒にやってくれないかな?」

 

 私達1年3組の担任であり、美術教師であり、私の所属する美術部の顧問でもある早口(はやぐち)先生にお片付けを頼まれる。

 

「別に暇なので構わないですけど、部活がある日にやればいいんじゃないですか?」

「部活で集中してる子達を邪魔するのは……」

「ふむ、分かりました。お手伝いしましょう」

「ありがとう委員長」

 

 

 

 

 

 

 美術室の片付けは30分程で終わり、先生に奢ってもらったジュースを片手に教室に戻る。委員長()の1日を締め括る忘れ物チェックをしなければいけないからだ。いやまぁしなければいけない訳じゃあ無いんだけどね。

 

「あれ、これ誰のだろう」

 

 ロッカーと机の間にあるスペースに見覚えの無い袋が置いてあるのが見えた。手に取って見てみても名前は書いていないようで、袋の中を開けてみてみると入っているのは体操服のようだった。

 

(体操服袋だったのね。とりあえず名前見なきゃ。部活とかやってたらまだ届けられるし)

 

 体操服の上を袋から取り出して名前を確認。

 

(あー、鷲峰さんのか。鷲峰さんは……確か部活には入ってなかったよね)

 

 となると仕方ないから鷲峰さんのロッカーに置いておこうと思い、体操服を戻しかけたところで、私の脳内に電流が走った。

 

(そうだ、確か放課後は図書委員の仕事があるって言ってたっけ。なら今からでも図書室に行けばなんとか間に合うかも)

 

 カシャ

 

 そんなことを考えたところで、誰もいない筈の教室にカメラの音が鳴り響いた。なんでカメラの音が?と思い振り返ると、そこにいたのは件の鷲峰さん。私はちょうど良かったと思いながら声をかける。

 

「あれ、鷲峰さん。こんな時間にどうしたの?」

 

 図書委員の仕事が終わったところで忘れ物に気づいて取りにきたのだろうなと辺りをつけてはいるが、一応聞いてみる。

 

「え、えっとあの、わ、忘れ物を……」

「その忘れ物ってこの体操服だよね。ごめんね、名前書いて無かったから中まで確認しちゃった」

 

 

「い、委員長って……わ、わたしのことが好きだったんですね」

「え、どういうこと?」

 

(え、どういうこと?)

 

 ちょっと待って。

 何がどうなってそうなったんだ?

 

「し、しらばっくれても無駄ですよ。さ、さっき写真撮ったので。ほ、ほらこれです」

 

 鷲峰さんはスマホの画面を少し操作してから、私の方に向けた。そこに映っていたのは私の背中と鷲峰と書かれた体操服のツーショット。さっきのカメラの音はこれなのだろう。

 

「あー、それで勘違いしちゃったのか。まぁこの写真だと確かにそう見えちゃうね」

 

 きっと自分の体操服の匂いを嗅いでるとか、そんな感じの勘違いをしちゃったのだろうな。

 

「か、勘違いって……こ、こんな時間にここにいるのなんておかしくないですか?」

「私放課後に毎日忘れ物とかのチェックをするんだよね。で、今日は先生の頼まれごとをされてたから、それが終わってから教室に帰ってきて忘れ物のチェックをしてた感じね。これで分かってくれた?」

「で、でも…」

「でも?」

 

 食い下がるように言葉を紡ごうとする鷲峰さん。

 一応全部説明したんだけど、まだ何か引っかかるようなことがあるのかな。早いとこ納得してもらってその写真も消してもらいたい。普通に他の人に見られたら、また勘違いされちゃいそうだし。

 

「い、委員長さんはわたしの胸いっつも見てたじゃないですか!」

「っ……」

 

 し、しまったぁぁぁぁぁ!!

 こんなところに落とし穴があったなんて。自分の胸滅茶苦茶見てくる人が、誰もいない放課後の教室で自分の体操服持ってたら勘違いするよね。流石に。

 

 これやばくない?

 主に私の高校生活が。もしかして終わった?

 

「あ、安心してください。に、匂いを嗅いでたことを責めるつもりはないですし、それにこの写真も誰にも話すことも無いです。わ、わたしは委員長が今みたいなことをしてた時に、わたし以外の人にばれないかっていうところが心配なんです」

 

 優しいなぁ、鷲峰さんは。

 でも違うんだ。私はやってない!勘違いなんだ!!

 

「その気持ちはとても嬉しいけど……そうじゃないの。私は……」

「か、隠さなくても大丈夫です。わ、わたし頑張りますから!!」

 

 私の慌てたような少しだけうわずった声を鷲峰さんはかき消し、何故か覚悟を決めたような表情を浮かべながら拳を握り、小走りで教室から出て行った。

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 私の声は、走り行く彼女の背中には届かなかったのだろう。

 

 

 

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