エンディングの話が含まれます。
まだクリアなさってない方はお戻りください。
(あなたには私の交信が届いているのですか?
私は…ルビコニアンのエア)
覚えている。
あなたに出会った瞬間を。
(制御装置も、逃げはしないでしょう。
ゆっくり探してください、レイヴン)
(…私はなんだか混乱してきました。
静かにさせてもらえると助かります)
(ふーむ…
…いろんな人がいますね)
いや、一度も忘れたことがない。
あなたと話した、その時間を。
想起、振り払い、再び想起。
あなたを待つ時間、恨み節や憤怒よりも共にいた時間だけが思い浮かんだ。衛星砲の麓の封鎖ステーションは、それらを忘れさせてくれないほど酷薄で静かだった。
…
……
宇宙空間で一人のACと闘い続ける。今も詳らかに聞こえているはずのコーラルの声を聞かず、共存の価値を追求せず全てを焼き払わんとする大罪人、レイヴン。ハンドラー・ウォルターの猟犬。
私の、友人だった者。
人とコーラルの共生。あなたとなら、必ず成し遂げられると思っていた。それはあなたとともに歩んで思った事だった。
私たちは同じだった。美しいと思う感情も、呆れる感情も、怒りも驚愕も、同じ感性を持つことができた。同じように笑うことができた。
私たちは分かり合うことができていたのだから。だからこそ、絶対に。共存は出来ると信じていた。
あなたの闘いを、ずっと共に見てきた。
貴方と同じ視点で、同じ角度で、同じ速度で見た。
どうやって闘い、どう逃げるか。
どう殺し、どう迷うか。
だから、わかっている。
あなたももう、限界に近い。
リペア・キットも3つ全てを使い切っている。
全身のパーツが軋み、ENは底をつかんとする。私たちが共に駆けた『レイヴン』は、もう動かなくなる寸前なのでしょう。
それもわかる。
そんなことも分かるほどに、同じ視点を、見続けたのに。
どうして私たちはこうまで分かれてしまったのだろう。
なぜあなたは、私に背を向けたのか。
その理由は、私には薄々分かっている気がした。
621、G13、ビジター。
野良犬、独立傭兵、戦友。
貴方には沢山の呼び名があった。
そのどれもの呼び方はありながら、私にとっては貴方は、ただ『レイヴン』だった。
それが、全てを表している。
貴方には、私以外が沢山いた。
だから貴方は私以外を選択した。
ただ、それだけだ。
あなたと共に、ずっといたのだ。ウォルターが遺した意思が、全てを焼き尽くしコーラルを殲滅するものであることも知っている。それが過去の友人から受け継いできた責務であり、そのバトンがレイヴンに継がれたのだということも。
私の我儘を貴方はきっときいてくれないことも。
どちらも知っている。そうだ、分かっていた。
だからこうするしかなかった。
こうして相対して、あなたを完膚なきに殺して、ザイレムを堕とす。衛星砲を用いて、灰かぶりのシンダー・カーラ共々に二人を消す。
私には、それしか残らなかった。
もう私にあるのはそれだけだった。
ただ、闘いの最中やけに冷静に思考の隅が動いて。ただ衛星砲を照射してザイレムを排除するのではなく、レイヴンをこの場所に呼んだ理由は、なんだったろうと考えてしまった。
あなたならこれを避けてしまう気がしたから?
危険な者を手ずから排除しておきたかったから?
どっちも、きっと違う。
私は、失望と怒りの底でそれでも貴方を縋るように見ていたのだ。最後の最後に、こっちを見てはくれないかと期待するように。
そう、どうしようもなく楽観的で未練がましい。
そしてだからこそ、共存と私に目を瞑ったこと。その圧倒的な暴威を、『私たち』を焼き尽くす為に使う選択をしたことに、煮え沸るような怒りと…どこかの、納得。
貴方はちゃんと、選択をしたのだ。
そこにはもう、揺らぐものは無いのだと。
だから、それしか残らなかったのだ。
私に残るものは、もう貴方を斃すことしかない。
「まだです!同胞たちの、命をッ!」
全てを燃やし尽くし、余燼を沸らす戦の火。
災厄を運ぶ、不吉なる鴉の黒い翼。
高く飛翔し、神火に焼かれ焦げた自由の羽根。
レイヴン。
貴方こそがルビコンの戦火そのものだった。
その火に焼かれて、私はきっと全てを失ったのだ。
火に惹かれて誘き寄せられ、あなたという火に焦がれて、どうしようもなく残った想いが、今も燻っている。
そうだ。
私には、貴方しか。
だから、貴方にも私しか。
こんな時ですら、そうあって欲しかった。
ただ、そうではなかった。
そう、なってはくれなかった。
だから私たちは、今こうしている。
自分の未練を断ち切るように、ブレードを展開。機体に接近する。コーラルで作られた私のエネルギー分身が二つ三つに分かれてレイヴンを一度、二度、三度切り伏せていく。
手酷く破損していく貴方の機体から知覚を逸らした。
「……さようなら、レイヴン」
私はこの時に、視覚を飛ばすべきでは無かった。この期に及んでまだ私は、彼の決意を見誤っていた。
いや。理解できていなかったから、こうなった。
ぐお。
爆風の中。コーラル粉塵の中から躍り出る機械。
半身が爆発して、残骸になり果てたレイヴンのAC。
だけれどただ、ブースターが一つと。
ただ左手だけが一本、残っていた。
左手の先に付いている武装が、輝きを放つ。
その輝きは奇跡でもなければ、光の反射でもない。
ENの、パルスが放つ緑玉の輝き。
そうだ、あれは…
(…高周波、パルスブレード…!)
それは、彼が愛用していた武装。
それは、レイヴンが以前に教えてくれた事。
どこか自慢げに、少し嬉しそうに。
これは、ウォルターが初めてくれた物だと──
「……──…─…」
私の意思を、ウォルターの遺した意思が切り裂く。あなたの中にいるウォルターが、私を刺し貫き、起動の限界を迎えさせる。
彼に授けられたもの。彼が最期まで付き従った者。
最期に選択した、主人。
それが渡した物が、その道を阻む私を倒すのだ。
レイヴンに残された機体は、腕とブースターのみ。
コアの、搭乗席は、潰れて久しい。
だから貴方はとうに息絶えている。だのに動いたのは、それでも私を殺したかったからでしょうか。
そう、あったらいいと思った。
「……」
「……ああ…レイヴン…」
ああ。
あなただけが勝って。
私がこの宇宙に沈むのならば、悔いが残った。
私はそれでも共存を、と泣き言を遺しただろう。
だけれど、これならば。
あなたと共にここで負けるのならば。
ザイレムはこのまま衝突し、ルビコンを燃やす。火に包まれる全てから、私たちは逃げる事が出来ない。あなたと私は、共に火に包まれるのだろう。
亡骸も残らずに、燃え尽きる。
燃え残ったものは、ただ余燼となって。
それならば、それでいい。
私はあなたと共に燃え尽きられるならば、それでもいい。
私は、それでもよかったのだ。
「…レイヴン」
内側から暴走するコーラル反応とパルス。
赤と緑の輝きを、今度は目を逸らさずに見つめる。
あなたと共に消える、この瞬間を。
私はもう、目を瞑り終えたから。
(綺麗な花火ですね)
あなたと共にいた時間が絶えず記憶を駆ける。打ち上げられ、爆発していく空の彼方を見た景色。血と鉄と硝煙の香りがしていても、それでもあなたとの思い出だった。決して、忘れたくない。
そして今のこれは、あの時に見たそれよりも。
ずっとずっと、綺麗だった。
それをあなたと語り合いたいほどに──
…
……
火だけがあった。
そこには、何も残らない。
ただ、火だけがある。
全てのものは灰となり、焼け焦げる。
ザイレムにも、宇宙にも。
そこには、何も残らない。
ただ、余燼だけが残る。
そこにあるものは鴉の名の傭兵。
たった一人のルビコニアン。
二つの機体が溶け合った、小さな余燼だ。
共にある、ちっぽけで、小さな余燼。
ただただ、それだけだ。
共倒れルート…素晴らしい響きだ…
素敵だ…