村の幼馴染が魔術の天才だった   作:きなかぼちゃん

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2.岩盤砕き

 リエーニエからアルター高原に向かう方法はいくつかあるけれど、その中で一番簡単なのはリエーニエ北東にあるデクタスの大昇降機を使うことだった。都市国家ローデイルと魔術学院レアルカリアの盟約によって作られた巨大エレベーター。魔力的なものを動力に動いているらしいけれど詳しいことは知らない。

 

 それより問題は通行料が1人頭金貨3枚。都会の大人が1年かけてようやく稼げる金額。道を通るだけでそんな大金を払えるのははじめから貴族や行商だけに限られている。もちろんわたしとレナラはそんな金を持ってないのでそのルートは使えない。

 

 もう一つの手段は大滝に張り付くように開発されている断崖の鉱山で1ヶ月の間労役に従事することだ。

労役さえ終えれば、この鉱山を通りリエーニエとアルター高原を行き来することが許される。

 聞けば、武具を鍛えるために必要な良質な鍛石が採れるこの鉱山を掘り進むうちに、いつしか崖下と崖上を結ぶ道が完成していたというのが始まりらしい。元は古代に滅んだ王朝の遺跡だったんだって。

 

 わたしたちのように何の身分も無い人たちは基本的に皆この手段を使うしかない。労役の途中で抜けだそうとした人間は問答無用で首を刎ねられるというのだからファンタジー世界は怖い。

 

 リエーニエの湖を東からぐるりと迂回して、大滝の麓にたどり着くのに1週間。近づけば岩壁にぽこぽこと点在する横穴と、それらを繋ぐ木製の足場と梁が所狭しとへばりついていて、背中に籠を背負った人たちがツルハシを携えて忙しなく動き回っていた。

 

 地上にある鉱山の大きな入り口の前では安全確認のために大声で注意を促している男がいた。見覚えのある顔だったので声をかけると、向こうもこちらに気づいたようで意外そうな顔で近づいてきた。

 

「グラムさん、お久しぶりです」

「またお嬢ちゃんたちか……まさかもうレアルカリアを退学になったのか? こっちとしちゃあ魔術師は大歓迎だが」

「いや、退学はしてないんですけどぉ……」

 

 どう説明しようか、とちらりと横のレナラを見るとあからさまに不機嫌そうに目をつり上げていた。

 

「魔術師じゃなくて星見よ。間違えないで。それに退学じゃなくて休学だし、あんな低レベルな連中と一緒に研究なんてしてたら私達の頭が腐るわ。こっちから願い下げね。だから私達は独自のアプローチで研究をするために旅を始めたってわけ」

「そりゃあ悪かった。まぁ、またここで働いてくれるなら嬉しいぜ。レナラちゃん。目の保養にもなるしな」

「ちゃん付けで呼ばないで。怖気が走るわ」

「それは失礼いたしました。お嬢様」

 

 わざと恭しく礼をするその姿を見て、笑顔で杖を取り出したレナラをわたしはすかさず止めた。

 

「ちょっと! 騎士さんと喧嘩するためにここに来たわけじゃないでしょ。グラムさんもレナラをあまりからかわないでください。この子キレやすいので……」

「は? アヤノこの男の肩を持つわけ? てかキレやすいって何よ」

 

 わたしに流れ弾が飛んできた。勘弁しなさいよ。でもこんな全方位にキレ散らかしていたらレナラの今後の人生が危ぶまれるのでわたしもたまには強く言うことにする。わたしはレナラを少し強めに睨んだ。

 

「自覚無いの? たまには喧嘩せずに我慢しなさいって言ってるの」

「私は悪くない!」

「一緒に旅してるんだからわたしのことも考えて。あなたはひとりじゃないんだから。一緒に東の山嶺まで巡礼しに行くんでしょ。それならこんなくだらないことで怒ってるほど愚かな事はないわ。目的を見誤ってる人間はあなたが一番嫌うものじゃないの?」

 

 レナラはハッとして、ばつが悪そうに目を伏せて杖を下ろした。よし勝った。いつも嘲笑ってるレアルカリアの学生達と同じレベルに落ちていることに気づいて、それが耐えられなかったんだろう。

 

「その……すまねえ、アヤノさん。レナラさん。ついいつもの調子でやっちまった。アンタらみたいな娘さんにやる態度じゃなかったな」

「ふん」

「わたしのことは別にアヤノちゃんでいいですよ?」

「容赦ねえな。勘弁してくれ」

 

 彼はばつがわるそうに頭をぼりぼりと掻きながら苦笑いしていた。わたしまだ14歳だし、ちゃん付けでも特に気にしないくらいの意図しかなかったんだけど……。

 

 名前をグラムという彼は、ローデイルから鉱山管理のために着任している騎士のひとりだ。

 明るい金髪。そしてそれほど整っているとはいえないけれど、どこか人好きのする明るい表情が目立つ偉丈夫である。黄色のサーコートを纏い、胸元に大きく大樹が描かれているそれは城塞都市ローデイルのシンボル。騎士っていうにはちょっと軽口が多いし気安すぎるなあ、なんてわたしは思ってしまう。

 

 鉱山の入り口横に併設された関所で1ヶ月の労役の手続きをして、バックパックを預けてから鍛石を入れるための大きな籠を背負う。わたしたちは魔術を使えば採掘ができるので、つるはしの代わりに杖を持ち込んでいる。

 

「労務は1月、食事は朝晩2食、水浴びはそれ用の地底湖があるから適当にやれ。基本的に何処でも掘って構わんが立ち入り禁止になってる場所は行くなよ? 化物が湧いてる可能性があるし襲われたら俺達も助けに入れんからな……じゃあ今回も頼むぞ」

 

 グラムさんに見送られて、ところせましと燭台に火が灯された明るい鉱山の中を歩く。多くの通行希望者によって日々開発され続けている鉱山は通路自体も広く整備され歩きやすい。あと何日で開放だの、ローデイルに着いたら何を食べるだのと採掘をしながら明るく世間話をする人たちとすれ違う。

 

 前にやった時も思ったけれど、鉱山の労役と言っても奴隷のように働かされるわけではない。食事もちゃんと出るし睡眠時間もしっかり取れる。わたしとしてはちょっとした異世界に来た気分で、色んな人とも出会えるしこの鉱山の雰囲気は嫌いじゃなかった。

 

「でもまさか1年に2回も鉱山労働者になるとは思わなかったよ」

「お金持ちしか大昇降機を使えないだなんて意味が分からない。この私の人生がこんな鉱山で1ヶ月、いえ、2ヶ月も足止めされるなんて、それこそ人類の損失に他ならないわ」

「おおげさ。授業で聞いたけど、動かすのに結構お金がかかるって話じゃなかったっけ? あれだけ大きな装置だし」

「大きさは関係ないでしょう。あんな単純な装置、魔術式を1度刻んで魔力を流しさえすればその後は同じように動くに決まってるじゃない。それは魔に通じている人間なら誰でもできることよ。あれだけ大層なものを作っておきながら詭弁を弄してまでこの鉱山の労働力を確保したいだなんて涙ぐましい努力ね。馬鹿みたい」

「……そうなの?」

 

 わたしは首を傾げた。学院の授業で嘘教えてるってマジ? ものすごい複雑な動力が必要だから、動かすたびに腕利きの魔術師や聖職者を何人も動員する必要があるって話だったけど……。わたしがぽかんとした顔で横のレナラを見ると、やれやれと首を振った。

 

「アヤノあなた優秀なのにちょっと単純よね。少しは疑いというものを持った方が良いと思うわ。だからわたしはレアルカリアを信用していない」

 

 いいやわたしは別に優秀ではないと思う。レナラからわたしへの謎の高評価は置いておいて、レナラがレアルカリアを貶すのは学生達の知識が物足りないだけじゃなかったのか。

 ちなみにレナラは天才なので、わたしは基本的に魔術に関するレナラの知見は100%信じることにしている。

 

「まあレナラがそう言うならそうなんでしょうけどそれはそれで、わたしはここで働くのはそんな嫌いじゃないかもなー。あ、横いいですか?」

「構いませんよ~」

 

 話しているうちに天井の高いホールのようになった大採掘場に着いたわたしたちは掘りやすそうな場所を見繕ってそばで採掘している人に声をかけた。別にそんなルールはないのだけれど、たまたま良い鉱脈に当たっている人の横で勝手に採掘を始めるとトラブルになることもある。

 

 なぜそんなことになるかというと、労役期間中に貴重な鍛石を多く掘り当てれば通行するだけでなくインセンティブでお金が支払われることになっているからだ。要は労役をサボらせないための飴ってこと。

 

「んじゃ、やろっか。《岩盤砕き》!」

 

 わたしは杖を岩壁に向けると魔術を発動した。杖先から大きな青白い槍が展開されてガリガリと振動ドリルのように岩盤を砕いていく。レナラもやる気のなさそうな顔をしつつ同じように隣で《岩盤砕き》を発動していた。

 

 魔術師は大歓迎、と言われた理由がここにある。

 

 レアルカリア入学前にここで労役をしていたわたしたちは、たまたま出会った鉱夫のお爺さんから《岩盤砕き》という魔術を教わって2人がかりでどっかんどっかん鉱山の壁を砕いていた。それにより大量の鍛石を納品したわたしたちは、小娘が得るには過分なインセンティブを支給されてレアルカリアでもそれなりに楽な暮らしをすることができていた。

 

 この魔術を教えてもらった時に言われたことを思い出す。

 

『この魔術は、レアルカリアでは、使ってはいけない。落伍者として扱われ、苦しむことになる』

 

 魔術とは星空、そして星雲の真理に到達する手段だという。魔術をただの技術として扱う者は愚かな異端者として忌み嫌われる。でも、わたしも魔術なんてただの技術だと思う。それはわたしが転生者だからなんだろうか。

 

 わたしはちらりとレナラの方を見た。相変わらずやる気のなさそうに岩盤を掘っていた。

 レナラは……どう思っているのだろう?

 

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