村の幼馴染が魔術の天才だった   作:きなかぼちゃん

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6.黄金都市ローデイル

 あれから2ヶ月が経った。

 街道で出会った行商人から耳にした、観光先として有名な風車村にも寄ったときのこと。

 花も有名みたいで、よく手入れされたカラフルな花畑も広がっていて個人的にはとても楽しめた。なお、レナラは興味なさそうだった。

 

 村を登った丘の上にある大展望台から煙が燻っている西のゲルミア火山をふたりで眺めながら、わたしが「綺麗だねえ」なんて言うと、レナラは「火の祈祷があるなら、溶岩の祈祷もあるのかしら」だなんて独り言のように考察していた。

 あげくの果てには「祈祷で溶岩が扱えるという仮説に基づけば、魔術でも同じ現象を起こせる可能性はあるわね。流動的な炎は難しくても溶岩は個体に近い流体だからより想像は容易……輝石を魔力の燃料体として定義して、アヤノがやっているような形質変化を起こすことができれば……」なんて呟きながら膝に羊皮紙を広げてよくわからない図とメモを書き付けていた。わたしの曲芸が何の研究に役に立つんだろうか。全く景色見てなかった。

 

 とりあえずレナラと付き合う男の子は苦労する可能性が高い。

 

 風車村を出て、ふたりでずっと平原の街道を東へ下る。

 視線の先に城壁に囲まれた巨大な街が小さく見えた。もうすぐローデイルが近い。

 その証拠に、同じ旅人らしい人たちとよくすれ違うようになる。定期的に狩人小屋に似た簡素な詰め所やテントが合わさった野営キャンプがあって、グラムさんと似たサーコートを着たローデイル兵の人たちが巡回していた。

 

 おかげで山賊や獣に襲われる心配はあまりしなくてよく、とてもリラックスした旅路になっていた。

 

「またあなたは変なもの買って……」

「いいじゃん。お金なら大丈夫なんだし」

「子供じゃないんだから」

「いや、まだ14歳だから子供でしょ。わたしたち」

「そう言って自分の単純さを正当化しないで頂戴」

「子供には単純な遊びが必要なのよ。童心に帰ると心が豊かになるでしょ」

「赤ん坊にまで戻るつもりかしらね、この子は」

 

 ということで隣で呆れた顔をしているレナラを尻目に、快晴の街道の下、わたしは風車のミニチュアを頭上に掲げて風でくるくる回して遊んでいた。

 風車村ドミヌラでお土産として売っていたものだ。レアルカリアに帰ったら部屋の窓際に置こうと思う。こういう旅先で買える使い道の分からないお土産って、なんかいいのよね。

 

 レナラはこういうおもちゃを鼻で笑うタイプである。案外大人になったら好きになったりするかもよ?

 

「それにしてもこの辺に来るといきなり秋みたいだねえ。びっくりしちゃった」

「まだ春だけれどね。あらゆる植生が同じ色に染まっているのは不自然だから、何かしらの力が働いているような気もする」

「そうなのかなあ」

 

 春に紅葉する植物もあるのかもしれない。ファンタジー世界だし。

 緑色だったはずの草原や樹木の色は、ローデイルに近づくにつれて黄金色に近い金色に染まっていた。稲穂が揺れる秋の田んぼや、銀杏が立ち並んだ道路や公園の風景を思い出す。まだ、思い出せる。

 

「その花とか、明らかに不自然でしょう。なぜどれもローデイルの方を向いて咲いているの?」

 

 レナラはちらりと目線を横の草原へ移して指をさした。つられて見ると、ぽつぽつと咲いている巨大なヒマワリは全て同じ方向を向いて咲いている。秋っぽい景色なのに、咲いているのは夏のヒマワリだからあべこべだ。

 

 少し萎びたヒマワリのようなこの花は『金輪草』というらしい。村やリエーニエでは見たことのない花で、景色の植物が黄金色になるにつれてたくさんその姿を見ることができた。

 ローデイルに向かうなら金輪草が咲いている方向に進みなよ、とわたしたちは行商人に教えてもらっていた。

 

「ローデイルの王様が品種改良して人が迷わないように沢山植えたとかかな」

「ええアヤノ、あなたのその平和極まりない発想にはとても感心させられるわ」

 

 絶対に褒められてない! ちゃんとインフラ整備に力入れてる王様かもしれないじゃん。

 そういえばローデイルはものすごく美人な女王様が治めているらしいけれど、滞在してる間に一度くらい見れたりしないかなあ。気になるから演説とかあったらちょっと見てみたい。

 

 

 ※

 

 

「やっと着いたねえ。思ったよりかかったなー」

「まあ、レアルカリアよりは立派ね」

 

 隙あらば母校をディスる、ぶれないレナラをスルーしてわたしたちは目の前の光景を眺める。

 

 ローデイルは断崖のような窪地になった広い湖の奥まった所にある、塔のような高さの孤島の上に建っていた。高い外壁からは沢山の屋根や塔が見え隠れする。

 建っているというよりは、ひとつの大きな街がそのまま島に乗っかっているような異常に大きいスケール感。レアルカリアやその門前街も湖に囲まれているけれど、レナラの言うとおり規模で言えば圧倒的にローデイルの方が上のような気がした。

 

 わたしたちがいるところはちょうど湖にそってT字路になっていて、看板によると湖をぐるりと南側に回ったところにローデイルに繋がる大橋があり、北側に回ると山嶺への入り口になる山道に繋がっているようだった。

 ひとまず今はローデイルに用があるので、断崖にそって南へ歩きながらわたしは見慣れない景色を楽しんでいた。

 

 歩きながら目線を下に落とすと、湖の中を沢山の長い船が浮いているのが見えた。そこにいくつも載せられている、成形された大きな岩のようなものを湖に浸かった何十人もの男の人が壁のように積み上げている。この湖はそれほど深くないようだった。工事中かな?

 

 そして大橋を渡ると、トロルどころか巨人が入れるのではないかというくらい大きな鉄の扉があり、なぜかそれは硬く閉じられていた。その側に駐車場のガレージくらいの大きさの出入口があった。

 これだけ大きいと開閉するのが大変だろうし、基本的にはこの小さな方の出入口で入国を管理しているのかも知れない(それでも十分大きいけれど)。

 

 その前にある受付は入国者と出国者でごった返している。わたしたちは大人しく行列の最後尾に並んで待つことにした。

 

 

 入国審査は拍子抜けするほどすぐ終わった。

 レアルカリアの学生証を見せたらすぐ通れてしまった。

 

 レアルカリアとローデイルは『デクタスの盟約』によりお互いに不可侵の誓いを結んでいる。だからお互いの国の民だと証明できれば入国すること自体は難しくないのだそうだ。

 

 門をくぐり、わたしたちはローデイルに入国する。そして一目見て呆然とした。

 

「……すごいね」

「……そうね」

 

 わたしはただ呆然と目の前の光景を眺めていた。普段そこまで驚くことの無いレナラですら足を止めていた。

 

 都市国家ローデイル。またの名を豪華絢爛の黄金都市。その言葉は嘘じゃなかった。

 目の前をまっすぐ通る広大な目抜き通りは道も壁も建物も、陽の光によく反射して輝く白い石で作られていて、並び立つ柱やアーチには繊細な彫刻が所狭しに施されていた。目線を上げれば黄金色に塗られた沢山の屋根と尖塔が並び立ち、西洋の大教会のような巨大な建物が点在している。緑であふれた公園には噴水が水の音を立てていて、子供たちがベンチに座っているお母さんに見守られながらかけっこをしていた。

 

 喧噪のなかで色々な人の声が聞こえる。今日の夕餉はどうするみたいな日常から、教会に祈りを捧げに行くとか、有名な吟遊詩人が脚本した新作の劇を見に行くとか、沢山の人たちが話しながら立ち止まっているわたしたちの横を、通り抜けていく。

 

 テレビでよく見る、海外の街歩き番組で出てくるヨーロッパの風景どころじゃない。CGで作られた映画の城下町と見まごうほどの圧倒的な存在感がそこにあった。ファンタジー映画の王都に迷い込んだような、現実離れしたような世界がここにはある。

 

 ファンタジー世界に迷い込んで14年が経って、慣れてきたと思ってた。

 それでもまだ、きっとこの世界には驚くようなことがまだまだ沢山あるんだ。

 

 隣で景色を見続けているレナラを見て、わたしは気づかれないように微笑んだ。

 ありがとう。あなたはいつも、わたしの手を引いて知らない場所へ連れて行ってくれる。

 

 

 

 

 わたしたちは目抜き通りからひとつ外れた通りにある、少し小さなけれども小綺麗な宿に部屋を取った。

 前世でもそうだったけど一等地にあるホテルはとんでもなく高い。それはローデイルも同じだった。 

 

 あまり長居しすぎてもお金が無くなってしまうので、ひとまず3日分のお金を支払ってから鍵を受け取って2階にある部屋に行く。

 

 部屋の隅にバックパックと杖を置く。きちんとベッドメイクされているふかふかのベッドに乗り、窓をあけた。

 

「おー! レナラ見てよすごいよすっごい人!」

 

 思わずレナラを見てまくし立ててしまう。上から見ると、ローデイルの活気がより分かりやすく見える。レジャーランド付きのホテルに泊まってるみたいでテンション上がるよこれ!

 

「あなたはしゃぎすぎよ」

「あら、レナラはわくわくしないの?」

「……まあ、気分が上がらないと言えば嘘になるけれど」

「おうおう、それなら子供らしく一緒にはしゃいでもいいのよ」

 

 ベッドでぴょんぴょんしながらそう言うと、レナラはわたしを無視して自分の荷物を置き始めた。悲しい。

 

「アヤノ、私は書店に行ってくるわ。あの気に食わない騎士が……本当に気に食わないけど、この国の祈祷書は普通に書店で売ってるだなんて言うから確かめにね。嘘だったらどうしてやろうかしら」

「そうなの?」

「そう。だから私も正直嘘だと思ってるのだけど」

 

 わたしは意外に思った。レナラはグラムさんのことを良く思ってないはずだけど、いつの間にそんなことを話していたんだろう。

 

 レナラは腕を組んで壁にもたれかかり、怪訝そうな顔を隠さなかった。その理由はわかる。

 当たり前だけれど魔術のスクロールは星見の村でもレアルカリアでも秘伝なので、身内以外には絶対に開示されない。当然誰でも買えるような場所に売っているわけがない。

 

「でもそんなすぐバレそうな嘘つくのも変だし、本当なんじゃない?」

「そうだといいわね」

 

 単に聖職者たちは星見や魔術師より広い裾野に知識を開放しているのかもしれない。わたしたちは聖職者がどういう考え方をしているのか知らないのだ。

 

 というかそれよりも、グラムさんがレナラにそんなすぐバレそうな嘘をつくとは思わなかった。だってバレたらレナラがブチ切れるってわかってるだろうし。

 

「じゃあわたしはその間に街をぶらぶらしてみようかな」

 

 わたしは書店よりこの街自体に興味があった。

 ファンタジー世界の都会の街歩きを自分の足で自由にできるのだ。正直わくわくする。

 

「念のために杖は持って行きなさいよ。坑道の時とは違うとはいえ、知らない場所なのだから用心するに超したことは無いわ」

「まさかまた《追跡》までかけないよね?」

 

 わたしは恐る恐る聞いた。街をぶらつくだけなのにそれはちょっと過保護すぎる。

 

「あら、やってほしいの? 母親が赤ん坊を見守るように?」

 

 レナラはからかうように笑いかけた。ちょっとはしゃぎすぎたかもしれない。赤ちゃん扱いは勘弁して欲しい。

 

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