殴りあえルビコン   作:フドル

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誤字脱字報告ありがとうございます!


その坑道破壊、僚機つき。

 フロイトに黙って帰ってきたら、数時間後から数日にかけてボイスメッセージと普通のメッセージの爆撃が襲来してきた。差出人はもちろんフロイトだ。黙って帰ってきた負目もあったので初めはしっかりと聞いたり読んだりしていたんだけど、その最中にも新たなメッセージが届き、メッセージ件数が10を超えた時点で怖くなってやめた。

 

 内容は全部同じなのにオレが知る限りでは複製したらしきものはなく、全部言葉が違った。つまりフロイトはコピペじゃなくて一つ一つ自分で作って送ってきているのだ。

 

 それを理解した途端、本気で怖くなってその日はウォルターの布団に潜り込んだほどだ。っていうかオールマインド!フロイトに連絡先を渡さないでって伝えたのになんで渡しているの?仕事をしてくれ!だからオールドンマイって言われるんだよ!

 

 メッセージはさらに2日ほど届き続け、その後パッタリと途絶えた。フロイトがいつまで経っても返信しないオレに飽きて送るのをやめたのか、それとも誰かが……ラスティ辺りが止めてくれたのかもしれない。もし後者なら、その者に感謝を……。本当に助かった。日を跨いで気晴らしとしてアリーナ行くか〜ってACに乗ったらCOMから新着メッセージ102件って連絡が来たんだぞ?初めて見たわそんな量。

 

 そんな恐怖が終わった次の日、621がラスティからの通信で惑星封鎖機構の介入による勢力の変化を説明されていた。その際に有名だったラスティ構文を聞くことが出来たので、フロイトのことで憂鬱になっていたオレの気分が少し向上した。

 

 その後、621はアーキバスの依頼を受けて惑星封鎖機構を叩けば金になると他の独立傭兵へ宣伝も兼ねて燃料基地を襲撃するために出撃していった。そして特に問題無く達成して帰ってきた。

 

 宣伝効果もバッチリだったようで、独立傭兵単騎にやられる惑星封鎖機構なんて怖くねぇ!と活動が衰えていた他の独立傭兵達も勢いを取り戻し、企業も傭兵の勢いに乗じてバンバン依頼を出すものだから封鎖機構は企業だけではなくそっちの対応にも追われることになる。

 

 企業側も独立傭兵がやる気になった今がチャンスとばら撒き依頼の報酬をそれなりに高く設定。さらに封鎖機構を叩けば内容によっては追加報酬を出すと宣言して金がないと燻っていた傭兵達を焚き付けている。

 

 これは稼ぎを得られる絶好のチャンス。それなりに金欠で困っているオレも小遣い稼ぎとして飛びつきたいのだが、それよりも優先事項が出来たのだ。

 

 なんと!621がルビコン神拳を教えて欲しいとオレに頼んできたのだ!!これには思わず食べていたミールワームのシャーベットを落としてしまうほどの衝撃を受けた。そして勿体無いから拾ってさらに床ぺろしようとしたらウォルターに止められた。

 

 どうやら621は燃料基地襲撃をした時に、増援でやってきた近接型のエクドロモイに不覚を取りかけたらしい。その時はオレと対峙したスッラの動きを思い出して蹴りのみで対処したが、オレが使っている近接戦闘術を覚えていたのなら、もうちょっと楽に対処出来たとのこと。

 

 正直咄嗟にそんな動きが出来るなら使えなくても問題ないのでは?と思いかけたが、ルビコン神拳の門はいつでも開いている。なので駄目なんて答えるつもりはない。

 

 喜んで621とシミュレーターで対峙して一通りの動きを教えていくが、ルビコン神拳に決まった型って実は存在していない。これを機に考えてみようかななんて思ったけど、型に嵌めた動きをするようになれば寧ろ弱体化しそうだなと予想がついたのでやめた。

 

 フロイトとほぼ同じ、もしくはさらに上の速度でルビコン神拳を覚えていく621。その上達具合に思わずニッコリしてしまいそうだったが、オレより近接で強くなればオレがいる意味なんてないのでは?と考えるとニッコリしかけていた顔がスンっと無表情になるのがわかった。

 

 ま、まぁ?621の本命はライフルなどの射撃武器だし?武器を持っている状態でオレが近接戦を挑めばきっと射撃でなんとかしようとするはずだし?普通なら近接戦になっても素手より強い武器を持っているのだからそっちを使うはずだ。でも621のことだから状況次第ではすぐに武器を手放して素手で挑んできそうなんだよなぁ。ヴォルタもそうだったし。……なんでオレは621と戦うことを想定しているんだろ?

 

 でも仮想敵としては621ってかなり理想的なんだよなぁ。難易度間違えた敵みたいに的確に弾を当ててくるから回避にも身が入るし、オレの距離に持ち込んでも一切油断出来ないからね。

 

 そんな621に2対1とはいえ不覚を取らせたエクドロモイのパイロットって実は凄いやつだったのでは?いや、一応1ミッションのボスを務めているから強いはずなんだけどさ。

 

 んー、621の成長速度がヤバイ。こんなに強敵と戦っていたら腕が上達するのは当たり前なんだけど、これはうかうかしていると置いていかれるかもしれない。

 

 そんな危機感をジワジワと味わいながらこの日の特訓はお開きにして、流石に金が欲しいからばら撒き依頼を探していると、ウォルターから仕事を取ってきたと言われた。

 

 お仕事の内容はエンゲブルト坑道の最奥にある旧型デバイスの破壊。それによって封鎖機構の注意を引き、近傍拠点の兵力を分散させるのが目的らしい。

 

 うん、ゲームにもある依頼だね、これ。確か破壊したらコーラルの逆流が発生するから急いで逃げないといけないはずだ。

 

 といっても実際はジワジワとAPを削られるだけであり、そんなに慌てる必要はない……のだが、それはゲームの話。リアルなこの世界だとそんなに猶予はないはずだ。まぁ、オレのACは身軽で速いからこの依頼は向いているだろう。

 

 それ以前にウォルターが持ってきた仕事を断るつもりなんてないんだけどね!!

 

 

 

 

 

 

 出撃直前に621からいきなり一撃で相手を排除するならどんな武器がいいかな的な質問をされたので、取り敢えずパイルバンカーを勧めておいた。やっぱりパイルバンカーが1番でしょ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……なんでイグアスがいるんだぞ?』

『あぁ?そっちこそなんでここにいやがる。』

『オレは仕事だぞ。』

 

 坑道破壊依頼を受けて作戦領域に622が侵入。さぁ、仕事を始めるぞと坑道へ侵入しようとした時、乱入するようにイグアスがやって来た。

 

 お互いに見合い、お互いに首を傾げる。ACの識別マーカーが相手のことを味方と記しているので今回の仕事では僚機ということになるのだが、2人ともこの仕事に僚機が来るなんて話を聞いていなかったので訳がわからないといったところだ。

 

《622、たった今ベイラムから連絡が入った。G5は味方だ。》

「んー、了解。」

 

 そんな622にウォルターから通信が入る。その内容を話すウォルターからも少し納得がいっていない雰囲気を感じ、622はイグアスの参戦は直前に捻じ込まれたものだと察した。

 

『ケッ、了解。』

 

 そんなイグアスにも通信が入ったのだろう。本人は不満たらたらの様子だったが、流石に逆らうつもりはなかったのか素直に了承の意を送っていた。

 

《連絡は聞いたな?今回は変則的に組むことになったが、傭兵には珍しくもない話だ。いつも通り俺は通信でサポートする。G5もそれでいいな?》

『あぁ、構わねぇよ。』

『なんかイグアスが素直で気持ち悪いぞ。いつもならもっと噛み付いて──ってあっぶな!』

 

 ウォルターに素直に従おうとするイグアスに、622が率直な感想を述べようとするが、イグアスが何も言わずに622のACの頭部にリニアライフルの銃口を向けたことで感想を中断。クイックブーストで後ろへと下がることで射線上から退避する。

 

 後ろへと退がった622を見たイグアスは舌打ちを一つすると、坑道へと1人で侵入していく。

 

「んー、なんか今日のイグアスの様子が変だぞ。前みたいにクソ犬!クソ犬!って騒ぐと思ってたぞ。」

 

 普段のイグアスなら荒い口調で言い返して来るはずだが、今回は銃口を向けるだけ。それでも622が後ろへ退がらなければそのまま撃つつもりだったのはイグアスらしいが、いつもと違う態度に622は不気味さを感じずにはいられなかった。

 

 何か一波乱起きる気しかしないと622は思わずため息を吐いたところで坑道から銃撃音。恐らくイグアスが戦闘に入ったのだろう。

 

 これ以上ここにいるとサボリ認定を受けそうなので622は急いで坑道へ侵入するのであった。

 

 

 

 622がイグアスに追い付くと、イグアスは既に封鎖機構のMT部隊を破壊し終えていた。追いついてきた622の姿を見ると、イグアスは再び黙ったまま奥へと進む。

 

「前にメスガキしたのをまだ怒ってる?でもイグアスはそんなことを引き摺るタイプではないと思うし……。」

 

 一体どうしたのかとイグアスの変化を訝しむ622。心当たりはメスガキしたことだが、少し前の出来事をイグアスみたいなタイプの人間が引き摺るとは思えない。なのでこの変化はレッドガン内で何かがあったのだろうと考えをまとめた。

 

「それにしても……、コイツらの相手するの面倒くさいなぁ。」

 

 封鎖機構の銃撃を躱しながら近付き、コクピットを殴りつけて破壊する。後のことを考えると、どうせ全滅するのだから当初の予定では相手をせずにスルーするつもりだったのだがイグアスがいるせいでそれが出来なくなった。無視しようと言ったところでイグアスは背後から撃たれるリスクを考えて戦う選択を取るだろうし、コイツらは全滅すると伝えたところでコーラルの逆流のことは説明出来ないからいらぬ疑いを持たれる。622が先行して目標を破壊しに行ってもいいが、その後のことを考えるとイグアスの居場所は常に把握しておきたい。なので足並みを揃えて進行するしかない。

 

 まぁ、ここにいるのは最低限の見張りのみ。イグアスと622を足止めするには戦力が足りず、2人は特に何事もなく最奥の目標へと辿り着いた。

 

 封鎖機構が近いうちに修復でもするつもりだったのか、その目標の一部が剥がされて内部が丸見えとなっている箇所がある。そこに向けてイグアスは容赦なく左腕に持っているマシンガンの弾丸をお見舞いする。

 

《目標の破壊を確認。ミッション完了だ。》

 

 そんなものを弱点部位である内部に無防備で受けて耐え切れるわけがなく、目標は呆気なく破壊された。これで目的は達成。ウォルターの言った通り、ミッションは完了した。後は封鎖機構の増援を警戒しながら坑道から脱出するだけ。そんな時だ、破壊した目標辺りの地面が真っ赤に染まり始めたのは。

 

『……何だ?』

『イグアス!逃げるぞ!』

 

 帰ろうとしたイグアスが振り返り、622は危機を感じ取ったのかイグアスに大声で避難を呼びかける。しかし2人が退避する前に赤が爆発したように溢れかえり、辺り一帯が真っ赤に染まった。

 

『おいおいおい、一体何が起きてやがる!』

《コーラル逆流だと?馬鹿な、この程度の刺激で?いや、考察は後だ。2人とも急いで脱出しろ!》

 

 溢れかえるコーラルにウォルターは驚き、しかしすぐにやるべきことを2人に指示する。

 

『イグアス!』

『クソが!わかってる!』

 

 2人はウォルターの指示通りに坑道を急いで脱出するためにアサルトブーストを起動。来た道を戻り始める。

 

『コード23。現着……しかし、これは!?』

『何が起きている!?』

 

 そんな2人を阻むように封鎖機構の部隊が展開されていたが彼らもコーラルの逆流現象に戸惑っており、連携はバラバラ。そんな彼らにイグアスと622を止める力など無いに等しい。

 

『退避優先!死にたいの!?』

 

 そんな彼らにイグアスはライフルを向けるが、それを見た622に止められる。ただでさえ時間が惜しいのに立ち止まってそんなことをしている暇などない。そんな意味を込めてイグアスを622が叱責し、イグアスはそれに反論しようとするが、口を開く前に前方から間欠泉のようにコーラルが噴出したことでその口は閉じることになる。

 

《コーラルの奔流には触れるな。装甲が持たないぞ。》

『コード15!目標ACを発見!コイツが何かやったのか!?』

《無理に相手をする必要はない。退避を優先しろ。》

 

 この異常事態に退避せずに任務を果たそうとする封鎖機構のパイロット達に感心と呆れを持ちつつ2人は飛ぶ。途中でベイラムから状況の説明を求められたが、そんな時間など無いと言わんばかりにウォルターの独断で通信が切断された。

 

『イグアス!左に退避!』

 

 イグアスを先導するように前を飛ぶ622が大声で叫び、その直後に自身のACをクイックブーストで左に寄せる。それを真似するようにイグアスが左へ移動すると、先程まで自分達がいた場所にコーラルが噴き上がる。

 

 あのまま進めば622はともかく、イグアスは完全にコーラルの中に飲み込まれていただろう。この事実がイグアスの頭をよぎり、直後に自身のミスを悟る。

 

「(クソッ!考えるな!考えるな!)」

 

 これはミスでも何でもない。622に言われなくても自分で気付いていた。そう何度も考えるが、頭の中からくすくすと聞きなれた笑い声が聞こえてくる。

 

『あのヤブ医者がぁ……!』

 

 ある時から聞こえ始めた、ミスをしたと考えた時に問答無用で自身を小馬鹿にするような2人の声。ベイラムが有する医者に診断してもらったが、出た結果は異常無し。

 

 ならこれは何だとイグアスはコーラルで真っ赤に染まった景色の中をふらふらと飛ぶ。

 

『──!───!!』

『うるせぇ!黙りやがれ!!』

『─!?』

 

 頭に響く2つの声の片方が二重に聞こえ、そのうちの一つがいつものようにイグアスを馬鹿にするような声。もう一つが焦りを含んだ声だったが、イグアスはそれらに黙れと叫ぶ。

 

『──下!イグアス下!避けろ!!』

『……あぁ?』

 

 このイグアスの叫びで頭に響く自身を小馬鹿にする声は収まった。しかし未だに一つの声は収まらず、その声は鬼気迫る迫力でイグアスに避けろと叫ぶ。声の意味を確かめるべくイグアスが視線を下に向ければ、既に目の前までコーラルが迫ってきていた。

 

『なっ──』

『あの馬鹿!!』

 

 回避は間に合わず、イグアスのACが下から噴出したコーラルに飲み込まれた。その姿に622は思わず罵倒し、進行方向を変更。イグアスが飲み込まれたコーラルの方向へ向かう。

 

『無理だったら素直に成仏するんだぞ!』

 

 速度を調整しながら622は右腕をコーラルの中からほんの僅かに見える影へと突っ込む。コーラルの奔流に突っ込んだことで恐ろしい速度で右腕の装甲が溶けていくが、なんとか奥にいるACの腕を掴むことに成功。即座に後ろへクイックブーストをすることによって勢いをつけ、コーラルの中から引き摺り出した。

 

『生きてる!?死んでる!?』

『パイロット気絶のため、オートパイロットを起動中……。』

『気絶か!問題はあるけど問題なし!』

 

 622が安否を確かめれば、イグアスの通信からCOMの音声が聞こえてくる。オートパイロットとは、中のパイロットが自力での行動が不可になったら代わりに安全な場所までオートで動かしてくれる機能だ。

 

『イグアスのCOM!オレに追従するんだぞ!いけるか!?』

『了解。追従します。』

 

 無理なら最悪引っ張っていくしかない。しかしそんな予想を裏切るようにあっさりとCOMは622の要請を了承し、後ろに付かず離れずの距離で追従を始めた。

 

 622が試しに右と左へとクイックブーストで揺さぶってみるが、追従モードのCOMはしっかりと付いてくる。

 

『これなら……!』

 

 問題ないことを確認した622はそのまま出口を目指して飛ぶ。ただ、後ろにいるイグアスはCOMが動かしているので、それを考えながら回避行動を取らなければならない。

 

 622の瞳が上下左右と動きまくる。庇う対象がいるのでいつも以上に集中しなければならず、かかる負荷もいつも以上。

 

『システムの判断は?』

『『続行』だそうだ。しかしこれをどうしろと?』

 

 そして出口が近くなってきた時、622の前に封鎖機構のLC機体が立ちはだかる。しかし中のパイロットは出された指示の無理難題を理解しているのか、その場から動くことはない。

 

 LC機体のパイロットからすると、坑道に入れば中がコーラルによって真っ赤になっており、ところどころから間欠泉のようにコーラルが噴き出しているのだ。どう見ても手遅れだと理解するだろう。

 

『そこのLCパイロット!死にたくないなら早く逃げろ!』

『む、貴様はこの元凶か。排除する。』

 

 しかし622達を見ると、手に持っていた武器を向けてくる。深くまで潜り込んでしまった他の奴らならともかく、出口に近いコイツらならまだ助かると622は声をかけたが、無駄だったようだ。

 

『お前も馬鹿か!押し通るぞ!!』

『何!?速い!?』

 

 その頭の硬さに622は思わず舌打ちをした後、LC機体の射撃を余裕を持って躱しながら突き進みながらパイルバンカーを構える。その速さにLCのパイロットは驚き、身構えたが、622は彼らを攻撃することなくそのまま横を通り過ぎていった。

 

『追うか?』

『いや、先に奥へ行った仲間から救難信号が届いている。先にそちらへ行こう。』

『了解。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁー!死ぬかと思ったぞ!』

 

 LC機体を振り切った622はなんとか坑道から脱出した。流石に出口近くの壁からもコーラルが噴き出し始めた時は生きた心地がしなかったが、無事に2人は生きている。

 

《災難だったな。G5のことはベイラムに連絡してある。直に回収班が来るだろう。奴らがここに来たら帰って休め。》

「こんなに疲れるなんて思ってなかったぞ。」

《あぁ、追加報酬も入れておこう。》

「あっ!なら帰ったらウォルターに髪と尻尾をブラッシングして欲しいぞ!!」

《……考えておこう。》

「本当!?やったぁー!」

 

 ルビコンに来て以来やってもらえなかったブラッシングの約束を取り付けた622はコクピット内で両手をあげて喜びを露わにする。その様子にウォルターは警戒を怠るなと注意しようか迷ったが、確認する限り周囲に敵影は無く、先程のこともありしばらくはそのままにしておこうと通信を切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ま、待て!』

 

 場所は変わり、この場は『壁』近辺。そこで一機のボロボロとなったACがパルスアーマーを発動。さらに敵意がないことを示すために他は破壊されてもう片手にしか残っていない最後の武器を放棄し、目の前の傷一つないACに取引を行おうとしていた。

 

『何、かな?よわよわ、な隊長さん?』

『ぐ、この私が弱弱だと?いや、この際それはどうでもいい。 いいか?私はヴェスパー第7隊長……。つまり会計責任者でもあるということだ。部隊の入出金については私に管理権限がある。』

『……それで?』

 

 第7隊長……スウィンバーンの話に、襲いかかってきたACのパイロットである621が反応する。自身のことを弱弱と言ってきた621にスウィンバーンは思わず指導しようと操縦桿に手を伸ばしかけるが、まずはこの状況から脱するのが先だと判断し、必死に操縦桿に伸びる手を抑えながら話に食いついた621へ向けて取引を続けようとする。

 

『見逃してくれれば悪いようにはしない。……分かるな?』

 

 スウィンバーンは何を見逃せばや、悪いようにはしないとはどういう意味なのかを全て説明しなかった。それは先の話で続きを促してくる時点でこの言葉に含まれている意味を理解出来ていると判断したからだ。

 

「ねぇ、エア? この人は、何を言って、いるのかな?」

《恐らく金と引き換えに見逃してくれと命乞いをしているのでしょう。》

 

 しかし621は全く理解していなかった。もしエアがいなければ、今頃は首を傾げながらリニアライフルで隙だらけのコクピットを射抜いていただろう。

 

 エアの説明で621はピンと来た様子を見せた。そして先程までコクピットに銃口を向けていたリニアライフルの先端を地面に下ろす。

 

『いいよ、見逃してあげる。』

『素晴らしい!!道理──』

『でも、誠意を見せてね?』

 

 自身の取引が成立したことにスウィンバーンは喜びを露わにしようとするが、その言葉は遮るように621が言葉を被してきたので中断された。

 

『誠意……だと?』

『うん、意味、わかる、よね?』

 

 そう621が言った直後、スウィンバーンが肌身離さず持っている仕事用のタブレットにメールが届く。タイミングがタイミングであり一度は無視をしようとしたが、もし送り主がスネイルからだった場合、この場を乗り切っても別の問題が来る。なのでスウィンバーンは621の様子を窺いながら、恐る恐るメールの差出人だけを確認するが、差出人の名が『襲撃者』と書かれており、そのことから送ってきたのは目の前の人物だと分かる。

 

 何故このアドレスを知っているのか、などとは聞かない。メールを開き、内容を確認すれば1,000,000COAMをこの口座に振り込めと書かれていた。

 

『なっ!?』

『誠意、見せて?』

『ふざ……!ふざける──ぐぅう!?』

『誠意、見せて?』

 

 あまりの金額に、自身が今どんな状況なのかを忘れて怒りのままに叫ぼうとするが、その言葉は途中で621のパイルバンカーが自身が乗るACの脚を一つ破壊したことで無理矢理中断させられた。

 

 さらに追撃として、621のリニアライフルがもう一つ脚を破壊する。スウィンバーンのACは四脚型だが、脚を2本も破壊されれば満足に動けることはまず不可能だ。

 

『わかった!払う!払うからやめてくれ!!』

 

 これは取引ではなく脅しであり、このまま何もしなければ相手は本気で自分のことを殺すつもりだと悟ったスウィンバーンは急いでタブレットを手に持ち、指定された口座に部隊に支給されている金を振り込んだ。金を振り込む直前に怒りのままに621へ攻撃するべきと冷静な部分で考えもしたが、その考えは思い浮かんだ直後に消滅した。何故なら先の戦闘で621の戦闘力を見せつけられ、スウィンバーンは目の前の存在には絶対に勝てないと理解させられていたからだ。

 

 スネイル閣下にバレたら自分がどうなるかわからないが、自分はこの金額以上の価値を持っているから大丈夫だと必死に自身に向けてスウィンバーンは言い聞かせる。

 

『んー、まだ絞り出せそう、だけど……。いいよ、帰っても。』

 

 そう言い聞かせている時、口座に入金されたのを確認したのか621がスウィンバーンを解放した。その途中でさらりと恐ろしい発言が聞こえたが、スウィンバーンはこの状況から脱却出来る嬉しさで思考が埋まっており、普通に聞き逃していた。

 

 脚を2本破壊されたが、右前脚と左後脚だったおかげでまだ立つことは出来る。スウィンバーンが慎重に立ち上がる間に621が何かをしてくることはなく、そのことから本当に見逃してくれるのだとスウィンバーンは理解した。

 

『貴様にはスネイル閣下から褒賞が下るだろう。私の指導を胸に、ますます励むのだぞ!』

 

 理解したら先程までの恐れはなくなり、スウィンバーンはいつもの調子へと戻る。しかしACが損傷しているため、出来るだけ早く拠点へ帰らなければならない。

 

 そのため話はほどほどにして、スウィンバーンは拠点へ向けてアサルトブーストを起動させようとする。その途中で621が歩いて自身の後ろへ移動しているが、先程手を出してこなかったことから、スウィンバーンはその行動をただ帰還するための移動と決めつけた。パイルバンカーが起動していることに気付かずに。

 

 背後に回った621はパイルバンカーを突き出し、スウィンバーンを奇襲。621を警戒していなかったスウィンバーンにその奇襲を防ぐ術はなく、打ち出された鉄杭はACのコアを難なく破壊した。

 

『なっ……!貴様ァ!どういう教育を受けっ──おぁーっ!?!?』

 

 奇襲に驚き621の行動を問いただそうとしたスウィンバーンだったが、破壊されたコアの爆発によってコクピットに炎が入り込み、その炎を前にして最期に断末魔の叫びをあげながら通信が途絶えた。

 

《目標の撃破を確認。……。》

 

 その光景を見たエアは、敵機が沈黙したことを確認しながらも少し思案しているような声を漏らす。

 

《レイヴン、ひとつ質問なのですが……。先程のものと今のやり口はウォルターに教わったのですか?》

「ううん、622から。」

《なるほど、納得です。》

 

 エアの質問に対する621の返答は、すんなりとエアに受け止められた。




オリ主(腕が届く距離で良かったぁー!流石にコクピットまでコーラルの中に入れるのは嫌だからね!多分この身体コーラルに耐性無いと思うし。)

621……サラッとオリ主に教わってないことも教わったとエアに言った。

エア……いきなり621から口座を作ってと言われたから作ったら621が相手の金を巻き上げ始めた。ちなみにオリ主から教わったという発言は一切疑っていない。

イグアス……割と幻聴(メスガキ)が酷い。コーラル、耐えちゃったね。

スウィンバーン……命乞いをする前に散々メスガキモードの621に煽られて金も巻き上げられた。武器もスタンバトン以外破壊されてスタンバトンは下手な棒振り可愛いと言われる始末。多分無事に帰れても未来は無かったと思われ。

スネイル……金は持っていかれるしそれなりに使える人材は死ぬしでかなりキレてる。

六文銭……621とスウィンバーンの戦闘と、その後のこともしっかり見ている。命乞いを受け入れた時は怒り心頭だったが、その後の行動であの独立傭兵は性格的に大丈夫なのかと訝しんでいる。



 今回の話いるぅ?と言われそう。だけど書いちゃったし……。本当はメスガキ621とスウィンバーンの戦闘も書きたかったけど、それまで書いていたら文字数が凄いことになるのでまるまるカットだ!

 話の終わりは考えているけどそれまでの道筋はどうしようかと悩み中。
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