今回は前半パートが短いですが後半がそこそこ長いです。
あぁ〜、ウォルターのブラッシングが気持ちいいんじゃぁ〜。
あの後、意外と早くやってきたベイラムの回収班に気絶から目覚めないイグアスを預けて一足先にオレは拠点へと帰還した。そしてその数時間後に約束通りウォルターからブラッシングをしてもらっているのだ。
ウォルターならしてくれると確信はしていたけれど、彼は考えておくと言っただけでやるとは一言も言っていない。だから不安だったのだが、それは杞憂だったようだ。わざわざウォルターの視界内にブラシを持って待機する必要もなかった。
おっ、621じゃん。これ?これはお仕事の追加報酬だぞ。羨ましかろ?
マットの上に座るウォルターの前で丸まり、尻尾をブラッシングされているオレを621が不思議そうな目で見てくるので特に意味のないドヤ顔で迎える。まぁ、621はブラッシングの気持ちよさを知らないから仕方ないか。
しかしこんなに気持ち良いのに知らないのは勿体無い。621のこの後の予定は休息だろうから、この気持ち良さをオレが教えてやろうではないか。本当はもっとブラッシングをして欲しいところなのだが、元々ウォルターからは621が帰ってくるまでと言われていたのでウォルターによるブラッシングはここまでである。
これで終わりだという意味を内包した手で尻尾の付け根辺りを優しく叩かれたので本っ当に名残惜しいが立ち上がり、ウォルターが621に向けて次の仕事の話をしている間に621の背後に移動して話が終わると同時にさっきまで使っていたブラシで621の髪を梳いでやる。あ、ブラシにちゃんとオレの毛がついていないことは確認しているからな!
ピクっと反応した621だが、特に嫌がるような雰囲気は感じない。もし嫌がるならすぐに止めようと思ったけど、大丈夫そうだ。
想像以上に621の髪はサラサラだったので、ブラッシングはある程度で終わらせた。すると621からまたやって欲しいとお願いされる。
ふっ、621もブラッシングの良さに気付いてしまったか。返す返事はもちろんオッケー……と言いたいが、ここは報酬的な意味も兼ねてお仕事を頑張ったらねと返しておいた。
そしたら次の日、出撃してから帰ってきた621がどれだけ敵が難敵だったかを長文で語ってきた。難敵と言う割には621のACは傷一つ無く、オレからすると難敵?と聞き返したくなったが、621がソワソワしながら毛先を触り出したのでブラッシングをして欲しいのだと察し、丁度暇だったので昨日より念入りにブラッシングをした。
その数日後、ウォルターの友人からの私的な依頼で621は洋上都市『ザイレム』の調査をするために出撃。そして驚くことに損傷して帰ってきた。
レーダーが使えないから不意打ちでももらったのかと思っていたが、621の話を聞いて違和感を感じたので誰もいない時にこっそり621のACをスキャンしてバトルログを確認。そしてオレは自分のミスを悟った。
どうやら難敵と対峙したのに傷一つ無いのを不思議に思っていたことがバレていたようで、わざと影響が出ない範囲で攻撃を受けているようだ。これは駄目な兆候だ。
だからといってもうブラッシングはしないなんて言えないし、損傷が少なかったら……なんて言えば今度は損傷を恐れて攻め込める時にも消極的になりかねない。621のモチベーション維持のために良かれと思ってブラッシングの条件をつけたのが裏目に出た。
ってことでブラッシングの条件を変更。621がお仕事から帰ってきた時に、オレの時間に余裕があればすることとした。オレが拠点にいる時は大抵時間に余裕があるのでこれなら無駄に損傷することも消極的になることもない……はず。
まさか621がこんなにブラッシングを好きになるとは思わなかったぞ。まぁ、オレもウォルターの真似が出来て嬉しいから文句はないけどな。
ここしばらくはコーラル奔流に巻き込まれかけたオレが何か身体に悪い影響を受けていないかを確認するために、ウォルターから休めと命令されていたので依頼を受けていない。そのおかげで生まれた時間を使って621のルビコン神拳の練習と歩行練習、ブラッシングに加えてメスガキ練習などに付き合っていたのだが、ある日カーラから花火大会のお誘いが来た。
招待状はオレと621の2人に出された。念の為に参加費はいるかと聞けば、花火が打ち上がるまでの護衛で良いとのこと。もちろんオレ達に否は無く、ウォルターからそろそろお仕事をしても良いと許可も出ていたので参加する旨を伝えた。
久しぶりに621との共同依頼である。既に621は格納庫の方へ移動しており、恐らくウォッチポイント襲撃の時と同じようにACのアセンブルを考えにいったのだろう。ついでに作戦領域も同じウォッチポイントだ。……もしやウォッチポイントが作戦領域だと621と一緒になる?
とりあえず621がアセンブルも考えるのなら、オレも前と同じように見てあげないとそのうち621が迎えに来るかもしれない。ここから格納庫まで大した距離はないが、それでも621からするとかなり大変な作業である。カーラから送られてきた作戦時間をしっかりと覚えた後、オレは椅子から立ち上がって621がいる格納庫の方へ歩き始めた。
『先に始めているよビジター!配置に付きな!』
『始まってる、ね。』
《時間通りに来た筈ですが……。血の気の多い人達です。》
『みんな花火が見たいんだぞ!』
カーラからのお誘いで花火会場……もとい大型ミサイル発射場に現着した621とエアと622。彼女達は時刻通りに到着したのだが、既にドンパチは始まっていたようだ。
『とりあえず会場を荒らす迷惑な観客には消えてもらうぞ。オレはあっち側の奴らをやるから621は逆側の奴をお願いするぞ。』
『わかっ、た。』
見た限りでは既に数機はミサイル防衛のために備え付けられているガトリング砲台による弾幕を潜り抜けており、このまま呑気に見ているとミサイルが破壊されかねない。そのためささっと622が持ち場を決めると、621とほぼ同時にアサルトブーストを起動した。
『誰だテメェ!?』
『主催から正式に招待された観客だぞ!』
ミサイルの破壊に夢中となっているドーザー達の後ろから2人は奇襲。コクピットを背後から攻撃し、素早く撃破する。
《敵勢力、第1波の殲滅を確認。》
《ボス、準備完了だ。ミサイル発射シークエンスに入る。》
621にだけ聞こえるエアの報告の後に別の通信が入る。その通信が終わると同時に3箇所に配置された大型ミサイルが動き出し、先端が空へと向けられた。
《ビジターは前にメッセージでやり取りしただろうが、もう一度紹介しておくよ。コイツはチャティ。うちのシステム担当だ。無口だが仕事は出来る奴さ。 さて、早速だがあんたらにはこの調子で蝙蝠どもを蹴散らしてもらおうか。》
チャティの紹介を2人に軽く済ませた後、時間が空いたのかドーザーの癖にこういう時はマトモな判断をするんじゃないよと封鎖機構の下についた今回の襲撃者達に愚痴り始めたカーラだったが、第2波が来たことをレーダーで察知したのか621と622に注意を呼びかける。しかしカーラが愚痴っている間に橋を挟んだ右側に621、左側に622と配置を済ませており、準備万端だ。
左方面からMTを吊ったドーザーの輸送ヘリが3機、並んで飛んでくる。それを待ち構えるのは622。だが近くに来るまで待つつもりはないのか、ある程度距離が縮まるとアサルトブーストで自ら突進する。
『ここでいい!敵が来ているから早く切り離せ!』
『あぁ?なんだってぇ?もう一回言ってくれよ。』
『はぁ!?……テメェ!まさかキメてるんじゃねぇだろうな!?』
『ヒヒヒ、わかるか?頭パチパチで幸せだぜ!』
『馬鹿かテメェ!?おい!すぐそこまで敵が来てる──うわぁぁぁ!!!』
622の接近に気付いたMTのパイロットがヘリの操縦者に切り離しを要求するが、ここで操縦者が作戦中にも関わらずにコーラルをキメていることが発覚する。危ない笑い声を漏らす操縦者にパイロットが正気を疑いつつも迫る脅威を伝えるが、コーラルをキメてラリっている操縦者には届かない。
MTからではヘリとの接続を解除することが出来ない癖に肩部がヘリに接続されているため腕部も動かせない。そのせいで迫る622へ苦し紛れの抵抗すら出来ずにただの案山子となったパイロットは、パイルバンカーの鉄杭がヘリに突き刺さる瞬間を間近で見て、ヘリの爆発に貧乏くじを引いたと悲鳴を上げながら巻き込まれて消し飛んだ。
『なんでコイツらこんなに近くまで来ているのに突っ込んでくるんだぞ?』
この世界はリアル基準なのでなんらかの対処はしてくると622は想定していたのだが、彼らのある意味ゲーム通りの動きに酷く困惑する。さらに仲間が間近で破壊されたのにも関わらず、気にする様子や慌てる素振りを一切見せずにそのままミサイルの方へ飛んで行こうとする残りのヘリにも襲いかかったが、それらも先程と同じように破壊することが出来た。
『えぇ……?』
パラパラと残骸が落ちていくのを眺めて622は思わずといった風に声を漏らした。いつしかカーラがドーザーは総じて頭のネジが緩いとは言っていたが、いくらなんでもこれは緩すぎである。
コイツら実はただの自殺者志願者なんじゃないかと622は考えるが、その考えは621に排除されているMT達を見て改めることとなった。彼らは621に機体を破壊されようとも、機体が爆発するまでの間に届かないと分かっていながらミサイルに向けて射撃していたのだ。
それを見た622はコイツらは自殺志願者という評価を撤回し、そして新たに自らの死を顧みずにミサイルを破壊しようとする者達へと変更した。有効射程というものを知らずにただ撃っているだけという可能性に蓋をしながら。
《手際がいいねぇ、蝙蝠野郎が不憫になるよ。》
621と622の敵機を破壊する速度を見たカーラは思わず今回襲撃してくるドーザー達に同情した。まぁ、同情するだけでミサイルを撃つのを止めはしないが。
『またオレのほうだぞ。』
しばらくすると今度はMTが3機、先程と同じように並んでやってくる。それを同じく先程と同じようにアサルトブーストで近付いて622が対処しようとするが──。
『よし!1機離れた今がチャンスだ!行け行け行け!!』
『ヒャッハー!!』
それを待っていたかのように中央の道から輸送ヘリが4機、姿を現せた。既に622はアサルトブーストで持ち場から離れており、前にいる3機のMTを排除する時間を考えればヘリに吊されたMTの数機は大型ミサイルに取り付けるだろう。
しかし622に不安はない。元よりここにいる護衛は2機なのだ。しかも本来なら単騎でこの場を守り切れる者が持ち場を離れていないのにコイツらの奇襲が成功するなんて万が一もない。
『任せ、て。』
その期待に応えるように621は輸送ヘリに向かって両肩のミサイルを放つ。ミサイルが命中し、2機のヘリが吊るしていたMT諸共墜落していくのを視界に入れながらアサルトブーストで残った2機に接近。至近距離に近付くまでにリニアライフルで1機を墜とし、最後の1機はパルスブレードで斬り捨てる。
《分かるかい、ビジター。待つ時間も花火の内だ。お客さんを楽しませてやろうじゃないか。》
そんな速殺撃に思わずカーラは621に花火の風情を教えるが、風情というものを知らない621はコクピットの中で首を傾げるだけだ。
《ブリッジ方面から第3波。これまでとは異なる機体のようです。》
621が風情って何?と首を傾げながらも再び自身の持ち場へ侵入してきたMTを破壊していると、エアから増援の報告が届く。わかりやすいようにとマーカーで示された方向を見てみれば、丁度1機のMTが外装をパージして立ち上がるところだった。
《ウチのトイボックスじゃないか。火力は洒落にならないよ、優先的にやりな!》
『わかったぞ!』
カーラからも立ち上がった全身銃器だらけのその機体の姿を視認出来たようで、更にそれがRaDで扱っている勝手知ったる機体ということもあり、その性能はよく知っている。なので後回ししないようにと2人へアドバイスを送ったのだが、そのアドバイスを言い終わる頃には周りの敵を排除して元の位置に戻って来ていた622のブーストキックがトイボックスの胴体にめり込んでおり、その威力に三脚タイプであるにも関わらず蹴り飛ばされたトイボックスはうつ伏せで倒れ伏す。さらに追撃として上から622が両脚を使ってコクピットを踏みつけることでコクピットは潰れ、トイボックスは洒落にならない火力をお披露目する前に破壊された。
《ミサイル発射シークエンス、50%を突破。》
《チャティは順調なようだねぇ。心配はしていないがあんたらもやられるんじゃないよ。》
順調すぎる防衛に加えてチャティから届いた報告。それにカーラは上機嫌になりながらも防衛を続ける2人が油断しないようにと警告を送っておく。しかしカーラ自身もこんな警告なんて必要あるのかと自問自答するレベルで2人は警戒を維持しているので、いらぬ心配だろう。
《再び正面、3方面から同時に来ます。》
《トイボックスのおかわりだ。撃ち漏らすんじゃないよ。》
そんな特に必要性を感じない警告を送った直後、3機のトイボックスが真ん中、右、左の3方向から襲来する。1機でも撃ち漏らせばミサイルの大破は不可避だろう。
が、トイボックスの落ちてきた位置が悪かった。3機のうち1機の落下地点は622が立っている位置。上空から落下することで威力を上げて潰す算段だったのだろうが、直前でもっと威力を増大させたいと思ったのか他のトイボックスより高い位置からの落下に変更。そのせいで他の2機よりも着地が遅れ、違和感を感じた622が上を確認したことでバレる始末。その結果、余裕を持って回避されるハメとなる。
そしてこの攻撃の代償は大きい。コンテナ型の外装をパージしたトイボックスが潰したであろう622の姿を見ようとして立ち上がるが、モニターには潰れた姿の代わりに不意打ちのお礼として放たれた鉄杭がドアップで接近してくる映像が映っていた。その鉄杭はコクピットを簡単に貫通し、トイボックスは爆散した。
残った2機のうち621側に落ちてきた機体は外装で621の射撃を防ごうとしたが、ミサイルの一斉射撃とチャージされたリニアライフルの弾丸を防ぎきるには力不足。外装諸共爆散する結果となった。
最後に残ったのは橋の上に落ちたトイボックス。しかし外装をパージし、周囲の状況を確かめようとした途端に両サイドにいたトイボックスが爆散する姿を見てしまい、一瞬だけ思考が止まる。
すぐに我に帰ったパイロットは慌てて役目を果たすために破壊目標の大型ミサイルをロック。一斉射撃で一気に破壊しようとするが、真横からアサルトブーストを起動させた622のキックが突き刺さり、橋から強制的に弾き出された。
そして蹴られた先の落下地点にいるのはパルスブレードを構えている621。ご自慢の火力で迎撃出来れば良かったのだが、蹴られた衝撃でパイロットは激しく揺さぶられて今何処に銃口が向いているかなんて把握出来ていない。そんなトイボックスに何かを出来るわけがなく、621によって綺麗に真っ二つに斬り裂かれて爆散した。
《……増援が追い付いていないようです。》
《加減してやりな、花火会場がこれじゃあ盛り上がらないよ。》
『んー、なら盛り上げてみる?』
《……ほぉ?何か考えでもあるのかい?》
恐らくトイボックスが暴れているうちに増援が到着する手筈だったのだろうが、出落ちしてしまったせいで増援のMTは遠くからコチラに来ている最中だった。
その増援もある程度近付いた段階で2人に破壊された。最早作業じみたその光景にカーラは先程までの上機嫌はなくなっており、今では心底つまらなそうな声を漏らしていたが、なら盛り上げてみようという622からの提案に片眉を上げて乗り気な態度を見せる。
『でも上手くいくかは分からないぞ。それに上手くいったら防衛も大変になるだろうし……。』
《このままじゃ花火を撃つまでつまらない作業を見るだけさね。ビジターもつまらない作業をするのは嫌だろう?》
『やって、みて?』
『……621とカーラがそう言うのならやってみるぞ。そのために必要なことなんだけど、ちょっと相手の通信をハッキングして介入してほしいぞ。』
《それぐらいお安いもんさ。チャティ。》
《了解だ。……ボス、完了した。》
《流石チャティだね。……今あんたのACにも通信を繋げたよ、あとはあんたが喋ればそのまま向こうの指揮をしている奴らに聞こえるはずだ。さて、あんたの盛り上がる方法とやらを存分に見させてもらおうじゃないか。》
自分のACに見覚えのない通信先が増えたのを確認した622は、向こうに聞こえない程度の音量で喉の調子を確かめ──。
『ピンポンパンポーン!この対策弱々のクソ雑魚回線は、ジャックされましたー!』
思いっきり相手を嘲る声を出した。
《なんだこのガキは?おい、早く通信を切れ。》
《……無理っす。あちら側に完全に乗っ取られてるっす。》
《電源そのものを落とせばいけるだろうが。》
《試したっすけど……無理っすね。もう一度言うっすけど制御が全部乗っ取られてるっす。》
622の声にあちら側の者達は困惑し、対処しようと試みるがどうやら無理だったようだ。
《おい、テメェは誰だ?》
『誰だって?そんなことも分からないのかな?今おじさん達が必死こいて破壊しようとしている花火の前にいるACの片割れだよ?あまりにもおじさん達の攻めが弱々すぎて暇だったからお話しをしに来たんだ。』
何者かという問いに622は相手を小馬鹿にするような声で煽りを混ぜつつも素直に答えた。
《はっ、『ままごと』をしたかったら他所でしろ。俺たちは暇じゃねぇんだわ。》
『えぇー?そうなの?こんな馬鹿しか思いつかなさそうな攻めしかしてこないから暇だと思ってたよ!……あっ、そっかぁ。おじさん達はそっちだけで『ままごと』をしててこの戦況……、戦況っていうのも失礼か。お遊びに頭が回っていないんだね!そんなことにも気付かなくてごめんね?』
お父さん役のセリフで頭が埋まっているのかな?と遠回しに状況を理解出来ていないと言われ、相手の指揮官は苛立ちで無意識のうちに己の拳を握りしめる。
《ガキが……。潰すぞ?》
『出来ないことを言ってもダサいだけだよー?そ・れ・と・も、本気を出せば自分は誰にも負けないほど強いって思っちゃってるタイプ?うわぁ、怖いなぁ〜。』
《…………。》
先程より低い声で話してくる指揮官に、あー、怖い怖いと全く怖がっている様子が見れない調子で622は相手を馬鹿にし続ける。相手から言葉が返ってこなくとも、622の口は止まらない。
『弱い者イジメをするつもりはないから逃げたいなら早く逃げたほうがいいよ〜。逃げる人を追うつもりはないからね。でも逃げるつもりなら逃げていることをオレ達にもわかるように犬の鳴き真似をしてね?ほら、負け犬みたいに可愛い声を出しながら尻尾を巻いて逃げなよ。きゃんきゃん、きゃんきゃんってね。それともコーラルをキメすぎて頭弱々になっちゃったからそんな判断も出来なくなっちゃった?あ、ごめん。頭弱々なのは元からだったね!』
相手には見えていないとわかっているが、621に教えたメスガキの顔で相手を煽り続ける622。だが相手の反応は薄く、意外とコイツは煽りに耐性があるのかなと次のセリフを622は考え始め──。
ブチリ、と何かが切れる音が聞こえた。
《……そこで待ってろ。》
低い声でそれだけを言い残し、向こう側の音が静かになっていく。静かになる前に怒声や静止の声などが聞こえていたが、この作戦のリーダーらしき人物が移動したことであの場にいた全員が移動していなくなったのだろう。
そうなれば通信を維持しておく必要はなく、622はカーラ達にお礼を言ったあとで通信を返す。
《なんだろうねぇ、さっきの状態のあんたを見てるとこう……調教したくなった。》
カーラからの率直な感想にぞわりと肌が粟立つ感覚を感じつつ、いつの間にかMT達がいなくなっていたせいで静かになった空間を、自身のコクピットで今の622のメスガキ行動をメモしている621とともに佇む。
相手が最後に言い捨てたセリフ的にコッチに来ることは確定だが、この調子だとミサイルが打ち上がるほうが早いかもしれない。そう622が思った時だった。
『しっかり待っていたようだな。……身の程をわからせてやる。』
《敵多数、3方面から同時に来ます!》
橋に重四脚MTが着地。その後に続くようにゾロゾロとMTやトイボックスが姿を現した。重四脚MTから先程話したばかりの指揮官の声が聞こえてきたことから、残っていた人物総出で来たのだろう。
《ほぉ〜、観客がいっぱいで壮観だねぇ。2人とも、やれるかい?》
『うん、問題ないぞ。』
『大丈、夫。』
カーラの問いに、2人は即座に問題ないと答えた。その頼りになる返答にカーラは笑い声をあげる。
そんなカーラを他所にして、残ったドーザー戦力とAC2機がぶつかり合おうとした時、左側から新たな乱入者が現れた。
『抵抗する不法勢力に告ぐ。武装解除の意志なき場合、その勢力は例外なく排除対象となる。 繰り返す、例外はない。』
《強襲艦だと……!? 親玉自ら咎めに来たかい。しかしこの場で現れるのは些か無粋だね。》
突然現れるなりレーザーを照射してくる封鎖機構の強襲艦に、カーラは驚きながらも空気を読めといった雰囲気を滲ませる。しかし悔しいことに相手が現れたタイミングは絶妙だった。
『んー、呼び寄せたのはオレだしアイツらの相手はオレがするぞ。621はあの強襲艦をお願い。』
『わかっ、た。すぐに終わら、せて加勢、するね?』
これは自分も出るしかないかとカーラは考えたが、その考えが纏まる前に621と622は行動に移る。
621は強襲艦の武装を破壊しながら艦橋へ迫り、622は右に回り込みながらMT達へ襲いかかる。ここでミサイルを破壊しようとMTが動くのならばカーラも流石に2人だけでは荷が重いと判断して護衛に出撃した可能性があったが、先程の622の煽りが効いたのか誰もがミサイルをほったらかしにして622を狙っていた。頭のネジがゆるゆるである。
『みんなお顔真っ赤だね。怖ーい♡』
『撃て!あのクソガキに痛い目をあわせろ!』
しれっと近くにいたMTを無力化してから捕まえて盾に使う622。ドーザー達がそのまま撃てば仲間殺しとなるのは確定だが、頭に血が昇ったドーザー達は関係ないと言わんばかりに弾幕を張る。
『ま、待て!やめ──。』
『うわー、仲間をやっちゃうなんて見境なーい♡』
瞬間火力が高いトイボックスを中心となって張られた弾幕に捕まって盾とされている仲間が顔を真っ青にするが、放たれた弾丸はどうしようもない。捕まったパイロットは622に蹴り出され、そのまま弾幕の餌食となって爆散した。
その間に622は後退し、弾の有効範囲外へと退避する。そして上昇して敵のど真ん中に突っ込むと、横で棒立ちしているトイボックスに鉄杭をぶち込んだ。
『この野郎!!』
『おい馬鹿やめろ!味方に当たるぞ!?』
『ほらほら、隙だらけだよ♡今撃たれたらやられちゃうかも♡それともこんなに近いのに当てれる自信がないのかな♡』
リロードを済ませた1機のトイボックスが622の後ろにまだ味方がいるにも関わらず622へ銃撃しようとするが、それは横にいた状況を理解している仲間の静止によってなんとか止められた……かと思えば622の挑発に瞬時に頭に血が昇ったのか味方のことなどお構いなしに銃撃する。
もちろんそれが622に当たるわけがなく、カーラ曰く洒落にならない火力は622の後ろにいた他の仲間達が味わう羽目となり、装甲が耐え切れなかったMT数機が爆散した。
『ざぁこ♡ざぁぁぁこ♡射撃下手♡こんなに隙だらけなのに当てられないなんて凄いね♡もしかして射撃は初めてなのかな?止まってあげようか?♡』
『く、クソガキがぁ!!』
弾を撃ち尽くし、再びリロードを行うトイボックスの前で622は器用に素早く姿勢制御用のブースターを噴かし、シャカシャカと左右にブレる。その行動の意味をトイボックスのパイロットには理解出来ていなかったが、無性に腹が立つことだけは確かだった。
味方を撃って殺した事実を怒りが塗り潰し、パイロットは再び銃器を622へ向ける。しかし──。
『被害を広げるな。ゴミ野郎。』
トイボックスは背後にいた重四脚MTが放ったキャノン砲の砲弾をくらい、粉々に破壊されることとなる。
『あらら、まだ使えそうだったのに。』
『お前もすぐにこうなる。』
砕け散ったトイボックスを622は残念そうに見つめるが、その残骸を踏みしめながら重四脚MTが前に進み出る。
『同士討ちを狙うのは良かったが、中心に飛び込んだのは悪手だったな。 お前ら、コイツを捕まえろ。そうすればすぐに仕留めてやる。』
重四脚MTが左腕をあげると、そこに装備されている大型チェーンソーが唸りをあげて回転する。あんなものがコクピットに突き刺さりでもすれば、あっという間にパイロットの挽肉が完成するだろう。
恐らく何度もそうなった者を見てきているのか、命令された周りの者は抗議の声を出すことなくトイボックス以外は自身が持つ武器を捨てて622に距離を詰め、上空に逃げられるのを阻止するために重四脚MTとトイボックスがいつでも撃てるように待機する。
『ふ、ふくくくく。』
『……何がおかしい。』
上へ逃げれば集中砲火。横へ逃げれば数に物言わせた制圧。字面だけ見れば詰みと思ってしまいそうだが、あまりにもお粗末なその行動に622は思わずといった風に笑いを噛み締めた声を出す。
『ほんっっっとうに!頭弱々だね♡AC相手にこんな陣形を取るなんて自殺志願者かな?』
『はっ、強がっているのも今のうちだ。俺達はこうやってイキがった独立傭兵を殺してきた。』
『あー、なら教えてあげるぞ。ACには、こんなものがある。』
瞬間、622のACにパルスの光が走る。
『……は?』
誰かが漏らした声を飲み込むように、622を中心としたパルス爆発が周囲を襲う。捕まえるために近付いていたMT達は爆発に飲み込まれたと同時に機体がダメージに耐え切れずに爆散。トイボックスは離れていたため無傷で、重四脚MTは当たる範囲にはいたものの少し離れた位置にいたため後ろへ退がることで回避することが出来た。
『なんだそれは、今まで殺してきた奴にそんなものを使った奴なんて……!』
形勢をあっという間に逆転されたことに重四脚MTは驚き、無意識に一歩後退する。しかしこのような大技を何度も使えるわけがないと気を取り直してトイボックス達へ指示を出そうとするが──。
『おまた、せ。』
そのトイボックスの1機が後ろからリニアライフルの銃弾を受けて大破した。それを成した人物、621は通りすぎるついでにパルスブレードで近くにいた他のトイボックスも斬り捨てながら622の隣に合流する。
重四脚MTは信じられないといった風に621を見たあと、後ろへ振り返る。そこには封鎖機構の強襲艦が制圧を行っている姿が──なく、その代わりに艦体の至る所から炎を立ち上げながら墜落している姿があった。
《ボス、ミサイル発射シークエンスが完了した。いつでもいける。》
《まぁ、待ちなチャティ。あっちも良いところなんだ。しかしここまで盛り上げてもらったらコッチも派手に締めたいところだねぇ。……チャティ、もう一度弾道計算だ。》
《了解だ、ボス。》
頼みの綱である強襲艦が墜落し、残ったトイボックスは今さっき621に破壊された。自身が苦境に立っていることに気付いた重四脚MTは逃走を選択するが、それを阻止するように621と622に挟み込まれた。
そうなれば後はどうなるかは簡単だ。必死の抵抗を嘲笑うように621と622が機体を丁寧に破壊していく。唸りをあげるチェーンソーは腕ごとパルスブレードで斬り捨てられ、右腕の盾は片方の攻撃を防いでいる間にもう片方に破壊され、一塊の希望を込めてキャノン砲を構えればパイルバンカーの鉄杭がその銃身を貫く。そして極めつけが……。
『ざぁこ♡ざぁこ♡』
『ざぁ、こ。ざぁ、こ。』
『この……っ!メスガキどもめぇぇ!!!』
これである。常に飛び交うメスガキ構文に集中を乱され、無意識に作ってしまった隙を突かれて痛烈な一撃を受けてしまう。メスガキ通信を切断しようにも、その行動を取るために操縦桿から手を離してしまえば待っているのはパルスブレードによる袈裟斬りかパイルバンカーの鉄杭だろう。
まぁ、通信を切らなくてもその未来は確定している。武装どころか腕も脚も破壊されて達磨となった重四脚MTのコクピットに622がパイルバンカーを向けた。
『こんなメスガキに……負けるだと……?こんな……こんな……。』
この現実を認めたくないと言わんばかりに譫言を言い始めた指揮官に鉄杭が打ち出され、機体を完全に破壊する。最後に鉄杭を引き抜けば、辺りに聞こえるのはACの稼働音だけだ。
《終わったようだね。こっちも準備は出来てるよ。来賓にここまで盛り上げてもらったんだ、主催として最後に特大な締めを行おうか! さぁ、派手に打ち上げるよ!星になりな!蝙蝠野郎共!!》
それを見届けたカーラが締めと言わんばかりに気合いの入った号令を出す。その号令を聞くなり3つの大型ミサイルが待ち侘びたと言わんばかりに空へと飛んでいき、ある程度高度を取ればミサイルに取り付けられた小型ブースターで角度を変えて一直線にとある方向へ向かって飛んでいく。
《ビジター、着弾予測地点を表示しよう。》
チャティの言葉と共にコクピットのモニターにマーカーが設置された。その方向へ2人が向くのと同時に、3つのミサイルが眩い光を撒き散らしながら目標である建造物へ着弾する。
《狙い通りだね。壮観な景色じゃないか。》
ここからでもよく見えて聞こえる爆発と音。それらのことからあの大型ミサイルはかなりの威力を内包していたことがわかる。あんなものを拠点に撃ち込まれてしまった奴らからすれば、たまったものではないだろう。
《レイヴン……奇麗な花火ですね。》
『うん、とっても、奇麗。622は、どう?』
『奇麗だぞ!でもメスガキで疲れたから素直に喜べないぞ……。』
621とエアはその光景に感嘆し、622もそれに共感しながらメスガキによる疲れを癒すために花火を眺めるのだった。
オリ主(メスガキぃ……すごく疲れるぞメスガキぃ……。オレというキャラが崩壊していくのを感じる……。っていうかこの世界にメスガキって単語存在したんだ。)
621……オリ主のメスガキをメモしたのはエアと共有してる。勉強熱心。
エア……相手を怒らせる方法もあるのですね。メモメモ。
カーラ……今回のメスガキは笑いはしたけど比率的には理解らせてやりたい欲求のほうが多い。だがオリ主は本能的な危険探知は優れているので調教用の鞭でバチンバチンご主人様展開はありません!!
チャティ……ボスを笑わせるのに効果がありと判断したのか、密かに621と622のメスガキを録音保存している。
重四脚MT搭乗の指揮官……メスガキ中の621と622に散々ざぁこ♡された人。アサルトアーマーを知らない時点で今まで殺してきた独立傭兵の強さがどの程度か良くわかる。右腕の盾で攻撃を防ぎ、一気に近付いてチェーンソーで相手を挽肉にする戦法を好んでいた。仲間がいる時は囲んで相手の動きを止めさせてコクピットにチェーンソーを突き刺すやり方を取るが、今回は悪手だった。
ランキング入りしてアリーナの参加資格を得た傭兵の心を未だにFランクにいるデータ上の622がへし折ってそう(小並感)
前半パートの文字数的に今回は6〜7000文字で終わりそうって思ったのに一万超えちゃったよ……。文字数が増えれば見直しに時間がかかるし、流し読みが多くなるから予測変換による悪さを見逃してしまう……。
そしてメスガキぃ……人によってはただの煽り害悪ムーブだから文章を作っている時もこれで良いのかという良心からの呵責がががが
以下存在しない記憶。
大型ミサイル発射支援『ALT』
機密情報漏洩阻止『ALT』をクリアしていると出現。この依頼では僚機として622が共に出撃する。
出現するMTは同じだが、出現する時間はかなり早く設定されているため、急がないと物量に押し潰される。しかしミサイルの一つは622が守っているためそこまで苦労は無い。
そして3方面から出現するトイボックスを撃破すると、敵が一時的に出現しなくなりALTルートの選択肢が出現。『許可する』を選択すると、カーラに相手側の通信をジャックしてもらった622が盛大に相手を煽り始める。ちなみにここで初めて622がメスガキ属性を内包していることがプレイヤー達に知らされる。
622の煽りが終わると30秒後に橋の奥から重四脚MT1機、トイボックス5機、MT10機が出現し、その5秒後に左側から封鎖機構の強襲艦が出現する。
一見難易度の飛躍がおかしいと文句を言いたくなるが、こちら側から攻撃しない限りドーザー連中は622に夢中でミサイルをガン無視するので放置して先にミサイルをボッチで攻撃している強襲艦を狙おう。ちなみに622は発射カウントが0になる前に必ずこのドーザー集団を撃破するため、やられた時のボイスを期待して待つのは無駄である。
通常依頼の時は強襲艦を墜とした時点で時間関係無くミサイルが撃たれていたが、この依頼では先に強襲艦を墜としてもチャティの準備完了報告にカーラが待ったをかけるため撃たれない。
重四脚MTのAPが半分切ると、622に向けて搭乗者の気迫が籠ったメスガキめという叫びを聞ける。声優さん、お疲れ様です。
カウントが0になるか、最後の敵を破壊するとミサイルが発射される。しかし時間が余っていたのかカーラがチャティにもう一度弾道計算をさせているため、ズレることなく目標に直撃する。みんなも綺麗な花火を見よう!!