621……、まさか本当にワーム砲を忘れていたとは……。オレか?オレの発言がフラグだったのか?
拠点に帰り、ACから降りたオレはふと気になってワーム砲を置いた場所を見てみれば、そこには開けられた形跡が全くないコンテナが鎮座していた。その時点で嫌な予感を感じ始めたが、ACの両腕がない今、中にワーム砲が入っているかどうかを確認する術は無く、ソワソワしながら仕事終わり用にと取っておいたお菓子を食べて自分自身を労っていた。
まぁ、この状況でワーム砲なんて忘れるわけないだろと数分後にはいつも通りにぐうたらしていたのだけど、数時間後に帰ってきた621のACに付いているはずのワーム砲がどこにも無かった。ただ無いだけなら何処かでパージでもしたのだろうと思うけど、両肩にはワーム砲の出番なんて無いぜ!とでも言わんばかりにミサイルポッドがしっかりと存在感を出している。
このことから、621はワーム砲を忘れていったのだと理解出来た。まさかアイスワーム討伐に失敗したりとかしていないよね?と不安になったが、ACから降りてきた疲弊感マシマシの621が放つ雰囲気的になんとか討伐自体は出来たのだろう。
疲れからか車椅子にも乗らず、床に寝そべってままコチラに転がって来ようとする621を抱き上げれば、そのまましがみついて来てオレの耳の間に顔を埋めて深呼吸を始める621。侵攻作戦からまだシャワーを浴びていないので変な匂いがしていないか気になるが、621が気にしていないならまぁいいかと好きにさせる。
そうすること数分、後始末が終わったのであろうウォルターが格納庫へやって来た。恐らく621の様子を確かめに来たのだろう。ウォルターは最初にオレ達の姿を見ると少し微笑ましそうな表情をし、次に621のACを見て頷き、最後に格納庫の端の方にあるオレの両腕部が欠損したACを見るとギョッとした表情になって足早にコチラへ歩いて来た。
実はウォルターに帰還した報告はしたが、アイスワーム云々で忙しいと思ったのでどれくらい損傷したとかの報告は何もしていなかったのだ。多分ウォルターはオレが何も言わなかったからいつも通り特に何もないと判断し、それで格納庫に来たらボッロボロのACが鎮座していたので驚いたといった感じだろう。
ウォルターがコチラに辿り着くと、素早くオレの身体を確認を始める。痛いところは無いかと質問され、軽い触診もされた。詳しい診察も後で行うと言うウォルターに大袈裟だなぁと軽く考えたが、彼の顔は真剣そのもの。ぶっちゃけ診察は怖いので嫌なのだが、車の事故でも事故にあった時点では身体に異常はないと思っても後から異常が出てくる可能性があると聞いたこともあったので、ウォルターを心配させないためにも大人しく頷いて診察を受けるしかなかった。
怖いもの代表の注射などはなくて一安心しながら診察を受け、異常無しと結果が出た数日後。ヴォルタからメッセージが届いた。
いつものように内容を要約すれば、アイスワームの戦闘ログを貰えないか?あとウォッチポイント・アルファの突入を手伝って。といった内容だ。ウォッチポイント・アルファはともかく、アイスワームの戦闘ログってレッドガンなら持っているんじゃないのかと疑問に思い、質問してみれば返信で誰かにログがロックされていて閲覧出来ないと返ってきた。
それって割と問題じゃないかと思ったが、既にロックした犯人は判っているらしい。なら早く解除させろと言いたいところだが、断固とした抵抗を受けているらしい。
うーむ、向こうは向こうで大変のようだ。突入の件はACがまだ修理中なので無理だとして、渡すことに関しては特に問題は無いと思うので621とウォルターに許可を取ってからヴォルタに戦闘ログを送信。実はオレもまだアイスワーム戦のログは見ていなかったので、丁度ログが手元にあるしついでに見てしまおうと椅子に座ったりして見る準備を整えていると再びヴォルタからメッセージ。何か不備でもあったのかと内容を確認すると、ヴォルタが爆笑しながら犯人がログをロックした理由がわかったことと、ログに関するお礼だった。
これは別に返信しなくていいだろうとメッセージを閉じて戦闘ログを確認すれば、オレもログをロックした犯人がわかった。これ絶対イグアスだ。こんなアイスワーム出現から出落ちと言っていい速度で離脱してしまったら、イグアスの性格的に誰にも見て欲しくないはずだ。
……まぁ、彼が攻撃をくらった原因はミシガンのメスガキ発言なのでセーフセーフ。え?根本的な原因は621だろって?それは気にしてはいけない。
どうにかアイスワームを621が破壊したところでログを閉じ、ずっと同じ体勢でいたので立ち上がって伸びをしていると、再び端末にメッセージが届く。またヴォルタかぁ?と送り主を確認すれば、まさかのイグアスだった。
あー、これ絶対あれだ。確認しなくても内容がわかるぞ。不思議だね。
もしかしたら予想とは違う内容かもしれないと取り敢えず確認してみようとメッセージを開いてみるが、開幕から怒っているとわかる音声だったのでそっ閉じして見なかったことにした。触らぬ神になんとやら、だ。
あの後更に数件ほどイグアスからメッセージが来たので面倒臭くなって621にバトンタッチしたら、オレに届くメッセージがパッタリと途絶えた。あんな怒ったイグアスを押し付けて大丈夫かとスケープゴートもといバトンタッチ先の621を後から確認してみれば、メスガキ顔でメッセージのやり取りをしていたので多分大丈夫だろう。
我ながら良い判断だったと頷いていると、いつの間にか背後にいたウォルターに話しかけられる。ウォルターのあまりの気配の無さに、知らぬ間に背後に置かれていたキュウリを見た猫のように飛び上がって驚いてしまったが、そんなオレの動きに表情を全く変えずにウォルターが仕事の時間だとオレに告げる。
差出人はアーキバス。内容は先程も名前が出ていた巨大地下施設、ウォッチポイント・アルファの探査。ウォルターがアーキバスに先行調査を取り付けてきたらしい。その第一段階として、先行突入したベイラム部隊の過半数を消し飛ばした『複合EN砲台ネペンテス』の破壊をするそうだ。
アーキバスとしては障害の露払いさえしてくれれば誰でもいいらしいので、今回はオレが実行することになった。
ということで、つい先日になってやっと足りなかったパーツが届いたことで修理が完了したACで依頼開始。開幕からリフトを無視して縦穴へ飛び降り、ネペンテスの砲撃を躱しながら落下。途中で障壁が閉まったり、MTが防衛に来たりして足止めを余儀なくされたが特に何も問題なく突破し、ネペンテスの頚部関節部分をチェーンソーでガリガリと削って難なく破壊は完了した。
そういえばこの物語もそろそろ終盤かぁ……。爆発して崩れ落ちていくネペンテスを眺めながら、漠然とそんな考えが頭に浮かんだのだった。
《622、仕事の続きだ。》
「……了解だぞ。でもここで合流って聞いた621がいないぞ?」
《……621は準備に少し手間取っている。先に行け。》
「んん?よくわからないけどわかったぞ。」
破壊されたネペンテスの根本。そこでエネルギーにも余裕があるため拠点に戻らず一時の休息を挟んでいた622だったが、飼い主であるウォルターの声に閉じていた目を開き、同時にスリープ状態だったシステムも戦闘モードを起動する。しかしこの作戦にいるはずの621がどこにも見当たらず、ウォルターに質問をしてみても濁した返事しか返ってこなかったため、622は不思議そうに首を傾げた。
だが行けと言われた以上、いつまでも621を待つ訳にもいかない。622は隔壁のロックを解除し、先へ足を踏み入れた。
物資搬入のエスカレーターを飛び降り、奥へ奥へと進んでいく622。その先にいた封鎖兵器が622を見つけるなり銃撃してきたが、ある程度距離を詰めるとパルスブレードに切り替えて斬りかかってきたので逆にチェーンソーでパルスブレードが装備された腕ごと胴体を斬り落とす。
封鎖兵器が爆発するのを尻目に線路がひかれた通路を進んでいけば、先にあるちょっとした広間の角から先程とは別の封鎖兵器がパルスブレードを構えながら622の前へ不意打ち気味に飛び出てきた。
が、わざわざ眼前に出てきた時点で不意打ちにはなっておらず、更に一撃で仕留めようとしたのか無駄にパルスブレードを溜めていたため隙だらけ。そんな封鎖兵器に622が何もしないわけがなく、パルスブレードが振られる前に回転したチェーンソーが腕を切断。続いて隙だらけとなった胴体を貫いた。
そして刃の先が封鎖兵器の背中から飛び出た辺りで一時的に回転を停止。アサルトブーストを起動して封鎖兵器と共に前へと突き進む。目標は広間の奥にいたもう一機の封鎖兵器。
本来なら愚直に突進してくるACなんて撃ち放題なのだが、チェーンソーに刺さったままの味方機が邪魔をして撃てない。この突進は奇しくも味方機に誤射はしないようにとプログラムされた無人機の隙をつく形となり、AIが判断に戸惑っているうちに両者が衝突し、封鎖兵器はそのまま壁に押し付けられた。
そして再び回転を始めるチェーンソー。その刃が2機目の封鎖兵器も貫いたところで622がチェーンソーを持ち上げるように移動させることで胸部を貫いていた刃が動き、そのまま頭部まで斬り裂いて通り抜けた。
「えーと、図面的にはこの先なんだけど……、電源が入ってない?」
《誰かが落としたのだろう。622、復旧する手段を探せ。》
倒れ伏し爆散する2機を見ることなくこの施設の図面を確認しながら目の前の隔壁に622はアクセスするが、隔壁はうんともすんともいわない。しかし今回はアクセスが拒絶される反応とは違い、アクセスそのものが弾かれている。
その原因を622はゲーム知識から推測し、それとほぼ同タイミングで原因に気付いたウォルターが次の指示を出す。
ウォルターの指示を受けた622は周囲を見渡した後、燃料タンクのような物が多数格納されている部屋に侵入する。しかしそこに復旧する手段のものはなく、代わりにあったのはもう一つ下に行ける穴。もうそこ以外に行ける場所もないため622は何の躊躇もなく飛び降り──。
『動くな。動くと撃つぞ。』
降りた先で潜伏していたベイラムのMTに背後から銃を構えられた。
『む?この声はこの前の侵攻作戦にいた人?』
『直接話したことは無かったはずだが……。独立傭兵ドッグ・ウルフ。ベイラムの依頼を蹴ってアーキバスにつくとは……残念だ。』
『んー?ヴォルタからのお誘いの件ならACの修理が終わってないから仕方ないぞ。あとこっちだって生きるために仕事しているんだからどちらの企業うんぬんでケチケチ言わないでほしいぞ。』
『……そうなのか?』
『そうだぞ。有名な621……レイヴンだって依頼を受けてお金を稼ぎまくっているはずなのに毎日貯金額を見てため息を吐いているんだぞ。それ以下の知名度のオレなんてもう火の車だぞ。』
『ヴォルタさんは金銭面でそんな姿を見せたことはないが……。』
『それは企業のバックアップを受けているからだぞ。独立傭兵になっていたら今頃は将来の不安に怯えて寝れない日々を送っているはずだぞ。』
『そうなのか……。だからお前はいつも近接武器だけで……すまない。』
『わかってくれればいいんだぞ!』
『おいバカ!懐柔されかけてるぞ!?』
「……ウォルター、ベイラムから何か依頼来てた?」
《そのような依頼は来ていない。奴らは何か誤解をしているようだが俺達には関係ない。殲滅しろ。》
「了解。」
622から語られる嘘まみれの切ない独立傭兵生活のひもじい生活を聞いたパイロットの1人がその生活を想像し、独立傭兵には独立傭兵の悩みがあるのだという申し訳なさから銃を下げかけて味方から叱責される。そんなコント染みた行為をベイラム勢がやっている間に622はウォルターにベイラムから依頼が来ていたのかと質問して確認を済ませた。
そして新たに出された指示に622の思考が切り替わる。
立ち尽くした状態のままクイックブーストを起動。横へと移動し、彼らの射線から外れる。彼らもすぐに気付いて銃を向けようとするがコント染みた行為のせいで反応が遅れており、622が彼らの方へACを向けてメインカメラに彼らの姿を捉える方が早かった。
そもそも彼らは初手から対応を間違えている。ACはMTより頑丈で、MTが積める火器では早々と破壊することは出来ない。彼らは先に622へ奇襲をしかけて混乱させ、確実に破壊出来る状態にしてからホールドアップをするべきだった。
そして間違えてしまった代償は、重い。
『まず1機。』
『まずい!迎撃しろ!』
彼らの銃撃による弾幕でメインカメラが傷付かないように回転させたチェーンソーを構えて弾を弾きながら622は1番近いMTに接近。後退するも機動力の差から逃げきれないMTのコクピットへチェーンソーを突き刺す。
『2機。』
『来るな!やめ──』
チェーンソーを引き抜き、即座にアサルトブーストを起動。パイロットが死んだことで倒れようとするMTを無理矢理弾き飛ばしながら奥で様子を見ていたMTに近付き、加速が乗った蹴りをお見舞いする。
『3機。』
『この!この!……畜生!あんな提案なんて聞くんじゃなかった!』
蹴られて吹っ飛んだMTが爆散するのを見たパイロットは逃げるのを決意。しかし622が近寄ってくるのを察知し、苦し紛れの銃撃を行うがチェーンソーを盾にされたことで大した効果はない。至近距離まで接近されたことで自分はもう助からないと理解し、最期にまだ生き残っている仲間の提案を飲んでしまったことを恨みながらチェーンソーに斬り裂かれた。
『4機目、これでラスト。』
『……あぁ、ミーナ。お父さんはもう帰れそうにない。お母さんとどうか幸せに生きてくれ。』
最後に残ったパイロットは生まれ育った惑星に置いてきた家族を想い、それでも身体は生き続けるために622へ抵抗を続けるが、弾は当たらず接近してきた622にチェーンソーを突き刺され死亡した。
チェーンソーを引き抜き、目の前でMTが爆散するのを見届けた後、622は部屋の先へと移動する。
「ウォルター、多分これだと思う。アクセスしてみるぞ。」
《わかった。それと621がそちらに向かっている。それを起動し終えたら合流しろ。》
「了解だぞ。」
移動した先で見つけた制御盤に622がアクセスし、完了すると復旧した明かりが622のいる通路を照らす。すぐ近くにあるリフトも電源が戻ったことで稼働し、図面によると行き先が先程ロックされていた隔壁のすぐ近くだったため、622はリフトに乗って上を目指す。
そしてリフトが目的の階層に到着し、扉が開く。そこから622が外へ出ると、目の前に一機のACが丁度到着したところだった。
『おま、たせ。』
『もう準備は大丈夫なの?』
『うん、大丈夫、だよ。10回、ぐらい、確認、したか、ら。』
『それは多いぞ!?』
到着したのは621。そのACは前までとは違い、両肩がミサイルポッドからワーム砲へと変更されている。その殺意マシマシアセンを見た622はその兵装換装をしたのがミッション開始の直前だったから到着が遅れたのだと推測したが、本当の遅れた理由を聞いて思わずツッコミを入れてしまう。
このままそんなに確認する必要はあったのかと色々と聞きたかった622だったが、今はお仕事の真っ最中。この続きは終わってからにしようと心の中で決めて、622は電源が戻ったことで稼働した隔壁にアクセスして開き、先に進む。
《この先は熱交換室です。先行したベイラム部隊の通信ログは、この付近で途切れています。》
621にだけ聞こえるエアの言葉から、この先に何かがある可能性は高い。しかしこの警戒しろとも取れる言葉は622には聞こえない。621を通じて言えばいいのだが、それを話す前に622は熱交換室へ通じる隔壁を開いて中に入っていた。
『待ってたぜ……!てめぇら!!』
『うわっ、イグアスだぞ!?』
『イグアス、久しぶ、り。』
その先で待っていたのはG5のイグアス。イグアスは驚いた様子を見せる622とほんわかとした雰囲気で挨拶してくる621に対し、銃撃を開始する。
『いきなり危ないぞ!……ハッ!まさかそんなにヴォルタに送ったアイスワームの戦闘ログのことを……!?』
『違ぇよ!! クソっ、調子が狂うぜ。』
イグアスがいきなり自分達へ攻撃してきた理由をさも確信したかのように話す622に、2人を殺す気で来ているイグアスは思わず否定してしまう。確かにあの即落ちはイグアス本人ですら消し去りたいことではあるが、それと今回の襲撃は別件だ。
『物騒な穴倉生活にはもうウンザリでな。てめぇらを殺して俺は地上へ戻らせてもらうぜ。』
『穴倉生活がウンザリだからって理由でオレ達が狙われる意味がわからないぞ。道の邪魔になるなら普通に譲るから勝手に通って帰ればいいぞ。』
『うん、邪魔はしない、よ?』
イグアスの2人を攻撃する理由を聞いた621と622は思わず首を傾げる。わざわざ通り過ぎようとするだけの者に襲いかかるほど凶暴でもないし、通り抜けられたからと苛立ちを感じるしまう程のくだらないプライドも持っていないので道の邪魔になるのなら別に譲っても構わない。
『帰る最中にてめぇらがここに来るって聞いたものでな。てめぇらが死んだら気分良く帰れるだろうよ!』
『……つまり、お前の憂さ晴らしのためにわざわざ待ち伏せまでしてオレ達を狙ったわけ?』
『理解出来たなら死んでくれや。俺は一刻も早くここから出たいんでな。』
『そっ、か。イグアス……。』
しかしイグアスが2人を襲った理由を聞けば、622は呆れたような声とは裏腹に思わず身体が反応してしまいそうな殺意で、621は悲しそうな声に混じった無機質な感情で返答とした。二機のACのうち、片方はチェーンソーを唸らせてもう片方は肩部のスタンニードルランチャーをイグアスへと向ける。
そんな2人の反応を見たイグアスはコクピット内で無意識のうちに笑みを浮かべた。あの日あのダム襲撃から自身の中の何かが無くなったのだとイグアスは確信している。それをなんとか取り戻したくて、無くした元凶であるこの2人と数回程戦闘を繰り広げたが、結果はどれもなぁなぁで終わったり、横槍を入れられたり、そんなことをしている状況ではなかったりと様々だ。
だからこそこの対面を望んだ。2対1の不利盤面だがこれを逃してしまえばこの情勢だ。きっとなんの邪魔もなく戦える機会なんて二度と訪れないだろう。
これを乗り越えれば無くした何かは見つかる。そして認めたくないが621にはアイスワーム、622には坑道破壊の時から自分がこの2人に出会うと無意識の内に抱いてしまうこの感情の名前もわかるはず。そんな思いでイグアスは思考を戦闘に傾けた2人へと戦いを挑む。
だが戦闘はそう長く続かなかった。622は常に近距離で立ち回り、イグアスが隙を見せようものなら一撃必殺のチェーンソーを振ってくるし、それで622へ意識を向ければ中〜遠距離から621の高火力スタンニードルの砲撃が飛んでくる。既にイグアスのACであるヘッドブリンガーは片腕が欠損して肩のミサイルポッドは破損してパージ、脚もスタンニードルランチャーの弾が掠ったからか反応が悪いとボロボロだ。
しかしここでイグアスにとっての好機が訪れる。死に体であるイグアスに取る時間が勿体無いとでも思ったのか、621が深部へ向かうためにここから離れたのだ。何故そのような判断をしたのかイグアスにはわからなかったが、これでイグアスの相手は622だけとなった。だがこれはイグアスにとって屈辱以外の何者でも無い。つまりあの2人にとって今のイグアスは1人でも問題なく対処出来ると判断されたようなものだ。
もしかするとイグアスは自分が押さえておくから先に行って的な展開だったのかもしれないが、この状況でそんな展開になるとは考えられない。
『おい、てめぇ。ふざけるなよ……。』
『ふざけてなんていないぞ。今のお前なら問題なく倒せるぞ。』
「ふざけるな」に含まれた意味を正しく汲み取った622に、イグアスは操縦桿を強く握り締めた。622はただ事実を告げただけなのだが、それがイグアスのプライドを傷付ける。
だが言い返せない。それは紛れもない事実だからだ。それでも何かを言い返したくて口を開こうとするイグアスだったが、そんな暇などないと622が距離を詰めて来る。それを残った片手が握っているリニアライフルで迎撃を試みるが、連射性能が低いそれでは622の脅威にはならない。
ドンドン縮まる距離に一か八か特攻を仕掛けるかという考えがよぎった瞬間だった。
《まぁ、偶にはいっか。》
少し前からイグアスにとっては聞き慣れた少女のような声。いつもならすぐに人のミスを煽ってくる声がイグアスの頭に響き、直後に世界が遅くなった。
何もかもがスローで動くなか、自身の思考だけはいつも通りに動かせる。そんな光景にイグアスは思わず呆けてしまうが、直後に耐え難い頭痛が襲いかかってくる。
《ほらほら、早くしないと殺されちゃうよ〜?》
頭の中をこねくり回されているような痛みに頭を押さえようとしたイグアスだが、声の主の言葉を聞いてすんでのところでそれをやめた。
恐らくこの状態はこの声の仕業だろう。今回は珍しく大人しくしてたと思えばこれだ。だがこの状況は利用するしかないとイグアスはスローで動いている622へ照準を合わせる。
あくまでもいつも通りに動いているのは自分の思考だけなので自身のACはゆっくりと622へ照準を合わせようとする。それが妙にもどかしく、照準が合えば溜まった鬱憤を晴らすようにトリガーを引いた。
「……ふざけんなよ。」
コクピットの中でイグアスは思わず言葉を漏らす。それも仕方ないだろう。距離が詰まったこの状況でコクピットに向けた正確な射撃。いくら622の回避力が高くとも、どこかしろに当たりはするだろうとイグアスは考えていた。だがイグアスは見た。自身が銃口を622へ向けたと同時に622のACが動き始めて射線から離れていくのを。これではリニアライフルだと接射と同レベルまで近寄らないとほぼ当たらない。
続けて撃つが結果は同じ、そうこうしているうちに622に追い付かれ、チェーンソーが唸り始める。しかしまだイグアスには逆転の目があった。
622がチェーンソーを突き刺そうと構えた時、イグアスのACにパルスの光が走る。アサルトアーマー。それがイグアスの逆転の目だった。これをこの距離でモロにくらえば、どんなACでも一瞬怯む。そしてその一瞬があれば、今の状態なら的確にコクピットを撃ち抜く自身がイグアスにはあった。
ここに誤算があるとすれば、622にアサルトアーマーがほぼ効かないとイグアスが知らなかったことだろう。
622のACに先程のイグアスと同じようにパルスの光が走る。それは紛れもなくアサルトアーマーを起動させた兆候。スローに映る視界でそれを捉え、まさかと目を見開くイグアスを他所に状況は動き出す。
まず放たれるのはイグアスのアサルトアーマー。それは622が突き出したチェーンソーの動きを止めるどころか押し返した。そして622にパルスが触れる瞬間。622のACからお返しとばかりにアサルトアーマーが放たれる。後出しで放たれたパルス爆発はイグアスのパルスを飲み込みながら迫り、逆にイグアスへと襲いかかった。
「ぐぅあああああ!?」
《あーあ、もうダメかな?》
パルスに飲まれ、ACが悲鳴をあげる。その直後に622が放つ蹴りをまともに受けたことでACが吹き飛んで壁に衝突する。その際に起こった衝撃でイグアスは声を漏らし、もう一つの声は状況に似合わない呑気な声を出した。
「(拙い、次が来る!動け!動け!動けよ!)」
そしてここでスロー現象が終了し、周りが等倍で動き出す。しかしイグアスは先程の衝撃のせいなのか、それともスロー現象の代償なのか、身体が思うように動かない。この状態で622が来れば死ぬと焦りが募るが、当の622は蹴りを放った場所から動かない。
「呑気に通信でもしてるのか?舐めやがって……。」
しかしそれに助けられたのも事実。動くようになった身体で操縦桿を握り直すが、それほぼ同時に622がイグアスへ向けてアサルトブーストで一気に近寄ってくる。
「チッ!まずはこれを避け──アァ?」
クイックブーストで横に回避。だがACは動かない。モニターに映る自身のACの状態はほぼ真っ赤。今動かそうとした部分はその真っ赤な部分であり、上手く起動しなかったのだろう。
その隙は致命的。迫るチェーンソーを刃を眺めながら、イグアスは走馬灯を思い浮かべ、直後にそれを振り払う。
『舐めてんじゃ……ねぇぇえ!!』
横薙ぎで振るわれたチェーンソーを展開したパルスシールドで受け止める。本来なら拮抗するのはほんの一瞬。しかしイグアスはACが動かないことをいいことに他のENを必要分以外の全てをシールドへ回すことで受け止めることを可能にしていた。
それでも出力はチェーンソーのほうが上。徐々に刃がシールドに食い込み始めており、破壊される時は近い。
その間にイグアスはシールドの角度を操作してチェーンソーを逸らそうと試みるがそれは間に合わず、チェーンソーはシールドを破壊してイグアスへ襲いかかる。しかし直前の試みのおかげでチェーンソーが通るルートは変更されており、両脚を斜めに斬り裂かれる結果となった。
脚を無くしたことでイグアスのACは床に倒れ伏し、そこに622の踏み付けが襲いかかる。それを残った片手で受け止めてなんとか防いだところで、状況は変わる。
突然イグアスから距離を取り始めた622。ある程度距離を取れば反転し、アサルトブーストを起動。621が通って行った通路へ向かい、そのままイグアスの前から姿を消した。
それから1分、2分、5分と待っても622は戻ってこない。このことから622は深部へと向かったのだろう。つまり、イグアスは生き残ったのである。
コクピットの中でそれを理解したイグアス。彼が抱いた最初の感情は助かったことによる安堵ではなく怒りである。
『ふざけんな……、ふざけんなよ!!命は見逃してやるってか!?舐めてんじゃねぇぞ!?俺はまだ負けちゃいねぇ!』
誰が見てもイグアスの敗北だろうと判断する状況でもイグアスは622を呼び戻そうと必死に吠える。そして残った片手に握るリニアライフルを622が消えていった通路に向けて、何度も射撃する。
『戻ってきやがれ!!俺はまだ戦える!これで決着だなんて認めねぇ!ここで殺らねぇといつかてめぇらを首を掻きにいくぞ!!?』
弾が無くなり、リニアライフルの空撃ちが虚しく熱交換室に響き渡る。だがそんなことにも気付かないほど、今のイグアスのプライドはズタズタになっていた。
『クソッ!クソッ!クソォォォオオオ!!!』
その後、622はいつまで経ってもこの場所へ帰ってくることはなかった。イグアスは断腸の想いで救難信号を発信。それをイグアスと同タイミングで降下していたG6レッドが受信し、無事に救助。レッドは戦闘不能となったイグアスと共に一時的に地上へ離脱することとなった。
オリ主(621が苦戦ってどういうこと!?とにかく無事でいてよ!)
621……エンフォーサーと戦っている最中に背後から不意打ちを受けた。今も攻撃が続いており苦戦中。
エア……レイヴン、忘れ物はないですね?本当にないですね?本当に本当にないですね?本当(ry
イグアス……オリ主が粘るイグアスより621を優先したため生き残ったが、プライドはズタズタにされているため再起には時間がかかる。
ウォルター……オリ主の報告があまりに軽く短かったので問題ないと思ったら問題大有りだった。
ベイラムパイロット……娘と同じ歳だろう622を撃つのが嫌で、仲間に彼女は拘束しようと提案した張本人。戦場では優しすぎた。
勝手に交信してる変異体……交信の応用でイグアスをチョチョイと弄った。後遺症はないからセーフセーフ。
コールドコール……不意打ちは私がやりました。イグアスが2人を殺せなかった時に用意した保険。エンフォーサーが通った道から621とエンフォーサーの戦闘に乱入。621を執拗に攻撃している。
もうそろそろこの物語の山場が来ますねぇ……。再教育センター……。