すまない……再教育が何をするのか全くわからなかったんだ……。
どうも、戦犯のオレです。いやぁ〜、やっちゃいました。まさかあの場面で全く知らない武器が出てくるとは思わなかったな。しかも馬鹿みたいにパニックになって隙だらけで結果的に621の足も引っ張っちゃうしさ。
で、原作通りに捕まっちゃいました。もう笑うしかないね、はははは、はは、はは……。
はぁ、笑えねぇよ。最悪だ。穴の中に入って数年ぐらいジッとしときたい。
現在地は何処か分からない施設の中。目隠しに加えて手足が椅子らしきものに拘束されているため詳しくはわからないが、ゲーム通りならここはアーキバスの再教育施設なのだろう。
再教育なんて言う名の洗脳だから怪しげな装置でもつけられて変なことでもされるのかと思ったが、オレの想定は外れてまさかの放置。この対応にはオレも拍子抜けである。
だけどこの放置にも理由があると思う。その根拠はオレの耳につけられた装置。これをつけられてから音が聞き取りづらくなった。本来ならこれをつけられると完全な無音状態になるのだろう。
無音、もとい無響空間に人が長時間滞在すると、人は体内の音が大音量で聞こえるようになり、精神が耐えきれなくなって幻聴を生み出すと聞いたことがある。そして最後には精神が崩壊して人は発狂するらしい。
そんなことをすれば廃人を生み出すだけだが、ここでは再教育を受けている者が発狂する前にアーキバスの職員が登場。アーキバスの素晴らしさをしばらく話した後にその場を後にして再び再教育者を無音空間に放り込むを繰り返すようだ。
とにかく音が欲しい再教育者は何でもいいから話を聞きたがる。そして次第にアーキバスの話が刷り込まれていき、洗脳完了で晴れてアーキバスの一員入りといったところだろうか。
本当にこんなやり方で大丈夫なのかと思うが、大丈夫だからこのやり方なのだろう。それか突貫で作った施設だから設備が無くてこの方法とか?
真実は知る由もないが、別にどうでもいい。大事なのは今のところオレにこの再教育は効果がないことだ。理由は単純で、普通に音が聞こえているから。
オレは獣人だ。なので耳が顔の横じゃなくて頭上にある。再教育に務めるアーキバス職員は獣人を見たことがないようで、試行錯誤をしたのちに何とか装置を頭上の耳に装着。側から見れば装置が耳にしっかりと密着しているので問題なしと判断したようだ。
だがしかーし、オレの耳はピコピコと自由に動かすことが出来る。なので反りかえるようにして動かせば、装置から耳が離れて辺りの音が聞こえるのだ。そうなれば近くにいる職員の話や、この施設の稼働音などが聞こえてくる。案外すぐに気付かれそうなものだが、一応目覚めてから職員の前では一度も動かしていないし、耳の可動域を調べるために触られた際は露骨に痛がる振りをしたので、職員は構造上は動かせるけど自力では動かせないと判断。オレもうっかりで動かしているところを見せるような愚は犯さないため今のところバレていない。部屋に監視カメラがあれば動かしているところを撮られてバレるかもしれないが、そんな反応は今のところないので部屋に監視カメラが無い可能性も高い。
いつまでも発狂の兆候を見せないオレは怪しまれるかと思ったが、意外と職員はそういった反応を出さない。盗み聞きをした感じだと過去に似たような者がいたようだ。だがその者も結局はただの痩せ我慢だったので、オレもその類だと勘違いしているみたい。
なので他の人達と変わらず、時々職員がやってくればアーキバスは良いところを色々ぺちゃくちゃと喋ってくる。試しに一度アーキバス職員が言ったことを真似して呟くように小声で言ってみれば、洗脳の効果が出ていると判断したのかニコニコしていた。
まぁ、仮に装置がしっかりと装着されていて音が聞こえなかったとしても、あのやらかしによる自責の念やそれによって込み上げてくる吐き気のせいで全く耳に入らないと思うけど。正直今も吐き気がして耐えるのに大変だし。
職員がいない時は完全に暇なのでどんどんとあの時こうすべきだったなどの考えが浮かんでくる。特に1番大きな後悔は潜んでいるスネイルを先に殺さなかったこと。場所がわかっていたのに何故ここにスネイルがいることを知っているのかとウォルターに疑われることを恐れた。それに加えて621と一緒なら初撃の不意打ちさえ躱せばどうにでもなるという楽観もあった。
それがこの結果だ。回避出来たにもかかわらず己の楽観でそれをしなかった。洗脳方法がこのままならエアと脳内会話が出来る621は問題ないと思うが、ウォルターが心配だ。だから早く助けないといけない。
幸いにも拘束具は革のベルトみたいなものなのでオレの膂力なら問題なく破壊出来る。つまるところ、オレはいつでもここから脱出することが可能だ。
だから後はウォルターと621が何処に収容されているかを知りたい。そのため職員同士が話しているところを聞き耳しているのだけど、なかなか話題に出てこない。
今すぐ拘束具を破壊して脱出、あとは手当たり次第に探すという方法もあるけど、オレが見つけ出す前に人質にされてしまえば何も出来なくなる。なので今は機を待つしかない。
出来れば早めに話してくれと心の内で願いながら、オレは聞き耳を立てるのだった。
そうやって体感2ヶ月ぐらい経った頃、ようやくオレが求めていた2人の居場所に関する情報が手に入った。今まで似たような話題は出ていたが、肝心の居場所は全く話さなかったのだ。
だけどやっと知れた。ならここには用は無い。今すぐ脱出をと言いたいが、今すぐ逃げれば確実にバレる。なので渋々だが夜まで待つことにする。
ゲームの621は這ってウォルターが準備していた脱出用のACがある下水道のあの場所まで辿り着いた。そのことから夜は警備がかなり薄くなるのかも知れない。2人の居場所がわかってもそこまでの道のりはわからないので、必然的にオレは施設の中を走り回る必要がある。出来る限りケアはしていたが、殆ど動くことがなかったので筋力の低下が気になるところ。それもある程度考慮して動く必要があるため、警備が薄くなる夜まで待ったほうが安全なはず。
ゲームだとこの再教育施設は技研都市に建っているので、適当な建物を改造した急造の施設のはずだ。なのでそこまで広くは無いはず。
スタートはオレの収容部屋。ゴールは下水道へ続く道。ウォルターがいつから脱出用のACを配備してもらっていたのかわからないけど、アーキバスに捕まる前に話は通していると思うので2ヶ月近くもあれば配備してくれているはずだ。
どうか上手くいってほしい。そう願いながら、夜まで脳内でシミュレーションをしながら待つのであった。
夜遅く、アーキバスの再教育施設のとある一室。そこでたった今、拘束具を無理矢理引きちぎって立ち上がる者がいた。
久しぶりに自分の足で立ち、慣らすように伸びをする622。そしてこれから行う行動のために入念な柔軟運動を開始する。
「何だ?誰か──」
そんな時、偶然巡回していたのか警備員が622のいる収容室へ入ってきた。しかしその姿は隙だらけ。拘束されている者がまさか力任せで脱出しているとは考えていなかったのだろう。
今や一強となったアーキバスの、ましてやルビコン技研都市に急造された施設に侵入者がいる可能性まで思考が届かなかったのか、同僚に注意するかのような気楽さで部屋に入ってきた警備員。その男の視界が自由の身となった622を捉え、表情が気の抜けた顔から鬼気迫る表情へと変化し、大声で異変を周りに知らせようと口を開こうとするが、その頃には622が距離を詰めている。
警備員は咄嗟に拳銃を622へ構えるが、引き金を引く前に622が引き金の内側に指を滑り込ませた。力は上だと構わず引き金を引こうとするが接着剤で固めたかのように引き金はピクリとも動かず、警備員は思わず困惑する。その隙に622の本気の蹴りが警備員の膝に直撃。骨が折れ、倒れ込んだ警備員が痛みに叫ぼうとするが、その声は倒れたことで届く位置まで下がってきた警備員の後頭部を622が掴み、全力で床へ叩きつけたことで中断された。
ゴン、ゴン、と部屋に固いものをぶつける鈍い音が何度も響く、その音は次第に粘性のある水音のようなものへと変わり、しばらくすると何も響かなくなった。
血溜まりに倒れ伏す警備員を622が見下ろす。顔が床に向いているため警備員の表情は見えないが、きっと酷いことになっているだろう。
その姿から視線を外し、奪い取った拳銃を捨てた622は扉から顔だけを出して通路の様子を伺う。幸いにも今さっき殺害した警備員しかいなかったようで、通路は静まり返っていた。
しかし見回りであろう警備員を殺害してしまったことで、近いうちに異変はアーキバスに伝わるだろう。時間がないことを認識した622は一度だけ深呼吸をした後、一気に通路へと走り出した。
走りながら視線を周囲に向ける622。辺りに人がいないかの確認とともに、622は何処に何があるのかが書かれた案内板を探していた。
だが見つからない。企業なら一つぐらい設置していそうものだが、ここに外部からの見学なんて来るわけがない。社員だけの施設にわざわざ案内板を設置する費用なんて企業が出すわけがないのだ。
そのため手短に見つける手段は無いと622は判断。当初の予定通りに手当たり次第で目的の部屋を探すことを決める。幸いにもAやEなどの区画間の管理番号自体は分かりやすい場所にあるため、621とウォルターが収容されている区画の番号を見つければいい。
そう考えを纏めた622だったが、自身の視線の先にある電光掲示板からノイズが走ったことで一時的に足を止めた。必要な情報が何も書かれていなかったので無視していたのだが、ノイズが走った際に赤い光が入ったことが足を止めた理由だ。
その判断は正しく、暗くなった画面から赤色の矢印が現れた。本来なら異常に気付いたアーキバスが仕掛けた罠だと疑う場面。しかし622はその矢印による案内を一切疑わず、矢印が指した方向を目指して走り出す。
恐らくこの案内を出したエアも622が自力で脱出したことを知らず、今さっき気付いて慌てて案内を開始したのだろう。その証拠に、2度目の案内は矢印ではなく、この施設の詳細な地図とともに最短のルートが表示された。
それに従って622は通路を駆ける。622の予想より警備する人が居ない幸運にも恵まれ、足を止めることなく目的の部屋へ辿り着くことが出来た。
扉には電子ロックがかかっていたが、622が無理矢理破壊する前にエアによって開錠された。自動で開いた扉を潜って622が部屋の中へ入ると、そこには多数のケーブルが繋がれた621の姿があった。
「621!大丈夫⁉︎」
その姿を見た622は急いで駆け寄り、慎重に各所に刺さっているケーブルを引き抜いていく。恐らくこれでアーキバスは強化人間である621の再調整をしていたのだろう。てっきり自分と同じ方法で再教育という名の洗脳が行われていると思っていた622は自分の考えが甘かったと手を握りしめた。
何か621に不都合なことが起こってないかを622はケーブルの先に置いてあったパソコンで確かめる。パソコンの画面は点灯したままで、そこには再調整の進行度が映っていた。既に75%も完了しているとのことで、この画面を見た622は慌てふためく。
「大丈夫、エア……、友達が、誤魔化して、くれ、たから。」
だが622の心配は621が払拭した。622が見た画面は全くの偽物で、本当は何にもされていないと。それだと怪しまれるので、自分の友達がハッキングで画面を弄り、見た感じは問題なく動いているように見せていたらしい。
621にエアという友達がいることは622も前世知識で知っているが、この世界だと今初めて知ったので驚く振りをしながらもすぐに納得した表情を作る。
「そっか、621の友達だったんだ。オレもさっき道案内で助けられたぞ。」
621を背負いながら、622は緩く笑みを浮かべる。その内心では今すぐにでもあのことで謝罪をしたい思いで一杯だが、時間が惜しい。
「次はウォルターだぞ。早く助けて、こんなところからサッサと脱出するぞ。」
「うん。」
「621はしっかりしがみ付いてるんだぞ。」
「わかっ、た。」
621が自分に腕をまわし、しっかりとしがみ付いたのを確認した622は再び走り出す。エアもしっかりとサポートしてくれているようで、道先に設置されている掲示板には新たな場所が記されていた。
が、ここで流石に見回りの警備員が帰ってこないことで異変を感じたのか、先程よりも警備員を見かけることが増えてきた。必ず2人以上で行動しているため、まだウォルターを確保出来ていない今の状態で真っ向から仕掛けることは悪手。迂回や待機を余儀なくされて時間が過ぎていく。
それでも2人は何とかウォルターが収容されている部屋へ辿り着くことが出来た。電子ロックをエアに開錠してもらい、622は部屋の中へ入るなり中央で拘束されているウォルターの元へ駆け寄った。
「ウォルター!大丈夫⁉︎おかしくなってない⁉︎」
「大丈夫?」
「……621に、622、か。」
「そうだぞ!助けにきたぞ!」
ウォルターの再教育は622と同じ方法だったので、駆け寄った622はウォルターに取り付けられた装置を外し、ウォルターの様子を確かめるように頬をペチペチと触る。それに対して衰弱はしていたがウォルターも2人に返事を返した。
「助けに来たんだぞ。後はここから出るだけ!」
「そうか……なら、下水道へ向かえ……。協力者も既に準備を終えているはずだ。」
「下水道?分かったぞ!」
621を少し左に寄せ、片腕で支えながら空いた右側の背中にウォルターを背負って622は立ち上がる。後は下水道に向かい脱出するだけ。しかし──
《関係者に通達。独立傭兵『ドッグ・ウルフ』が脱走。その際に警備員を殺害。生死は問わない。速やかに無力化しろ。》
622の脱走が放送で施設中に知らされた。スピーカーからアラームが鳴り響き、それに混じって誰かの走る音が廊下に響き渡る。廊下の窓越しから外を見れば、屋上などに設置されているサーチライトが点灯し、外へ続く道を照らしている。
状況が悪化したことに622は思わず歯を噛みしめる。しかし最悪のパターンであった621とウォルターの2人を人質に取られるという事態は先に確保したことによって避けることが出来たため、まだ詰みではない。
だが施設中に鳴り響くアラーム。これが622とっては予想外のことだった。うるさく鳴り響く音は辺りを徘徊する警備兵の足音を掻き消す。そのため622は足音を聞き取るために集中する必要があり、それによってさらに精神が削られる。
自分だけならまだしも、今の622の背中には守るべき人がいる。手を抜くわけにはいかなかった。
これならいっそのこと敵兵全てを無力化してから動くべきだったかと622の頭に無謀な考えが浮かび上がるが、すぐに頭を振ってその考えを振り払う。もし失敗してMTやACが救援に来たらその時点で終わりだ。人外の膂力を持ったところで所詮622の身体は生身の獣人。例え豆鉄砲の火力しかない弾でもそれがMT基準のものだったとすればあっという間に挽肉だ。
2人を背負いながら622は慎重に廊下を進む。既に脱走したことはバレているので先程より見つからないように動くしかない。
エアからの支援を受けながらも警備兵を避けて下水道へ続く道へと進む。索敵のほぼ全てを自分でやらなければならない緊張からか、622の額には汗が浮きでて雫となって廊下へと零れ落ちる。
敵を避け、避けきれない場合は不意打ちで速やかに排除しながら622は進む。下水道までの道は歩いても数分しかかからない位置のはずなのに、警備兵の排除などを含めて622の体感では既に何時間も過ぎているように感じていた。
だが進み続ければ目的地にはいずれ到達する。曲がり角を曲がり、その奥にある下水道へと続く入口を見つけた622の表情は緊張で強張っていたものから喜色へと変化した。
「見つけた!2人とも!これで逃げれるぞ!」
「あぁ、よくやった……。」
喜びからか2人へと声をかける622。それをウォルターが褒めれば、622の表情が緩んだ。
そのままの顔で622は入口の手前までやってくる。下水道の入口には鉄格子がはめられていたが、622の膂力なら人1人を通すぐらいの隙間なら容易に作ることが出来る。
その内心は原作の621はどうやって下水道のあの場所まで行ったのかと疑問で一杯だったが、恐らく別のルートを通ったのだろうと結論付けた。
ともあれ、今はここから出るのが先だ。流石にアーキバスもこの広大な技研都市の下水道、それも人が通れる通路までは網羅しているとは思えないため、入ってしまえば追手を撒くのは簡単だろう。
そのことにホッとしながら、622は2人を壁にもたれるように置いてから鉄格子を両手で握りしめて広げるように力を込める。その膂力によって鉄格子は徐々に隙間を作っていく。
「よし、これなら──」
目的地へついた安堵。無事に離脱出来ると確信した際に起きた気の緩み。ここまで辿り着くまでに削られた集中力。これらのことが重なり、622は曲がり角から自身を見るものに気付けなかった。
タァンと軽い発砲音が2発、622の声を遮って廊下へ響き渡る。音が静まる頃には622は床に横向きで倒れ、アラームの音だけが響き渡る。
「62、2…?」
「やったか!?」
突然倒れた622の姿を見て621が呆けたような声を出すと同時に、曲がり角から2人組の警備兵が拳銃を構えながら622へ近寄る。警備兵が622の元へ辿り着いた時には撃たれた腹部から流れる血が血溜まりを作っている最中だった。
撃たれた箇所を警備兵に蹴られても動く様子がない622に警備兵はひとまず無力化したと判断したのか、通信で他の仲間に対象を無力化した旨を報告する。暫くすると五月蠅かったアラームも収まり、警備兵達は621とウォルターに視線を向けた。
「コイツらは?」
「ドッグ・ウルフの仲間だ。優秀な駒だと聞いている。」
「どうする?動けないようだが一応無力化するか?」
「やめとけ、わざわざ策を練って捕獲したんだ。脱走したドッグ・ウルフはともかく、満足に動けないレイヴンを無駄に負傷させて価値を落とせばスネイル閣下から何をされるかわかったもんじゃない。」
621とウォルターを見下ろしながら警備兵の2人は仲間が来るまで談笑を続ける。そんな2人をウォルターは鋭い目付きで睨み付けるが、弱った身体では何も出来ないと理解しているのか2人は全く気にしていない。
その雰囲気は完全に気が抜けており、油断しているようにも見える。2人の背後で今まさに脅威が動き出そうとしているにもかかわらずだ。
警備兵からの追い打ちの蹴りを無反応でやり過ごした622は、なんとか痛みがマシになったタイミングで立ち上がろうと試みる。しかし蹴りの痛みはマシになっても撃たれた箇所の痛みが無くなることはなく、今も激痛によって目が充血している。
荒くなろうとする呼吸を意識して押さえ込み、622は背中を見せる敵を睨み付ける。そして隙だらけのその背中に飛びかからんと向きを調整しながら身体に力を込める。
だが飛びつこうと踏み込んだ足が血溜まりを踏んだことで小さな水音が鳴る。それはほぼ無音の廊下には嫌なほど大きく響き渡った。
「⁉︎ まだそんなに動け──」
音を聞くなり同時に振り返った警備兵に622は飛びかかる。警備員の1人が咄嗟に構えた拳銃は622の裏拳によって弾き飛ばされ、そのあまりの威力に拳銃を持っていた手ごと動かされたのか大きく崩された体勢になってしまい、それによって隙だらけとなった身体に向けて622の貫手が襲いかかる。
回避行動すら取れず、喉を貫かれた警備兵は口からゴポリと大量の血を吐き出した。しかしその間にも片割れは拳銃を622へ向けている。
それに対して622は喉を貫いたままの腕を振るい、死んだ警備兵を片割れに放り投げた。たかが腕を振っただけの動作で大の大人が投げられるとは考えなかったのか、片割れの警備兵は面食らったような表情でそれにぶつかり、共に床へと倒れ込む。
「クソッ‼︎」
「ガルルルルルル‼︎」
悪態をつきながら仰向けに倒れた状態で警備兵は獣のような声を出しながら飛びついてくる622へ拳銃を向け、発砲。しかし622は構うことなく突っ込み、次弾が打たれる前に警備兵の喉へ噛み付いてそのまま噛みちぎった。
「……ごめん、ウォルター、しくじっ、たぞ。」
「622、これ以上は話すな。傷に響く。」
噛みちぎった肉を吐き捨てながら、新たに出来た傷口を押さえながらふらふらとした動きで622はウォルター達の元へ行き、2人を背負おうとする。だが流石に限界が近いのか、背負いきることができず、2人の足が床についたまま引き摺るようにして歩く。
そのまま歪めた鉄格子を潜ろうとするが、まだ少し小さかったのかウォルターだけ通ることが出来ない。なら広げればいいと鉄格子を掴んで力を込めるが、もう力が出ないのか鉄格子は動かない。
あれ?あれ?っと力が出ない自分に戸惑う622。そんな時、遠方から多数の足音がこちらに向かってくる音をウォルターが聞き取った。
622は未だに鉄格子に意識を向けており、血を流したことで衰弱していることもあってここに向かっている足音に気付いていないのかもしれない。
そのまま621へ視線を向ければ、621は指示を仰ぐようにウォルターを見つめていた。今の622の姿に何を思ったのか、いつものような無気力な瞳ではなく、どこか力強い瞳をしている。
そんな2人の姿を見たウォルターの判断は早かった。床についていた足で立ち上がり、ウォルターが立ったことにも気付かず鉄格子を広げようとしている622を背後から押して向こう側に行かせ、次に621を抱き上げて同じように向こう側に行かせてから自分は鉄格子にもたれかかるようにして座り込んだ。
「ウォル、ター?」
「621、622。ここからは別行動だ。お前達は先に行け、俺は……ここに残る。」
押し込まれた622はウォルターの言葉に戸惑うような反応をする。たった今浮かび上がった自分の考えを否定するかのように弱々しく頭を振り、一緒に行こうと言いたげにウォルターの肩へ鉄格子越しから手を置くが、その手はウォルターによって優しく取り除かれる。
「2人に向けて、暗号化されたメッセージが届いているはずだ。そこには俺がかつての友人達から託され、お前達に託さんとする最後の依頼内容が入っている。逃げ延びた後に確認しろ。俺は俺で最後の仕事として、お前達を自由にしよう。」
ウォルターの言葉に622は何かを言おうとするが、それは遠くから聞こえてきた警備兵の声によって中断される。流石に近くまで来れば弱っている622でも気付くことが出来たようだ。
「考えろ考えろ考えろ考えろ……。」
頭を掻きむしりながらこの状況をなんとか出来ないかと右往左往する622だが、どうにもならないと理解出来たのだろう。子供のように駄々を捏ねようとするが、それをする時間さえ無い。
「622、621を頼む。」
「………………うん。」
そのウォルターの言葉が決断の一手となったのか、ウォルターと621を交互を見たあと、622は泣きそうな顔をしながら621を背負い、ウォルターに一礼をしてからふらふらと下水道の方へと姿を消した。2人の気配が遠ざかるのを背中越しに感じながらも、ウォルターは621と622との生活を思い浮かべながら無意識のうちに少しだけ口角を上げ、曲がり角から現れた警備兵達の姿を睨み付けるのだった。
下水道のとある場所にて、621を背負った622はゆっくりと歩いていた。腹部から垂れる血によって足は赤い線が何本も引かれており、下水道の水と混ざり合う。
もう既に622は気力だけで歩いている状態であり、口はぶつぶつと小声で何かを呟いている。その言葉を621はずっと背負われながら聞いていた。
その内容は621が合流する前のウォルターとの思い出。622は621にあまり過去を語ることはなかったためそんなに気にしたことは無かったが、呟いている内容が本当なら、622も621と似たような境遇に身を置いていたことになる。
622と自分は似た者同士かもしれない。そう自覚すると同時に621の中ではいつものとは違う仲間意識が生まれ、もっと知りたいという欲求がむくむくと湧き上がる。
だが状況が状況だ。622が立ち止まったことで621がハッと我に返る。そして622が見ている方向を見れば、ここで廃棄されたのかと勘違いしてしまいそうなほどボロボロのACが一機だけ鎮座していた。
最後の一踏ん張りと考えたのか、怪我をしていると思えないほど軽快な動きでACのコクピットへ621を運ぶ622。しかしかなり無理をしていたのか、621をコクピットに座らせると同時に糸が切れたかのように崩れ落ちて気絶する。
《レイヴン、椅子の後ろに救急キットがあるようです。それを使えば何とかなるかもしれません。》
自分に寄りかかるように倒れてきた622を支え、自身を濡らす622の血の感触に戸惑っていると、エアの言葉が頭の中で響く。その言葉を受け取り、622の負担にならないように後ろ手でなんとか救急キットを見つけて開封。最初に触れたものを取り出した。
《これは……止血剤のようです。使い方は──》
どうやら1発で今の状況に1番必要なものを引き当てたようだ。自身も調べながら説明しているからか、所々途切れるエアの説明を聞きながら622の応急処置をする621。
《ひとまずこれで大丈夫でしょう。ですが早急に適切な治療をしなければいけません。そのためには……。》
「ここを、出る。任せ、て、ここからは、私、の出番。」
622を支えながら621は操縦桿を力強く握りしめる。その瞳は621となってから初めてと言ってもいいほど力強い。
621だってここまで来るのに何も思ってないわけはない。622が撃たれた時はゾワッとしたし、ウォルターが残ると言った時は言葉に出来ない何かを胸を内に感じた。そして今はそれらの感覚が混ざり合って、アーキバスの連中に対してどこかムカムカしたような感覚が自分の中で絶えず沸き上がっている。
《機体に座標情報が入力されています。脱出の手引き……ということでしょうか?》
「じゃあ、そこ、行く。」
《分かりました、サポートはお任せください。》
システムを戦闘モードで起動させ、ACが立ち上がる。そして時間が惜しいと言わんばかりに621はACのブーストを噴かせ、すぐ近くにいたアーキバスの見回り兵を軽く蹴散らしながら下水道を一気に駆け抜けるのだった。
621……最後の最後まで何も出来ることがなかった事実に何か思うところがある様子。手ぐらいは動かせるので、もし拳銃を持っていたらオリ主が撃たれた時点で警備員に向けて発砲していた。
ウォルター……再び確保され、然るべき処置を受けた後、ファクトリーへ輸送された。
エア……621の脱出経路などを探索している最中に見知った顔が自力で脱出していて二度見した。その後慌てて案内を始めるが、よくよく考えればオリ主は自分のことを知らないので無視される可能性が高く、どうやれば信用してくれるのかと色々考えていたが、すぐに指示に従ってくれて密かにホッとした。
警備員……施設に送る前のスキャンである程度の身体能力などを調べていたのに、オリ主による自身の筋肉量に見合わない人外の膂力で自力脱出された。結果的に2人も逃してしまい、アーキバスの看板に泥を塗ったとされて監督役はそのまま自身が収容されることになった。
……正直ハッピーエンドを期待した人には申し訳ないと思ってる。でもこのゲームはフロムなんだ。
今回投稿したことで次投稿までまた数ヶ月程経つんだろうなぁ〜と思っている皆さまのために〜。
最終話含めた残り3話、毎日投稿します。