殴りあえルビコン   作:フドル

18 / 20
前話でこの再教育は解釈違いですって言われなくて密かにホッとしている私です。

長くなるので前半のオリ主視点と後半の三人称視点を分けました。


その犬狼、外れた首輪のリードを見つめ──

 目を覚ませば知らない天井でした。なので取り敢えず知らない天井だと呟く。それから何故こんなところで寝ているのかと記憶を思い返していき、ある程度思い出したところでかけられていた布団を蹴飛ばして飛び上がるかのように立ち上がる。

 

 その際に撃たれた箇所から激痛が発生。思わず痛む箇所を手で押さえて膝をつく。しかしやむを得ないとは言え、助け出せずにあそこでウォルターを置いていった罪悪感に比べればこの程度、耐えれるはずだ。

 

 痛みで脂汗が垂れるが、歯を食いしばって立ち上がる。そして今更だが状況把握を始める。

 

 この部屋や、目覚めたばかりの状況から考える限り、途中で力尽きてアーキバスに再び確保された線はないだろう。もしそうだったのなら、オレは死んでいるだろうし、生きていたとしてもこんな清潔感のある部屋に置かれるとは思えない。

 

 なので無事に脱出は成功したのだろう。正直に言うと下水道に入って暫くした辺りから記憶が無いので621を無事にウォルターが用意したACまで送り届けることが出来たのか分からないのだ。案外オレは途中で力尽きてそこからは621が自力でACまで移動。脱出の前にオレを回収したパターンかも知れないし。

 

 なんて思考が脱出のことに向き始めたので頭を振ることでキャンセルする。今オレがすることはウォルターの救出だ。原作の流れ的にこの場所は恐らくカーラ達『RaD』の拠点の一つだろう。ならAC一機ぐらいはあるはず。それさえ借りれればウォルターを助けに行くことは十分可能だ。

 

 誰か人が近くを通れば……と考えていたところで足音と車輪の音を耳が捉える。進行方向的にこちら側に来てるのは確定なので、扉の前を通るタイミングで声をかければいいだろう。

 

 が、足音はオレがいる部屋の扉の前で止まった。そのことからどうやらオレの様子を見に来たようだ。

 

 しかしここで実は助けたのがカーラ達ではない別の陣営でした。なんてパターンがあるかもしれないので、最大限の警戒だけはしておく。

 

 まぁ扉の先から現れたのはカーラと621だったので、その心配は無用だったわけだが。見知った人物達の姿にホッと息を吐いてオレは警戒を解いたのだが、それがいけなかった。

 

 オレの姿を見た621が突進してきたのだ。しかも速い。予想外のスピードに加え、オレは警戒を解いたばかりの無防備な体勢。621に気付いて咄嗟に動こうにも傷が痛んで満足に動けない。よく見たら車椅子が電動で動くように改造されてるじゃんと、どこか的外れなことを考えながら、オレは甘んじて621の抱擁という名のタックルをくらうしかなかった。

 

 

 傷口というウィークポイントにタックルをくらい、痛みで白目を剥いてそのまま気絶したくなるが、621の前でそんな真似はしたくないので意地で耐える。

 

 そして痛みで震える手を621の背に回してやれば、621はそのままぎゅうぎゅうと抱き締めてくる。それによって継続ダメージが発生しているのだが、なんとなく621が不安がっていることがわかったので止めたくても止めれなかった。ふっ、この程度の痛み、耐え切って……ごめん、やっぱ辛ぇわ。

 

 口は抱きしめられた際に621の身体によって物理的に閉じられているので、手で背中を軽く数回叩いてギブアップを示したのだが、むしろ抱き締めは強くなるばかり。

 

 そりゃ621もエアもタップがギブアップを意味するなんて知らないよなぁ……。あれ?もしかしてこれ詰んだ?

 

 無理矢理脱出すれば621が怪我するかもしれないし……なんて考えている内に息苦しさと痛みで身体がピクピクし始め、これヤバイと真面目に考え始めたところで621の後ろで様子を見ていたカーラに救出された。

 

 流石にこれで終わりは冗談ではないので感謝である。621から解放されたのでオレが先程まで眠っていたベッドに腰掛け、カーラにお礼を言えば、カーラはなんてことはないと言わんばかりに手をヒラヒラとさせる。

 

 そしてオレが目覚めたのならサッサと本題に入ると言わんばかりにカーラは近くの椅子を引っ張ってきてオレの前に座った。

 

 語られた本題は今後の流れが主だ。オレ達は原作より1ヶ月も早く再教育センターから脱出しているので、アーキバスはまだ技研都市に放棄されていたバスキュラープラントの修復を終えていない。

 

 なのでひとまずはその装置の完成を待つのだそう。恐らくは原作と同じでコーラルを一点に纏めたところを消し飛ばす算段なのだろう。その話をした後にウォルターが隠し持っていたアレがあれば待つ必要なんてなかったのにとカーラがボソッと呟いたので、本来の計画はウォルターのACであるHAL826でコーラルを焼く予定だったのかもしれない。ますます自分の慢心で捕まったことによる罪悪感が嵩むぅ……。

 

 ま、まぁ?ここからオレがウォルターを救出すれば万事解決だし?話を聞く感じだと1ヶ月は特に予定が無い感じだから救出に動く時間は十分にある。

 

 ってことでウォルターの救出に行ってくるからAC貸して?とカーラに言ったのだが、帰ってきた答えはNO。借り料金とかの諸々の金は全部払うと言ってもNO。それどころか、カーラはオレ達に向かってウォルターはもう死んだものとして扱えなんて言ってきやがった。

 

 放たれた言葉を理解した瞬間、オレがカーラの胸ぐらを掴み上げたのは仕方のないことだと思う。傷口を殴られてすぐに振り解かれたけど。

 

 それでもウォルターが死んだなんて確認もしていないのに無責任なことをほざくなと叫びたかったが、オレだって否定出来なかった。原作では洗脳されてたとはいえ、まだ生きていた。しかしここではオレの手引きで原作にはなかった脱走をしているのだ。何をされていてもおかしくない。二次創作でそこそこある原作の修正力はここでは機能していないことはヴォルタの生存が証明している。

 

 こうなったのは自分のせいだとしっかりと自覚してしまい、ストレスによって込み上げてきた胃液が口から漏れ出ないように片手で押さえる。まだ621に対しての人質として有効だとか、HAL826という技研ACの搭乗者だから大丈夫などとオレにとって都合のいい考えを並べようとするが、カーラはそんなことは知らんと言わんばかりに正論をぶつけてくる。

 

 オレもなんとか言い返そうとするが、仮にも組織のトップであるカーラに口で勝てるわけがなく、ズタボロに言い負かされた。

 

 完封された敗者であるオレはベッドでうなだれ、勝者のカーラは後味が悪そうに621とともに部屋を去っていった。

 

 そこからの日々は早かったと思う。ウォルターがいなくなったと理解した今、何かをやろうとする気が全く出てこないのだ。最低限の運動やストレッチはしているが、それ以外は最初に目覚めた部屋でジッとしているだけだ。

 

 この世界に転生した当初はACに乗りたいとしか考えてなかったが、いつの間にかウォルターのためにという前文がつくようになっていたらしい。これが数多のプレイヤーをハウンズに変えたウォルターの力かとどこか他人事のように考えて笑ったりもした。

 

 身体能力の維持以外はほぼ無気力状態となったオレだが、621は毎日様子を見にきてくれた。どうやら621は既にウォルターのことに関しては自分の中で折り合いをつけているようだ。

 

 その傭兵らしい姿が羨ましく、同時にウジウジしている自分が醜く見えて嫌だった。会話の最中はいつも通りの表情を出来ていたと思うが、表情が崩れていた時もあったかもしれない。

 

 そしてカーラ、彼女とはあれから話していない。といっても、カーラは組織のトップなので用件があってもそれが些事ならわざわざ自分から伝えに来ない。ACが必要な仕事を依頼する時は本人が来るが、オレのACは未だにアーキバスが所有している。つまり自分のACがないオレに仕事の話が来ることはない。なのでカーラとオレの間に話をする機会がないのだ。仮にACがあってもオレは怪我人なのでカーラも仕事を依頼してくることはないと思うけど。

 

 それでも働かざる者食うべからずなのか、怪我人でも出来る細々とした仕事がチャティ経由で来る。最初は倉庫の備品整理から始まって、怪我の痛みがマシになった現在ではガタが来ていそうなMTに乗って物資の搬入などの手伝いだ。

 

 なんでガタが来ているMTなんだと文句を言いたいところだったが、新品だったりするとオレが脱走してウォルターを助けに行くとでも考えたのだろう。正解である。

 

 そんな生活を2週間程度続けたとある日、その日は待機を命じられていたので部屋でジッとしていたのだが、昼前頃にカーラの指示を受けたRaDのメンバーがやって来て共に行動することとなった。向かった先は外で、そこには多数の輸送ヘリが準備が出来次第次々と空へと飛んでいく光景が広がっていた。

 

 その内の一機に乗り込み、向かった先はザイレム。つまり、これからルビコンの未来が決まる最後の戦いが幕を開けるわけである。

 

 

 

 輸送ヘリから降り、案内された部屋で前と同じようにジッとする。オレをここに運んできた以上、何かしらの役割があるのは分かりきっている。仮に何もなかったとしても、暫くすればアーキバスが襲撃してくるのでその混乱に乗じて適当な機体に乗り込むつもりだ。

 

 そんなことを考えている内に、準備が終わったのかザイレムは高度を上げ始める。どんどん遠ざかる地上の景色を、どこか他人事のようにオレは眺めていた。

 

 

 

 それから暫くして、アーキバスが襲来した。部屋の外では爆発による振動や、銃撃の音が絶えず響き渡っている。RaD勢に渡されていた通信機からは常にメンバー達の状況報告が行き交っている。

 

 だけどそれらにオレの意識が向くことはない。オレの意識は、眼前で拳銃をコチラに向けているカーラに向いているからだ。

 

 何故こうなったのか?その理由は単純で、621……レイヴンが裏切ったからだ。カーラはアーキバスに金を積まれたなんて言っているが、表情的に自分でもそれが裏切った理由ではないと分かっていそうだ。

 

 話を戻すが、なんでカーラがオレに拳銃を向けているのかと言えば、まぁ裏切る可能性のある奴に背中を任せることは出来ないということで、オレの選択を聞きにきたらしい。621はどうあれカーラの敵である選択をした。じゃあまだ味方も敵も選択していないオレは?といったところ。

 

 だけどオレの答えを聞く前にカーラは拳銃を下げた。その行為を訝しむオレに対して、カーラは外部要因で選択をされてはそれこそ信用出来ないとのこと。

 

 そして最後にオレの選択の手助けになるようにと一つのUSBメモリをオレに渡し、次に会う時は味方であることを願っていると言って部屋から出ていった。

 

 

 カーラがいなくなり、再び部屋で1人になったオレは、カーラから渡されたUSBメモリをジッと眺めていた。正直に言えば、オレはこの後の行動を決めあぐねている。

 

 621が解放ルートに行ったことから、ウォルターの意志を継ごうとすれば確実に敵対する。それは嫌だけどウォルターの意志を……彼が友人達から受け継いで今度はオレ達に託そうとするその意志に背くようなことはしたくない。

 

 そんなオレの迷いを断ち切ってくれる可能性があるのがこのUSBメモリ。興味を惹かれ、近くにあったパソコンを起動させてUSBメモリを差し込む。

 

 表示された情報は驚愕に値するものだった。メモリに入っていた情報は、ウォルターのここに来てから今までの様々なプランだった。

 

 この依頼はオレ。あの依頼は621。その依頼は2人。全ての依頼にどちらか、または両方が負傷で離脱した場合のリカバリー案もあった。だけどオレ達が死亡によって欠けたリカバリー案やその後の立て直しプランは何処にも無かった。ウォルターの立場なら絶対に考えているはずなのに、考えてなきゃいけないのに、何処を探しても見つからなかった。

 

 全滅の場合はもう手がないのが分かる。だけど片方が欠けたパターンが無いのは不自然だ。

 

 なんで?などと理由を予想してみるが、ウォルターがオレ達が死ぬと思ってなかったみたいな自己肯定感が上がりそうな予想しか出てこない。

 

 そんな自分に呆れつつ、でもウォルターの性格的にありそうだからと誰に向けてか分からない言い訳をしながらも画面をスクロールする指は止まらない。そしてページの1番下へ到達した時、ウォルターからオレと621に向けたメッセージが残されていた。

 

 メッセージは淡々としたものだった。コーラルの危険性や、それの対処法。友人達から受け継いだ遺志を今度はオレ達に託すこと。そしてオレに対する謝罪。オレは少しウォルターにゾッコン気味なので、こうなった場合は荒治療を施すようにカーラへお願いしていたらしい。だからカーラはあの時オレに向けてウォルターは死んだと思えなんて言ったのだと理解出来た。それでも傷口を殴った件は文句を言いたいが。

 

 メッセージが終了し、先程よりか銃撃音や爆発音が静かになった部屋でゆっくりと目を閉じる。

 

 オレの選択は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 歩行者用の通路を1人歩く。チャティによれば、この先に進めばオレ用にカーラが用意したとっておきのものがあるらしい。それを教えてくれて、道案内をしてくれていたチャティの無線も、数分前にビジターが来ると連絡が来てから今ではノイズが鳴るばかりである。

 

 外は621が暴れていたからなのか、アーキバスとRaDのものと思われる残骸がそこら辺に散らばっている。まぁ、全滅させてくれたから流れ弾が通路に当たる可能性の恐怖を味わうことなくゆっくり歩いて行けるんだが。

 

 入念に身体を動かしながら不調がないかを確かめつつ進む。1ヶ月近くもあれば傷もある程度は治っており、痛みはあっても操作に影響が出るということはないだろう。

 

 そんなことを考えながら歩き続け、分かれ道に辿り着いた。チャティの案内がないのでどちらに進むのが正解かわからず、とりあえず決める方に進もうと考えた時、頭上のスピーカーからカーラの声が響いた。

 

 とはいえこれは録音。ただの道案内で、オレにとっては最後の選択らしい。左にいけば安全にザイレムから退散出来て、右に行けば戦う道具があると。

 

 オレは迷いなく右を選択。決めてからここに来たんだ。今更迷うつもりはない。

 

 

 

 暫く歩き、辿り着いた格納庫。格納庫というには小さくて、一機だけしか収容出来ない大きさだ。そしてその一機が、オレが乗る機体ということだろう。

 

 格納庫に鎮座する機体は、見覚えのある機体だった。それもそうだろう、その機体はかつてオレがカーラに作れるかどうかを聞き、金額の高さから取り下げた機体だからだ。

 

 しかし疑問が残る。時期を考えればオレがカーラに案を出したとほぼ同時に製造に乗り掛からないと間に合わないからだ。既存のパーツはないので一から造らないといけないし、コイツ用のOSも組まなきゃいけない。そしてテストして出た不具合の修正などやることが沢山だ。

 

 疑問を持ちながら機体に乗り込む。コクピットはACと同じだったので、少し慣らせばなんとかなりそうだ。

 

 機体を起動させれば、システムが立ち上がると同時に再びカーラの声が響く。どうやらこれも録音で、内容はこの機体が出来た経緯とオレが今からやるべきことのブリーフィングだった。

 

 全てを聞き終え、機体の稼働音だけが静かに響く中、ゆっくりと深呼吸する。

 

 ……行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここにいるってことはどうやら、あんたも選んだようだね。良かったよ。この機体に驚いているかい?あんたに話を聞いてからウォルターに話せば、費用を全額出してくれたよ。ビジターは再手術があるが、あんたにはそんなものはないからね、その代わりなんだそうだ。プレゼントでも貰ったと思っておきな。

 さて、事前に録音したのはここまでだ。ここからは現状について話そう。だけどこの録音が再生されているってことは、私は既にこの世にはいないはずだ。そういう条件にしてあるからね。なかなか設定が面倒だったよ。

 それはともかく説明に戻ろう。正直、状況はかなり不味い。アーキバスに加えてビジターも敵に回った。うちの部下どもじゃあどうしたって止めれそうにない。いざとなればチャティにザイレムの操縦をロックしてもらう手筈だが、それも動力部やラムジェットエンジンを破壊されればお終いだ。

 そこであんたの出番だ。あんたはチャティが押すザイレムをバスキュラープラントまで送り届けてもらいたい。だけど流石に私もそのままあんたに死ねと言うつもりは無い。……ここだ。ここがザイレムの阻止限界点だ。ここを通り過ぎれば一撃で粉々にでもされない限り、ザイレムはバスキュラープラントにぶつかる。だからそこまで守ってくれればいい。

 心配しなくても私が組み立てたその機体なら、阻止限界点を抜けてもスペック上はその後巻き起こる『アイビスの火』からも逃げ切れるはずさ。

 ……少し話が長くなったね。最後に私からあんたに言葉を送ろう。

 

 火をつけな、燃え残った全てに。

 

 地獄からでも見えるド派手な花火を期待しているよ。』




オリ主(覚悟完了。)

621……解放戦線の者たちとある程度触れ合って蟻んこ程度の情もあったので、エアのお願いを聞き入れた。お願いすればオリ主も手伝ってくれると思っている。

カーラ……損な役割をウォルターに任されて不満。オリ主にメモリを渡したあと、自分で道を決めろなんて言っときながらあれを渡した時点でこっち側につけと言ってるもんじゃないかと自己嫌悪。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。