殴りあえルビコン   作:フドル

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そのログ回収、差異があり。

 ヴォルタを指定された地点にお届けし、寄り道せずに即座に帰還。帰ってきたら621がACごと居らず、格納庫はがらんとしていた。

 

 時期的にまたミッションに行っているんだろうなぁと考えながらACを駐留。ウォルターに帰ったことを知らせるためにコクピットから降りようとしたら、COMから新着メッセージが一件と知らされた。

 

 どうせ差出人はヴォルタだろうなぁ……。冷静になって考えれば気絶させるためにいきなりパイルバンカーをぶち込んでくるってどう考えても頭がおかしいもんなぁ……。

 

 今回は明らかにオレが悪いので大人しく怒られよう。降りるために浮かしかけていた腰をしっかりと操縦席に落ち着け、メッセージを開く。

 

 ……あれぇー!?オールマインド!?オールマインドじゃないか!?AIなのに穴がありまくりなガバガバな計画で621が協力してくれなきゃ達成出来ず、協力があっても急にオリチャーを繰り出したり、相手の実力を見間違えて勝手に危機になるオールマインドじゃないか!

 

 そんなオールマインドが何故?と思えばオレのここ最近の活動によって実力を上方修正。その結果、アリーナの参加資格を得たらしい。

 

 奮ってご参加くださいと言葉を残してメッセージが途絶え、その次の瞬間にはオレはアリーナを起動していた。

 

 ランクはFの最下位。まぁ、当たり前だろう。ここがどういうものかという説明を流し読んだ後、即座に対戦相手を選択する。

 

 今の気分を説明するならば、いきなり玩具を与えられた子供だろうか。対戦できる相手は少ないけど気にしない。とことん遊び倒してやるぜー!!

 

 

 

 

 ……はい、ウォルターに怒られました。そうだよね、徹夜はダメって少し前に言ったばっかりだもんね。

 

 いつの間にか帰ってきていた621に見守られるなか、自主的に正座をしたオレの前に立つウォルターのお言葉に耳を傾ける。

 

 でも言い訳をさせて欲しい。アリーナが悪いんだ。あんなに楽しいものを与えられたら、やめ時がわからなくなる。しかも技量の向上も出来て少額だけどお金も手に入る。いいことだらけじゃないか!

 

 選択可能な範囲の相手を全て倒したあとはAC操作の練習にあてた。今は相手の近接攻撃をそのまま利用して相手にぶつけ返す練習に熱中している。

 

 練習相手はラミー。相手が装備している大型のチェーンソーを腕を取ることで向きを強引に変え、上手く相手のコクピットに当てれた瞬間は最高だった。

 

 でもこれは正直ボツかな。武器によっては腕を取って誘導しても構造的に相手に当たらない時がある。狙える時は狙って、それ以外は武器の破壊を狙ったほうが良さそう。いや、武器を狙うよりいつも通りコクピットを狙ったほうが早いわ。

 

 ほわほわと思考がアリーナでの練習に流れていく。次はああしよう、それが出来たらこうしよう。次々とやりたいこと、思いついたことを頭の中で積み上げていくと、ウォルターがコンっと杖で軽く床を突いた。

 

 人間だったら気にしない小さな行動だけど、獣人で耳が良いオレにはそれで十分。今がどんな状況なのかを思い出したので素早く緩みかけていた背筋をピンと伸ばし、ウォルターに話はちゃんと真面目に聞いていましたよと澱みのない澄んだ眼差しを向ける。

 

 実際話自体はちゃんと聞いていたのでこの行為は間違いではない。ウォルターにもそれが伝わったのか、小さくため息を吐くと話はこれで終わりだと言うことと、明日のお菓子をいつもより少なくすることを告げた。その直後にオレがウォルターの腰に縋り付いて慈悲を求めたのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 結局許してもらえなかったのでいつもより少なくなったお菓子を大切に食べていると、ウォルターから呼び出しを受けた。まさか明日のお菓子も少なくなるのかとビクビクしながら彼の元にいけば、どうやら『壁』のことで聞きたいことがあるらしい。

 

 その理由は、武装採掘艦ストライダーを『破壊』した621がその功績を持ってアーキバス主導の壁越えに参加するらしい。オレを呼び出したのは、アーキバスが提供してきた壁付近の地形をより鮮明にしたいから。

 

 お菓子没収ではなかったので、快く快諾。ウォルターにアーキバスが提供してきた地図とやらを見せてもらい、地形の確認をする。ウォルターはオレが『壁』に向かった際にレーダーを見ていたはずなので既に知っていると思うけど、一応オレが街区に侵入した経路と砲台が配備されていた場所をヴォルタが暴れたから多少変わっているかもしれないと前置きをしてから追加で教えておく。

 

 ウォルターからお褒めの言葉と頭撫でを報酬に頂き大変満足したその数日後、621は壁越えを果たすべく出撃していった。オレ?オレは行かないよ。アーキバスに対して実績とか何も無いし。……G4を数回倒しましたって言えばいけたのかな?

 

 

 

 

 

 『壁』陥落。後に戦闘ログを確認させてもらったけど、621はゲームの時と同じようにアーキバス・コーポレーションが保有するAC部隊、ヴェスパー。その1人であるV.Ⅳのラスティと共闘して解放戦線の切り札、ジャガーノートを撃破した。

 

 流石に化け物級の射撃の腕を持つ621でもジャガーノートの正面装甲には苦戦したようで、ラスティが戦闘の途中で増援の報を受けて離脱するまでにジャガーノートを破壊することは出来なかったようだ。621でも苦戦することがあるんだなと密かに安心したのは内緒である。

 

 『壁』が陥落したことで解放戦線は撤退。アーキバスが『壁』を掌握し、新たな調査拠点にしたことで活動範囲が増加。それに伴いお仕事も増えた。

 

 というわけでお仕事である。今日のお仕事はウォルターが持ってきたベイラムからの依頼で、『壁』を防衛しているアーキバスの主力部隊が配置換えをする間に、今回の壁越えでヴェスパー部隊のラスティと交戦して撃破された機体の残骸から戦闘ログを収集してこいっていう内容だ。

 

 これゲームのミッションじゃないですかやだー!と、内心で叫んだオレは多分悪くない。ウォルターにどうしてこれをオレにと聞けば、たまには戦闘以外のこともしておけと返ってきた。

 

 全くもってその通りなのでブリーフィングを確認すれば、やっぱり時間制限付きである。ついでにブリーフィングの音声の人に要約すればすばしっこいお前に適任な依頼だと言われた。

 

 うーむ、ベイラムに限っては621より知られちゃってる気がする。いや、理由はわかってるよ?ヴォルタとかヴォルタとかヴォルタとかでしょ?ヴォルタだけじゃねーか。

 

 ともかく、依頼は来たし、ウォルターからも行ってこいと言われた。拒否する理由なんてないので出撃である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォルター、ついたよ。」

《確認した。安全に撤退することを考慮すれば、作戦時間は4分あたりを目処にしておけ。》

「了解。遭遇したMTはどうしたら良い?」

《622、お前の判断に任せる。》

 

 少し前まではルビコン解放戦線が保持し、現在はアーキバスが掌握している『壁』。その付近にて622が搭乗するACが着陸する。

 

《通信の妨害を入れた。これで今この場にいる連中が主力部隊に連絡を入れたとしても、奴らが急行してくることはないだろう。》

「ありがとう。行ってくる。」

 

 主力部隊側から連絡を入れられれば異変に気付かれるため話は別だが、その可能性は低いだろう。彼らからすれば次にこの場を守る者達に引き継ぎ作業を行っている間の出来事である。その僅かな時間に襲撃を受けて残った仲間が救援を求めているなんて、仮に考えていたとしても頭の片隅程度のことだろう。

 

 622はブーストを使用。ホバー移動で雪原を駆ける。暫く進むと未だに炎を出しながら倒れ伏す残骸を見つけるが、その周囲にMTが数機立っていることに気付いて近くの岩に身を隠す。

 

 622は今回の依頼を完全ステルスで遂行しようとしていた。ゲームでは確定で見つかるが、リアルならもしかすればいけるかも。某ステルスゲーのカッコイイ蛇のおじさんのように依頼を達成する自分の姿を思い浮かべ、行動したのだが……。

 

「面倒。」

 

 その数秒後、残骸から離れるどころか長そうな話をし始めたMTパイロット達を見ていた622が、どれだけステルスをしたとしても全部背後から仕留めないと残骸から戦闘ログを取られた際に結局バレると気付いた際の発言である。

 

 脳内のバンダナを巻き、カッコよく依頼を達成する自分の姿をどこかに放り投げ、無駄にした時間を取り戻すためにクイックブーストを使用。岩陰から飛び出すと同時にアサルトブーストを起動させ、一気に加速する。

 

『なっ!?て──』

 

 622がいる方角に機体を向けていたパイロットがすぐに622の存在に気付き、周囲の味方にそれを伝えようとするが、その言葉は最後まで言い切れず、言葉の途中で黙れと言わんばかりに至近距離まで近付いてきていた622がそのコクピットにパイルバンカーを押し付ける。

 

 しかしそこで止まらない。そのMTにパイルバンカーを押し付けたままアサルトブーストを続行。直線上にいた622に背中を見せているMTの元まで飛び、そのガラ空きの背中に運んできたMTを勢いよくぶつけた。

 

 鳴り響く轟音。いきなり襲ってきた衝撃に背中を向けていたパイロットは体勢を崩し、倒れる機体のなかで大慌てで状況把握をしようとするが、それよりも早く622がパイルバンカーを起動させた。

 

 打ち出される鉄杭。それは重なっていた2機のMTを無情に貫き、爆散させた。MT同士がぶつかった音よりも更に大きな音は周囲に異常を知らせるには十分だったらしく、周囲に残っていたMT達が622の方向へサーチライトを向ける。

 

『所属不明ACが一機!』

『撃て!絶対に逃すな!』

 

 622の存在に気付き、マシンガンを放ってくるMT。それを今し方仕留めたMTで防ぎながら622は再びアサルトブーストを使用。近い位置にいるその2機の片割れに、速度が乗った蹴りを放つ。蹴りはMTのコクピットを容易に押し潰し、中のパイロットを圧殺する。

 

『こ、このぉ!ぐぅ!?』

 

 それを間近で見たパイロットは後退しながらマシンガンを放とうとするが、それよりも前に622が潰したMTが持っていたマシンガンを投げつけた。

 

 命中したことで発生する一瞬の怯み。その間に622は接近し、向けられていたマシンガンを殴り飛ばす。

 

『畜生!』

「……お見事。」

 

 だが次のMTパイロットが取った行動に、拳を作って殴りかかろうとしていた622は思わず称賛の声を漏らした。武器を無くしたパイロットは右肩を前方に構えた状態でブーストを全開。俗に言うショルダータックルを622に繰り出してきたのだ。

 

 やぶれかぶれの攻撃は、決して正しいとは言えない。今回の場合、彼は自分が直後に死ぬとしても通信でこの場にいる者達に622の存在を知らせたほうが正しかったのだろう。しかし622からすれば、最後まで抵抗し、生き残ろうとする選択を選んだこのパイロットのほうが、人らしくて良いと思った。

 

 このパイロットは企業じゃなくて傭兵のほうが性に合っていたかもしれない。そんなことを考えながら622は殴りかかるのをキャンセルして突進してくるMTを躱し、通り抜けざまに足を引っかける。ブーストを全開にしていたこともあり、足を引っかけられたせいで前方に大きく体勢を崩したMTは姿勢制御が間に合わずに転倒する。

 

 雪を巻き上げながら転倒したMTはすぐに立とうとするが、近付いた622が上からコクピットを狙って踏みつける。一度目、立ち上がろうとしたMTは再び地に伏した。二度目、少し凹み始めていたコクピットまわりの装甲が盛り上がった。脱出レバーを引いたのだろうか?押し戻すように踏みつける。三度目、ACの足裏の形の凹みが出来た。MTはもう動かない。

 

《622、やるべきことを忘れるな。》

「……わかってる。ごめんなさい。」

 

 何度もMTを踏む622の姿はウォルターからすると遊んでいるように見えたのだろう。時間が限られている依頼でそんなことをしている場合ではないと622を嗜めた。

 

 それに対して622はポツリと呟くように謝罪をするが、その謝罪はウォルターにではなく、今潰されたMTのパイロットへ向けたものだ。

 

 正直に言えば、622はMTパイロットの抵抗が嬉しかったのだ。ショルダータックルを見た時に脳裏によぎったのはヴォルタとの殴り合い。またアレと似たようなことが出来るのかと期待すらした。

 

 それ故の数回に渡る踏みつけ。このパイロットならきっと抵抗してくる。そう思ったからこそ行った行為だったのだが、622は失念していた。

 

 まず機体性能が違う。そして彼はヴォルタとは違う。ヴォルタは無様にやられる自分に怒り、反撃してきたのに対してこのパイロットは死にたくないやぶれかぶれの抵抗だ。明確な殺意を持って繰り出したのと、何とかなぁれと繰り出された攻撃では天と地ほどの差がある。

 

 結果として、622の行為はこのパイロットを無駄に怖がらせただけだ。二度目の踏みつけ時に彼は脱出しようとしたのだろう。脱出レバーを引き、それが不発に終わった時の心境はどうだったのか。

 

 だから622はせめてもの謝罪を送る。すぐに殺せるのに遊ぶような真似をしてごめんなさいと。

 

 沈黙したMTを申し訳なさそうに一瞥し、622は依頼を遂行すべく残骸へ向かう。意識は既に切り替えられており、その顔は良くも悪くも傭兵としてのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで5つ目。」

 

 邪魔なMTを蹴散らしていき、622は黙々と戦闘ログを集めていった。依頼の目標である数も丁度今集め終え、最低限の目的は達した。

 

《まだ時間があるが、どうする?》

「……まだ谷底にもありそうだから取ってくる。」

《わかった。しかし残された時間は少ない。気を付けろ。》

 

 ウォルターからの忠告を聞きながら622は谷底に飛び降りた。谷底で敵と鉢合わせないようにスキャンを数回行い、安全を確保してから着地する。

 

 そのまま周囲を見渡せば、2機の残骸が倒れていた。残された時間は少ないので可能な限り素早くその片方に近付いて戦闘ログを収集。そしてもう片方の戦闘ログも収集……完了。

 

「んー?」

《どうした?何かあったか?》

「いや、気のせいみたい。」

 

 何事もなく戦闘ログを回収出来たことに622は首を傾げた。ゲーム通りなら谷底にある残骸の片方にアクセスした時、リトル・ツィイーという解放戦線所属のAC乗りに恨みマシマシで襲われるのだが、その気配がない。

 

 この世界では621が多重ダム襲撃の依頼でイグアスとヴォルタを撃退したため、本来ならこの依頼は存在しない。その代わりに解放戦線からの捕虜救出の依頼が来るのだが、ツィイーはそっちでも登場している。

 

 もしかしたらもう既に捕虜になってあっち側にいるのかもしれない。AC戦をするつもりで谷底に降りてきた622からすれば少し不服だが、いないものはどうしようもない。

 

《622。そろそろアーキバスの主力部隊が戻ってくる。戦闘ログもそれだけ集めれば十分だろう。仕事は終わりだ、帰還しろ。》

 

 そうしているうちにウォルターから時間切れの連絡が来る。622は釈然としないままアサルトブーストを起動し、アーキバスの主力部隊と出会わないように迂回をしつつ、作戦領域から離脱するのだった。




オリ主(アリーナで遊びすぎたかな?ここは戦場、敵は必要じゃないなら素早く殺す、よしOK!)

ツィイー……多分今頃は621に護衛された幼馴染に助けられてる。

このオリ主、必要ないならすぐに殺すことを心に決めましたが、必要ならすぐに殺せるMTを捕まえて生きたまま盾にすることもあります。敵の士気を下げれるからね、仕方ないね。


 ゲームの依頼、捕虜救出のラストでG2が来ることからツィイーを捕虜にしていたのは恐らくベイラム。多重ダムの武力制裁を621に妨害されたからといってベイラムが諦めるとは思えないし、かといって後に多重ダム防衛の任務が来るので再び襲撃したわけではない。他のところに襲撃した際に応戦したツィイーを捕まえた可能性が高いと個人的に考えてます。ドルマヤン捕まってるし……。

 戦闘ログ回収でツィイーが出現するのは、多重ダムで幹部が殺されたことに怒って行動パターンが変化したから説。ここの勢力はアーキバスなので戦闘ログ回収→捕虜救出の任務には繋がらないと思ってます。アーキバスの捕虜収容所にG2が来る理由が分からないですし。案外襲撃予定で来ていた可能性が微レ存?

 ……この分岐考察をするのが地味に楽しくなってきた。
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