殴りあえルビコン   作:フドル

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誤字脱字報告ありがとうございます!

そしてすまない、今回ちょっと長くなった。


その依頼、私的。

 ツィイーが来ないと思っていたらそっちにいたのかい。依頼から帰ってきたら丁度621が解放戦線の捕虜救出の依頼を完了させ、感謝のメッセージを聞いている最中だったのを見たオレの反応がこれである。

 

 ふーむ、どうやら分岐したミッションの両方に登場する人物は片方にしか登場しないみたい。いや、両方に登場して来られたら時間的に分裂でもしないと無理だから当たり前なんだけどさ。

 

 まぁ、おかげでオレはツィイーと戦うことにはならなかった。解放戦線から結構ヘイトを買っている自覚はあるからね。主にばら撒き依頼で何度も敵対しているし……。流石に多重ダム防衛のお手伝いをした程度ではオレの評価が変わることはないと思う。

 

 そんな解放戦線からの評価がボロボロのオレとは違って、621は結構良い関係を築いているように見える。現に今も解放戦線から連絡が途絶えたBAWS第二工廠の様子を見てきて欲しいって依頼が来ていた。

 

 明らか一悶着ありそうな依頼にウォルターは少し悩んでいたけど、結局受けることにしたようだ。様子を見るだけという言葉を信頼したのか、武装はオレが予備として買っていたパイルバンカーのみを装備した軽量二脚という、オレからすれば見覚えしかないアセンブル。それで準備万端と言う621をウォルターがそれはやめておけと止める一悶着が早速あったものの、最終的に戦闘があることを踏まえてしっかりと武装した621は元気に出撃していった。

 

 それにしてもそれはやめておけってどういうことなのか。ウォルターの背後からジト目で問い詰めるように見詰めれば、オレの視線とそれに含まれている意図に気付いたウォルターは、オレみたいな眼を621は持っていないと答えた。

 

 なんやかんやウォルターはオレの戦闘スタイルを認めてくれているので、その普通なら考えないアセンブルは止めろみたいな理由ではないと思っていたが、思っていたよりしっかりとした理由だった。

 

 まぁー、オレはウォルターを信じてたけど? 自分の戦いかたを否定されたように感じ、少しモヤっとしていた気分が晴れたことだし、気持ちもスッキリとしたのでまたアリーナに篭るぞ!戦闘ログ回収の依頼で気付いたけど、自分は蹴りにしか脚を使っていない。なのでもっと脚の可能性を追求したい!引っかけて転倒させることが出来るなら、やりようによってはまだまだ自由度が上がるはず!

 

 しかし度重なる徹夜のせいで、オレを休ませるためにウォルターが決めた就寝時間が近い。だけど気付いたのだ。バレなければ問題ないのでは?と。

 

 一応ウォルターに今から眠ると伝えた後、621のサポートをするために通信室へ向かうウォルターを尻目に忍び足でススーッと自分のACへ近付く。しかし何かに勘付いたのか、突然オレのほうにウォルターが振り向いてきたせいで見つかってしまう。

 

 ウォルターはACに近付いているオレに無表情のまま、言葉を送った。「もう休め」と。

 

 

 

 

 

 

 眠くないから起きていたいとお願いしたら、ACに乗らないことを条件に許可された。だから床に手頃なマットを敷いて寝転んだ状態でパーツショップにアクセスし、色々とパーツを見ながらオーダーメイドって憧れるよなぁなどと考えていたのだが、いつの間にか眠っていたようだ。

 

 眠っている間に掛けられたであろう毛布を捲り上げて起き上がれば、オレが寝ている間に依頼を完了させて帰還していたのかオレの隣で同じように寝ている621がいて、格納庫の端ではウォルターが誰かと通信していた。

 

 それなりに距離はあるけど獣人の耳だと意識すれば聞き取れてしまう距離だったので、プライバシーを考えて耳を頭につけて聞かないようにしたのだけど、オレが起きたことに気付いたウォルターが自主的に通信を切断した。

 

 こちらにやってきたウォルターは、オレによく眠っていたと言いながら近くにあった椅子に座る。正直に言えば毛布を掛けられたことなんて全く知らないので、ウォルターの言う通りによく眠っていたのだろう。

 

 暫く無言の時が流れ、寝起き特有のウトウト感に襲われ始めたのでもう一眠りでもしようかなと考え始めた時、ウォルターが切り出した。

 

 内容は戦闘ログ回収の際にMTを何度も踏みつけたこと。あれをウォルターはオレが傭兵生活にストレスを溜め込み、暴力という形で無意識に発散しようとしていると感じたらしい。オレとしては全くそんなことを感じていないのでそのウォルターの心配は杞憂だ。

 

 しかしウォルターの様子を見る限り、なんだかオレを長期間休ませる方向になっているような感じがする。……これもしかしてずっと黙っていたらそのうち傭兵も辞めさせられる流れじゃないか?

 

 やべぇよやべぇよ。ヴォルタの時みたいな殴り合いを望んだだけなのに、傭兵生活の危機が訪れているよ。

 

 いきなり訪れた辞職の危機に眠気が吹き飛び、この流れを破壊する方法を考えるが寝起きのせいで良い方法が思い浮かばない。こうなれば直球でオレの気持ちをウォルターに伝えるしかない!うぉー!届け!オレの想い!

 

 全身を使ってウォルターにお気持ち表明をすると、少し悩む仕草はしたが納得してくれたようだ。なんとか傭兵生活を守り切ったと内心で汗を拭く仕草をしていると、去ったはずの眠気がお待たせと帰ってくる。

 

 この身体は一度寝るとなれば、急速に眠る準備を整え始めるのが困りものだ。再びうつらうつらし始めたオレを見て、ウォルターから無理に起きようとせずに眠いのなら眠れとお言葉がくる。ここはお言葉に甘えようかと毛布に包まり目を閉じようとした時、ウォルターも椅子に深く座って休む姿勢になったのが目に入った。

 

 どうやらウォルターも休むようだ。しかしオレと621が使っているような毛布が見当たらない。格納庫は空調が効いているので寒いというわけではないが、あったほうが良いはずだ。というわけでオレの毛布を目を閉じていたウォルターに掛ける。

 

 ウォルターが目を開き、オレに何かを言う前にオレは621の毛布に潜り込む。大きな毛布なので子供体型のオレ1人が潜り込んだところで邪魔にはならないはずだ。

 

 ウォルターの抗議は聞かないと言外に示すため、耳をぺたんと頭につける。そのまま目を瞑れば、すぐに眠気がやってきた。眠る直前にウォルターからお礼を言われた気がするが、半ば夢の中に旅立つ途中だったので、気のせいだったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 621の毛布に許可無く潜り込んだせいか、寝ぼけた621に耳を口いっぱいにしゃぶられる事故が発生したが、オレに非があるとオレの脳内裁判が判決を出したので621は無罪となった。

 

 片耳だけ涎まみれなのは気持ち悪いので、シャワーを浴びていればウォルターからメッセージが入る。早速開いてみれば、企業や解放戦線からではない仕事が入ったという内容だった。詳細は既に送っているので621と一緒にブリーフィングを確認しろとのことだったので、頭を洗い終えたあとで格納庫に移動。

 

 既に格納庫にいた621と一緒にブリーフィングを確認すれば、ある友人からの私的な依頼で、『ウォッチポイント』という施設を襲撃してもらいたいらしい。しかしそこは惑星封鎖機構のSG部隊が警備しているので、企業なども表だったの手出しを避けるようだ。

 

 なのでこの襲撃は俺達だけで遂行しなければならない。そう締め括られてブリーフィングは終了した。

 

 ふむふむ、つまりこれは鬼畜ボスのバルテウスが出てくる依頼かぁ。バルテウス君には正直トラウマを感じるレベルのリトライを強いられたので苦手だ。特に火炎放射の薙ぎ払い。あのネットリと追尾しながら薙ぎ払ってくる攻撃に慣れるまで何度死んでエアのクソデカため息を聞いたことか……。

 

 当時のことを思い返していれば、621が早速アセンブルを始めた。何だかいつもより気合いが入っているように感じ、思わず首を傾げそうになったところで気付く。そういえばこれが621と初めての共同依頼だったなと。

 

 多重ダムの時とは違い、初めから一緒に行動するのだ。だから621も張り切っている、と思う。

 

 しかし張り切ってアセンブルをした割にはパーツ以外は大して構成は変わっていない。やっぱり621も慣れた武装が1番ということだろう。パッと見た感じ、パーツは軽量にして速く動くオレに合わせようとしたのだろう。

 

 無表情でオレの方を向いてきた621。その雰囲気が親しい者に自分が考えたものを見せびらかす子供のように見えたので、しっかりと感想を返す。すると他にも見てほしいアセンブルがあったのか、次々と変えてはオレの方を向いてくる。その全てに違う感想を言いながら、オレ達は作戦開始時刻まで時間を潰すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウォッチポイント・デルタ。地中に眠るコーラルの支脈を監視し、かつてはその流量制御も行っていた施設。今は惑星封鎖機構が警備しているその施設に、一機の輸送ヘリが接近していた。

 

《621、622。準備は出来ているか?》

『オレは大丈夫だぞ!代わりに言うけど621も大丈夫だぞ!むしろ張り切ってるみたい!』

『…………!』

《……独立傭兵がたった2機で仕掛けてくるとは惑星封鎖機構も想定していない。行ってこい、仕事の時間だ。》

 

 輸送ヘリの後部ハッチが解放されて、まずは身軽なおかげで速度が出る622のACが投下され、そのすぐ後に準備を整えた621のACが続く。

 

《証拠は残すな。目撃者は全て消していけ。》

『了解。オレは正面で待機しておくから621は後ろにまわって砲台の破壊をお願いするぞ!』

『うん……わか、った。』

 

 封鎖機構のSG達が警邏している場所より少し離れた建物に着地した621に、先に投下されていた622がアサルトブーストを使用して素早く合流し、621に指示を出す。

 

 途中で途切れはしたものの、622の指示に返答した621は建物から降り、下一面に張られた水面を滑るように移動する。それを見届けた622も621と同じように水面を移動するが、すぐに飛び上がって封鎖機構のSGがすぐ近くにいる建物の側面で待機する。

 

『コード15。侵入者を捕捉。』

『敵は……AC単騎だと?どこの所属だ?』

 

 死角から飛び上がり、建物の屋上に配備された砲台の背後に現れた621が、パルスブレードで砲台を斬り捨てた。大破した砲台は盛大に爆破し、周囲に侵入者の存在を知らせる。封鎖機構のSG部隊が621の存在に気付いて排除に動くが、621はそれよりも速く2台目の砲台に垂直式のプラズマミサイルを放った後、チャージを済ましたリニアライフルを発砲した。砲台はリニアライフルの直撃を耐え、お返しにプラズマ砲を放とうとするが、発射されていたプラズマミサイルが時間差で着弾。流石にこれは耐えきれなかったのか、内部から炎を噴き出して沈黙した。

 

『詮索は後にしろ。まずは迎撃──』

 

 突如現れて瞬く間に2つの砲台を破壊した所属不明機がどこの手のものか詮索しようとするパイロットを、周りより少し高い建物から状況を見ていたパイロットが注意しようとしたが、その声は途中で途切れ、注意の声の代わりに破壊音が通信越しに響き渡る。

 

『もう一機……だと。』

 

 そのパイロットが担当していた場所をみれば、そこにはもう一機のACがSGをパイルバンカーで貫いていた。背後からコクピットを貫かれたSGは二度と動かず、鉄杭を引き抜くために足蹴りされ、その拍子に建物から転落して視界外へと静かに消えていった。

 

『コード78。応援を要請。』

 

 これは様子見などではなく、本格的に計画された襲撃だと判断したパイロットが手遅れになる前に冷静に本部へと応援要請を行う。しかし──。

 

『これは……!? 本部と通信が繋がりません!』

《応援は来ない。殲滅しろ。》

 

 ウォルターによる通信妨害によってその応援要請は阻害された。これには冷静さを維持していたパイロットも慌てたようで、通信を回復させようと所属不明ACから目を離してしまう。

 

『馬鹿野郎!こいつから目を離すな!』

 

 そんなパイロットにACと応戦していたパイロットが怒鳴るが、その脇をACがすり抜けた。目指す先は隙を晒したパイロットの元だ。

 

『なっ、あ!』

 

 自分は後方にいたはずなのに、いつの間にか自身の目の前にACがいる。その光景にパイロットの反応が追い付かず、そのパイロットを援護するためにすり抜けられたSGが苦し紛れにミサイルを放つが、間に合わない。

 

『さようなら。』

『ぐぅ!? コイツ……!』

 

 ACがSGのコクピットを殴り、怯んだ隙にその腕を引っ張って自身と立ち位置を交換。そのまま突き飛ばした。装備されているパイルバンカーを使えば確実に殺せたはずなのに、使用しない。それにSGパイロットとしてのプライドが刺激されたのか、少し怒りを滲ませた声を漏らしながら舐めた真似をしたACにレーザーライフルを向けたが、その背中に仲間が苦し紛れで放っていたミサイルが殺到する。

 

 全てのミサイルが直撃し、悲鳴の声すら出せずにSGが爆散する。わざとじゃないとはいえ、仲間殺しをしてしまったことでSG部隊に動揺が走り、そしてそれを見逃す621と622ではない。

 

 622が突進してヘイトを集め、621が622のほうを見たSGを射撃する。そして621がパイロット達のヘイトを集めても、余所見をしてしまった時点で622が接近してくる。これを打破する術をSG部隊は持っておらず、まもなく全滅となった。

 

《敵部隊の全滅を確認した。次のエリアに進め。》

 

 SG部隊だった燃える残骸を前にしてウォルターから新たな指示が届き、621と622は次のエリアへ移動する。

 

『なんだこのACは?歩哨部隊はどうした。』

『コード18。総員戦闘配備!』

 

 堂々と姿を現した2機に封鎖機構のパイロットが即座に戦闘配備を行う。サーチライトが点灯されていき、辺りが明るくなったことで配備された砲台が敵を排除するべく動き出すが、既に目の前にACの片方が接近していた。

 

 打ち出された鉄杭は、容易く砲台を破壊した。その速攻に部隊の視線が引き寄せられ、621を自由にしてしまったことでもう片方の砲台も破壊される。

 

 そこからは先程の再演だ。621を狙えば622が。622を狙えば621が。どちらも突出した能力を持っているため放置することが出来ず、対応を追われたSG部隊は対処が間に合わずに全滅した。

 

 

 

《見えるか?あれがウォッチポイントの制御センターだ。目標はその内部にある。侵入しろ。》

 

 ウォルターから再び指示が届き、マーカーを辿った621と622の遠方に円形の建物が姿を現した。ウォッチポイント・デルタ。今回の依頼目標だ。

 

 2人はお互いに示し合わせたかのようにアサルトブーストを使用。一気にウォッチポイントまで距離を縮める。だが622が途中で手を伸ばし、621に止まるように指示した。

 

『どうした、の?』

『上になんかいる。誰、お前?』

 

 上と言われた621は頭部を上げる。するとウォッチポイントの上部に一機のACが丁度降りてくるのを発見した。黒を基調に赤と白がまばらに配置された機体色をしたACは着地した建物の上部から2人を見下ろす。

 

『ウォッチポイントを襲撃するとは……。相変わらずだな、ハンドラー・ウォルター。』

 

 621と622越しにウォルターへと話しかけてくる敵AC。その声音は、どこかウォルターの行動に呆れているようにも聞こえてくる。

 

『また犬を飼ったようだが……。』

 

 そう言いながら更に言葉を続けようとした敵ACだが、その先の言葉は続かなかった。話し方的にウォルターとは敵対していそう。なら待つ必要なんてないという判断のもと、621がリニアライフルで狙撃したからだ。

 

『ほう?今回の犬はなかなか跳ねっ返りのようだ。だが……何度でも殺してやろう。』

《貴様は……スッラか!?》

 

 見えていた攻撃だということと、有効範囲外だったこともあり、一歩歩くことで狙撃を躱し、アサルトブーストでウォッチポイントから621達へ直進してくる敵AC。その正体にウォルターが気付き、スッラは嗤う。

 

『そこの犬共、貴様らには同情するぞ。飼い主──。』

『同情なんていらない、さっさと死ね。』

 

 スッラの言葉はアサルトブーストで接近してきた622によって、またしても最後まで言い切れなかった。スッラは言葉を中断し、622の機体構成を素早く確かめる。しかし近接戦闘をするタイプとしか分からなかった。何せ最初からパイルバンカーしか持っていないACなどスッラの傭兵人生で初めて見るからだ。

 

 お互いの距離は既に至近距離。スッラはアサルトブーストの加速を乗せた蹴りを繰り出そうとし、622はパイルバンカーを構えた。

 

 タイミングは完璧。このまま自身が蹴りを繰り出せば、脚が届く前に伸びてきた鉄杭が自身を貫く。そう長年の経験から判断したスッラはアサルトブーストを中断。クイックブーストで後退する。

 

 しかし622から離れたことで射線が通り、621からリニアライフルの射撃が飛んでくる。その射撃をスッラは細かな姿勢制御で躱し、地面に着地。即座にブーストでその場から移動することでいつの間にか発射されていたプラズマミサイルも避けていく。その最中でスッラもプラズマミサイルを放ち、なおも追撃してこようとする621を牽制する。

 

 そしてすぐさま反転。背後からスッラに殴りかかろうとしてくる622に向けてパルスガンで牽制しつつ跳躍。自身が巻き込まれないところまで離れてからデトネーティングバズーカを放った。

 

 スッラと622のお互いの距離の近さにバズーカの弾速も相まって、相手からすればCOMのアラートが鳴ったかと思えば命中していたと感じるはず。だが622は超速の反応でもってこれを躱した。更に回避方向は前。スッラの元へパイルバンカーを構えながら突撃してくる。

 

 流石にこれはスッラにも予想出来ない。だが対処は出来る。蹴りをパイルバンカーに放ち、鉄杭が伸びる先を変更させた。この蹴りによってコクピットに伸ばされるはずの鉄杭は逸れていき、肩の装甲を少し削るだけに留まるが、それでもそれなりの振動がスッラのコクピットを揺らし、スッラは顔を顰める。

 

『ウォルター、今回はなかなかいい犬を飼ったようだな。しかし2匹飼ったということは619と20は死んだか?』

《貴様には関係ない。》

『そう邪険にするなウォルター。そういえば俺が殺したのは何番だったか……。あぁ、そうだ。この犬達の番号も教えてくれ、次にまた会った際に新たな犬を飼っていたのなら、そいつに教えてやろう。』

《2人とも、奴の言葉に耳を貸すな。》

 

 622から距離を離し、621の射程外まで一時的に引いたスッラの口は止まらない。恐らくこれは挑発。怒りで動きを単調にしようとしていると見抜いたウォルターが耳を貸すなと2人に忠告するが……少し遅かったようだ。

 

『621、先に行ってて。コイツはオレが殺るから。』

 

 622がスッラを相手を引き受け、621に先に行かせようとする。その判断に621が2人で挑むのが最適解として拒否しようとするのだが、622から出ている雰囲気に何も言えない。いつもと同じ声とトーンなのに、感じる雰囲気が違う。それもそのはず、今の622はこの世界に来てから初めてブチギレと言っていいレベルでキレていた。

 

 ゲームで戦っていた時はこんな奴なんだ程度の認識だったのに、今は違う。可能なら今すぐにでも殺してしまいたいほどだ。

 

 この世界に来て622は知った。ハンドラー・ウォルターという人物を。先輩達が命を賭してまでウォルターの目指す先を切り拓こうとした意志を。

 

 なのに目の前のコイツはなんだ?勝手に自分達に同情して、先輩達のことを何も知らない癖にウォルターに飼われて不運とでも言いたげの態度を取るコイツは。ハウンズの話を出せばウォルターがどんな顔をするかも知らないくせに!

 

 ギリギリと622は歯を噛み締める。瞳孔は収縮し、もはやスッラしか見ていない。

 

『わかっ、た。……ザ──』

『うん、多分応援してくれようとしたんだけど、それはこんな時に使うものじゃないぞ。』

『そうなの?』

『そうなの。帰ったら詳しく教えるから621は仕事を終わらせてきて。』

 

 スッラのハウンズになら効く挑発に引っかかり、危険な状態になった622だったが、621が応援代わりに出そうとしたメスガキ構文の気配を感じ取ったのかすぐに冷静になった。

 

 622の気配が元に戻ったことを確認した621は、いつもの622なら大丈夫と信頼し、1人先にウォッチポイントに侵入。その背後をウォルターが手配したであろう補給シェルパが続く。

 

『……まぁいい、先にお前を殺してやろう。』

『やれるものならいつでもどうぞ?お前のおかげでいい感じに『集中状態』になれた。』

 

 621にバズーカを向けたスッラだったが、立ち位置が悪かったせいで621が建物の影に隠れて狙えなくなる。そのことにため息を吐くと、狙うものがいなくなったバズーカの先端を622に向け直した。

 

 お互いに見合った状態で動かない。このまましばらくは膠着状態が続くかと思ったが、突然それは訪れた。

 

『行く!』

『来い、飼い犬。』

 

 ウォッチポイントから異変が発生。621が侵入の際にアクセスし、開きっぱなしとなっていた扉から赤い物体、コーラルが勢いよく噴き出す。その量は明らかに致死量で、発生した中心にいたであろう621はただではすまない。それなのに622は心配する素振りを見せず、なんならその異変を合図にしてスッラにアサルトブーストを起動して接近してきた。

 

 コーラルの性質を知らないのか、それとも仲間は無事と信じているのか、どちらにせよ殺すことに変わりはないとスッラは後退しながらバズーカを放ち、直後にプラズマミサイルも発射する。

 

 バズーカは余裕を持って回避されるが、その後のプラズマミサイルに622は後退を余儀なくされる。プラズマミサイルの特徴である破裂地点から球体状に発生するダメージ空間。それが622の直進を阻害するからだ。

 

『どうやら、俺の武装はお前に有利なようだ。』

『…………。』

 

 再びスッラに迫ろうとする622に今度はデトネーティングミサイルを放つ。ミサイルは発射されるなり爆導索を伸ばしながら622に向けて回り込むような動きで飛んでいき、爆発。直後にミサイルと繋がっていた爆導索も爆発し、622を追い詰める。

 

 回避に徹してスッラに近寄れない622に、初めの攻防の際に見せた超反応を警戒していたスッラは余裕が出て来たのか再び622に話し始めて集中を乱そうとする。しかし──。

 

『覚えた。』

 

 その622が発した言葉で、開こうとした口が閉じる。何を覚えたのか、覚えたところで何が出来るのか。そう煽ろうとする前に、622はアサルトブーストで接近してくる。

 

 スッラの選択は先程と同じように撃退。バズーカとミサイル2種を放ち、622を近寄らせないようにする。しかしここでスッラが目を見開いた。

 

 先程までは後退していた622が構わず直進してくる。これだけなら無謀な特攻だとスッラは嘲笑っていただろう。だが622は飛んできたバズーカを直進しながら躱し、直後に細かくACの位置を調整。その結果、僅かに発生するプラズマミサイルのダメージ空間の隙間を潜り抜けた。

 

『お待たせ〜。死ね。』

『ふっ、断る。』

 

 知り合い同士が待ち合わせ場所で出会ったかのような気軽さを感じる声を出した後に底冷えするような声に転じてスッラに襲いかかる622。その変わりようにスッラは鼻で笑い、当たり前のようにそのお願いを拒否すべくパルスガンで牽制する。

 

 シャボン玉のようなパルスガンの弾幕を、622はスピードを優先したのかパイルバンカーを盾にしながら強引に近付いてくる。冷却と再装填が終わったプラズマミサイルを放つが、それも今度は躱さずに強引に突っ込んできた。プラズマミサイル単体では決定打がないことを理解した動きだ。

 

『捉えた。』

 

 そしてとうとうスッラが622の攻撃範囲に入る。拳を作り、今までの鬱憤を晴らすように突っ込んでくる622に対してスッラの選択はアサルトブースト。しかしそれは逃げるためではない。攻撃するためだ。

 

 一気に加速したスッラは、622にブーストキックをお見舞いしようとする。今まで近付けば逃げていた相手が今度はいきなり接近してくるのだ。この飼い犬は無意識にまた自分が逃げると思い込み、反応が追い付かないはず。そうスッラは考えた。

 

 だが相手が悪かった。今回の相手は弾丸を見てから回避することが出来るほど眼と反応速度が良い622。スッラがアサルトブーストに入り、その向かう先が自分のところなど、スッラが進んだ瞬間に気付いている。

 

 スッラの蹴りが622の胸部に入る、その瞬間。622のACからパルスの光が走る。その光を見た瞬間、スッラは自身の失敗を悟った。急いでACを後退させようとするが、蹴りの体勢に入ったACは止まらない。

 

 コア拡張機能の一つ。『アサルトアーマー』。622のACを中心としたパルス爆発はスッラの蹴りを押し返すだけに留まらず、機体に大きなダメージと衝撃を与えた。

 

 その衝撃で姿勢制御システムがダウン。スッラは一時的に動けなくなる。そしてそれを逃す622ではない。パルス爆発を終えた622はすぐさまパイルバンカーを起動。今度こそ仕留めるとスッラのコクピットにその鉄杭を突き出した。

 

『だが甘い。』

 

 誰もが決まったと確信する攻撃。しかしスッラは終わらない。スッラは素早く姿勢制御システムを全て切断。強制的に機体を動けるようにする。

 

 本来ならそれは悪手。過去に622が無理と断じたように、万全に動かそうとしてもシステム的な問題が立ちはだかる。しかしそんなものはとうの昔にスッラも知っている。だから動かすのはほんの一部だけ。

 

 両肩部に付いている推力偏向ノズルを起動。前方に炎を噴き出し、自身はその反動で後ろに倒れ込む。まさか動けないのにACが倒れるとは622も思ってなかったようで、突き出したパイルバンカーの角度調整は間に合わず、鉄杭はスッラが搭乗するコクピットの表面装甲をもぎ取りながら通り過ぎていった。

 

 それを確認したスッラは水面に背中が付く前にシステムを再起動。完全にシステムが立ち上がる前に、正面のコクピット装甲をもぎ取られたせいで風通りが良くなったコクピットからマニュアルで今度は腕だけを動かしてバズーカをパイルバンカーを突き出した状態で硬直している622へ向ける。

 

「さよならだ。」

 

 そして発砲。今度こそACに直撃し、爆風がスッラを襲う。爆発の熱が外気に身を晒しているスッラを襲い、その熱さにスッラは思わず叫びたくなるが、その衝動を抑え込んで注意深く未だに晴れない爆煙を見つめ、笑った。

 

「ふっ、成程。……俺の負けか。」

 

 爆煙を晴れて現れたのは、傷だらけだが動くのには支障がなさそうな622のAC。そのカメラアイが光り、もぎ取った装甲の隙間から見えるスッラの生身をまじまじと見つめている。

 

『ありがとう、おかげで殺しやすい形になった。』

 

 そう言いながら622が掲げたのは大破したパイルバンカーとボロボロの左腕。ギリギリ硬直が解除され、バズーカの砲弾を咄嗟に左腕で受けたのだろう。パイルバンカーは破片程度にしか残っていないが、人を殺すのには十分なほどの鋭利な破片だ。

 

 逃がさないようにスッラのACの首を掴み、コクピットを突き刺す体勢をとる622。それを尻目にスッラは視線を下に落として一つのモニターを見るが、そこに点灯しているシステム再起動95%の文字を見ると、鼻で笑って最期にウォルターへ忠告を送ろうとする。

 

『ウォルター──』

 

 しかしその言葉は言い切れず、突き出された破片がスッラの身体を押し潰すように貫いた。

 

 

 

 

 

 

《……敵ACの撃破を確認。》

『ごめん、ウォルター。手間取った。』

《……奴のことは気にするな。それより622、先程発生したコーラルの逆流現象。それに呑まれた621の通信が途切れた。望みは薄いが……確認してくれ。》

『了解。』

 

 先端が赤くなった破片を引き抜き、622はウォルターの指示に従いウォッチポイントへ向かおうとするが、途中でその足が止まる。

 

《622、どうした?》

『上空から何か来る。』

 

 空を見上げた622、その先から一機の機体が高速で飛来してくる。いつでも対応出来るように622は身構えるが、その機体は622を無視してウォッチポイントの上まで飛んでいった。

 

《あれは……、惑星封鎖機構の特務無人機体バルテウスか。》

『もっと早く来られていたら危なかった。』

《奴に居座られるとどこにいるのか分からない621の確認が難しい。……622、いけるか?》

『ウォルターがそう命じるのなら、いつでも。』

 

 ウォルターの問いかけに622は即答。通信越しにウォルターの息を呑む声が響く。そしてしばらく無言の時が流れ……。

 

《撤退だ。621の捜索を中断、回収ポイントに移動しろ。》

『了解。でも……。』

《どうした?》

『バルテウスが誰かと戦っている。』

 

 622の視線の先、そこにはバルテウスが大量のミサイルをばら撒き、誰かを破壊しようとしていた。その戦闘を下から622は見逃さないようにジッと眺める。

 

『リニアライフルの弾丸。プラズマミサイルと実弾のミサイル。ウォルター、確証は出来ないけど多分戦っているのは621だぞ。武装構成がほぼ同じだ。』

《そうか、生きていたか……。622、今からバルテウスのところへ向かい、戦っているのが621なら加勢、もし違ったのなら即座に帰還しろ。》

『了解。』

 

 ゲーム知識で621が戦っているのは確定なので、622は急いで合流しようとする。しかし上部へ向かって飛行している最中、視界の端から見えた光景に身体が反応。クイックブーストで横に逸れ、直後に先程まで622がいた位置をレーザーライフルのレーザーが通り過ぎた。

 

『ウォルター、新手がいる。乱入されるかもしれないから先にそっちから始末するぞ。』

《……わかった。しかしお前のACの状態も危険だ。無理だと思えば撤退しろ。》

 

 そう言葉を残し、ウォルターからの通信が切れた。最後まで622の心配を滲ませた言葉に622は思わずニッコリと笑顔を浮かべた。

 

「さーて、多重ダムのことがあるからもしかしてって思ったけど、今頃登場とはさては寝坊でもしたのかな?」

 

 オールマインドなら無いとは言い切れない推測をしながら622はボロボロの左腕を右腕で掴み、勢いよく引っ張って引きちぎる。

 

「ACの腕で殴る。まぁ拳か腕そのものかの違いでしかないし意味は一緒か。」

 

 引きちぎった腕を試しにブンブンと振り、感触を確かめる。ある程度確かめると、アサルトブーストを起動。622は一気に遠くから自身を狙う遅刻機体達に接近し、第二ラウンドが開始された。




オリ主(あんなに怒ったのって久しぶりかもしれない。けどこんなに親身になってくれる人の嫌がることを嬉々として話す奴に怒るなって言うほうが難しくない?)

621……ゲーム通りエアと出会ってバルテウス戦へ。パルスアーマーを剥がした後、チマチマとミサイルの発射口をリニアライフルの狙撃で破壊し、トドメにパルスブレードで斬り捨てた。



 スッラは第一世代の強化人間で老兵。なら沢山の戦場を経験しているだろうとのことで強化。けどこんな文字数になるとは書き始めの時は思ってなかった。バルテウス戦及び所属不明機戦はまるまるカットだ!

 ところで……、オールマインドって遅刻とかしてもオールマインドだからで通りそうなの……良いよね。隅っこの陰で擬人化オールマインドが「ちーがーいーまーすー!」ってムキになって両腕をブンブンさせている姿が目に浮かぶんだ……。
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