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上条さんは 上嬢さんに 進化した!
以上、前回までのあらすじである。
そんな上嬢さんを家へと上げた優しい少年は、上嬢さんと共にどうしたものかと悩んでいた。
「不幸だ…これまでにないくらい不幸だ…」
「災難なんて言葉だけじゃ言い表せない不幸だな。いきなり転ぶ、何かを壊す、追いかけられる、巻き込まれるetc…お前の様々な不幸を見てきたが、こんなファンタジーな不幸は初めてだ」
「訳が分からんのですよ…」
「俺もだ、さっぱり分からん」
「スパコン以上の頭脳の持ち主なら何とかしてくれません!?」
「買いかぶりもいい所だ。不可解な現象を準備もなしにどうにか出来る訳ないだろ。今は憶測を立てる以外はどうにもならん」
こんな問題には出会った事もない…と、ため息まじりに頭を抱えながら、壱塚統士は問題の憶測を立て始める。
これを不可解な自然現象であると断じて堪るか。性転換なんて巫山戯た現象が自然現象な訳があるか。
人間の性別が変わる現象、肉体そのものが変化する現象だ。必ず何らかの原因があるし、その現象を引き起こした犯人が居る筈だ。
まず考えるべきは、原因。何故、上条当麻が性転換してしまったのか、或いは性転換させられてしまったのか? についてだ。
「昨日、俺たちは学校に行った。学校に辿り着くまでの過程には何ら不明な点はなく、誰かと直接的に関わった訳でもない。いつも通り遅刻寸前の登校だった…うん、合ってる」
「その言葉は上条さんの胸に刺さるのですが…」
「肉が邪魔して刺さり切らんだろ、今のお前なら」
「統士さん、貴方にはデリカシーがないと上条さんは思うのですが!」
「ノンデリ発言を多くしてきたお前にだけは言われたくないな。まぁ、それはさておいて…そこからも普通だった。普通に授業を受け、休み時間にデルタフォースと絡み合っていた。途中からは吹寄に手伝いを頼れたから、俺はその時に離脱している…となると、可能性の一つとしてはその時間帯か。どうだ、当麻。何か心当たりはないか? 誰かに触られたとか」
「うーん……覚えてる限り、別に変なことはなかった筈だ。土御門達と普通に話してただけだし…その時はあいつ等としか関わってなかった…と思う」
「昨日は居残りもなかったから、その時間も違うか。となると後は下校時、もしくは帰宅時だが…下校は俺とデルタフォースの四人で帰ったからな。特に変なことはなかった。そうなると消去法で帰宅時になる訳なんだが…部屋で過ごしている時、何か違和感を感じたりはしたか?」
「…そういえば、寝る時に変な感じがしたような……なんかこう、どくんって心臓が跳ねた様な…」
「それだけか? 他にはなかったか?」
「いや、他にはなかったかな。あまり気にせずに寝たし…」
「…なるほど。となると、仕掛けられたのはその辺りか。………うん、当麻」
「はい?」
「諦めようぜ」
「えぇ!? そこで諦めようって言うのかよ!? 普通そこは犯人が分かったとか理由が分かったとか言うんじゃねぇの!?」
「前向きな言葉を掛けてやりたいのは山々だが、よく考えてみろよ、当麻。この性転換が能力によるものなら、お前の右手で打ち消されるだろ」
「あ…あぁ! そうだ、試してなかった!」
「試してなかったのかよ! 既に試してる前提で話してたよ俺!?」
「そうと決まれば、さっそく…!」
問題は、解決する! そう意気込んで自身の右手を胸元へと向けて触れる。
ぱきぃん――――――という何かが割れる音ではなく、ふにっ…と、柔らかい感触だけが右手に伝わった。
「……」
「………」
長い沈黙が流れた後。
がくっ…と、上条当麻は膝から崩れ落ちた。まぁ、そうなりますよね。
「だめだ…右手でも消さないなんて……」
「まぁ、理由があるとするなら、能力そのものは既に体から消え去っているからなんだろうな。性転換する要因に右手で触れていれば打ち消せたんだろうが、もう性転換し終わった後だ」
「そんなぁ…」
「…とはいえ、正直に言ってしまえば能力である可能性はかなり低いんだよなぁ……」
「え? ど、どういうことだ?」
「よく考えてみろ。性別の転換だぞ? それは要するに、細胞という何億ものデータを全て書き換えるって事だ。そんな肉体変化系能力が扱える奴なんて、見た事も聞いた事もないぞ」
「で、でも、『超能力者』には肉体変化の奴が居るんだろ?」
「肉体変化は、あくまでも自分の体を作り変える能力だ。他人に作用出来る訳じゃない。それが出来るなら、藍花の野郎は最初からそうしてるだろうよ」
肉体変化。学園都市に数ある能力の中でも稀少な能力で、その能力を持っている人間は僅か三人しか存在しないという。
能力者達の頂点である『超能力者』の第六位である「藍花悦」が、この能力を持っているものとされている。
その能力は自分の体を思い通りに作り変える能力だが、遺伝子レベルでの変化は不可能らしい。
「そっか…じゃあ、能力じゃないなら何なんだよ?」
「そこが分からないから困ってるんだよなぁ…。オカルト的な事を言えば、『魔術』とか『呪い』とかなんだが…」
(仮に当麻の性転換が魔術や呪術であると仮定すると…まさか“アイツ”が何か仕掛けたのか? 自分から『
「うん、ダメだ。俺にも訳分からん」
「ちょ、諦めんなよ! お前が諦めたら俺にもどうしようもないんだぞ!?」
「別に諦める訳じゃねぇよ。ただ、今は色々と考察材料が少な過ぎるんだよ。性転換についても、そういった能力についてもな。だから、とにかく今は普通に過ごす他ない」
「えぇ…マジ? 上条さん、女のまま過ごさなければならないのですか…?」
「まぁ、そうなるかな。色々と買うもんが増えるだろうが」
「あぁ…女性用の下着とか買わないといけないのか……でも、お金ないんだよなぁ」
「カード貸してやろうか?」
「いや良いよ! どうせブラックカードだろ?」
「ブラックカードの何が不満なんだよ」
「それ使うと、基本的にえ?みたいな視線を店員さんとかに送られるから嫌なんだよ!」
「んな事、別に気にすんなよ。今更だろ?」
「そういう話しじゃなくてですね!? あと、もしそれ壊したらって考えると、上条さん怖いのですよ…」
「ブラックカードなんて幾つもあるから、別にいいんだけどな」
「本っ当に何なのお前!? ブラックカード幾つも持ってるって字面が凄い事になってるよ!」
「さーて、何ででしょう?」
「ほら、そうやってはぐらかす。え、なに? もしかして悪どい商売でもしてんの?」
「出来なくてはないが…この学園都市でそれは無理ってもんだ。ま、商売くらいはした事あるけどな」
「あるんかい!? いつ!? いつしたんだよ!?」
「いつだったかなー…ん? 何時?」
「どうした?」
「…そーいや当麻。お前、登校時間って大丈夫か? もう七時越えちまってるけど」
「………」
見て分かる程に、上条の顔が真っ青になっていく。
時刻は6時を過ぎ、時計の針は7時30分へと進んでいた。
つまりは、距離的に間に合うか分からないギリギリなラインとなった訳である。
ちなみに前回も言った通り、彼は完全にサボるつもりなので余裕である。
「やばい、やばいやばいやばいっっ!!!! このままじゃ遅刻しちまう!」
「いってらー」
「お前も来るんだよ!」
「いや、俺、仕事あるし…」
「仕事ってなんだよ仕事って! お前まだ学生だろ!?」
「知り合いの科学者とかに性転換云々を聞くっつー大事な仕事がある」
「そ、それは今日でなくとも良いんじゃないか!?」
「残念ながら、そうはいかない。ただ性転換しただけ、なんて都合が良い事ある訳ねぇでしょうよ。一夜にして細胞を書き換えられてるんだ、何かしら体にダメージがある可能性もなくはない。だから色々と聞かなきゃならん。小萌先生には俺から伝えとくから、お前は早く行け」
「お、おう…なんか、悪いな。俺の問題なのに、お前に頼ってばっかで…」
「………………………………………………………………」
「な、なんだよその呆れた顔。あ、ため息吐きやがったな! しかもわりとデカいやぶっ!?」
「お前さぁ、本当さぁ。他人を頼る事を謝るのどうかと思いますよー統士くんは。良いのよ別に頼っちゃって。つかもっと頼れよ、俺とか他の奴を。どんどん問題に巻き込んでくれよ」
「その言い方はどうなんだ…?」
「お前って基本的になーんでも自分一人で解決しようとするからな。お前に頼られるのって、結構嬉しいんだよ、俺。そんな訳だから、俺に任せとけって。色々と調べといてやるからさ」
親友なんだ、もっと頼れよ。
恥ずかしげもなく、壱塚統士は笑ってそう言ってのけた。
「…あぁ。じゃあ頼むよ、統士」
「おう、頼まれた。あ、ついでになんだけどよ」
「ん?」
「男として興味があるからスリーサイズ教えてもらっても」
「その幻想をぶち殺すッ!」
「ここでそれ言うのぶっ!?」
親友に並び、デリカシーのない統士くんであった。
❖
「あの野郎、本気でぶん殴りやがって……あ、今は野郎じゃねぇか」
無事に右手の一撃を叩き込まれた統士は、殴られた腹を擦りながら携帯の電話帳へと目を通す。
彼の科学者の知り合いは数多く、電話帳に乗っている名前の殆どが科学者達であるくらいだ。
だが―――今から彼が連絡を取るのは、決して科学者などではない。
ぷるる、ぷるる―――と、ツーコールが終わった後に。
『……もしもしィ』
長い間を破り、低い声が電話から出た。
「よぉ、急に電話して悪いな」
『オマエから電話を寄越すたァな…何の用だ?』
「いやなに、そう大層なもんじゃない。一つ聞きたい事があってな。
性転換ってどう思う?」
言葉が足りないとはまさにこの事である。
電話越しの友人も、何を言い出すんだコイツ…? と、訝しんだ。
『………オマエ、遂にイカれたか?』
「茶化すなよ、これでも真面目に聞いてる。友達の為にな」
『ぜンっぜン、分からねェんですけどォ? もっと事細かに言え』
「男だった筈の親友があら不思議、一夜にして上髪ツンツン下髪ロングのそれなりにご立派な双山を持ったJKになりました」
『………………………………………………………………』
戸惑いを隠せないご友人。コイツは果たしてこんな奴だったろうか? と彼の記憶を思い出し始める。
が、そんな事は知った事ではないと彼は続ける。
「仮説の一つとして、肉体変化の能力者が関わってるんじゃないかと考えたんだが…正直、その線は薄いと思ってる」
『…まァ、妥当だな』
「やっぱりか」
『肉体変化は、あくまでも自分の体を作り変える能力だろ。他人の体まで変化出来ンなら、超能力者の上位に食込ンでるだろ』
「それを一夜の内に為す強力なものと考えると、尚更無理か…なら、やっぱり別の力なのか…?」
『“あの野郎”が関わってンじゃねェの?』
「それはない。アイツは自分から計画を狂わせる様なアクシデントを起こさない。狂わされるなら兎も角、自分から狂わせる事はこれまでなかった」
『肉体変化でもなく、他者の性別を書き換える力―――一応、心当たりがなくもねェ』
「マジか!?」
『あァ。オマエもよーく知ってるやつだ』
「なんの能力なんだ?」
『オマエの力だ』
え、と固まる統士。
よく放送されるミステリー系作品で、自分が犯人呼ばわりされた時に焦る人間の気持ちがようやく分かった気がする、と統士はそれを実感した。
「おれ!? え、おれもしかして何か無意識の内にやらかした!?」
『違ェよ。別にオマエが犯人とか言ってねェだろ』
「え、でもさっき、おれの力がって…」
『オマエの能力と同じ能力、或いは似た能力を持っているやつがいれば、性別の書き換えは簡単だろ』
「…………最も考えたくない可能性だな。おれ以外に、こんな巫山戯た力を扱う奴が居るかもなんて」
『それには同意だ。オマエの“ソレ”を扱う奴がもう一人も居るなンざ』
「…結局、視えてくるのは可能性だけか。でも、助かったわ。最初の頃よりは色々考えられた」
『そォかい。そりゃ良かったな』
「お礼に、今度コーヒーと肉奢るよ」
『…じゃ、楽しみにしといてやるよ』
「上から目線だなー。まぁ、良いけどさ」
最初の頃に比べれば幾分も柔らかくなった方だろう。そう考えてみると、不思議と不快感は覚えないものだ。
まぁ、これはかなり珍しい感性ではあるけれども。昔の彼を知っているからこその感覚であって、常人には分からないだろう。
「さて…今度は“垣根”に話してみるかな」
もしもし。
そういって、彼は再び電話を掛けたのだった。
暗部組織『スクール』のリーダー―――垣根帝督に。
電話の相手、いったい誰なんだ…?