真・女神転生外伝 仮面ライダーアモン 作:XX(旧山川海のすけ)
★★★(真月)
「だから奴隷を簡単に殺すのを止めてしまえばいいだけだと思うんですけど」
「……さっきも言ったが、そういう精神が、旧世界を腐らせたのだ。論外だな」
「殺しているのは私たちではない。勝手に殺されるのだ。法により殺人を禁止するような真似をしろとでもいうのかね? それはガイア教の教義に反する」
私と神取氏、氷川氏の意見が対立していた。
というより、誰も味方してくれない。
当然だろう。
この人たち、奴隷の制度を受け入れてるし、不要と思った奴隷を捨てることを何も問題に思ってない。
で、捨てられた奴隷が多くは殺されてしまうことを問題視もしていない。
正確に言えば、おそらく桃井さんのところは奴隷も使って無いし、奴隷を捨てることに疑問が無いわけじゃないと思うけど。
彼らは私たちの肩を持つ理由が無いんだよね。
だから、孤軍奮闘にならざるを得ないんだけど。
どうしてこういう話になったのか。
それは……
東京に在住の日本人……つまり、メシア教徒でもガイア教徒でもない人々……この扱いをどうするか?
こういう話だったんだけど。
私は「東京を割譲する前に、日本人の脱出を認めて欲しい」
こう言ったんだ。
東京は捨てる。中の住民も見捨てる。
これだったら、ケイスケくんとの約束を反故にしてしまうことになるし。
それに、こういうのを棄民って言うんだ。
だから、断じてそれはいけないから。
私はそう提案した。
すると
「それは困る。奴隷の成り手が減るだろう」
神取氏がそれを拒否した。
彼曰く「競争から脱落した奴隷は、多くが淘汰されて命を落としてしまう。だから定期的に供給しなければいけない。そのための供給源を手放すことは認めがたい」
こういうことだった。
だから言ったんだよね。
簡単に奴隷を殺してしまうのが悪いんじゃないのか、って。
簡単に殺さなかったらそんなに供給率を上げる必要ないんでは無いですか? って。
そしたら返って来た答えが
脱落すると命を落とす。その緊張感が人間を成長させる。
前の世界は脱落者たちの「権利を取り戻すんだ」だとか「差別されている」だとか「もっと平等を」という愚にもつかない戯言を許してきたからどんどん悪くなり、腐っていった。
不要なものはどんどん排除していく。それがより美しく機能的な世界を作っていく。それがガイア教の理念だ。
……言ったのは神取氏だったんだけど。
この人、前の世界では経営者だったんだよね?
そのときに相当、満足な働きをしないで権利を主張する従業員にイライラしてたのかな?
私は会社経営なんてしたことないから、この人の気持ちなんか分からないんだけど……
到底納得できない話だった。
そんなの地獄の社会じゃん。
正しいわけがないんだから。
「殺すって、その人間の未来の可能性を完全に絶ってしまう行為ですよ? 勿体ないと思わないんですか!」
「そういう猶予が堕落を産む」
「……人の命が軽いとは思わないがね。残念ながら普通のことが出来ない人間というものもいるのだよ」
最初は神取氏だけだったのに。
途中からM字の生え際の男性……氷川氏まで参戦してきて。
……この人も、前の世界では会社の重役だったんだっけ……。
やっぱ、思うところがあるんだろうか。
そうして、奴隷を簡単に殺すなという私と、奴隷が死んで何が悪いと言い放つ向こう側と
延々平行線の言い争い。
私としてはどうにかして日本国民の東京脱出を認めさせるために、彼らの奴隷政策を変えたいと思っていたんだけど。
議論の最中、後ろで立ってた夫にいきなりポンと肩を叩かれて。
耳元で
「……真月。俺と交代だ」
いきなり、そんなことを言われてしまう。
……え、って思ったんだけど。
振り返って、見上げると。
彼の目があって。
それを見て。
……私は彼の言うとおりにした。
★★★(橘千晶)
正直、彼に関しては彼女の夫だというのが納得できないところがあった。
見た目は悪くない。そこは分かるんだけど。
体格良いよ。確か武術家なんだっけ?
そういうところまあ魅力的でいいとは思う。
けどさ、旦那ってそういうもんだけじゃないよね。
思えば私の結婚相手として引き合わされた男もそうだった。
親曰く「彼はあの南条家の分家のひとつの出で」って言ってたんだけど。
南条家。日本有数の資産家。
日本の四大実力者のひとつの一族。
そこの出。
……うん。血筋はいいかもしれない。
見た目も良かったね。
その人、働かずに不動産を動かしてその不労所得だけで裕福に暮らしている人間で。
普通の人間が労働で割かれる時間でジムに定期的に通ってて。
まあ、見た目も良かった。
顔も良かった。
富裕層の一族だから、モデルを嫁にするとかザラだからね。
遺伝子的に美形になりやすい。
だけどさ。
徹底して知性が無かったんだよね。
アナタ、余った時間を何に使ってきたの?
それが正直な感想。
飲んだ酒の話とか。
旅行の話とか。
車の話とか。
……そんな話、ちっとも面白くない。
もっと私を唸らせるような何か。
そういうものは無いの?
私も悪いのかとちょっとだけ思ったから、こっちから歴史やら美術史やらの話を振ってみても。
まともに応えられない。
読書の話をしてもろくな答えが返ってこない。
決定的だったのが
「……新聞は何を読んでらっしゃるのですか?」
「そんな意味のないものは読まないですよ」
……こいつ本当に富裕層かと思ったわ。
笑いながら言ったの。
自分は新聞を読まない、って。
新聞の本質を見抜く知性も無いのか……。
そして、どうも不動産関係も、他人に言われるままに動かして、金だけ得ている。
そこも分かってしまった。
……ああ、そっか。
こいつ、富裕層なだけで、ただの寄生虫だわ。
こんなのと結婚なんて、ゴメンよ。
そう思ったから、見合いが終わった後、親に「あの人だけは絶対に嫌」って言ったのよ。
そしたら
「そんな我侭を言うな。橘家が南条家と繋がるチャンスなんだぞ」
……この瞬間、私の中で両親への愛が消えた。
あんなゴミの子供を産めっていうの?
……ふざけんな!
これが、私の旦那関係の思い出で。
私の旦那観。
だから思ったのよ。
あの男。
嫁であるあの子ばかりに交渉させて、自分はその後ろで直立不動で立ってる。
……え? アンタは何もしないの?
それでいいの? 嫁に丸投げ?
それは、嫁の会話が高度過ぎてついて行けないから、口を出すのを放棄してるの?
……つまり、馬鹿なの?
よくそんなのと結婚したわね?
私なら耐えられない。
そんな男の子供なんて産みたくないし、抱かれるのもまっぴら。
結婚するということは、それを受け入れるってことよ?
だから、信じられなかった。
だけど。
今、目の前で。
あの子に何か囁いて。
あの男、嫁を立たせて自分が席に座り直した。
え……交代?
交代するの……? あの子と……?
ちょっと、ワクワクした。
一体、何が起きるのか……?
そして私が見守っていると
彼は、開口一番こう言った。
「……奴隷の供給源が削られるのが嫌なんですよね?」
……嫁の主張の続きをするんじゃないの?
何を言い出すの?
思わず見入ってしまう。
「ええと、君は……」
「佐上忍です。挨拶が無かったのはお詫びします。ここからは、俺で」
神取さんの誰何の言葉に、彼は動じないでそう挨拶する。
……へぇ。
あの神取さんと動じないで会話できるだけで、なかなかよね。
興味が出てきた。
ちょっと、目が離せない。
「で、もう一度聞きますが、日本人脱出に反対なのは、奴隷の供給源が無くなるのが嫌だから、ですよね?」
「……そうだ」
神取さんが認める。
それを聞き
「だったら、別に供給源は言うほど減るとは思いませんが?」
「……というと?」
神取さんから目を離さず、正面から堂々と。
発言する彼に、その発言を聞く神取さん。
神取さんの言葉に、彼は
「……日本人が居なくなっても、まだメシア教徒がいるでしょう。渋谷にもいるし、品川にはどっさりいるでしょう」
……!
彼が言ったことを、私は一瞬理解できなかった。
あの子の旦那から、こんな言葉が出てくるとは……。
彼は続ける。
「奴隷供給源を理由に持ち出しますけど、フリーの日本人とメシア教徒が今現在、どっさり居ますよね? つまり別にカツカツじゃないんです。余裕があるわけです」
声に、全く震えがなかった。
……ちょっとあの子が気になったから、あの子の顔を確認する。
あの子は自分の旦那を……驚愕の顔で見つめていて……なんだろう……?
複雑な目で見ていた。感謝というか、罪悪感というか……
どんな気持ちなのか。
聞いてみたい気がするけど……
今は、彼女の旦那に集中する。
「そんな中、日本人だけいなくなっても、そんなにガイア教の奴隷政策にそれほど影響があるとは思いませんが?」
そこまで言い切る。
すると……
神取さんが、意外な顔をして彼を見つめていたんだけど。
やがて、喉の奥で笑う感じで、顔を伏せて笑い出した。
……気持ちは分かる。
非常に合理的で、ガイア的な反論。
まさか、あの子の旦那からそんな言葉が出るなんて。
「……いや、失礼。確かに100あるのが50になったとしても、そもそも10くらいしか狩って無いなら、それほど影響あるとは思えんな」
「ですよね」
愉快そうな神取さんに、真顔で返答する彼。
そんな彼に
「しかし……それでいいんだな? 日本として?」
強い視線を向けて。
神取さんは高圧的だけど、やや笑いを含んだ声で言い放つ。
だけど彼は全く怯まず
「国家の究極の正義は、国民の生命と財産を守ることですね」
キッパリ、言ってのける。
……ヤバイ。ぞくぞくするかも。
「……メシア教徒はもう国民では無いと?」
笑い交じりの神取さんの言葉。
それに対して
「違いますね。三種の神器の本体を奪い、日本をほぼ壊滅状態に陥れた連中が国民? ありえないでしょう」
これを棄民だと言うなら、断固違うと言わせてもらいます。
彼はそう言って締めくくった。
「……なるほど……ものすごく面白いな。君」
愉快そうな顔のまま、神取さんは彼を評した。
私も同感。
「それはどうも」
対する彼は、そんな神取さんの賞賛をそんなに嬉しそうには受け取っていなかった。
事務的、という感じで。
……なるほど、って感じ。
この男なら、あの子の旦那をしてても納得かな。
だいぶ面白くて、いいものを見せて貰ったというか。
夫婦揃って面白いね。
あなたたち。
この話もちょっと迷った。
主人公に奴隷狩りを認める発言をさせるのはどうなんだ的な。
でも、この小説はメガテン小説だから、そこで薄甘いのはダメじゃないかと思いまして。