真・女神転生外伝 仮面ライダーアモン 作:XX(旧山川海のすけ)
★★★(夏子)
「桃井様、お疲れさまでした」
鬼女郎保育園から、娘の夏美を引き取って。
私は家路についた。
稽古は真面目にやったから、正直しんどい。
「ママ、ごはん、ごはん」
手を繋いで一緒に帰っている夏美も、おなかがすいているらしい。
今日は何を作ろうかな。
帰りにスーパーに寄っていこうかな。
……スーパー、行くたびに気の毒な気分になるけど。
考えないようにしないとなぁ。
ここ、上野では労働者を守る法律なんて当然ないから。
基本、店は全部ブラック経営。
暴力なんてザラ。
無給で働かされてるんじゃないのかと思える状況すらある。
……ここでは弱いことは罪であり、弱い男も、弱い男の所有物にしかなれない女も人権が無いんだ。
私は明さんの妻だから人権が守られてきたわけだけど……
この子、どうなってしまうのかな……?
私は夏美を見下ろした。
……ここに来た当初のこと、未だに思い出してしまうなぁ。
「明さん! ここは地獄ですよ!」
ある日、上野の状況に耐えられなくなって、私は明さんに訴えた。
当時明さんは18才。普通なら高校3年生の年頃だ。
……私が夏美を授けてもらった年齢でもある。
明さんは黙って聞いてくれた。
やれ、道端に人の死骸が転がっているのが変じゃないのは異常だとか。
スーパー行くと、レジ打ちのおばちゃんが客に「レジを待たせるな」と殴られるのが普通なのは変だとか。
道で人が死ぬと、通行人がその持ち物を根こそぎ持っていくのは変だとか。
全裸のおっさんが街を平気な顔で闊歩しているのは異常だとか。
涙ながらに訴えた。
「こんなところに居たら、夏美も私もおかしくなっちゃいます!」
「夏子」
私の言葉を一通り聞いてくれた後、明さんはそう口を開いた。
私は涙で濡れた顔でその言葉を聞く。
「それでも、僕らはここで生きていくしか無いんだよ」
……!
そうだ……その通りだ。
外の世界に私たちの居場所は無い……!
納得するしかない、重い言葉。
だって私たちは……
そして
「それに」
明さんは言った。
「ここのマンションみたいな普通の施設、何であるのか考えたことはあるかい?」
「……ここの……マンション?」
私たちが住まわせてもらってる、この上野のマンション。
明さんにここに連れてきてもらってから、ずっと住んでる部屋。
ガスも水道も電気も使えて、まるで大破壊が起きる前のような生活が送れる夢のような部屋。
「……上の人は、まともなんだよ。ただ、ルールを決めるという行為に絶望しているだけで。平たく言うと法というものにね」
例えば、って明さんは前置きして、こんな事を言ってくれた。
前の世界では「少年法」ってあったよね?
未成年の罪は更生の可能性があるから、減じよう。
特に死刑は無いようにしよう、っていうの。
これはさ、司法っていうものが正義を追求せずに、犯罪者の更生に重きを置いて社会の安定を追求するのが基本だから出来た法律なんだ。
だから大人より更生の可能性がある子供の方は、大目に見てあげるべきだ、って考え方になるわけ。
なんで司法がそういう仕組みになるんだ、って話だけど。
例え話を言うね?
女性が子供を産んで、その子供をその場で殺した。
こういう事件があったとする。
普通に考えると、この女は人間じゃないよね。
……そう思うよね? 夏子?
……私は頷いた。
だって、私は子供を産んだから。
愛する人との間に子供を作って産んだから。
その子供を殺すなんて……許されない。
私が頷くのを見て、明さんはすごく優しい顔をしてくれた。
そして、続けてこう言ったんだ。
でも、その女性がレイプされて妊娠し、堕胎の踏ん切りがつかないで出産してしまった、という場合はどうだろう?
……そこで私はハッとした。
その可能性を考えていなかったからだ。
続けて言った。
こっちの場合は愛のある子供じゃないから、殺してしまっても変じゃないと思わないか? 自分を犯した憎い男の子供だぞ?
……私は何も言えなかった。
そして
だからと言って、そういう事情を加味して量刑に差を加えていたら、子供を殺した女はこぞって「自分はレイプされた」と言うに決まってるよね。
で、その演技が上手かった奴は軒並み無罪だ。
……こんなもの、どこが正しい。歪んでるよ。
だから、司法は正義を貫くのを諦めているんだ。泣く泣くね。
でも、そのせいで、前の世界では泣いた人がいっぱい出たよね。
……今更、言うまでも無いんだけどさ。
………そっか。
そんなの、私も散々覚えがある。
毎日のように報道されるニュースに、納得のいかないものは沢山あった。
なんでこうなるんだ、という。
そこで分かったんだ。
ガイア教の中心になってる人々は、そういう「法によって泣かされてきた人々」なんじゃないのかな、って。
……その結果、出来た世界がこれなんだけど。
メシアもガイアもろくでもないよ?