ライスシャワーお姉ちゃん【完結+おまけ不定期】 作:稗田之蛙
夢を見た。それは茄子でも鷹でも富士でもない。
『今年も、あなたの、そして、私の夢が走る、宝塚記念』
ラジオから聞こえてくる流暢な実況者の声。聞き心地がいいから、その人の声は幼仔の私も好きだった。
内容もよく分からないほど、年幼い私はその声に耳を傾けている。
周囲の皆々が嬉しそうにラジオの内容について話し合うものだから、私もつられて陽気になった。
「今年のは誰が勝つかね」
「そりゃあ、この仔と縁があるライスシャワーに勝ってほしいね」
そう、皆が楽しそうに話している。私は、前々から周囲の人間が口にしている『ライスシャワー』というのは「私の親戚なのだな」と……なんとなしに感じ取ってはいた。
皆が和気藹々としている理由は、「そういう事なのかな」と思ったし、だからラジオの細かい内容が分かってない私も、自然と『ライスシャワー』の勝利を願っていたのだと思う。
時々聞こえてくるラジオの中では、ライスシャワーは「悪者」みたいに語られる事もあったけど、私からすれば、脚がとっても速いと評されるライスシャワーは――今の私から表現すれば――絵本の中のヒーローのような存在だったのだろうと思う。
そんな和気藹々とした空気は、絹の裂くような女性の悲鳴を境に一変した事を覚えている。
『大歓声があが――1頭落馬! 1頭落馬! これは誰だ?!』
私は何が起きたか理解せず、ただキョトンとしているだけだったが、周りの大人達は違った。
周囲の人間は青褪めていて……恐怖にひきつった表情でラジオを見つめている。
その原因が幼い私には理解できなかった。しかし、そのレースが終わってからも、周囲の人間達はずっと悲痛な面持ちでいた事はよく覚えている。
――何があったの?
その時、周囲の人間にそう訊ねられたのなら、どれだけ理解が早かっただろうか。今に至るまでどれだけ心の整理がつけられただろうか。
だが結局はこうして、何度も夢に見るくらいには処理しきれずにいる。
もはや起こりえない事なのだと忘れ去ろうにも、いつかそれが現実になるのではないかという不安は拭えずにいて。
その
なんだって、私達は――ライスシャワーの姉さんという存在が『幸せな物語』をすごしているのに。今更こんな事を思い出さなければならないんだ。
そんな話は神様だって、目を背けたくなるだろう。お互い胸の中が悪くなるような気分だろう。
だから、この話については語らなくていいんだ。
この世界では、私一人が"彼"の事を覚えていればいいんだ。
投票締切り:1月1日(0時)
ひとまずの物語を終える為に、
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ライスシャワーに打ち明ける。
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もう思い出さないように蓋する。