ライスシャワーお姉ちゃん【完結+おまけ不定期】 作:稗田之蛙
ライスシャワーへの恋心?
神様、ライスの姉さんは罪作りな美人だと思う。
……なに? 今更語るまでもない? まぁ、聞け。
「ライスお姉ちゃんにラブレター渡したい!」
ライスシャワーの姉さんのライブ映像を一緒に鑑賞していた我が弟がハートのシールで封付けされた便箋をヒラヒラと見せびらかしながら、そんな事を言った。
「……五年前はお姉ちゃんに渡してくれたのに……?」
「なんでそんなショック受けた顔するの!? 幼稚園児の時の話掘り返すのやめてよ!」
……うーん、とりあえずは年相応の恋の悩みとして真面目に向き合おうか。
「ライスのお姉さんはお姉ちゃんより年上なのは分かってるよね」
「うん、16歳。6歳離れてるけど……大人になったらそんなに気になる差でもないよね?」
我が弟ながらマセた考えをする。しかし言ってる事は間違ってはいない。
いきなり「迷惑だからおやめなさい」と窘めるのも違う気がするし、正直ライスの姉さんに惚れるのは理解出来る。
「でもさ。親戚なんだよ。一応。家族みたいなもん」
私はその辺りを指摘してみた。弟は10歳児だからこれで諦めてくれると思った。
「お姉ちゃん、従姉妹とは結婚出来るって本で読んだよ」
…………そうなんだ……知らなかった……弟は頭いいな……。
まぁ……うーん……真面目に考えてるみたいだから、好きにやらせてやるべきか? ライスの姉さんに年下をからかう趣味があるとは思えな――
『よしよ~し、ライスお姉ちゃんですよ~……♪』
『……その、好きな人とは、いっぱいいっぱい、触れ合っていたいなって……』
『ライスママですよー……♡』
『そんな事ないよ。年下だから、もっと甘えていいんだよ? ほら、ぎゅーってしてあげるから……うん、いい子だね』
『そうだ。今日は一緒にお風呂入ろっか』『かゆいところはないかなっ? 『ライスママ』が綺麗に洗ってあげるからね♪』
『よしよし……ママですよ……一週間がんばりましたね……♡』
『……だからね、貴女にはこうやって表現してる』
「アカーンッ!!」
散々年下をからかう――それもちょっと危ない時もある――御仁だと思い出して、突発的に弟のラブレターを奪い取った。
「え、どうしたのお姉ちゃん!?」
困惑する弟を他所に、ふーふーと肩で息をしながら、どうすべきか考え込む。
…………ライスの姉さんがそんな事をしでかしているなんて――私がそんな事をされてるなんて、弟に言えるわけがないッ! 出来るわけがないッ!!
「こ、これはお姉ちゃんが渡しておいてあげる。ほら、学校でよく会うしさ」
「あ、そっか。その方が手っ取り早いもんね。……自分で渡したいけど……ちょっと恥ずかしいし……」
弟は少し残念そうにしていたものの、納得してくれたようだった。
……まぁ、成就するとは思えないし……渡すだけ渡すか……。
後日、大勢が食堂へ行き交う昼の時間帯に学園のエントランスでライスシャワーの姉さんを見つける。
「あ、こんにちは。ディオスさん」
「こんにちは」
ライスの姉さんは私を見かけて、気さくに挨拶をしてくれた。私も手を振って挨拶を返す。そしてふと思い出す。
「あー、そういえば手紙……」
そう思いながら、持っていた鞄からソレを取り出してヒラヒラと見せる。
「お手紙……?」
「えぇ、ライスの姉さん宛に」
私はそう言いつつ、手紙を差し出す。それを彼女が受け取ってから……デカデカと貼られているハートのシールを目に入れて、顔を真っ赤にし始めた。
「え、えぇ!? こ、ここ、これって……」
うむ、ライスの姉さんはなんだかんだ恋愛事に耐性が無い様子だ。なんだか安心したぞ。私は。
私は満面の笑みで腕を組み、弟に対してもライスの姉さんに対しても微笑ましく感じていた。
ふと、周囲の視線が集まっている事を感じた。
なんだ。なんで皆して驚いた顔でこっちを見てるんだ。何人か顔を赤らめてるし。
「ディオスちゃん、ライスちゃんにラブレター渡してるーっ!」
ウララが驚いたようにそう叫んだ。
「あぁ、うん。そうだが?」
私は堂々と答えた。弟のラブレターを渡してる事は、別に咎められる事じゃない。
私は、玉砕前提といえど弟の恋心を侮辱しない為にも堂々と振る舞った。
「えっと……えっと、ライスは……ライスは……」
……ライスの姉さんは目に涙を浮かべている。そこまで耐性ないのか。それとも私の弟が嫌いなのか……そんなに仲悪くないように思えたが……。
「ライスちゃん! 大丈夫だよ! どんな答えを返したって、ディオスちゃんは怒ったりする人じゃないよ!」
泣き出しそうなライスを鼓舞するウララ。
……まぁ、弟がフラれたからといって恫喝したりはしないが。ライスの姉さんが他人を侮辱するような拒絶の仕方するとは思えないし。
……何故周りがざわついてるんだ? 私が何か悪い事でもしたのか? 私は不思議そうに辺りを見渡した。すると周囲の生徒達は皆一様に私の方を向いている。いや食堂行けよ。大人気のにんじんハンバーグが品切れなるぞ。
「…………いやー、まさか……ディオスちゃんに同性愛の趣味があっただなんて……」
同じクラスのセイウンスカイが、これみよがしにそんな事を呟いたのが聞こえた。
「は?」
私は思わず素っ頓狂な声で聞き返す。いや、同性愛? そんなわけあるか。
しかし周囲の視線は、スペちゃんやエルからは黄色い視線だったり、キングヘイローからは批難の視線だったり、グラスからは……生暖かい細目が飛んできていたり。
うん、まずいな。誤解を解かないと、クラスメイトから盛大に距離を取られるオチが見える。
「えーっと、ウチの弟からのですよ! 弟からの!」
そう言ってみる。しかし周囲からの疑惑の視線は拭えない。
何故だ? 私はそこまで信用ないか? 同性愛を疑われるだなんて、身に覚えがないぞ。
「……ご、ごめんね。こうなったのも、ライスのせいだよね……ライスが、いつもあんな風に振る舞ってたから……」
その言葉に周囲がざわついた。なんか、着実に話が変な方向に進んでる。
ともかく、私はラブレターを読んでもらう事を勧め、周囲にも「そうではない」という事を必死に訴えかけた。
どうにか、誤解は解け? ……クラスメイト数人と、ライスの姉さんで一つの長テーブルを囲み、食事を行う。
「いや~、弟くんもおマセだねぇ。六歳年上の女の子にラブレターだなんて……」
セイウンスカイがそのようにニヘニヘと笑う。その点においては私も同意だ。
「まぁ、皆も他校の生徒からラブレターくらい貰うだろう。ライブで歌って踊って人気だし」
……私がそう言うと、手紙を読んでいるライスの姉さん以外は中空へと目を逸らした。やぶ蛇を突きたくないらしい。
「ウララね、ファンレターならいっぱいいっぱい届くんだ~♪ 『ウララちゃんが楽しそうに走ってる姿からは、いつも元気をもらえる』って書いてあってね、あとねあとね――」
例外的に、屈託の無い笑顔で嬉しそうに語るウララ。
「実際にさ。ラブレターなんて受け取った時、私達はどう対応するのが正しいと思う? 恋愛にかまけてるいとまなんてない立場だし」
セイウンスカイはやれやれといった顔で肩を竦める。実際問題、歌の練習、ダンスの練習、レースのトレーニングに人生を歩むにおいて必要な教養を身につける為の学業、それらを日々並行して研鑽を積んでいるから……そんな余裕はほとんどない。
「そりゃ、トレセン学園は生徒がたくさんいるから恋愛してる人はいるかもしれませんよ?」
引き続きセイウンスカイが持論を語りながら、ライスの姉さんの方へ視線を移した。
「……でもさ、小学生の子が求めるような恋愛なんて。私達には出来ないんじゃないかな」
真面目な顔で、セイウンスカイは静かにそう言った。……言葉の意味は、なんとなく分かる。
小学生の子が求める恋愛なんて、プラトニックだ。主軸になるのは会って遊ぶ事。二人で話す事。それくらい。
先も語られた通り、自分達が小学生の子達と遊ぶ時間を合わせるような余裕は複数回あるのか? その淡くも実直な恋愛感情を、果たして満たしてあげられるのか?
出来るかどうかと、難しい。……私なら自信は無い。
「…………」
ライスの姉さんも、同じような結論に辿り着いたのかもしれない。そんな事をうかがわせる表情だ。
そして、ラブレターを読み終わったらしい彼女は、静かに顔を上げた。
「……うん。弟くんには、今度、ライスの方から直接お話するね」
「はい」
ライスの姉さんは柔らかい笑みで、静かにそういった。それは「弟と付き合う意思はない」という明確な意思表示に見えた。
我が弟も、しつこい性分ではないからそれを受け入れてくれるだろう。無論、落ち込みはするかもしれないが。
ひとまず、淡い恋心の物語これにて……か。
「……ところでさ」
セイウンスカイがニヤニヤした顔つきで、こちらの方を見てくる。
「ライスさん。さっきディオスちゃんからのラブレターって勘違いしてたじゃん」
「あぁ。誤解だったがな」
一笑に付す為にあえて強気の語気で返す。しかし相手のへにゃっとしたニヤニヤは取れない。
「ライスさんが『いつもあんな風に振る舞ってたから……』って言ってたけど、二人は普段どういうやり取りをしてるの?」
その問いに、テーブルの皆の視線がこちらに注がれる。先と同じ視線。黄色い視線。批難の視線。生暖かい視線。
「えーっと、えーっと……」
神様、やはりライスの姉さんは罪作りな美人だと思う。
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